第17話 オークキング討伐
「お、ルーカスさんじゃねぇっすか!」
「やっと帰ってきたんっすね!」
意外なことに、こんな朝早くからダルマとネギがギルドにやって来て、入り口からリーダーの姿を見つけて駆け寄ってきた。こいつらが朝強いイメージは正直なかった。
「あっ!久しぶりだね、ダルマとネギ!相変わらず薄汚ないツラしてるね!」
「くぅぅ!久々だってのにきっつい挨拶っすね!ルーカスさん!」
「ちゃんと顔洗ってきましたからお肌スベスベっすよ!ルーカスさん!」
いや、そういうことじゃないだろ。ネギ。
めっちゃ容姿非難されてますよ、二人とも。そんなんでいいの?
「あ、ルーカス。帰ってきて早々悪いんだけど、彼のことで相談が」
マーサさんの言う彼とは俺の事である。
「ルーカスさん、さっきはアンタとか言ってごめんなさい。俺、ビエルって言います。このギルドに入れてもらうために適性試験受けたんですけど、まだ仮加入しかさせてもらえてなくって……」
アンタと言ったことに後悔はないが、一応謝った上で事情を説明した。曲がりなりにも転生前は社会人してましたんで、リーダーさんには念のためしっかりご挨拶しとかなきゃまずいでしょ。俺、大人だし!
「あーなる。そういうことね。ふむ……」
アゴをさすりながら、今度はマジマジと俺の顔を舐め回すように見始めるルーカス御大。性格はかなり悪そうな男だけど、顔が異常に綺麗なので見つめられると少し照れる。
「うん!いいじゃん、キミ!」
「……へっ?」
見ただけで俺のコトわかるの?伊達にギルドのリーダーってわけじゃなさそうだ。人を見る目ってのは確かなんだろう。
「さっすがルーカスさん!ビエルさん、めっちゃ強いんすよ!!」
「俺らのイチオシなんすよ!ビエルさんは!」
「そりゃアンタ達はこの子にコテンパンにやられちゃったから、そう言うわよね」
「おいおいマーサ、それは言わない約束だろ?」
「結構傷ついてたんだぜ、俺たち」
ちなみにダルマとネギは俺に負けてからずっとこんな感じだ。ギルドでたまに顔合わせたら、俺のコト若頭みたいな接し方で平身低頭してくるようになった。
別にいいんだけど、あんまり懐かれても正直嬉しくない。相手おっさんだし。
「そっか。てことは魔術適正のほうで疑義が出てるってことだね」
「これなんだけど……」
あ、それまだ処分してなかったんだ。俺が砂に変えちゃった水晶。砂金もそのままだ。どうやら俺の試験結果を査定するため、ちゃんと保存してくれてたみたい。
「いやいやいやいや。どうやったら測定用の水晶がこんな変質の仕方するんだい?あり得ないでしょ」
「S級冒険者のルーカスでも判断つかないってことは、そういうことなのねぇ」
人を見る目はあるようだが、俺の測定結果を判別する目はなかったようだ。ルーカスさんの反応は他のギルドメンバーと同じだった。ちょっとがっかり。
てかルーカスさんってS級冒険者なんだ。すげーな。ただのチャラ男にしか見えんのに。いやいや。そんなことより俺、結局正式加入できるの?どうなの?
「みんなの意見は?」
「全員ウェルカムよ」
「そっか。じゃあ合格でいいと思うんだけど。ただ俺はビエル君の実力知らないからなぁ。どうせならそれ、一回見せてもらってからでもいいかな?」
また試験でもするんですかね?
「実力、ですか?」
「ああ。実は俺さ、これからすぐ次のクエストに向かおうと思ってるんだけど、ビエル君も一緒にどうだい?」
「えっ?」
S級の冒険者と一緒にクエスト行けるってのは魅力的な提案だな!でもまだ正式加入してない俺が一緒に行ってもいいのかな?ルール違反なんじゃないの?
