第27話 親友は俺が守る
ターナーにざまぁした日の夜。
俺は自腹で買った豪華食材で作った夕食を、エリザさん家の食卓に並べていた。
「アホかお前は」
悪態をつき、食卓の椅子でふんぞり返っているのはエリザさん。俺が入学早々1ヵ月あまりで学院から謹慎7日間を言い渡されたことがお気に召さないらしい。
「だってアイツらが……」
「だってもヘチマもない。教室の皆が見ている前で理事長の息子を締め上げるとか、どう考えてもバレバレの学則違反に決まっているだろう」
「でも師匠!あのクソブタ共は、ほんっっっっとうに、ムカつくんですよ!」
ユーリちゃんがセレスタイン産の高級ステーキ肉を頬張りながら俺を擁護してくれた。ちなみに今日の夕食に関わる一連の行動は、エリザさんの俺に対する宿泊人としてのペナルティだそうだ。理事長やモモチさんに下げたくない頭を下げさせられたことに対する俺への罰とのこと。
「ちがう。やり方がヘタクソだと言う話をしているんだ、ユーリ。やるなら人が見ていない下校時、あるいは授業中で油断している隙を狙ってだな……」
エリザさんは締め方を間違えたところに怒っているようだ。締めたこと自体を咎めるつもりは微塵もないらしい。
「わ、わかったよ。次はうまくやるから」
「お前は主席合格でただでさえ目立っているのだから、そういうことは慎重にな」
「私はスッキリしたから感謝してますよ、ビエルさん!」
まだ言ってなかったけど、ユーリちゃんは不幸か超不幸か、ターナーと同じクラスになってしまったんだ。実はたまにユーリちゃんがいる魔術科のクラスを監視魔法でコッソリ覗いていたんだけど、今のところ目立った嫌がらせを受けている様子はなかった。
ただこの口ぶり。俺が見ていないところで、もしかして何かされてたのかな?
「ユーリちゃん。ターナーのヤツになんかされたりしたの?」
「えっ?いや特に嫌がらせとか受けたりはしてないんですけど……」
「そう。それならよかった」
そういえばユーリちゃん。入学前、次ターナーに会ったら凍らせて突き落とす的な危険な発言をしていた気もするけど、今日俺がしっかり締め上げた事実から、それは実行には移されていなかったようで少し安心した。
「アイツだけクラスでずっとイキってるからムカついてるだけです。あ、でも他のクラスメイトからちょっとイジワルされてるだよね。教科書に粘着魔術がかけられてて開かなかったり、内履きに粘着魔術がかれられていて脱げなかったり」
「え、えーっと……」
「あ、あとクラスメイトのみんな、私が話しかけても全然返事してくれないんです。私、声ちっちゃいのかなぁ。ま、別に困ってないからいいんですけどね!」
「うん。現状がよくわかったよ、ユーリちゃん……」
それ、まぁまぁ重度なイジメを受けていると、俺は思うのですけど。
たぶん首謀者はターナーだ。自らは手を下さず、権力でクラスの実権を握って暗躍してやがるんだ。見た目通り、汚いヤツだな。
「ビエル。ユーリの状況は芳しくないようだが、証拠がない状態で真っ当に学園へ抗議しようとかするなよ。目には目を、暗躍には暗躍を、だぞ」
「いや、エリザさん。俺そういうの嫌いなんだ。やるなら正面から真っ向勝負だよ」
「学院に対策をお願いしてもいいことはないぞ」
「ユーリちゃんへのイジメを黙認するような学院なら、俺は喜んで退学を選択するよ。なんか授業もかったるいし。自分で本買って勉強してる方が遥かに有意義だと思ってたところだし」
「あの学院を卒業することでしか得られないものもある。うまく立ち回れ、ビエル。いくらお前が首席で入学したとはいえ、社会は中退者にとても厳しいんだ」
エリザさんって案外普通の大人だよな。ちょっと口は悪いし考え方が偏屈なところもあるけれど、言ってることは至極まともだ。
でも……
「謹慎が明けたら、生徒会へ行ってこの件を直談判してきます。あの学院では生徒同士のもめ事は、基本生徒同士で解決すべき課題だって校則の最後のほうに書いてあった気がするから」
