第75回文化祭 部誌
《はじめに》
この度は、『北髙文學第四十八号』を手に取って頂きありがとうございます。
今年も高校、中学統合し、『北髙文學』とさせていただきました。
現在は高校十名、中学三名で活動しています。
今年も去年に引き続き、テーマを定め部員それぞれの個性が出てくるような詩、散文、俳句、短歌などの作品がそろいました。
長くなりましたがどうぞ最後までお楽しみください。
憧れ星
はくうみさ
飛び交う言葉を手ではらった
そんな数量なんかで決められたくなくて
剥がしても破いても増えていく理不尽な価値観
蝋燭の火が消える前に
足元だけでも照らせるだろうか
辛くて上を見れなくなっても
前を、足元だけでも見て生きていく
どんなに泥に塗れようが咲き吼えている花は
枯れることなく生き続けている
獅子は百獣を信じているから爪を研ぎ群れを抱く
友を助けるためにみんなを引っ張るために
あこがれの人は自分じゃなくて周りのみんなを照らしてる
まるで誰も迷わないように導いてる
明日を描きたくても描けない人たちを
あの人ならきっと助けるだろう
今の私なんかじゃどうにもできない
こんな臆病で明日も夢見ない
私じゃ何もできない
何もできないけれどわたしは今を必死に生きる
私は待ってる一等星なんかに憧れない
私は迎えに行く六等星でありたい
たとえそれがきれいごとでも構わない
それでも私は空に吼える
そんなきれいごとが事実なんかよりよっぽど好きだ
令和五年度『北髙文學』のテーマ
「平和」
近年は「戦争」という言葉とともに「平和」という言葉を
どこにいてもよく耳にするように思います。
平和と戦争は紙一重で一歩間違うことで平和すら毒となります。
だからこそ少しでもこの北髙文學で平和というものが
何なのかを感じてほしいと思います。
目次
〇初めに
〇巻頭文 憧れ星
〇テーマについて
〇詩
雨降る傘 はくうみさ
感 御厨
輝くもの 赤墨九斗
〇散文
黄色い教室で 正親町百花
探偵部事件ノート 正親町百花
勇者 詩音
「」 律
穂波の冒険者 丸山
悪意 楠ノ木 結
オニャンゴロ島 蓬莱 玻璃
問い 七森。
〇平和に関する俳句・短歌
正親町百花
はくうみさ
長友
戸田
赤墨 九斗
楠ノ木 結
蓬莱 玻璃
〇俳句
正親町百花
はくうみさ
戸田
赤墨九斗
丸山
藤永
〇短歌
正親町百花
はくうみさ
戸田
赤墨 九斗
〇巻末文〈さがしもの〉
〇部員紹介
〇編集後記
『 詩 』
雨降る傘
はくうみさ
想い出に鍵をかけ
隠す君との過去
あの頃はもう戻らない
だから忘れたくて鍵をかけた
それなのに思い出してしまう
あの時を
あの心を
あなたに好かれたことが
あなたと過ごした時間が
あなたに出逢えたことが
あんなに幸せだったなんて
あの頃は知りもしなかった
思いがけず気づいてしまう
あなたの視線の先の人
僕の知らない人のこと
それがこんなに痛いなんて
これがそんなに淋しいなんて
初めて思い知った
止むことを知らない雨の中
もう傘を差しだすのはあなたじゃない
もう僕では傘を差しだせない
かじかむ風の中
もう君の手は僕では温めれない
どうしたらいいなんてわからない
あゝこんな僕に傘を差しだしてくれる君は美しい
けれど君ではいけないんだあなたじゃなければ
僕はもうわからないそれはこれからもわからない
でも僕はあなたに恋をしていた
ただこれだけが確かなこと
僕は鍵を開ける
この気持ち以外きっとなにもいらない
感
御厨
あの木陰に咲いている草も
夏の日光に照らされている花も
みんなこの世界で生きる仲間
草は言う
『花はいいな』
花は言う
『人間はいいな』
僕らも言う「あの人はいいな」
誰もが抱く劣等感
そこだけにある一体感
学習運動トーク力
どこをとっても負けている
それでも僕らは生きている
生きていることへの責任感
相手に向ける羨望感
いろんな感を感じながら
それでも僕らは生きている
どうせ感じることならば
少し自分を認めてみよう
優越感、喜び、感謝、愛、畏敬
マイナスな感があるならば
プラスの感もあるんじゃない?
