合わない目線【R15(レス)/夫婦/すれ違い】
五年間、俺達の間には、そういったコトがない。
夏の魔物に襲われ、手が勝手に……クッ❗️
(↑確か、春は悪魔だったよね?じゃあ秋は?冬は?)
初出【2023年6月10日】
誓いのキスをする寸前に視界に入った彼女は、俺の方を見ていなかった。
「シエは、俺の事どう思ってるんだ? 」
「……えっ? どうって…好きか如何かって事? 」
ダイチ君って女の子みたいな事訊くんだね? と返す彼女は、俺を馬鹿にして余裕ぶってるが、内心焦ってるのか、目が合わない。
「俺達、結婚して何年経つっけ? 」
「………五年だね…」
「あぁ、五年だ。子供がいたら、幼稚園に通ってるかもしれないなぁ? 」
「………夫婦によって違うと思うケド……で? 」
「っ……だっ…だから……俺達も、そろそろーー」
「まだイイじゃない。私、もう疲れたから先に寝るわ」
「そんなに元彼が忘れられないか? 」
「!? ……はっ…はあぁ!?!! ハナダ君は関係ないじゃない!!! 」
「……五年間、俺達の間に子供が出来なかったのは、お前がほぼ俺からの誘いを断ったからだぞ? 」
「っ……貴方が疲れてると思って、敢えて断ったのよ! なによ!? そんなにヤリたかったら、そーゆう店でも行ってくれば!? 」
「…イイのか? そーゆう店で出逢った女の子と、そのまま浮気する関係性にまで仲良くなっても」
「そしたら、貴方達に慰謝料請求をして、貴方みたいなクソ旦那から離れて、私は晴れて自由の身よ」
「……………ははっ……お役御免ってか? 」
「!? ……なに言って……」
「ハナダ君…だっけ? あの日……結婚式で、誓いのキスをする時に、お前が見ていた男の名前は? 」
「っ……さっ…最っ低!! 盗み見なんて…アンタ、めちゃくちゃ気持ち悪い!!! 」
「盗み見もなにも、今からキスする相手の顔を見る事のなにがオカシイんだよ? 最低なのは、これから人生の伴侶になる相手よりも、元彼の方を見てるお前の方だろうが」
「っっ………アンタみたいな男と結婚するんじゃなかった!!! 」
わあぁっっと泣き出すシエに、泣きたいのは此方だよ馬鹿野郎…と、感情的になって暴走しそうになる身体を抑える為、俺は舌打ちをして、彼女を視界に入れない様にそっぽを向いた。
「疲れたんだろ? 早く布団に行けよ」
「アンタのせいで、目や頭が冴えたわよっ! 」
「ははっ……また、俺のせい」
「ッ…なにが言いたいワケ!? 嫌味?! 」
「ハハッ……そう思いたいなら、そう思えば? 」
「っっ…」
ちゃんと話し合えたわけじゃないが、こうやってお互いの腹の中を見せ合ったのは、結婚してから初めてだって事に、今更ながらに気付く。
あの時は、どんな壁も愛の力で乗り越えられると考えていたが、シエは元彼のハナダに、自分には旦那がいるから幸せだって見せ付ける為だけに、俺と結婚した。
つまり、俺だけの一方的な片想いで、シエとは形だけの夫婦で、それでーー
「……ダイチ君、泣いてるの? 」
「!? はっ…見んなっ!!! 」
シエの言葉で、俺は自分が泣いてる事を知った。
五年だ。
五年間、俺とシエは夫婦生活を送った。
性生活は無かったが、それでもーーシエと一緒に居られるだけで、幸せだった。それは、嘘じゃない。
「………御免なさい…」
「……それは…なにに対してだ? 」
覚悟は無い。でも、彼女の口から放たれるのは、多分…いや確実に、恐れてる言葉だろう。
“もう、やり直せないのか?”
出そうになる言葉を無理矢理呑み込む。最後ぐらい、カッコイイ男を演じたいから。
だって悔しいじゃないか…。
五年間、一つ屋根の下で夫婦生活を送っていた男よりも、それよりも前に付き合ってた元彼の方が良い男だって思われるのがさ?
