夕暮れ【男子生徒×女教師】
初出【2013年5月6日】
夕暮れに染まる教室には、一人の男子生徒が机に突っ伏し、眠りこけていた。
「……またかぁ…」
その教室の前を通り掛かった百合子は、ハァ…と一つ溜息を漏らし、渋々中に入った。
静まり返った室内は、本当に何時も自分が使ってる教室なのか、と思ってしまうぐらい普段と違っていて、思わず息を呑む。
「桜谷君起きてっ! 下校時刻よ! 家に帰りなさいっ!! 」
「んー…」
桜谷ユウは、百合子の受け持つ生徒だ。クラスメイトからは一目置かれ、学年問わずに女生徒からモテる。
――一体この男の何処が好いんだか…
お世辞にも、ルックスが好いとはいえない。かといって、人を引き付ける魅力があるのか? と問われれば、解答に困る。
「授業態度も悪いし、良いところなんて一つも無いわ」
「……泣いていい? 」
「っ! ………起きてたのっ?! 」
「最初っからね。思ってる事、駄々漏れ。……てか、せんせーさぁ」
俺の事嫌いでしょ? と、唐突に聞かれ、何って答えれば好いのか困り、百合子は狼狽する。そんな彼女を暫く無表情で見詰め、好いこと思い付いちゃった、と桜谷はイヤラシク笑う。
その雰囲気に身の危険を感じた百合子が、少年の傍から離れようと踵を返した瞬間。腕を掴まれ、強い力で引き寄せられる。――一瞬の、出来事だった。
「……え…? 」
唇に触れた、熱いソレ。離れていく、見慣れた少年の顔。その瞳とかち合い、思わず目を逸らす。
――え? 何、今の? 唇と、唇が触れ合わなかった? てか、え? ……嘘…っ!?
「ねぇ、せんせー。コレで俺の事、好きになったぁ? 」
「…………んな」
「…え? 何? 聞こえなぁーい」
「ファーストキスだったのに…何でっ?! ………桜谷君の馬鹿っ!! 」
百合子は教室を飛び出し、茜色に染まる廊下を駆けていく。各教室の入り口前に貼られた、「廊下を走るな! 」という壁紙が視界に入らない程、彼女の頭の中は、先程のキスでいっぱいだった。
*
「………え? まじで…? 」
教室に一人、残された桜谷は、先程の百合子の顔を思い浮かべ、ククッと喉を鳴らして笑った。
了