一生懸命生きるならいろんな感を感じよう
生きづらくなっても感じよう
そうしてみんなはいきている。
輝くもの
赤墨九斗
空に瞬く無数の星たち
道の角に立つ信号機たち
河原に屯する蛍たち
彼らは今日も光っている
あたり前のように輝いている
貴方の持つ繊細な心
彼女の持つ淡麗な心
彼の持つ慈しみの心
それらは今日も光っている
必死になって輝いている
周りより輝きが弱くても
堂々とできていなくても
輝いているという事実は同じ
ピカピカではなかったとしても
今、確かにあなたは輝いている
あなたが持っている輝きは
空に在る星の光に比べても
とても立派な美しい輝き
貴方は道を照らしいてる
その輝きによって
『 散文 』
〈黄色い教室で〉
正親町百花
放課後。
わたしの学校では掃除の時間になっている。
わたしの掃除担当の場所は美術室だ。美術室はいつも使っている教室とは違う匂いがする。きっと絵の具や教材とかの匂いなのだろう。わたしはこの匂いが好きだ。いつも美術室に来るたびのこの美術室特有の匂いを肺に充満するべく深呼吸をする。スーハースーハーと。中にはこの美術室特有の匂いが苦手だとか好きでないとかいうのもいるけれどそんなのはここに来なければいいのになっていつも思う。最上階の美術室へ続く階段は静かで音がよく響く。わたしは美術室に着くとまずは深呼吸。それから窓を開け、その向こうの景色を眺める。美術室からの眺めは最高でわたしのお気に入りだ。いつだって忙しい日々を一瞬でも忘れさせてくれる。美術室は最上階にあるから景色がいいのは言うまでもない。ここからはいつも使っている教室や体育館、運動場や校門が小さくとても小さく見える。みんなこんな小さくて狭いところで過ごしてるんだなって。学校っていう世界はこんなにも狭苦しいところにいるんだなって。学校の向こうに広がる街はとってもとっても広いのに、みんな学校の中にいる。みんなの言う世界なんてこんなにもちっぽけなものなのかって。本当は「みんな」なんて何処にもいないのに、ね。全部全部、ここからならおもちゃのパノラマや特撮用の模型のように見えてくる。
それはまるで箱庭に閉じ込められた世界のように、檻の中の小鳥のように。
ここからなら学校の先の街の向こうの山の稜線のその先まで見渡せてしまいそうだ。いっそ、世界の果てまで見えてしまいそう。ここから見下ろせばいろんなことがどうでもよくなってくるから不思議だ。あたかも神様にでもなったかのような気分になる。そしてそのそれに快感を覚えるわたしもいるのだ。
きゃっはははは あっはっはっは
バタンっ どたどた ざわわざわわわ
階段の向こうから喧騒が近づいてくる。
静かな美術室は心地がいいけれども、そうでない美術室は嫌いだ。
わたしは徐々に音量を上げてくる喧騒から逃げるように掃除道具が眠るロッカーから箒を取り出した。
掃除の時間なのだから掃除をするのは当たり前で、その当たり前のことを当たり前にするのはなんの特別なことでもなく、いたって普通のことなのだ。なんにも不思議なことじゃあない。美術室というものは結構、埃やごみが多い。床にはいろんなものが落ちている。ばらばらと、バラバラと。どんなものであれ床に落ちているものは全てゴミだ。たとえなにであっても。埃は隅の方にたまるから美術室の端の方から箒で掃いていく。狭いところからごみをかき出して中央の方に集めていく。だんだん床がきれいになっていく。それはそれは爽快だ。掃除はきついことじゃない、辛いことじゃない、汚いことじゃない。掃除は楽しい、掃除はきれいだ。掃除は気分が爽快になる。まるでわたしの心までも掃除されていくようだ。掃除は楽しいものだよ。箒なら、ね。ごみを集めるのも終盤に差しかかり、床にはごみの塊ができてくる。そこでわたしは美術室がやけに静かなことに気づいた。さっきまで、ついさっきまで
女子が、女子たちが
「え~ほんとに~」
「きゃはっはははは、うっそ~」
