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捨てられ錬金術師は眠らない  作者: 十森メメ
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第22話 規格外の結果

 錬金術の感覚精度測定テスト。

 魔術と違い、錬金術というのは精緻な感覚が求められる。


 魔術というのは基本、自然エネルギーを自身に取り込み、身体を巡るマナとイメージを混ぜて自在に操ることをその定義としている。もちろん、誰も彼もその力を自由に使いこなせるというものではなく、多分に才能や鍛錬の歴史に依存する。


 錬金術は魔術とは似て非なるものだ。エネルギー、マナ、イメージの混在という過程は同じだが、使用時の精度に明確な違いがある。


 わかりやすく現代風に例えるなら、魔術は料理、錬金術はお菓子作りといったところか。料理は精度よりもむしろ感覚的なものがその美味しさを決める。味を調えるという行為がそれにあたるだろう。最終的には作る人間の舌と、味が足りなかった時にどの調味料をどのくらい混ぜ合わせれば良くなるかを直感的に生み出せる臨機応変さが必要だと思っている。


 逆にお菓子作りは精度が重要。きちんとgを正確に測り、寸分狂いなくレシピ通りの混ぜ合わせ方をしなければ失敗する。錬金術はそれに似ている。


 お菓子作りであれば、計りを使ってgを目視できるが、錬金術を操るために用いる自然エネルギーやマナに計りはない。それを自分の感覚だけでやってのけなければいけないのが錬金術の難しいところだ。だから、感覚的に何gかってのを正確に決められなければ錬金術師にはなれない。


 そこで今回モモチさんが作った装置がこれだ。この装置の仕組みは単純で、手で白い粉をひと掴みし、測定機に落として重さを計るだけといったもの。ただ、その精度が百万分の一という超ミクロの単位まで計れるといった優れもので、錬金術師としての感覚に優れているものは、例えば指定値が10とすれば、9.999…か10.000…のように、おおよそ千分の一単位で指定された数値の誤差内で粉を落とせなければ才能ナシと判定される模様。


「私、今日は調子がいいみたい。誤差五十分の一。上出来ね」

『おお~』


 中堅都市ウォーレンにある錬金術師ギルド内が歓声に包まれる。モモチさんが使い方の実演を兼ねてこの装置で自身の感覚精度を計ったら、いい数値が出たらしい。


 やってることが地味すぎて俺とユーリちゃんにはイマイチその凄さが実感しきれていなかったが、周りのギルメン達の反応を見る限り、これは凄いことなのだろう。


「次、俺やりてぇ!」

「いや俺が!」

「私は自信ないからやめとこうかな……」

「モモチの精度が高すぎて萎える」


 モモチさんがここにやってきて、ギルドの雰囲気がすごく明るくなった気がする。彼女は特級錬金術師であるのと同時にムードメーカーでもあるのかもしれない。


「ちょっと、アナタ達は後に決まってるでしょ!主役はこの二人なんだから!」


 モモチさんはそういうと、俺とユーリちゃんを測定器の前まで促した。


「私からやってもいいですか?ビエルさん」

「うん。お先にどうぞ」


 本当は俺からやりたかったけど、ここはレディーファーストを選択した。

 俺、オトナだし。


「この測定器すごく繊細だから、ちょっとだけ待ってね。調整するから」


 白い小麦粉みたいな粉を整え、測定器を掃除して次の準備をしてくれるモモチさん。まぁ百万分の一の精度で計るってんなら、測定前に埃ひとつ乗せるワケにはいかないもんな。あ、モモチさんもしかして真空魔術で無菌状態とか作ってからやってんのかな?あ、なんかそんな感じみたい。


「じゃあ次はユーリちゃんね。そこの白い粉掴んでこっちの穴に入れてね。今回は10gよ。あ、一回しかヤっちゃダメだから、優しく慎重に入れてね」

「あの、私10gがどのくらいの重さなのかわかんないんですけど」

「ああ。そりゃそうよね。10gってこれ」


 モモチさんが10gと書かれた金属の重りをユーリちゃんに手渡した。


「それが10gピッタリよ。あ、その金属は絶対に重さが変わらない特別性だから、誤差0の10gだからね」

「わ、わかりました。では、やってみます!」


 恐る恐る、ユーリちゃんが白い粉を一回掴み、慎重に穴へと投入していく。


「こ、これで完璧なはずです!結果は!?」


 モモチさんの手元にある金属板に数値は表示されるらしい。そこにはすでに結果が示されていた。


「こ、これは!?」

「えっ?もしかしてピッタリとか……」

「8gってユーリちゃん。これ、測定対象外よ。全然才能ないわ」

「ガーン」


 冷たい現実を思い知らされるユーリちゃん。魔術師としては才能抜群だったが、錬金術師の才能はまったくなかったようだ。


「残念だったわね。じゃあ次、ビエル君」

「はい!」

「10gはもうわかった?」

「あ、なんとなく……」

「なんとなくってキミ……まぁいいか。じゃあ準備するから少し待ってね」


 普通に考えて、一回持ったくらいで10gに限りなく近づけるとか無理ゲーな気がしてる。ユーリちゃんの8gですら実は凄いと思っている。


「オーケーよ。それじゃ、スタート!」

「うーん。このくらい、かなぁ……」


 まったく自信などなかったが、自分の感覚を信じて粉を穴に投入した。


「あ、もういいです。結果、どうですか?」


 少し手に粉は残ったが、これを全部入れると絶対入れ過ぎになると思ったので入れなかった。掴んだ粉を全部入れる必要はないってモモチさんも言ってたし。


「……」

「はあぁぁぁぁ??」

「うそつけ。壊れてる」

「なんかやっただろ?ビエル君」


 えっ?どういうこと?俺の測定結果をのぞき込んでいたギルメンたちの反応がとんでもなく殺気だっている。えっ?俺、もしかしてまたなんかやっちゃったの?


「誤差……0……えっ?ちょっともっかい測定し直して……0、0ォォ??」

「えーっと、モモチさん?俺の測定結果は……」

「誤差0って。んなこと、あるワケないじゃないのぉぉぉぉ!!」


 ん?ってことは俺、めっちゃ錬金術師の才能があるってことだよね?


 やったじゃん!おめでとう!

 ……って、そんな感じではなさそうだ。


「あ、多分試作機だから、ちょっと壊れていたんじゃないですか?いくらなんでも俺、そこまで運よくないと思いますし……」

「当たり前よッ!ああ、結構完璧に出来たと思ってたんだけどなぁ……。ショック」


 そ、そんなに否定しなくても……。

 どうやらこの話題をこれ以上引っ張るのは俺にとって非常に危険な香りがする。違うテーマの話をしなければマズい気がする。


 なんか質問しなきゃだな。

 えーっと、えーっと……。


「あっ!ところで、モモチさんて歳いくつなんですか?」

「今それ聞いちゃうんだ、ビエル君……」


 ギルメン錬金術師のおねぇさんの警告に近いつぶやきが聞こえた気がした。


 えっ?聞いちゃダメだった?


「17よッ!!」


 んなワケねぇだろ。どんだけサバ読んでんだ。まさか本気マジな顔でそう言われるとは思わなかった。


 モモチさんは高い精度感覚を持っている。ただ自分の年齢に関しては、その感覚性能は麻痺しているようだ。

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