第31話 東方の天才少女
生徒会と理事長の息子を制圧してから、ユーリちゃんに対するイジメの件は完全に解決した。むしろ状況は真逆となり、ユーリちゃんはクラスの人気者になった。
なんでも彼女の生い立ちを知ったクラスメイト達の中に、彼女のご両親に憧れて魔術師を目指した生徒が多数いたらしい。それで一気に周りとの関係値を高めて仲良くなっていき、現在に至るというワケだ。この事実を初めて聞いた時は心底安心したことを今でもよく覚えている。
ターナーはあの一件以降、完全に大人しくなった。生徒会もあれから俺に直接なにかを言ってくることはなかった。
あれからすでに1年ほどが経っているので、生徒会の面子は全員卒業して一新された。ただ、今のところうまく仕事は継続されているようで、こちらとしては助かっている。しっかり引き継ぎはしてくれたみたいだ。
「えー、で、あるからしてぇ……」
錬金術応用物理Ⅱの教鞭をとるモモチ先生の声に耳を傾けることなく、俺は窓の外を眺めながらそんなことを思い出していた。
「(俺もユーリちゃんも無事進級できたし、卒業まであと2年か……)」
ちなみに、授業内容がまるで勉強にならないという状況は1年経ってもまったく変わっていない。まぁ正確には、俺がこの学院に入学してから今に至るまでの間に学院で扱っている教科書の類は、魔術科のものも含めて全部読んで理解しちゃったから、今更聞く必要がないってだけなんだけどね。
俺は今でも寝ずに毎日いろいろやってるから。
なのでこの学院で教わることって正直、もうないんだよね。エリザさんが絶対卒業して錬金術師を名乗れる資格を得ろって言うからいるだけで、知識や理論を学ぶと言う意味で俺がこの学院にいる理由はもうなくなっている。
「(ルーカスさんたち、元気にしてるかなぁ……)」
俺もユーリちゃんも、中堅都市ウォーレンの冒険者ギルド【竜神会】の仕事は現在休業中だ。ヘルボーガンの生徒が冒険者をやることは校則で禁じられている。まぁ要するに、勉学に集中しろってことでアルバイト禁止、みたいなルールだ。バレれば即退学だからおいそれと冒険者をやることはできない。
ギルドのメンバーは3年間待ってるからたくさん勉強して、また戻っておいでと言ってくれた。普通だったら3年も仕事しなかったら即除籍になってもおかしくないのに、休業扱いにしてくれたこと自体、ありがたい話だ。
ただ、俺は卒業したら錬金術師ギルドに入りたいからダブルワークOKかどうかは確認しないといけないんだけどね。ユーリちゃんも王都の魔術師ギルドにゆくゆくは籍を置きたいと言っていたからどうなることやら。
「(ま、【竜神会】によく依頼があったガレスウッドの魔物討伐クエストは、俺がヘルボーガンに入学する少し前くらいからピタっと無くなってたし。ウォーレンの平和はギルドの人たちに任せておけば問題ないでしょ)」
一時期、あの森は不穏で危険な魔物が数多く出現していたから、俺がギルドにいないと少し心配だったけど、今はとても静かで魔物とはほとんど遭遇しないから安心している。
なんか原因があってそうなったのかまではわからないが、また危ない魔物とか出たらボランティアで倒せばいいだけだしね。一応、俺もまだウォーレンにあるエリザさんの工房で世話になってるワケだし。
「(……そういえば、ヴァンさんがオークキングの頭を魔王宮に持って帰って調べるとかなんとか言ってたアレ、結局どうなったんだろう)」
ふと、そんなことを思い出した。
あの時はメチャクチャ気になってたけど、その後色々忙しかったから忘れていた。
よく考えたらヴァンさんに会った時くらいからガレスウッドの魔物は減っていったような気がする。あのオークキングとか、もしかしたら俺たちが食べたエルドラゴンとかなんか関係あったのかな?まぁ今、ガレスウッドは平和だから別に考えなくていいか。危険になってたらそういうワケにはいかなかったけど。
……ラヴィ。
結局、俺は今日まで一度も魔王宮へ足を運んだことはなかった。いや忘れてたワケじゃないんだけどね。なんとなく、キッカケがなかったと言うか。
特に用事もないのに会いに行くだけってものなんだかなぁって思ってたけど、オークキングの件はちょっと気になったので、それを口実に会いに行くのは悪くないかもしれない。
「(そろそろ、魔王宮行ってみるか!)」
キーンコーンカーンコーン
あ、なんか色々考えてたらもう授業終わっちゃったみたいだ。
「それじゃあ明日までにこの問題集1冊、全部終わらせてくるように」
『え~』
2年生になって一気に厳しくなったモモチさんが出した宿題の量に唖然としているクラスメイト達。いや、あんなもん瞬殺だろ。10分で終わるわ。
「ふぅ。やっと飯か……」
3時限目明けだから、今から昼飯だ。ちなみに弁当は俺が自分で作っている。ユーリちゃんの分も一緒にね。
さて。今日の弁当はまぁまぁ精のつくものを入れてきたハズ……
「貴方が、この学院で最強の錬金術師さん?」
弁当箱を開こうと下を向いていたら、真正面に人の気配を感じ、声をかけられた。少し目線を上げ対象者を確認する。見たことない黒髪前髪パッツン少女が目の前で仁王立ちをしていた。クラスメイトの女子ではなかった。
「いや人違いですね」
「えっ?そうなのですか?貴方が噂のビエルさんだと伺って、私、こんなむさっ苦しい錬金術科の教室までわざわざ足を運んだというのに……」
言葉遣いは丁寧だが、この子もずいぶん棘のある言葉を使うんだな。
てか誰?この子。
「いや、ビエルは俺だよ。君は?」
「え?なんだ、やっぱりそうなのですね!というか、ビエルさん。私のことご存じないって本当ですか?こんなに清楚で麗しい美少女は、この学院には1人しか存在しないと思うのですが、本当にご存じないのですか?」
「知らん」
「はぁ。やれやれです」
やれやれなのは俺の台詞だ。
アンタはいったい、どこのねぇちゃんだ?
「その子、今年の春に入学した1年生よ」
「え?もしかして、今年の入試で主席合格したミコト・フジワラ?」
「マジか!近くで見るとめっちゃ可愛いな」
「お人形さんみたい!」
俺たちの絡みを見ていたクラスメイトが色々補足してくれた。
なるほど。コイツが今年の新入生の中でぶっちぎりにいい成績を叩きだして入試を突破したミコト・フジワラか。情報だけは入っていたが、顔を見たのは初めてだったのでわからなかった。
この魔術学院[ヘルボーガン]創設以来、今年初めて東方出身者で入学を果たした女性が彼女、ミコト・フジワラだ。東のフジワラ家と言えば世界でも超有名な一族だから当然みんな知ってはいるが、東の連中は滅多に王都へ来たりしないので、名前以外の情報はこの辺りでほとんど出回っていない。東にまつわる書物もほとんどないので、俺もこの一族の事はあまり知らない。
「それで、ミコトちゃん。俺にいったいなんの用があって……」
「決闘よ!錬金術師!」
「は?決闘??」
「勝ったほうがこの学院で真の最強を名乗ることができる。それでどうかしら?」
どうかしらと言われましても。
俺、決闘にも最強にもまるで興味がないのですけど……
あ、これ。
流れ的に絶対やらなきゃいけないヤツ?