「もうやめてよっ、キャッハ」
「ぎゃはははははははっはは」
とかいうような半分以上が笑い声でなにを言いたいのか、そもそも会話として成立しているのかも怪しいモノを繰り広げていたのに、
男子が、男子たちが
「三塁アウト!」とか
「アウト!チェンジ!」とか
「四番バッター ナイスバッティン!」とか
「九回裏のサヨナラホームラン!」とか
掃除時間恒例(?)の箒のバットと雑巾の球と塵取りのグローブの野球ごっこと展開させていたというのに。っていうか、掃除時間の短い間に九回裏まで行くわけないだろって、そもそも人数不足も甚だしいだろって思ってたのに。
そして、それを注意するほどのやさしさもお節介さも、もうとっくの昔にわたしの中にはない、なかった。
なのに、なのに女子たちのおしゃべりも、男子たちの煽り交じりの野球の声もいつの間にか消えていて美術室には静寂が漂うのみだった。頭をあげてみて驚く、そこには、美術室にはだれもいなかった。いつの間にかついていた電気も消えている。さっきまでの喧騒が嘘のように人っ子ひとりいない。みんな何処へ行った。ここにいるのはわたしだけだ。ついさっきまで人がいたなんて信じられない。みんなみんな消えてしまった。これこそ、忽然と消えてしまった、とか、蒸発してしまったかのようにいなくなったとか、煙のように消えてしまったとか、そんな表現がぴったりだと、こういう時に使うんだと身をもって知らされる。
絵の具で極彩色に彩られた手洗い場に筆洗い。
抽象すぎて何が描いてあるのかわからない描きかけのキャンバス。
埃をかぶったままずっと使われていないような石膏石の彫刻。
意味をなさない落書きに彫刻刀で彫られた後の残る無造作に並べられた机。
時が止まってしまったかのようになにも変わらずそこにあるのにさっきまでの喧騒の欠片はもうここには残っていない。わたしだけが取り残されてしまったかのように。なんだったのだろうかあの喧騒は。全部全部わたしの気のせいだったのだろうか。幻聴だったとか、白昼夢だったとか。そもそも最初からなにもいなかったとか?
そんなすべてを窓から差し込む黄色い光がただただ静かに照らしていた。
黄色い光。
夕方を知らせるその光はやがてオレンジ色に姿を変え、徐々に赤みを帯びて真っ赤に燃えて燃えて今日最後の刹那の輝きを放つ。わたしはそれを忘れるものかと目に焼きつける。
そしてそれはだんだん色を失っていき、赤紫から紫、群青へと変わっていき、いつの間にか街に夜の帳を下す。いつもいつも私が知らないうちに、今日一日を終わらせるかのように夜を連れてくるんだ。夕方の黄色い光は今日一日の終わりを連れてくる切ない光だ。今日一日の始まりを告げる朝の白い光とは光の質も輝き方もまるで違う。同じ太陽の光に変わりはないのに。
黄色い光に照らされて美術室に舞うたくさんの埃がきらきらと輝く。
キラキラと、きらきらと、とってもきれいだ。
埃なんてごみの類に過ぎないけれど、このひと時だけはわたしの心を少しばかりは癒してくれる。他に役に立たないものなんていくらでもあるのに。そんなすべてをこの黄色い光が優しく包んでいる。
わたしは埃のきらきらをもっと見たくて箒をパタパタさせる。しばらくその様子に見入っていた。
さて、もう帰ろうかとわたしは掃除道具のロッカーから塵取りをとり出す。ロッカーの中はわたしが見た時とはなんにも変わらずにきちんと道具が仕舞われていて、ただ雑巾だけが水を滴らせていた。
塵取りで集めたごみをさっと取るとごみ箱に捨てる。この中身もいつから捨てていないんだろう。たくさんのごみたちが眠るごみ箱の。わたしは塵取りをロッカーの中に仕舞うと窓を閉める。開けた人が閉めるならば、窓を開けたのもわたし、閉めるのもわたし。
窓の鍵が仕舞っていることを確認してから、今日一日お疲れ様、なんてつぶやき、黄色に染まった美術室をあとにする。
あれ、そういえばわたしは何処から来たんだっけ?
