009 アイドル×魔王軍
<かなえ>
世界的なアイドル、天星かなえは、ワールドツアーの合間を縫って、ふと立ち寄った小さな町にいた。息抜きに訪れたのは、可愛らしい猫カフェ『ニャンと心地よい時間』。
店内に足を踏み入れると、猫の毛の香りと木の温もりが広がる。窓から差し込む午後の光が、静かな時間を演出していた。自由に歩き回る猫たちを眺め、かなえは心から安らぐ。
「ふう、落ち着くなぁ……」
膝に乗ってきた白猫を撫でる。しかし、ふと気づくと、店の奥にいるはずのレイナの姿が見当たらない。魔王軍を共に倒した勇者パーティーの仲間であり、友人。この町で猫カフェを開いたと聞いて、久しぶりに会えることを楽しみにしていたのだが……。
「レイナさんは、お休みですか?」
スタッフに尋ねると、彼女は驚いた表情で答えた。
「はい。急に忙しくなって、どこかに出かけています」
かなえの胸に不安がよぎる。この町の穏やかな空気は、レイナが大切に守ってきたものだ。その彼女が不在だということは、何かが起こっている証拠だった。
その瞬間、外の空が暗く覆われ、冷たい風が店内を駆け抜けた。かなえは立ち上がり、扉へ向かう。
「まさか……」
空一面を覆う暗雲の下、皮膚がただれたようなグロテスクな魔物たちが、ぬるりと這い出てきた。鋭い爪と牙を剥き出しにした魔物たちの咆哮が、街に響き渡る。
「……魔王軍!」
町の人々が悲鳴を上げ、逃げ惑う。
「私が、やらなきゃ……!」
アイドルとして、勇者として。彼女の新たな戦いが、今、幕を開ける。
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