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捨てられ錬金術師は眠らない  作者: 十森メメ
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第39話 ヒトと魔族

 俺が本気を出すような相手ではなかった。


「があああああ!!火球連弾フレイア!!」

反転結晶錬成インバージョン


 魔獣化してむしろ弱くなってんじゃないか?ティエリよ。アンタ錬金術師なんだろ?魔獣の力が濃すぎて、頭を使って戦っているようにはとても感じられない。攻撃が雑過ぎる。


 そんな程度の火球。

 仮に1万発放ったとて、俺にはかすり傷ひとつつけられない。


「ぐああああああ!!」


 【反転結晶錬成インバージョン】は物理攻撃以外のすべての技を倍化して反射する、特別な結晶鉱石を錬成する術式。


 威力の増した自分の炎に身を焼かれる気分はどうだ?ティエリ。


「な、何故だ……なぜ、魔王をも圧倒する力を手に入れた我々が、貴様のような普通のヒトに……」


 火の粉を振り払いながら、まったく俺に対してまるで歯が立たないキマイラ化したティエリがうろたえている。


 何故勝てない?勝てるワケないだろう。


 俺がこれまで積み上げてきた無限の努力は、安易に合成獣キメラ化などという雑魚チートに逃げたお前ごときに絶対負けはしない!


「言い遺すことはあるか?ティエリ。血縁者としてせめてもの情け。最後に少し聞いてやるよ」

「ぐっ……い、いつの間に鎖が……」


 俺は戦闘の最中、至る所にいつでも発動できる透明の錬成陣をいくつも張り巡らせていた。そのうちのひとつ【絶拘束錬成(デ・ブル)】を発動させ、領域に足を踏み入れていたティエリの動きを止める。


 ちなみにもう1人いたティエリの仲間、元生徒会役員のアルスティンはすでに別の拘束魔術で動きと魔力を封じていたので、今は完全に無視している。


「ビエル!お、お前は人間なのになぜ、魔族の味方をする!?」

「俺は別に魔族の味方をしているつもりはない。俺は俺の《《家族》》に手を出したオマエらを許さないだけだ」


 【絶拘束錬成(デ・ブル)】から逃れようともがくティエリに少しずつ近づきながら、彼の質問に答える俺。アルスティンに施した拘束魔術同様、ティエリに巻き付いた鎖も動きと魔力、加えて首より下の筋肉の収縮運動も止めている。


「もう、言い遺すことはないか?」

「ま、待て待て!そ、そうだビエル!お、俺と手を組まないか?」

「……」

「俺とアルスティン……そ、そうだゼニスと元生徒会メンバーも集めよう!なっ?お前と俺たちが組めば、きっとお父様にだって勝てる!」


 ……話にならない。


「そうだ!なんならそこの魔王の娘も、奴隷として使ってやってもいい!魔王を倒した俺らと組めば、世界だって……」



 ゴッ!



 とりあえずムカついたから一発殴って黙らせた。


「何度も言わせるな。俺は俺の親しい人たち以外のことに興味はない。世界とか、そんなのどうでもいい……」

「ふ……ふざけるな!」


 戯言しか言わないティエリに嫌気が差し、そろそろ終わらせようと思ったその時、急にラヴィがティエリに向かって怒声を浴びせはじめた。


「我は死んでも貴様の軍門に下ったりなどしない!それに……貴様が、お父様より強い?笑わせないでよ!そんなワケないでしょ!お父様は魔王なのよ!この世界の誰よりも強いんだから!」


 いや、ラヴィ。さすがにそれは説得力がないんじゃないか?現に魔王ゼルビアはティエリ達にやられて……。


「そうですね、ラヴィ様。魔王様はヒトと不戦協定を締結したあとすぐに、自分自身の戦闘能力の大半を封印してしました。魔王様が本来の力で戦えば、あのグレイル・ボーガンをもってしても1人では絶対に勝てはしないでしょう」


 ヴァンさんが、唐突に魔王弱体化の真実を教えてくれた。


 確かに、よく考えたらおかしな話だ。そう簡単に不戦協定前まで世界を蹂躙していた魔王が、ちょっと強めの魔物と合成して強くなったティエリごときに負けるワケないよな。


 でも、結果的にそれで命を落としちゃったら意味ない気もするが。


「ヒトと魔族が真の意味で平和な世界を築くためには、自分だけが強大な力を持ち続けてはいけない。ヒトと魔族が未来永劫ともに歩んでいくためには、同じパワーバランスで互いを尊敬しあい、助け合い、手を取り合っていくことが不可欠だって、お父様は常々言っていたのよ!その思いを!願いを!アナタたちはいとも簡単に破壊した!」


 それは理想論が過ぎると思うよ、ラヴィ。

 ヒトの底知れぬ悪意と欲望は、そんなに単純なものじゃない。


 ヒトは常に力(能力)を求めている。他者より自分が優れていると誇示したい願望に溢れている。自分より弱い者を叩きたい。従えたい。征服したい。すべてを自分の思い通りに。隙があれば、自らの立場を上にあげ、奉られたい。褒められたい。


 その欲こそがヒトを成長させ、強くしてきた。いやおそらく大半の魔族も同じだと思う。そしてそれはおそらく、俺も同じなのだろう。


 強すぎる力を持った魔王だからこそ行き着いた境地だったんじゃないか?普通は自らの力を封印してまで、世界の平和を実現しようとする者などいない。いや、それこそが驕りだったんじゃないか?だから今、魔族にとって存亡に関わる絶望的な状況を生み出すきっかけになってしまっている。


「……ムカつくんだよ」


 すでに弱り切ったティエリがなにかをつぶやいた。


「魔王も……父も……そして、お前らも!高いところからいつもいつも見下しやがって!能力……いや運命を神に与えられた者どもが、与えられなかった者たちの卑屈を理解できるはずなどねぇんだよッ!」


 俺に殴られ、魔力も筋力も失っているティエリが魂を込めて叫ぶ。


「力がなけりゃなんにもできねぇんだよ!なにも満たせねぇんだよ!平和のために力を捨てただと?バカが!」


 これは……

 ティエリが魂の叫びを発するため、俺の術式を命を削って抑え込んでいる。


 俺が手を下さなくても、このまま叫び続ければ、おそらく死ぬ。


 ……語らせてやろう。

 彼には彼の、正義があるのだろう。


「力こそが全て!力こそが正義!力なき正義などただの戯言!魔王の娘よ!お前のバカ親父は正義を捨てたんだよ!強者に与えられた、支配するという義務を放棄し、パワーバランスなどというまやかしに踊らされた、哀れな男なんだよ!」

「なっ……貴様!お父様の理想を馬鹿にするな!」

「ふはははは!実に滑稽!そして結果的に俺は、ビエルの圧倒的力の前に屈するのだ!ただこれは摂理だ!運命だ!我が父グレイル・ボーガンと我が実弟ビエル・ボーガン!どちらがより強きものとしてこの世界に君臨するのか、地獄の底からゆるりと見せてもらうことにするぞ!」


 もう、限界だろう。


「は……はは……」


 ティエリの声がかすれていく。嘲笑にも覇気がない。


「ああ、情けねぇ……」


 悲しい表情を一瞬見せたのち、彼の頬に涙が伝っている。


「兄より、優れた……弟、など……」


 生命エネルギーを魔力に変換し、無理矢理筋肉を動かした代償。

 白んだ蒸気とともに、ティエリの身体は蒸発していった。


「存在する……ワケが……な……」


 断末魔にもならない哀しい音ともに、ティエリのすべてが地獄へと旅立った。

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