まぁいいや帰ろう。
どこか遠くで掃除時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた―。
FIN
〈探偵部事件ノート〉
正親町百花
泉美高校の文化部部活棟の入ってすぐのところにその部室はあった。床のあちこちには原稿用紙が散らばり、除籍本と歴代の部誌が山をなすように積みあがるそこは文芸部。今日も部員たちはあーだこーだと言いながら締め切りと部長の圧力にめげずに活動していた。
「みんな毎日が締め切りよ! 早く原稿仕上げてちょうだい、今月の部誌に間に合わないわよ!」
「あ~もう無理。おれ、今月の部誌に載せるのあきらめるわ」
「そんな簡単にあきらめていいのか! 根性を見せるんだ!」
「さっきから一文字も進んでない人に言われても」
「うっ……」
「よっし、もうちょっとで終わる」
「あ~ネタ切れだぜ、ネタ切れ」
「誰か消しカス片づけてよ、汚い」
「そうだ! 消しカス片付け係を作ろうよ。日替わりでさ」
「だったら言い出しっぺのあんたが今日の当番ね、さっさと片づけてよ」
「ねーねー伏線書いた紙知らない?」
「痛い、痛い、手が痛い!もうこれじゃ書けないよ~」
「ほい、『ぬるシップ』」
「右手がだめなら左手があるじゃない。左手で書けばいいのよ」
「新キャラの名前考えて~思いつかない~」
「登場人物こそ小説の命なのよ。名前ぐらい自分で考えなさいよ」
「もうダメだ。なにも思いつかない。今こそネタ収集に行く時だ」
「また林田はそう言って脱走するんでしょ」
「さすがに部長が簡単に部室から出してくれるとは思わないよ」
「いや、俺はどんなことをしてもネタ収集に行くんだ」
林田と呼ばれた部員は椅子から立ち上がると部室の奥で小説の校閲をしている部長のところへ行く。
「部長さん、俺、腹が痛くてたまらないんです。うっ…いててて…
ってことでトイレに行かせてください。いたたた」
「しょうがないわね。すぐ戻ってきて小説の続きを書いてちょうだい」
「あいつ、やり方汚いな、姑息な嘘をつくなんて」
「林田はあんな演技力あるなら演劇部にでも行けばいいのに」
他の部員から色々言われつつ、林田はトイレに――否、ネタ収集に行くべく文芸部部室を後にしたのだった。
☆ ☆ ☆
泉美高校に様々な部あれど、真面目に活動している部、功績のある部からもう活動してないんじゃないかといわれ、もう存在しないと噂される部まで色々ある。その中でも探偵部は後者であった。
探偵部―
かつては校内で起こる事件という名のいざこざを引き受け、そのどれもを見事に解決してきた部。だが、いつしか探偵部に事件解決の依頼は来なくなり、その存在は生徒達から忘れ去られつつあった。事件が来なければ活動ができない。それでもどうにかして部を存続させたい。いつかの探偵部部長は部員の確保のために部として認められていない同好会の面々に目を付けた。彼らに活動場所を貸すということで探偵部は部員の数合わせをし、名目上活動の実績を伴わなくてもどうにかして今日までやってきたわけである。
現在、探偵部に所属している同好会は、というと
昆虫同好会、昭和研究同好会、ファッション同好会、バンド同好会、鉄道同好会、落語同好会、DIY同好会、ヒーロー俱楽部同好会、そして〈デブ〉と変わった同好会ばかりであった。
探偵部はそんな意味わからない状態を反映するかのようにその空間には底が知れない混沌が広がっていた。もう、どこまでが床でどこまでが壁なのか、どこまでが同好会の荷物でどこからがゴミの塊なのか、判断がつかない。そんな無秩序な部室の向こうに銀縁眼鏡がいた。
探偵部部長・尾和瀬和久である。
だれがそう呼び始めたのか、泉美の名探偵、そう言われることもあった。尾和瀬は微笑んでいるのか、黄昏ているのか、どちらでもある故にどちらでもなさそうな表情でぼんやりと窓の外を眺めていた。その黄昏は探偵部の過去と現在とを物語っているようでもあった。
しかし、これから起こる出来事などだれ一人知らず、部員たちはそれぞれの放課後を過ごしていた。
ガタッ ビシッ
「失礼しまーす。今日ぐらいなにか事件はありましたか~部長さん、いや、泉美の名探偵!」
探偵部の混沌とした空気を打ち破るかのように一人女の子が入ってくる。