だから、聞き分けの良い男を演じて、後で、俺とヨリを戻したいって言わせるぐらいに後悔させてやるんだ。
「っっ……確かに、貴方と結婚した理由は、ハナダ君に見せ付ける為だったわ」
嗚呼……解ってた事だけど、本人の口から直接聞くのは、やっぱり堪えるなぁ…。
「でも……それ以降、アイツとは会ってないし、他の男とも不倫してないわ。信じられないなら、どんな検査だって受けるつもりよ」
「検査って……如何やってそんなの調べんだよ…。ってか、じゃあ…なんで……」
何で、俺としてくれないんだ?
別に、まだ作りたくないなら、避妊だってするって言ってるのに、拒絶するし…。
「怖かったからよ」
それに、俺は意味が解らず、首を傾げる。シエは、ほらやっぱり理解してない、と言いたげそうに溜息を一つ吐いて、言葉を続けた。
「赤ちゃんを産むのって命懸けなのよ? 怖いわ…。私、まだ三十代なのに、子供を産む為だけに死にたくない…。それにもし母子ともに安全に赤ちゃんが産まれてきたからって、ちゃんと子供を育てていけるか、自信が持てない…」
だから避妊でもイイから…と出掛かりそうになる言葉を呑み込んだ。……絶対デキナイって保証は無いんだ。
それに…シエが今、求めているのは、そーゆう事じゃない。
命が誕生すると生命の危機という、相反する二つに対して、強い不安を抱いているのだ。
「っ………悪い…」
「私こそ、ゴメンね…。こーゆう話、もっと早くに打ち明けるべきだったね…」
嘘は…吐いてないと思った。
女は、男よりも嘘が上手いというが、それは、目線が合うからだという。
先程までずっと視線が合わなかったシエと、漸く目が合ったが、彼女の瞳から、表情から、口振りから、声音から、雰囲気から、態度から、嘘を吐いた様子が感じ取れないのだ。
ホッとしたからだろうか? 急激な睡魔に襲われた。
「……ねぇ? ダイチ君」
意識が、現実なのか夢なのか定まらない、フワフワした状態。だから、俺を呼ぶシエの声が、艶っぽくって、今迄求めていた出来事への切符を手に入れるチャンスだと思ってしまうのは、そうなって欲しいという願望が強まった夢だろう…。
「もし良かったら、今夜……する? 」
言い様、シエは抱き着いてきてーーその衝撃に、これは夢じゃなく現実なのだと理解する。
「………えーっと……するって…なにを? 」
「……解ってるでしょ?女に、それを言わせる気? 」
嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。漸くチャンスが訪れたのだから。
……が、現在は喜べない。
「………寝させてください」
「ッ……イイの? 今夜しか、チャンスがないかもよ? 」
不満そうなシエの声に、冗談じゃないのが伝わる。
解ってる。解ってるんだよ、そんな事は。そうそう無いチャンスだ。モノにしたいさ!!
でもな……それにはまず、休息が必要なんだ。
「理由が判った今、俺の不安は、結構解消された。それだけで、待てるよ」
「! っ……ダイチ君…。………ねえ? 本当に、今夜しない? 私、今、そーゆう気分なんだけど? 」
「頼む! 寝させてくれ! こんなに眠い気分なの、久々過ぎるんだ…」
「………そう……ゴメンね? 引き留めて…お休みなさい」
言って、離れていく温もりに、寂しさが募り、思わずその背を抱き締める。
「!? っっ…」
「…明日じゃ駄目か? 」
余りに眠過ぎて、力無い声音だった気がする。
感情も全く感じられないものだろうし、不安にさせてしまったんじゃ…と思っていると、視界に映る、髪に覆われてる為に見え隠れする耳の裏は、先程よりも紅く色付いてる事に気付いた。
「ッ……約束よ? 」
言い様、振り返ったシエは、緊張した面持ちだが、何処か嬉しそうで、俺を見た。その姿に、眠気が少し吹っ飛んだが、美味しい物は最後に頂きたい俺は、溢れそうになる本能的感情をなんとか抑えて、あぁ、と頷いて、彼女が寝室へと入っていったのを見送り、自分も自室兼寝室の部屋と向かった。
明日は、夫婦生活では初めての、同じ布団で寝る日が訪れる。期待に胸を膨らませながら、俺は眠りに就いた。
了




