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捨てられ錬金術師は眠らない  作者: 十森メメ
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第32話 呪術って面白い

「おいおい、なんか1年のミコト・フジワラが2年のビエルに喧嘩売ったらしいぞ」

「いや、この学院最強のビエル君に、あんな女の子が勝てるワケないじゃん」

「でも東方出身者のこと、俺らなんも知らないよな?」

「未知の特殊な魔術とか使えるのかも」


 挑戦者は決闘の場を校庭に指定した。まったく気乗りはしなかったが、クラスメイトの圧力に負けてこの勝負を受けることになってしまった。


 校舎の窓や校庭の隅にギャラリーと思わしき生徒たちがわんさかいる。野次馬的な人だかりなんだけど、思ったより見ている人の数が多くて辟易する。


「ルールはなんでもアリの無制限一本勝負。相手に「まいった」と言わせたほうの勝ちということでよろしいかしら?」


 貴重な俺の昼休みのひと時を奪った不届き者の名は、ミコト・フジワラ。東方から来たフジワラ家のご令嬢。今年魔術科に入学した謎多き新入生だ。


 なぜ入学早々、俺に勝って最強の称号を手に入れたいのかは知らないが、こちらとしてはいい迷惑にもほどがある。そんなもん、自分で勝手に名乗ってくれてていいのだけど。俺は自分で自分のことを最強だと言った覚えはない。


「なんでもいいよ」


 心からそう思う。てかサクッといい感じに負けて、早く終わらせたいとすら考えている。下手に勝って何度も挑まれても面倒くさいだけだしな。


「……随分と余裕なのですね。私なんて眼中にないと?」


 投げやりな俺の態度に少し怒りをあらわにするミコトちゃん。


「気に障ったのなら謝るよ。とっとと始めようか。昼休みが終わってしまう」

「……どうやら痛い目を見ないと、その態度は改めてくれそうにないですね!」

「!?」


 戦闘モードになったミコトちゃんの周りを取り囲む黒い瘴気。細かい蟲の群れが密集している様を彷彿とさせる。


 アレの正体はなんだ?魔術とは違う、俺の知らない能力だ!


「あら。学院最強の天才錬金術師さんも、呪術を見るのは初めてかしら?」

「呪術、だと?」

「フジワラ家は代々、一子相伝の呪術を生業とする系譜の末裔。その中でも私は少し特殊な能力を持って生まれてしまいまして」

「!?」


 あれが魔力でないとすれば、呪力とでも呼べばいいのか?彼女の周囲を揺らめく黑いオーラが次々と人型を形成していく。


 あれはいったい、なんなんだ?


「この辺り、強い霊魂が多数彷徨ってたみたいで助かりました。雑魚霊なんていくらかき集めても、多分ビエルさんには勝てないでしょうから。うふふ」

「霊魂って……まさか君の周りを蠢いているその黒い影って……」

「そう。この方達は、この学院に因果を縛られた、恨み深き者たちの怨念です!」


 怨念だとっ!

 死者の霊を降臨させる術式なんて聞いた事ないぞ!


「ボーガン家……許すまじ……」

「……積年の、恨み……ここで、晴らす……」

「ああ……あああ……錬金術、死ィィィィィ」

「……グレ……イル……の、せがれも、同……罪……」


 人型の黑い瘴気の塊たちが怨嗟の声を巻き散らしている。そのほとんどが、この魔術学院創始者の家系、ボーガン家に対する恨みだった。


 ……いや、ちょっと待て。

 俺、ボーガン家関係ないんですけど!


「うふふ。さぁ、やっておしまいなさい!」


 ミコトちゃんの号令とともに、複数の黑い影たちが一斉に俺へと迫る!だがどうする?明らかに今まで戦ってきた相手とは勝手が違う。実体のない影だから物理による反撃は効果がないだろう。魔術でやるしかない。


 闇属性と考えて光で対抗すべきか?いや、あの手の術式を一概に闇と断じるのは短絡的な気がする。光が効くとは限らない。


『ああああああ!!』


 考えがまとまらない。すでに影たちは奇声を上げながら、俺の命を刈り取る勢いで次々と押し寄せてくる。


 しょうがない。


 できれば相手の技をしっかり封じて、圧倒的実力差を見せつけた上で、まいったと言わせることができれば一番よかったんだけど。さすがにそうは問屋が卸さないか。


 あまり女の子に直接迫るのは正直、気が引けるんだけど!