「おや、君は〈デブ〉だね。今日も事件なんてないさ。学校は平和だからね」
〈デブ〉と呼ばれたその女の子は二年生の細田詩乃歌であった。
〈デブ〉とは部活選択に迷いに迷って入りたい部を決めきれなった細田詩乃歌がそれなら自分で楽しくて名前が面白くてやりたいことを見つける、そんな理想の部を作りたいと思い一人結成した同好会である。しかし、今となっては活動内容は何でもいいから部の設立に必要な数の部員を集めて〈デブ〉という名前の部を作りたい、という目的と手段が逆転してしまった状態にある。さらに、自ら〈デブ〉と言いながらも本人はほっそりしているところがなんとも皮肉な同好会であった。
「それより部長さん、どこの部にも活動を記録するノートってあるんですよね」
「そうらしいね」
「ってことはこの探偵部にもあるんですか?」
「ああ、あるさ。名前は記録ノートじゃないけど」
「おぉっ! それって見ることはできますか、部長さん」
「……君も探偵部の人間だから見せていいか。ただし、その内容は部外者には話さないでね。色々とあるから」
「え……? はい?」
尾和瀬は意味ありげなことを言いつつ、ぞんざいに長い足をのせていた木箱のふたを開け、変色した古いノートを取り出す。探偵部に様々なものが溢れど、尾和瀬にとってこの木箱の中身だけが重要でありその他はどうでもいいのであった。
「これが探偵部の記録ノート、探偵部事件簿さ。昔はここで取り扱った事件のことを書いていたらしいけどね、今は学校は平和で事件なんてないからね、たいして書いてないさ」
「おお! これが探偵部事件簿ですか。やっぱり昔は事件があったんですね。早速ご拝見―」
と、詩乃歌がノートを開こうとしたところで
ドダダダダダダダダダダッ―
廊下から凄まじい音と共に部室に一人入ってきたかと思えば、
その刹那、
詩乃歌の持っていたノートをひったくり、あっという間に探偵部を出て行った。
しばらくの間、詩乃歌は茫然と部室の出入り口を見ていた。が、
「部長さん、大変です! 大変ですよ! 探偵部事件簿が盗られましたよ! これは事件です、泉美の名探偵!」
「いや、別にこれは事件とは違うような…それに依頼人もいないんだし」
「事件ですよ、立派な事件です、部長さん! 探偵部で事件が起こるなんて事件ですよ! 依頼人なら私が依頼人です。依頼人になります。だから早くあのノートを取り返しましょう」
「まあまあまあ、わかったからちょっと君、落ち着こうね」
「部長さんは落ち着きすぎです。早く犯人を見つけて捕まえに行かないとです!」
「犯人、ね。おそらく探偵部の人間じゃないね。彼らは入ってくるときは必ず挨拶をするからね」
「わかりましたから早くいきましょう」
「いや、もうちょい待ってね。オレは行動派じゃなくて頭脳派だから。それより状況を確認しよう。君、犯人の顔は見たかい?」
「それが~あんまりにも急なことだったので顔まではわかりませんでした。部長さんは?」
「オレも見てないさ。この木箱の中を整理していたからね」
「……。それより、他の目撃者とかは」
「今日部室に来たのは君だけさ」
「そんな~目撃証言無しですか。いつも部室に入り浸っているほかの同好会の人達が今日に限っていないなんて」
「なんでもいいから他に犯人についてわかることはあるかい?」
「え~と、男で、やっぱり部長さん、あの犯人って運動部じゃないんですか。あんなにさっさと行っちゃうなんて」
「いや、運動部は除外してもいいよ。運動部は文化部の部活棟なんかには近づくことはないからね」
「言われてみればそうかもですね」
「他にわかることはないかい、小さなことでもいいから」
「そういえばなんかぼそっと『そのネタなんちゃら』、って聞こえたような気がしました。ネタって話のネタ、とかのネタですかね」
「ネタ、か。ネタなんて使うのは新聞部にマンガ研究部、それに文芸部ぐらいだろうね」
「おぉ! こんな些細なことで犯人を絞るなんてすごいです!」
「あともう少しだ。どんなことでもいいからなにかないかい?」
「そうそう、犯人の顔は見ていませんが手は一瞬見えたんですよ。指に大きなタコがあって小指の横? 側面? 脇? のところが真っ黒に汚れていたような気がします」
「指にタコ、黒い汚れ……だね」
