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狡い男(ひと)【R15(微エロ)/悲恋】

ミエは、三年付き合ってる彼氏・コウちゃんと旅館を訪れた。最後のお泊まりの為に……



初出【2013年1月15日】

「此処だっけ? 」

「……えぇ」

「……………」


 私達は、旅館の前に居た。コウちゃんは此方をジッと見詰め、入るのか? と、目で訊いてくる。私はコウちゃんと視線を絡ませると、コクッと頷き、再び視線を旅館に戻すと、中へと入った。

 コウちゃんが拒んでいるのも仕方がない。何故なら、此れが最後の二人の御泊りなのだから。


 ――でもしょうがないでしょ? コウちゃんが悪いんだから


 私達は、付合って三年。御互いの事は、ある程度知りつくし、そして結婚の話も出ていた。――なのに、コウちゃんは浮気をしていた。しかも、私と付合って直ぐの事で、今回別れようと思った切っ掛けは、其の浮気相手と今でも続いていたという事実。

 浮気がバレたコウちゃんは、直ぐに其の浮気相手と別れたけど、私が納得出来る筈も無く、別れ話を切り出した処、コウちゃんは嫌だ! 嫌だ! の一点張り。

 ――何って、身勝手な男だろう……

 怒りを通り越して呆れてくる。私は、此の人の何処に惹かれたのだろう? と自問自答したが、答えが見付る事は無かった。



 そんなワケで、何とかコウちゃんを説得し、最後に一夜を共にして別れようと勧めた処、渋々承諾してくれて、――現在いまに到る。


「………如何したのよ」

「ミエ…、あのさぁ……」

「予約した時間、とっくに過ぎてるから早くして」

「………………」


 私はコウちゃんの言葉を遮り、カウンターで受付けを済ませると、案内された部屋へと向かった。背中に感じる視線を無視して…。

 ――なによ、哀愁漂わせて……

 なんか、私が悪いみたいじゃない。


 部屋に着くと、持ってきた荷物を床に置き、ベッドにダイブする。流石旅館。布団がフカフカで気持ちいい。なんだか眠くなっちゃった。

「ミエ…、誘ってんの? 」

「!」

 私は思わず体を起し、コウちゃんの方を見る。――今、改めて気付いたけど、ベッドの上に座っているとはそーゆうアレで、私は思わず赤面する。

「あっれぇ? ミエちゃん如何したの、顔真赤にしてぇ。もしかしてえっちぃ事でも考えてたぁ? 」

「もっ…もうっ! からかわないでッ! 」

 すっかりコウちゃんのペースに載せられてる気がするが、此の際無視だ。私はフンッと鼻を鳴らし、コウちゃんの方から顔を背ける。


「………ミエ? 」

「あれ? 怒ってる? 」

「おい、ミエ! 」


 何回も、私の名前を呼ばないで。私達、此の旅行を最後に別れるんだよ? 其処の処、分ってるの?

 私は枕に顔をうずめ、一滴の涙を流した。




 *




 暫く、泊まる部屋で体を休ませた後、私達は一回の宴会場へと来ていた。此処は、朝から夕方までは食堂、夜八時以降は其の名の通り宴会を行う場所らしい。――現在の時刻は六時半。酔っ払いのオヤジ達が居ない時間だ。

「……此の時間で丁度好いかもな」

「………え? 」

「(酔っ払い、……居ねぇじゃん)」

 耳元でそう囁かれ、何だかこそばゆい。近くにあった吐息は離れ、コウちゃんの方をチラッと見ると、何事も無かったかの様な顔で御飯を平らげていた。

 ――ズルい……

 此の男は、ホントずる賢い。私がこんなにも別れようと決心しているのに、ソレを鈍らせる様な行動をしてきて、本当腹立たしいったらありゃしない。オマケに、私と同じ価値観って処が癪に障る。


「………先、戻ってるわ」

「…え? ちょっ…、ミエ! 」


 此れ以上、決心を鈍らせてたまるものですか。コレは、もう意地だ。

 私は部屋へと戻ると、荷物から替えの服や下着を取出し、二階の大浴場へと足を向けた。幸いな事に、コウちゃんと擦違う事は無かった。


 旅館の御風呂というものは、何って贅沢な代物なのだろうか、と改めて思う。銭湯とはまた違った良さ。今時、あって当り前のサウナに、大体の処にはある滝湯。

「……来て良かったかも…」

 私は電気風呂に入っていた。ピリピリとした感覚が何ともいえない。

 此の呟きは、あくまでも旅館に対してだ。決して、コウちゃんと御泊りした事についてでは無い。其処だけは勘違いしないでいただきたい。…あれ? 誰に向けての弁解だコレ。



 ――ガラッ。


「あ…」

「………」


 女風呂に入ってきたコウちゃんの顔面に、洗面器を投げたのは言うまでもない。

 ガンっと、風呂場にヤケに其の音は響き渡り、其の直後に、「何でアンタがこんな処に居るのよッ! 」と私が罵声を浴びせると、コウちゃんは涙目で此方を睨み付け、其れはコッチの台詞だ! と反論してきた。