「……えっ?」

「いまならまだ、降参するチャンスをあげるよ」


 少し、本気で動いた。

 俺はミコトちゃんが呼び覚ました霊魂の間をすり抜けそのまま彼女の背後まで回り込み、右手を背中にかざして脅しをかけた。


 相手を制するのに、なにも相手の技をいちいち受ける必要なんてそもそもない。理解が及ばない攻撃でも、即座に分析して対抗したくなるのが俺の癖だが、さすがに呪術はお門違いだ。


 とっとと終わらせてもらう。


「……うふふ」

「なにがおかしい?俺がハッタリだけの男と……」

「いえ。ビエルさんて、とってもわかりやすい戦い方をするんだなって思いまして」

「なにを言って……」

「清楚な可愛い女子には必ず裏があるものですよ、ビエルさん!」

「!?」


 侮っていた!

 コイツは、俺が背中に手をかざいしているこのミコトちゃんは《《おとり》》だ!


 本体じゃない!


「ぐっ!」


 さすがに油断した。

 ミコトちゃんだと思っていたソレは、急にドロッと溶けて黑い汚泥のような液体となり、俺の身体にまとわりついて動きを完全に封じられた。特に痛みや痺れとは感じないが、全身に力が入らず、体内の魔力回路が遮断されている感覚はわかる。


「日夜魑魅魍魎と戦い続ける東方の地で、そんなオーソドックスな戦い方してたらすぐに死んじゃいますよ?ビエルさん」

「……やられた」


 俺に対して余裕の態度で悠々と語り掛けてくるのは、最初に俺を襲ってきた黑い影たち。いや、今はその影が全て集約してミコトちゃんの造形を取り戻している。


 要するに、雑魚に戦わせていたように見せかけて、実際は本体が直接俺に仕掛けてきていたのだ。様々な影のカモフラージュを利用しながらね。まぁ単純に俺がどう反撃してくるか読まれていたってこと。そしてものの見事に、俺は敵の術中に完全にハマってしまったのだ。


 はぁ。情けない俺。

 ちょっとショック。


「おいおい!ビエルの奴、捕まっちまったぞ!」

「まさかビエル君……あんな性悪そうな小娘に負けちゃうの?」

「東方女子、恐るべし……」

「ちょっとビエルさん!なに遊んでるんですか!真面目にやってくださいよ!」


 ん?なんかギャラリーの中からひと際大きな叱咤激励が聞こえるな。あーいや、この聞き慣れた声の主は……。


「ユーリちゃんか……」

「そんな陰湿クソぶりっ子女とか、いつも通りとっとと倒しちゃってくださいよ!」

「誰よ!わたくしをクソ女呼ばわりする声デカクソ女は!?」


 俺を屈服させる条件を整えておきながら、周囲の雑音(ユーリちゃんのサイコパス発言)に大きな反応を示すミコトちゃん。早々に、声デカの主を発見したようだ。


「……なによ」

「……なんなんですの?」


 黑いドロドロで自由を奪われた俺を尻目に、ユーリちゃんとミコトちゃんがとんでもない視線同士で睨み合っている。


 こ、こえー……。

 でも、これは好機だな。


 ユーリちゃん。

 そのままミコトちゃんの気を引き続けてくれるとありがたい。


「あんな程度で、ビエルさんの動きを完全に封じたとか本気で思ってるの?」

「はぁ?あの呪縛は死滅級の大呪霊を封じるための特別性なのよ。いくら学院最強のビエルさんとはいえ、たかが学生ごときがあの縛式から逃れられるはずがないわ」

「たかが学生?笑わせないでよ。ビエルさんはたかが学生ではないわ」

「言葉遊びをするつもりはないの。申し訳ないけど、ウザいから黙っててもらえるかしら?あの男にわからせてやったら、次は貴女の相手もしてあげるから」


 よしよし、いいぞユーリちゃん。

 いい感じで時間稼いでくれて助かったよ。もう……いけるか?


「……いいえ。アナタの相手はビエルさん。私の出る幕なんてないわ」

「はんっ!所詮は平和ボケしたちっちゃな世界で最強気取ってるだけのお山の大将でしょ?そんな甘々な弱い男に、私の最強縛式を敗れるワケが……」


 バシュッ!

 ショワァァァ……


「……へっ?」

「あー気持ち悪ッ!この黑いのなんなんだよ!まったく……」


 俺の体内に侵入してくれたおかげで逆に助かったよ。

 理解が早まって、思いのほか簡単に術式解除ができた。


「えっ……私の、最強縛式……」

「呪術ってなかなか面白いねッ!今度じっくり教えてくれないかな?」


 さぁ、おしおきの時間だ。


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