「あっ! あとですね。犯人が去ったあとシップみたいなツーンってした匂いがしていましたよ」
「シップみたいな匂い、か。よし、犯人はどこの人間かわかったよ」
「え、これだけでわかったんですか⁉ すごいです! 早速犯人を捕まえに行きましょう」
「ちょっと待ってね。その前にひとつ確認したいことがある。部室のドアは犯人が入ってくる前から開けっ放しだったかい?」
「そうですよ。最近ただでさえ悪かったドアの立てつけがさらに悪くなっていて。私が部室に入ってくるときに無理矢理こじ開けたらドアが動かなくなってしまったのでそのまま開いた状態ですけど」
「そうかい、そうかい。またDIY同好会に修理してもらわないとだね」
「へ~あの人たちがドアを修理したりするんですか」
「それと君の声はよく響く声だね。ドアが開いていれば廊下全体に君の声が響くかもしれない」
「たしかに、私、よく声が大きくて響くっていわれますから」
「それじゃあ探偵部の事件簿を取り戻しに行こうじゃないか」
「犯人がわかったんですね、部長さん、いや泉美の名探偵」
こうして、尾和瀬と詩乃歌は探偵部事件簿を取り戻すために探偵部をあとにしたのだった。
部室を出た二人は階段を下りて一階に来ていた。
「そういえば部長さんが部室の外にいるところって初めて見ました」
「オレはいつも探偵部にいるからね」
「確かにそうですね。ところで部長さん、部活棟の外に行くんですか」
「部活棟からは出ないさ。着いたよ、ここにあるはずさ」
「ここって文芸部、ですよね。ここなんですね」
「ああ」
「早速犯人を捕まえて探偵部事件簿を取り返しましょう」
詩乃歌が勢いよく文芸部のドアを開く。
その向こうにあったものは大量の原稿用紙の山に本、本、本。奥にある机では部員たちが頭を寄せ合って小説を書いていた。が、今は珍しい来客を前にその手は皆止まっていた。
「どちら様ですか? 文芸部になにか御用かしら?」
文芸部部長・鈴野涼子が校閲をしていた手を止めて二人に訊く。
「オレは探偵部の部長の尾和瀬と」
「いくら食べても太らない、探偵部所属の同好会〈デブ〉の細田詩乃歌です。ここには盗まれた探偵部事件簿を取り返しに来ました!」
「君は単刀直入に言うんだね」
「探偵部、事件簿……盗まれた……ねぇ、その事件簿ってどんな感じかしら」
「どんな感じって、えっ~と……」
「探偵部事件簿は灰色の表紙に黒の背表紙で表にはマジックで『泉美高校探偵部事件簿 一冊目』と書いてあるよ。何十年も前のノートで古いからね、紙が茶色に変色しているさ」
「それってもしかして……」
鈴野涼子は頭の回転が速かった。一方、奥の机で小説を書いていた部員たちはざわざわと騒がしくなっていた。
「探偵部ってまだあったのか~」
「探偵部の部長って泉美の名探偵だよな」
「隣の女の子は〈デブ〉とか名乗ってたけど何者なんだ」
「今日はなにかと色々ある日だね」
「よし、これは小説のネタになりそうだ」
「あの女の子かーわーいーい――って、いてててててててっ! なにすんだよ!」
「べっつにーなんでもないけど」
「もうネタがないよ~……そうだっ、小説交換して書いてみない?」
「お断りよ。字でばれるわよ。だって私、あんたみたいな汚い字書けないもん」
「ちょっと~原稿用紙踏まないでよ~」
「探偵が来るってことはなにか事件があるってことだよな」
「おい、林田、さっき持って帰ってきたノート見せろよ」
「いや、これはその……」
部員の中で明らかに態度がおかしい者がいた。
「ちょっと林田君、こっちに来てちょうだい。あぁ、他の人達はそのまま小説を書いてていいわ」
部員の一人、林田は鈴野に無理矢理立たされ二人の前に連れていかれる。
「あっ、この人ですよ。間違いないです。この髪のぼさぼさな感じ、部室で見た時と同じです」
「やっぱりあなただったのね、林田君。トイレに言うなんて嘘だったのね。そして探偵部の事件簿を盗んでくるなんて、なんてことをしてくれるのよ。だいたい、トイレに行ったのにノートなんて持って帰ってきておかしいと思ったのよ」
「部長さ~ん、このノートはトイレで拾ったんです~。トイレに落ちてました~」
「いや、彼はトイレに行ってないね。探偵部の事件簿は貸してもらうよ」
「言い訳ばかりしないでちょうだい、林田君。本当にごめんなさいね、うちのしょうもない部員がこんなことを」
