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捨てられ錬金術師は眠らない  作者: 十森メメ
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第21話 錬金術の才能

 ギルドの入り口でひとしきり派手な挨拶を終えた特級錬金術師を自称する小柄な女性。騒めくギルメンの錬金術師たちには目もくれず、なぜか一目散に俺たちの元へと駆け足で近づいてきた。


「おっ!キミ、新入り君?可愛らしい顔してんね!名前なんていうのかな?」

「ち、近っ!あ、あの、このギルドの新入りではないんですけど……俺、ビエルって言います」


 背伸びしながら見上げるように俺の顔を覗き込み、至近距離で話しかけてくる自称特級錬金術師の女性。


 赤い癖っ毛が自由に遊びまわっている。小顔と釣り合っていない大きめの丸眼鏡が鼻にかかっておらず、今にもずり落ちそうだ。背が低いものだから上目遣いになっている。ニット素材の可愛らしい服装にも拘わらず、飛び出したたわわなお胸には貫録さえ感じる。年齢不詳ながら、とても魅惑的なおねぇさんなので、思わず少し照れてしまう。


「ちょ!いきなりなんなんですか貴女あなた!ビエルさんに近づきすぎですよ!」

「ん?おお!これまたべっぴんなお嬢さんだ!キミの名前はなんて言うのかな?」


 ユーリちゃんに制された魅惑のおねぇさんが、今度はユーリちゃんに近づき、至近距離で顔を寄せている。少したじろぐユーリちゃん。


「えっ?べっぴんさんだなんてそんな……私、ユーリ・ヘルメイスって言います!」


 容姿を褒められて満更でもなさそうな態度に変わっていた。自己紹介もフルネームで気合いが入っている。


「おい、ビエルとユーリってもしかして……」

「ああ。この街の冒険者ギルドに最近入った期待の新人コンビだ!」

「S級のルーカスと一緒にオークキング討伐した、あのビエル君?」

「へぇ。ヘルメイス家のご息女ね。なんか雰囲気出てる」


 俺とユーリちゃんの名前を認識したギルメン達のざわつきが増している。どうやら、俺たちの存在は、この街ですでに有名になりつつあるようだ。


「へぇ。キミたち有名人なんだね。おかげで私の登場、霞んじゃったじゃない。まぁ別にいいんだけど。あ、私はモモチ。一応、王都の魔術学院で教師やってる特級錬金術師よ」


 色気抜群のウィンクとともに、自己の素性を明かすモモチさん。相変わらずメガネはズレているが。……あれ?王都の魔術学院で教師やってるって、まさか。


「モモチさんって、もしかして魔術学院[ヘルボーガン]の先生なんですか?」

「そう!すごいでしょ!」


 また自信満々の仁王立ちでワハハと笑いだすモモチさん。この人、自意識過剰タイプのおねぇさんなのかな?


「なんか嘘っぽくて聞き流してましたけど、特級錬金術師って普通にとんでもない錬金術師の方ですよね……」

「そう!すごいでしょ!」


 さらに気分がよくなったのか、モモチさんの身体の反り具合が半端ない事になっている。確かに、本物の特級錬金術師ならこの自信っぷりもあながち頷ける。エリザさんの家にあった『錬金術師の階級全書』って本に書いてあったから、その域の錬金術師は凄い人なんだってのは覚えている。


「モモチはウォーレン出身で初めての特級錬金術師なんだよ」

「ヘルボーガン錬金術科の先生も兼任してる」

「学校の仕事はどうしたんだモモチ。夏休みはもう終わってるだろ?」


 ギルメンが合いの手を入れてくれたおかげで、モモチさんの素性に関する信ぴょう性は増した。信じていいみたいだ。このおねぇさんは凄い人で、俺たちが目指す魔術学院の教師で合ってるみたい。


「ちょっとガレスウッドで野暮用があったから、学校はお休みをもらったのよ。仕事が思いのほか早く終わっちゃって、それで少し時間もあったし、久しぶりに古巣ここへ寄ってみたんだけど。そしたら可愛らしい男の子と女の子がいるじゃない?そりゃ、声もかけたくなっちゃうよね」


 声かけたくなっちゃうのは、ただの性癖だと思うが。まさか、この人がわざわざ兼任で先生をやってる理由って……


 いや、それ以上考えるのはやめておこう。


「あの!俺、モモチさんが勤めてる魔術学院の錬金術科に入学したいと思って、今日ここへ教材を買いにきたんです!」

「はぁ?今日買いに来たって……もしかして、今から対策始めるつもりなの?」

「そうです!」

「ぷっ!あははははは」


 モモチさんが突然大声で笑いだした。さっきの豪快ななワハハ笑いと違い、目に涙を浮かべて心の底から大笑いしているようで、なんだか少しムッとした。


「あー面白ッ!いいね、キミ!そういう世間知らずでチャレンジャーな男子、アタシ大好きよ!」


 これだけ笑われて好きとか言われても全然嬉しくない!


「あ、そうだ!ここで会ったのも何かの縁!ビエル君。キミ、錬金術師になりたいんだよね?」

「はい。そうですけど……」

「だったらキミにその錬金術師としての才能がどの位あるか、知りたくない?」


 な、なんですと!?

 もしかしてモモチさん。魔術測定器みたいなそんな便利な神アイテムを今、お持ちだとでも言うのですか?


「え。めっちゃ知りたいです!」

「そうでしょ、そうでしょ。ユーリちゃんも一緒にどう?」

「やりたいです!」


 まさかこんな機会が突然訪れるとは思いもしなかった。最近凄く気になっていた、俺の錬金術師としての才能。それをどうやら、特級錬金術師のモモチさんが測ってくれるらしい。ラッキー。


「まだ試作機だから、もしかすると正確じゃないかもしんないんだけど……」


 そう言いながら背負っていたリュックっぽい鞄を下ろし、中をまさぐるモモチさん。何故そのようなものを今日持ち歩いていたのかは、この際気にしないでおこう。お、なんか見たことない機械的な装置と白い粉が入った透明の袋が出て来たぞ。


「じゃじゃーん!これ、私が最近造った錬金術師専用の感覚精度測定装置!百万分の一まで計れる優れモノよ」


 次元の違うポケットから秘密の道具を取り出すような仕草で、自身満々にその装置を掲げるモモチさん。ただその機械のネーミングと見た目だけでは、それを使ってどうやって錬金術師としての才能を見るのかイマイチわからない。


「ひ、百万分の一ってすげぇな……」

「あ、それなら俺もやってみたい」

「モモチ作なら精度は完璧だろうな」

「えっ?もしかして自慢するために持ってきた?」


 ギルメンは当然のように、その機械の凄さを理解しているようだ。俺やユーリちゃんとソレに対する反応がまるで違う。


「あ、じゃあせっかくだし、みんなで一緒にやりましょうか。まずは私が使い方のお手本を兼ねてやってみせるからよく見ててね」


 そう言って、モモチさんは測定器をギルド受付のテーブルに備え置くと、なにやらカチャカチャと機械をいじり、調整を始めるのであった。



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