011 囚われのゲートキーパー
アスヴァルは、魔王軍の冷酷な参謀として、アリスティアの力を手に入れるため周到に準備を進めていた。彼女が持つ「ゲートを開く力」は、異世界と人間界を繋ぐ最も重要な能力だ。これを手に入れれば、魔王軍の侵攻は一気に加速する。
アリスティアは、自分の力の制御が効かず、心が不安定になっていた。人と過ごすたびに、自身の力が暴走するのではないかという恐怖が募っていく。心の中に湧き上がる不安を和らげようと、森の奥へと足を踏み入れた。
しかし、足を進めるほど、薄気味悪い冷気が肌を突き刺す。その鋭い痛みが、心の奥に潜んでいた不安を現実に引き戻した。振り返ると、冷酷な笑みを浮かべた男――アスヴァルが立っている。
「久しぶりだな」
アリスティアは警戒しながらも、彼の視線から逃れられない。
「君の力が欲しいんだ」
アスヴァルの目が赤く光り、アリスティアの意識に侵入し始めた。まるで氷の針が脳を直接刺すような、激しい痛みが走る。アリスティアは必死に抵抗するが、アスヴァルの精神的な力が強すぎて、彼女の意志は次第にかき消されていく。
頭の中に、アスヴァルの冷たい声が響く。
「ゲートを開けば、全ては終わる」
その声が大きくなるにつれて、アリスティアの意識は完全に支配された。彼女の瞳から光が失われ、ただの操り人形と化す。
「よし、ゲートを開く準備は整った」
アスヴァルは満足げに呟いた。
その頃、サラたちはアリスティアの足取りを掴めずにいた。胸に渦巻く不安は、次第に冷たい確信へと変わっていく。
「アリスティアは、きっと連れ去られたニャ……!」
その言葉は、遠くから聞こえる不気味な地鳴りにかき消された。
「誰かが彼女を……」
レイナも顔を真っ青にして、周囲を警戒する。
「今すぐ人間界に帰るニャ。何か手を打たないと」
「でも、アリスティアはどうするの? 放っておけないわ」
サラの表情が険しくなる。
「勇者パーティーが全員合流しないと、彼女を助けることはできないニャ」
「わかったわ、サラ。まずは、そこからね」
その時、ダリウスが一歩前に出た。彼の目には、揺るぎない決意が宿っている。
「俺は……ここに残る」
その言葉に、二人は驚き、思わず振り向いた。
「本気なの?」
レイナが目を見開く。
「全力を尽くして、彼女を救い出す」
ダリウスは真剣な眼差しで二人を見た。彼の脳裏には、初めてアリスティアと出会った時の光景がよみがえる。不安そうに震えながらも、希望を口にした彼女の姿。その笑顔を守ると、心に誓っていたのだ。
「アリスティアを頼んだニャ」
「……ああ、任せてくれ。必ずやり遂げる」
ダリウスはただ、その目に宿る決意を、静かに燃やし続けた。
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