「なんでだ、なんでバレたんだ!」
「それ、私も気になります。あとトイレがどうのこうのって言ってましたよね。部長さん、説明お願いします、いや泉美の名探偵」
林田のやらかしが暴かれる中、他の部員たちは遠巻きに四人を見ていた。
「やっぱりあいつ、あのノートを盗んできたのか」
「あいつが悪いんだから同情なんていらないさ」
「部長さん、怒らせると怖いね」
「いつも怖いけど」
「今は部長が見張ってないから休憩するならいまのうちだ」
「休憩休憩♪」
「だれか『ぬるシップ』とって~」
「はいどーぞ」
「それじゃオレの推理ってほどでもないけど聞いてもらおうか。言っとくけど、オレは犯人を見たわけじゃなくて部員の証言から推理しただけさ」
「言われてみればそうでしたね」
「まず、運動部は文化部の部活棟に来ることはないから犯人として除外していい。次にこの部員が犯人が言ったとされる、『そのネタなんちゃら』って言葉を聞いている。ネタなんて使うのは新聞部、マンガ研究部、そしてこの文芸部ぐらいだからね」
「確かにね。そういえば『そのネタいただくぜ』って林田君の口癖でよく言っているわね」
「いや、そのくらいでわかるはずがない」
「それから部員は犯人の顔は見ていなくても手を見ていた。その手には大きなタコがあって手の横が黒く汚れていた、と。手にタコができて黒く汚れるぐらいの作業――いや、書き物をするのは文芸部ぐらいだろうね」
「いやいや、待て待て、書いたりするなら新聞部とマン研だって」
「新聞部は取材のときは手書きでしているけれど記事を書くのは基本パソコンでやっている。マンガ研究部は全てマンガはパソコンで描いているさ」
「お~成程、私にもわかってきましたよ」
「あと、部員は犯人が去ったあとシップの匂いがした、と言っている。シップの匂い、それはこの部室と同じ匂いさ」
「この匂い、ツーンとしていて保健室や病院とはまた違った匂いがしますね」
「この部室はシップの匂いなんてしないわよ。するのは原稿用紙と本の匂いだけよ。まぁ、一応部室にシップはあるわ」
鈴野は先ほど部員が使っていた『ぬるシップ』を取りに行く。詩乃歌は鼻をすんすんさせて部室の匂いを嗅いでみるが、シップの匂いしかしない。文芸部の部員たちはいつも部室にいると鼻が慣れてしまっているのか、または体に匂いが染みつくせいか、この匂いがわからないのかもしれない。
「これが文芸部で使っている『ぬるシップ』よ。ローションタイプの薬でみんな手の痛みを抑えるために使っているわ。匂いは普通のシップと変わらないと思うわ」
「へ~こんなのがあるんですね。なるほどそれで犯人がわかったと」
「以上が俺の推理さ。今度はそっちの話を聞かせてもらおうか」
「うっ……こんなんでわかっちまうとは……」
「今から二十分ぐらい前だったかしら。この林田君がお腹が痛いからトイレに行きたいって言ってきたのよ。今思えば、あれはまた小説のネタ収集に行くための、いや、文芸部から脱走するための噓だって気づくべきだったわ。林田君が脱走するのはこれが初めてじゃないのに。それで私は嘘だってことに気づかないでトイレに行っていいように許可してしまったのよ。それから…だいたい普通のトイレにしては少し時間が長かったけれど戻ってきたわね、―手に一冊のノートを持って。そのあとしばらくしてあなたたちが文芸部にやってきた―と、こんなところね。ほら、林田君も自白しなさい。見苦しいわよ」
「くそ、こうなったら言うしかない。でも、この女が悪いんですよ」
「私ですか?!」
「悪いのは林田君だけよ。早く言いなさい」
「俺はトイレに行きましたーそしたらノートが落ちていたので拾っただけですー」
「いいや、彼はトイレには行っていないね。それにこのノートは今まで部室から持ち出されたことはないはずさ」
「いや、俺はトイレに行ったんだ」
「彼の手を見てごらん」
「手の横のところが黒く汚れていますね」
「トイレに行ったなら手を洗うだろうからね。黒い汚れも落ちるはずさ」
「だから俺はー」
「もしかしてトイレに行ったのに手を洗わないとか言うんですか」
「汚いわね」
「いや俺はちゃんと手は洗いますって」
「ってことはトイレに行ってないね」
「あーで、でも、」
「いい加減罪を認めなさい、林田君」
