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捨てられ錬金術師は眠らない  作者: 十森メメ
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第34話 キメラ、行軍

「モモチ先生!」


 警報と校内放送が延々と繰り返される中、俺とユーリちゃんとミコトちゃんは集まれと言われた第一修練棟には向かわず、急いでモモチ先生の元へと駆けつけた。


「ちょっとビエル君!いくら私が担任だからって、なんでわざわざ私の研究室に来ちゃうかなぁ!ちゃんと放送の指示に従って……」

「……とても、嫌な予感がするんです。モモチ先生、お願いします!この警報の理由を今すぐ教えてください!」


 大人の事情に左右された不確かな全体情報を得るよりも、おそらく真実を知っているであろうモモチ先生から直接聞く方が早いと思い、あえて俺たちは研究室こっちにやってきた。


 これは直感だが、一刻も早く対処しなければマズい状況が今、どこかで起こっているような気がしているんだ!


「第一修練棟へ行きなさいビエル君。私からアナタたちに今、話せることはなにもないわ」

「モモチ先生!」

「……ごめんなさい」


 いつも明るいモモチ先生の表情が暗い。だから逆に、彼女が俺たちに本当は言いたいけども言えない、なにか重大な隠し事が存在していることを予見させる。


「あー……へぇ。あ、そうなんですね。えっと、ウォーレン?って街が魔物の大群に攻め込まれてて、もうとんでもないくらい大ピンチな状況みたいですよ。お兄様」

「なっ!?」

「えっ!?」

「ど、どうして私なんにもしゃべってないのにわかっちゃたのぉ??」


 ミコトちゃんがいきなり、とんでもない情報を場に投げ込み、俺たちは驚愕した!モモチさんは確かになにも言ってなかった。ミコトちゃんの呪術的な能力のなにがしで心を読み取ったのか?いや、そんなことありえるのか……


 って、今はそれどころではない!


「モモチ先生!今ミコトちゃんが言った話は本当なんですか!?」

「……」

「ビエルさん!」

「ああ!」


 事の真偽をここで議論している精神的余裕はない!戻ってみてなにもなければそれに越したことはない!


 とにかく、今はすぐにでもウォーレンへ帰って状況を確認しなければ……


 ……モモチ、先生?


「この学院の教員としての責任を、私は果たさなきゃいけないの。アナタ達を、絶対に危険な現地へ行かせるワケにはいかない」


 俺たちに針のような視線を向けながら、研究室入り繰り前にゆっくりと立ちはだかるモモチさん。その周囲にはうっすらと白く力強い魔力を揺蕩たゆたっている。


 おそらく、モモチさんは本気でこの防衛ラインを死守するつもりらしい。静かだが、これまで感じたことのない魔力の素。特級錬金術師の本気。確かに、これまで相手をしてきた誰よりも強大な壁に見える。


「……以前、私達が初めてウォーレンの錬金術師ギルドで会った時、モモチ先生はいったいなにを調べていらっしゃったのですか?」

「……」

「今起こっていることと、なにか関係があるんじゃ……」

「おしゃべりはそこまでよ、ユーリちゃん。アナタ達の選択肢は二つ。黙って大人しく修練棟へ自分たちの足で向かうか、私におしおきされて、修練棟まで無理やり引きずられるか」

「でも!モモチ先生だって故郷が今、そんなひどい状況になってるのわかってて、なんで……」

「うるさい!」


 モモチさんがここまで感情的になる姿を、俺は初めて見た。ユーリちゃんが投げかけた疑問は、おそらく確信を抉っている。


「私は私の大事な生徒たちを守らなくちゃいけないのよ!この学院にも、いつ合成獣キメラの魔の手が押し寄せてくるかもわからない状況で私だけが……」


 怒りの勢いに任せてしゃべり過ぎたみたいですね、モモチさん。合成獣キメラとは聞き捨てならない。それは確か不戦協定で禁止された、人と魔物を合成する禁忌の錬金術で生み出された新たな生命体……


 ……点でバラバラになっていた様々な記憶や情報が、パズルのようにカチカチとハマる感覚を覚える。もちろん確証はない。ただ、今俺が為すべきこと、いや為さなきゃならないことはひとつしかない!