「まぁ追試みたいなモノだから、ルールのことは気にしなくていいよ。マーサもダルマもネギも、それで問題ないよね?」
俺の懸念を察してか、ルーカスさんはしっかり合意を取って事に当たろうとしていた。伊達にリーダーやってないな。チャラいけど中身はしっかりしてそう。
「無問題!」
「ルーカスさんと2人きりでクエストとかうらやましいぞ!」
「別にそれでいいわよ。アンタがリーダーなんだから。他のメンバーには私から説明しとくから安心して」
「助かるよ、マーサ」
全員賛成。よっしゃ!それじゃあ善は急げでさっそく出発……の前に。
大事な話をつけておかなければならない。ルールとかそんな小さな事よりはるかに大切な、金の話を。
「あ、どんなクエストに同伴させてくれるのか知りませんけど、報酬は半々でお願いしますね」
こういう金の話は最初にハッキリさせておかなくてはいけない。現実でも異世界でも金は一番揉める原因になると心得ている。
「あはは。ちゃっかりしてるな、ビエル君は。オーケー。俺のお眼鏡にかなったら半々どころか報酬は全部あげちゃうよ」
「えっ?いいんですか?やったー!」
「ただし、次に俺が行くクエストは結構ランク高めだから、気を引き締めてついて来てもらわないと困るよ?下手すると死んじゃうかもしれないけど、それでもいいかな?」
「まったく問題ありません!早く行きましょう、ルーカスさん!!」
「ははは。それは心強い」
毎日死ぬかもしれない修行を小さい時からしこたましてきた俺としては、それこそ些末な問題。いや問題にすらならない。ただの日常だ。
「で、ルーカス。次はどこへ行くのかしら?」
「ガレスウッド南の奥地」
「!?」
「マ、マジっすか……」
「もしかしてルーカスさん……クエストランクトリプルAの『オークキング討伐』に向かうんですかい?」
マーサさんがルーカスさんに行き先を確認すると、俺とルーカスさん以外絶句していた。なにをそんなに驚いているのかわからないけど、俺としてはクエストランクトリプルAの依頼はFランクとは金の桁が違う事を知っていたので願ったり叶ったり。
うまくいけばこの1回のクエスト報酬で試験の教材を買えちゃうかもしれないと思うと胸が弾む。
「目撃情報が増えてきてるし、そろそろ調査を兼ねて狩っとかないとウォーレンが危険だと思ってね。ビエル君の実力も計れるし、一石二鳥でしょ」
「でもオークキングなんてこれまでガレスウッドにいたことなかったっしょ?最近アソコらへんはちょっとおかしいっす。なんなら俺らも一緒に……」
「いや大丈夫だよ。だって彼、君たちより強いんでしょ?」
「ぐっ!そ、それは……」
直接まだ実力を見せてはいないが、ルーカスさんは俺の戦闘能力についてはもう織り込み済の様子だ。追試とかいいながら戦力として考えてくれてるのかな?まぁそこは別にどっちでもいいんだけどね。俺としては早く済ませて教材を買いたい。
「早く行こうよ」
「あはは。余裕だな、ビエル君は」
「今までアナタがクリアしてきた依頼とは次元が違うのよ?危険だと思うんだけど」
「大丈夫だよ、マーサさん!オークキングってトリプルAの魔物でしたよね?エルドラゴンと同じなんだから、大したことないですよ。ルーカスさんもいるんだし」
「た、大した事ないってアナタ……」
心配してくれてるのはありがたいけど、もういい加減出発したい。錬金術科の試験は難しいみたいなんだから、とっととクエスト終わらせて試験勉強に取り掛かりたい。
「ビエル君は大物だな。よし!それじゃ出発しちゃおっか」
「はい!行きましょう!」
正直、甘く考えていた。
この時の俺たちはまだ、知らなかったんだ。
ガレスウッドが今、俺やみんなが思っているよりはるかに危険な場所になっているということを……