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捨てられ錬金術師は眠らない  作者: 十森メメ
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第35話 ウォーレンを守れ!

 上空から走ってウォーレンを目指そうと思ったのには、最短距離で移動するという目的以外にもうひとつ理由があった。


「ガレスウッド南の奥地……。発生源はあそこか」


 かつてルーカスさんとオークキング討伐で向かった場所。その時はヴァンさんと出会って目的を達成できたから入口付近までしか行かなかったが、そのさらに奥から魔物が次々と溢れ出してくる様子が伺える。


「お、お兄様……。あの魔物の群れ、みんなヒトの意思を感じます……」

「まさか!アイツら全員、合成獣キメラなのか!?」

「下見るな、私……下見るな、私……」


 全体像を俯瞰するために、俺は上空移動を選択したのだ。少し足を止めて地上を眺めたことで、少なくとも次の戦略をおぼろげながら考えることができた。


 結局、ガレスウッドの魔物がここしばらく見かけなくなっていた理由って、あの奥地にすべての魔物が集結して潜んでいたからなのか。確かにヒトの意思を持った魔物なら統率が取れていても不思議ではないが……


 いや、今は原因の考察を優先させている時間はない。

 とにかく動こう。


「ここから降下して一気に発生元を叩きたいところだけど、街へ流入した合成獣を一掃するほうが先だな」

「ど、どうするんですか!?ビエルさん!!」

「まずはエリザさんと合流しよう!対策を共有して、街を守る手立てを……」

「お兄様!あそこ!」


 ミコトちゃんが指をさした地点に爆炎が上がった!

 あ、あそこは!?


「エリザさんの工房がある場所だ!ヤバい、急ごう!」


 空中の地面で止めた足を再稼働させ、俺は一気に工房へと加速するため五芒の錬成陣で走るルートを展開しまくった。



◇◇ ◆ ◇◇



「エリザさん!」

「ビエル、ユーリ!どうやって空から……いや、無事でよかった!それと……」

「あ、初めまして。綺麗なおば様。私、フジワラミコトと申します」

「フ、フジワラだと!?あのフジワラ家の令嬢がどうしてビエルたちと一緒に……あ、いや。今はそんな事より」


 エリザさんは無事だった。

 爆炎の正体は、エリザさんが合成獣キメラを一掃するために放った高位の爆裂魔術だったようで、燃え盛る火炎の中、数体の魔物たちが灰になった様子が伺えた。


「エリザさん!いまこの街はどういう状況なんですか!?」

「見ての通りだよ、ビエル。つい一刻ほど前、全方位から突然ウォーレンを取り囲むように魔物の軍勢が現れ、一斉襲撃を受けている」


 努めて平静を装ってはいるが、エリザさんにいつもの元気がない。状況は、芳しくないのかもしれない。


「街の人たちは!?」

「すでに多方面で住民の死傷者が出ているらしい。各ギルドの面々や衛兵たちがなんとか応戦して持ちこたえているらしいが、敵の数が多すぎて全方位は対応しきれていないようだ。この街はもう、放棄して逃げるしかないのかもしれない……」

「放棄って、そんな簡単に……」

「街はまた興せばいいんです!生きてさえいれば、人間にできないことなんてなにもないのですから!」


 エリザさんやミコトちゃんの提案はもっともだ。まずは住民の命を守る最優先の行動をとることが先決。その判断はおそらく正しい。


 今この街にあの合成獣の群れを退けるだけの戦力はたぶんない。応援を待っていても、持ちこたえられなければ意味がない。最悪全滅というシナリオもありうる。


 すぐにでも逃げるべき。おそらくそれが正しい選択。

 ただ……


 俺の辞書に、逃げるなどと言う二文字は存在しない。


「エリザさんはあの、魔物たちが合成獣キメラだという事実は知っていますか?」

「……私がさっき倒した魔獣たち、死に際に「たすけて」と懇願していた。もしやとは思っていたが、やはりそういうことなのか?」

「うん。モモチさんはそう言ってた」

「ならば、その仮説は正しいのだろう。だがなぜ合成獣キメラがこんなところにいる?アレの配合は不戦協定で禁止された行為だったはず。それになぜこの街を襲う?なにか理由があるのか?」

「そこは俺にもまだ確証がありません。ただ、今は街の人たちを救うことを優先しないといけない。そこで、俺に提案があります」


 ミコトちゃんはさっき、モモチさんの隠していた情報を簡単に暴いて俺たちを驚愕させた。アレが《《ヒト》》の思考を読む能力に近い性質なのであれば……


「ミコトちゃんて、人の心が読めるんだよね?」

「えっ?もう、お兄様ぁ。そんなの読めるワケないじゃないですか。突然なにを言いだすんですかぁ……」

「でもさっき、モモチ先生の思考を読んでウォーレンのこと……」

「ああ!あれはですね……」


 モモチさんの魂がウォーレンを救いたいと叫んでいたから、たまたまその声を拾えただけだそうだ。そっちのほうがまるで意味がわからないけど……。


 いや、待てよ。それはやっぱり使えるんじゃないか?


