第1章 プロローグ
血飛沫が飛ぶような話ではありませんが、そこそこダークな話です。最終的にはハッピーエンドにはなりますが。
それ相応の微ざまぁが有り、センシティブな問題も含まれているので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。現代の倫理観ではないので気分が悪くなったり、怒りが増すといけないので。
(一般的な感想はもちろん構わないのですが、排他的で自己主張の強すぎるものや、作者への個人攻撃が始まったら自己防衛のために感想欄を閉じさせてもらいます)
私の名はキャスリン=フォーラ。割と裕福な伯爵家の嫡女で、十五歳の時にはすでに婿になる婚約者が決められていた。
その婚約者の名はジュリアン=モーランド。傾きかけた侯爵家の三男で、大陸一と言われる金髪碧眼の美貌の貴公子。
しかも詩人としても有名で、ご令嬢やご婦人からとても人気があったご令息だった。
彼が甘い声で愛の詩を詠めば、女性達は皆蕩けるような微笑みを浮かべてうっとりと聴き入る。
そしてその朗読が終わると耳をつんざくような甲高い悲鳴が沸き起こるのが通常だった。
そんな人気者の婚約者が、いくら裕福とはいえ高々伯爵家の、しかもきつい顔をした可愛げのない令嬢ではみんな納得がいかなかったようだ。
「彼にはこの世で一番素晴らしい女性でないと釣り合わないわ。
王家か公爵家、最低でも彼と同じ侯爵家までのご令嬢で、才色兼備で夫を立てて尽くしてくれる女性でないと……」
私達の婚約は完全な政略によるものだった。やがてその事実が明らかになると、回りの女性達は納得すると同時に彼に同情した。
先代の侯爵家が作った借金のせいで四苦八苦しているところを、伯爵家からの融資で助けてもらったから、侯爵家はこの縁談を断れなかったのだろう。貧乏くじを引かされたジュリアン様はなんてお気の毒なのだろうと。
不本意な婚約なら私だって同じくらい気の毒なはずなのに、誰もそう思わないことに、私は心の中で憤りを感じた。
彼の婚約者になれて喜んでいると勝手に思われていることが不満だった。
たとえ容姿が優れていようと、詩人として名高いとしても、誰もが彼を好きになるとは限らないだろうに。
私は、彼のようにただ痩せてひょろひょろしている軟弱なタイプではなくて、筋肉隆々で男らしい男性が好みなのだ。
そして私自身も詩や小説などの文学よりも、外で乗馬や狩りをする事を好むタイプだったのだ。
私の理想の男性は父親の従者をしている五歳年上の人で、初恋の相手でもある。
明るいブルネットのヘアーに鮮やかな青い瞳の美丈夫で、私に乗馬やダンスの基礎を教えてくれたのも彼だった。
その彼の名前はアルト。
彼は私の父親であるフォーラ伯爵の狩りにもよく付随して手伝いをしていたが、彼自身も狩りを得意としていた。
だからその場で自分の戦利品を調理して、皆にもよく振る舞っていた。
狩りも料理も後片付けも、それはもう手際よくて、私は夢中になって彼の一挙一動を見つめていた。
強くて逞しくて何でもできる、そんな優しくて頼りがいのある彼が大好きだった。
でも、伯爵家の跡取り娘と使用人では身分が違い過ぎる。
許されない恋だとわかっていたから、誰にも伝えることはなかった。もし知られて、彼に迷惑をかけることだけはしたくなかったから。
短めなので、続けて次章を投稿します。