 何が『コッチの台詞だ! 』よ。文句言える立場か、此のドスケベが。

「………どっちがスケベだっつぅーの」

「はあぁぁ!? 如何いう意味よソレ! 」

「知らねぇの? 此処、時間帯で男湯と女湯入れ替るんだぜ」

 なっ…、何ですとぉ!? ちょっ…、ちょっと待って! ……っていう事は、詰り……。


『此処って確か、滝湯ありましたよね? 俺、肩凝ってて』

『なんだぁ? おめぇ、まだ若ぇっつぅーのに、だらしねぇ体してぇ…。俺が若ぇ時は……』

『先輩の時代と違うんですよ』


 脱衣所にやってきた二人組。声からして男だ。

 ――やだ…裸、見られちゃう…っ

 唯でさえ、私の身体の事を知り尽くしてるコウちゃんにでさえ羞恥心があるというのに、見ず知らずの男に裸を見られるというのは絶叫もんだ。恥ずかしいを通り越して泣けてくる。

「……チッ…如何すっかなぁ…」

 コウちゃんは呆れてなのか舌打ちをした。くっそぉ…。カッコよく別れて、新しい門出にしようと思ったのに、とんだ誤算だ。

「! ミエ、此処の露天風呂って、混浴だったよな? 」

「……えっ…あ、あー…うん」

 よしっ! と声を上げたかと思うと、コウちゃんは私の腕を引き御風呂から出させると、露天風呂の処へと連れて行った。私は、掴まれた腕を振り放す事もせず、茫然と、コウちゃんの逞しい背中を見詰る事しか出来なかった。




 *




 御風呂での騒動の後――。

 何とか、他の男性客から裸を見られる事無く、難を逃れた私は疲れて、ベッドに体を預けていた。

 ――今日で、最後…かぁ

 明日から、私達は唯の友達に戻る。いや、知り合いという関係にまで降格しちゃうかな。

 好きで、好きで、大好きで、本当は“恋人”という関係を続けていたい。――でも、もう、駄目なんだ。


「ミエ…居るかぁ? 」


 つい先程、喉が渇いたといったコウちゃんは、部屋を出ていた。彼の声に思わず私は返事をするのを忘れ、しまった! と思った時には、コウちゃんが部屋に入って、私を見下ろしていた。

「……居るなら、返事位しろよ」

「………………」

「……シカトとは、好い度胸だな…」

 そう低い声で言ったかと思うと、コウちゃんが私に覆い被さってきた。

「ちょっ…! 重っ…」

「最後なんだし、……好いだろ? 」

 私の返答も待たず、コウちゃんは上着のボタンを乱暴に外すと、首筋に噛付いてきた。

「…っ! 嫌ッ!! 止めてッ! 」

「……其のうち気持ちよくなるって」

「ならなっ…んぅ!? 」

 私の言葉は、声にならず、無理矢理呑込ませられる様なキスをコウちゃんはしてきた。嫌だ…。――もう、コウちゃんとは、こんな事したくない!



 ――バチンッ!


 室内に、乾いた音が静かに響き渡る。私の視界に映るコウちゃんの頬が、若干紅く腫れていた。

「好い加減にしてッ!! 私…、こんな事する為に貴方と旅行しに来たんじゃない! 」

「………俺だって…、本当は……っ」

 こんな場所に来るつもりは無かった、そう言おうとしたのだろう。でも、私の意思を見て、何を言っても効かないと分ったのか、コウちゃんは諦め、其れ以上何も言ってこなかった。




 三年という月日は短い様で、其れでいて長い。


 私達は、付合って三年。御互いの事は、ある程度知りつくし、そして結婚の話も出ていた。――なのに、コウちゃんは浮気をしていた。しかも、私と付合って直ぐの事で、今回別れようと思った切っ掛けは、其の浮気相手と今でも続いていたという事実。


 本当は知っていた。コウちゃんが、浮気を繰返した事位。

 本当は分ってた。コウちゃんの心に、既に、私の存在が無い事位。


 分ってた。全て、分ってた。だけど、其れを見て見ぬフリする程、私は大人じゃないし、其れを許せるほど寛大じゃ無かった私の限界は破裂寸前で、自分がおかしくなる前に別れる事を決めた。



 ――なのに……


「コウちゃんは、ズルい…っ」

「………知ってる」

「コウちゃんなんて、大っ嫌い……」

「俺は、ミエの事好き」






 狡いひと

 何時までも、此のひとから脱出せない私は、哀れな女だ
















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