「それは建前だぞ、ビエル。所詮、あの学院の生徒会は汚い大人の世界と同じだ。金と権力を持つ親の子が全ての実権を握っている。ちなみに今、学院の生徒会長を誰がやっているか、お前知っているのか?」
あ、そこまではさすがに調べてなかったな。
俺、基本身内以外の他人にはあんまり興味ないし。
「誰なんですか?今の生徒会長」
「ティエリ・ボーガン」
「ボーガン……ボーガンってまさか……」
エリザさんに借りたあの本の著者の名前。有名な錬金術師の彼も確か、グレイル・《《ボーガン》》だったはず。
そうか、そういうことなのか。
「察しのとおり、ティエリ・ボーガンは極級錬金術師、グレイル・ボーガンの子息だ。同時にグレイルはこの学院を創設したボーガン家の現当主でもある。彼は現在、この学院の永久名誉理事で、事実上理事長より上の権力を握っている」
縁はないが魂に感じるモノがあった、グレイル・ボーガンと言う名前。遠い存在だと思っていたが、魔術学院に入学したことでその存在が割と近くまで迫っていることに、なんとも言えない感情が俺の心を揺らしていた。
「エリザさんって学院のこと詳しいんですね。学院の名称由来とか今の生徒会長が誰かとかまで知っているなんて、ちょっと驚きました」
「ん?あ、いや。た、たまたま入学時に配布された保護者向けの小冊子に載っていて、そ、それをたまたま見ただけだ。ボーガン家が学院の創始者というのはな、名前を見れば普通わかるだろう。べ、別に詳しいわけではない」
なんでちょっと動揺してんだろ、エリザさん。
至って素直に凄いと思っただけなんだけどな。ヘンなエリザさん。
ただこれで状況は大体把握できた。とりあえず、謹慎が明けたらすぐに生徒会室へ行って、ティエリさんにターナーを処罰してもらおうと思う。理事長より上の立場にいるグレイルさんの息子なら、それくらい容易に判断を下せるはず。
本当は四六時中俺がユーリちゃんを傍で守ってあげられればそれが一番いいんだけど、さすがに科も違うから現実的には無理な話だ。
ここは権力というものに少し頼らせてもらって、彼女のイジメ問題を解決に導きたいと考えている。
もう少しの辛抱だよ、ユーリちゃん!
「二人はいったいなんの話をしているのかしら……。あ、このフルーツめっちゃ美味しい!ねぇ、ビエルさん!ビエルさんも一緒に食べようよ!」
「ユーリちゃんの性格が羨ましいよ……」
君の心を真剣に守りたいって話をしてるんだけどね。ユーリちゃんにはイマイチ、伝わっていないようだった。
あ、これ余談なんだけど。
ユーリちゃんが今頬張ってる瑞々しいフルーツは、俺たちがこの街へ最初に来た時、エリザさんの工房がある場所を教えてもらった例の果物屋さんで買って来たんだ。最近冒険者の仕事はあまりできていなかったけど、そこそこ依頼をこなしていた時にある程度できた貯金はできていたからね。
心の約束、あの果物屋で篭盛りを買うというミッションを果たすため、俺は夕食の買い出しついでにあの店に寄ったんだ。そしたら……
「ああ。親父は夏の終わり頃、遠方へ仕入れに行く途中で行方不明になっちゃってさ。ギルドに依頼したこともあるんだけど、まだ見つかってなくてさ……」
店主は息子さんに引き継がれていた。夏の終わり頃って言えば、ちょうど俺たちがこの街に来た時期と重なる。俺たちに道を教えてすぐにいなくなっちゃったてことなのかな……。別に因果関係はないんだけど、なんとなく罪悪感を感じた。
そういえば、前にダルマとネギがBランクの捜索クエストを達成できなかったと嘆いていたことがあったな。もしかすると、それが果物屋のご主人を探す依頼だったのかもしれない。
「大丈夫ですよ。きっとその内何もなかったかのようにフラッと帰ってきますよ」
全く根拠のない励ましだけを残して、俺はバツが悪そうに果物屋を後にした。