「ミコトちゃん。もしかして合成獣キメラでも、魂が叫んでいたらその声って拾えるの?」

「あ、それはバッチリです。距離が近ければ近いほど鮮明に聞こえます」

「よし」


 もはやそれは心が読めると同義でしょ。いずれにしても、この力は使える。確実に合成獣キメラの魂は不本意な合成で叫んでいるのだから、彼らの目的や意図はおそらくその中からくみ取れると思う。


 彼女の力は戦略に組み込める。

 次はユーリちゃんだ。


「ユーリちゃん」

「はい」

「ユーリちゃんって、確か水とか氷の魔術が得意なんだよね?」

「はい。その能力一点だけで語るなら、今の私はビエルさんや、師匠にだって負けないと思っています!」

「あ、ほんとに?ユーリちゃん、そしたらさ……」


 俺はユーリちゃんに、《《この街全体の気温》》を最大で何℃まで下げられ、またどの位継続できるかを問うた。彼女の答えは最大10℃低下を5分。


 正直、とんでもない回答だった。たぶん俺が本気でそれをやっても最大5℃低下を1分程度が責の山だろう。ユーリちゃんって実はとんでもない才能を備えていたんだね。さすがはヘルメイス家のご令嬢と言ったところか。


 え、ホントにできるんだよね?

 この場でやっぱ嘘ですごめんなさいってのはなしだよ?


 ちなみにガレスウッドは森全体的が温帯域で、基本ここの魔物は寒さに弱い。合成獣のベースがガレスウッドの魔物なら、その術式展開だけで弱体化を図れるのではないかと考えて聞いてみたのだ。


 何人かで力合わせてやればいけるかなくらいに思っていたが、これは嬉しい誤算だ。これならユーリちゃん1人にそれを任せておけば劇的に戦局を優位にできる!


「エリザさん。俺の考えていること、大体わかりました?」

「街へ侵入した魔物全体の弱体化と主目的の把握。及びギルドメンバーと連携して合成獣キメラを各個撃破」

「ご名答」

「だがビエル。敵はガレスウッドから続々とこの街へ押し寄せているとの情報もある。元を絶たねばおそらく、ジリ貧だぞ」

「わかってる。それは俺がやる」


 当然だ。南の奥地から敵があふれ出している様子は確認できている。あとは俺が1人でそこを叩けばこのミッションは完遂する。大丈夫。少し被害は出てしまっているけど、これ以上状況が悪くなることはもうない。


「……止めても、行くのだろう」

「当たり前じゃん!」

「えっ?ビエルさん、まさか1人で敵の中枢へ攻め入るつもりなんじゃ……」

「お兄様!私はお兄様について行きます!」

「いや、ユーリちゃんとミコトちゃんはエリザさんの指示に従って、街のみんなのことを守ってほしい」


 目的はあくまで街を守ること。そしてみんなの命を守ること。俺1人でそのすべてのミッションは完遂できない。だから適材適所で役割分担。俺の能力と立場でやるべき仕事は、大元を絶つことだ!


「大丈夫だ、ユーリ。ビエルは必ずやり遂げる。私たちは私たちに出来ることをしよう。フジワラの令嬢は不本意かもしれんが、よろしく頼む」

「……わかりましたわ。お兄様の故郷を守るため、私は私の役目を果たします!」

「ありがとう、ミコトちゃん。ユーリちゃんも……」

「絶対無事に帰ってきてくださいね!ビエルさん!」

「ああ!わかった!」


 ガレスウッド南の奥地。距離はそれほど遠くはない。

 行こう。この街の未来を守るために!


「それじゃあ気温、下げますね!」

「うん、お願い!」

空間冷却術式クーラーボックス、展開!設定温域・マイナス10!」


 おお……さっむ!てか凄ッ!

 マジでユーリちゃん、やりやがった!しかもこんな素早く正確に!

 ヘルメイス家……恐るべしだな!


「じゃあ、行って来る!」


 作戦はすでに開始の狼煙が上がっている。

 俺は全速力でガレスウッド南の奥地を目指すため、地面を蹴り上げ加速した。



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