「……モモチ先生。俺、行かなきゃ」

「行かせないわよ。もう口走っちゃったから言っちゃうけど、いくらビエル君が強いからって、合成獣キメラの力を甘く見てはいけないわ」

「いや、行くよ。とにかく街のみんなが心配だ」

「ダメよ!危険だから、街の事はエリザたちに任せて、アナタ達はここで……おと……な、しく……」


 ゴメン、モモチさん。


「なんかよくわかりませんけども、私もお兄様のお供をさせていただきます!」


 腹パンで黙らせたモモチさんをそっと研究室の椅子に寝かせていたら、ミコトちゃんが一緒に来てくれると申し出てくれた。正直、意外に便利そうな呪術の力で加勢してくれるならとても心強い。


「私も絶対に行きますから!エリザさんや冒険者ギルドの皆さんが心配です!」

「ユーリちゃん……」

「あまり家では言ってなかったかもしれないですけど、私、今2年の魔術科で一番魔術練度高いですから!」

「え?そうなの?」


 受験の時は色々心配してたから彼女の魔術練度とか気にしてたけど、入学してからはほぼ興味を失っていて、そういう話をしてなかったな。


 そっか。ユーリちゃんはこの1年でとんでもない成長を遂げたんだな。まぁ、あんまり信用はしてないが、彼女だってウォーレンで世話になったんだ。一緒に連れて行かないなんて選択肢はハナからない。


 なにかあれば、ユーリちゃんもミコトちゃんも、俺が守ってあげればいいだけだ。


「それじゃあ二人とも、とにかく急がなきゃいけないからさ……」


 俺は並んで立つ二人の前で背を向けてしゃがみ、両手をホイホイして背中に乗るよう促してみせた。


「えっ?もしかして……」

「まさかおんぶしてくださるのですか?やったー!」

「いやでもどうやって二人まとめて……」

「ユーリちゃんはサンドイッチね」


 つまりどういうことかというと、俺がユーリちゃんをおんぶして、ミコトちゃんがユーリちゃんの上に乗って、みたいな。


「うげ、重」

「ちょっとユーリ先輩!こんなにも華奢でか弱い女の子に向かって重いってなんですか!?重いって!」

「わっ!ちょっと、暴れないでよ」


 すでに二人をおぶって発走態勢を整えていた俺。いくら軽い固定魔術で落ちないように工夫しているとはいえ、あんまりにも動かれるとミスる可能性はある。


「行きましょう!お兄様!」

「い、行ぎましょう……ビエルさん……」

「しっかり捕まっててね!」


 そう言って、俺は2人をおぶったままモモチさんの研究室を飛び出した。正面に廊下の壁と窓が迫る。


「お、お兄様!そのまま窓を突き破って飛び降りるおつもりですかぁ!?」

「ここ研究棟の6階ですよぉ!?ま、まさビエルさん!浮遊の魔術を使って飛んで行くつもりなんですかぁ!?」

「浮遊魔術?そんなもんは使えん!」


 空を自由に飛ぶとか、さすがの俺でもそこまで高位の魔術はまだ扱いきれない。なのでここは、錬金術を使ってウォーレンまでの最短ルートを形成することにした!


「……へっ??」

「えええええええ!!」

「よし!このままウォーレンまで直行だ!」


 俺は右手に五芒錬成陣を発現して正面に掲げ、《《校舎を変質させて》》正面廊下の壁と窓に穴を開けた。そのまま《《空中に地面を錬成》》しながら全速力で走っていた。


 地上は障害物が多いからこっちのほうが絶対速いよね?


「いやあああ!怖いですぅぅぅ!!お兄様ぁぁ」

「下見るな、私……下見るな、私……」

「うおおおおおお」


 魔術学院ヘルボーガンからウォーレンまでの距離はそれほど遠くない。

 本気で走れば、ものの数分で到着できる。


 エリザさん、ルーカスさん、ギルドのみんな……。


 すぐ行くから、それまでなんとか街の人たちを守ってあげてください!

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