「……部長さんの言う通りです。トイレに行くふりをして小説のネタ収集に行きましたー。とりあえず部活棟の二階に行ってみたら女子の声……この女と同じ声で『探偵部にも記録ノートってあるんですか、見てみたいです』って聞こえてきたんですよ。俺は探偵部の記録ノートって小説のネタになると思って……それでちょっと拝借してきたわけですよ」
「拝借じゃなくて盗んだんでしょう」
「はい……すいませんでした。もうしませんので…」
「そうやって何回私を裏切ったかしら。わかってるの林田君、前科もあるのよ。今回という今回は許しません」
「えっ……そんなっ部長さんっ……。そうだ俺、小説を書きますから。この話を小説にしますから、絶対面白い話にしますからお許しください」
「全く、そういう問題じゃないわよ」
鈴野が呆れたように肩をすくめた。
さっきから鈴野がすみません、すみませんとこちらが気の毒になる程頭を下げている。しかし、詩乃歌は納得できないことがあった。
「部長さん、なんで文芸部の部長さんが謝るんですか。悪いのは文芸部の部長さんじゃないのに。おかしいですよ」
「そうよ。ほら、謝りなさい、林田君」
「脱走してすいませんでしたー」
「私じゃなくで探偵部の二人にでしょう」
「ノートを盗んですいませんでした」
「私はまぁ、許しますけど、部長さんは」
「探偵部の事件簿は戻ってきたからね。今回は生徒会の方にも何も言わないでおこう。でも、次はなしさ。それとノートの中身に関しては一切言及しないでもらおうか。色々あるからね。さて、もうここに用事はないから部室に戻ろうか」
「あ、はいって待ってください部長さん。あっ、失礼しました」
こうして探偵部事件簿を取り戻した二人は原稿用紙散らばる文芸部をあとにした。
「それにしてもあの犯人の人、なんなんですか」
「ああいう人もいるものさ」
尾和瀬と詩乃歌は探偵部に戻る道中話していた。
「それはさておき、文芸部ってすごかったですね。ぴりぴりしてて、ツーンとした匂いがして、あとは空気がとてもからからでしたね」
「除湿器がおいてあったからね」
「え、どこにありましたか、そんなもの」
「部室の隅にあった機械さ」
「あ~あれって除湿器だったんですか。でも、どうして文芸部においてあるんですかね」
「さぁ、紙が湿ったらいけないとか聞いたこともあるけどね。文芸部の人に訊いてみないとはっきりしたことはわからないさ」
「それはおいといて、推理すごかったです。流石、部長さん、いや泉美の名探偵。本物の探偵みたいでした」
「本物もなにも、探偵の部長である限りオレは探偵さ」
「それより……この事件の発端って私が部長さんに記録ノートを見せてほしいっていったからですか」
「気にしなくていいさ。君のせいじゃない。それに事件でもないさ」「いや、立派な事件ですよ。いっつも今日も事件なんてないさ~学校は平和だよ~とか言ってますけど、泉美高校にも事件あるじゃないですか」
「事件っていうほどでもないさ、このくらい」
「それよりこの事件名考えましたよ。その名も『探偵部事件簿盗難事件』です。どうですか。事件名に二つも事件って入っているのはなかなかありませんよ」
「長いね」
部室に戻った二人は無理にドアを動かすことはしなかった。
後日、探偵部にて―
「また事件はありましたか、部長さん、いや泉美の名探偵」
「事件なんてないさ。今日も学校は平和だからね」
「昨日のはなんだったんですか。それより、じゃーん! 私も活動を記録するために記録ノートを作りました!」
詩乃歌が尾和瀬に見せるのはフリルやきらきらストーンでふんだんにデコレーションされたノートである。果たして詩乃歌はこのノートに何を書くのだろうか。
「そうかい、そうかい。ところで君これ、いるかい」
「紙? ですか?」
「文芸部から昨日のお詫びにって原稿用紙五十枚、もらったのさ」
「……いらないです。それはともかく、今日はこれから友達とカラオケに行くのでこの辺で失礼します。明日も来ますね」
やっと動くようになったドアを開け詩乃歌は探偵部を颯爽と出ていく。その様子を見ながら
「いらない、か」
尾和瀬はぽてっとその辺に原稿用紙を置く。その瞬間、原稿用紙は探偵部の混沌とした荷物、いやゴミの一部と化す。このような感じで日々、探偵部には荷物が増え、さらに混沌が増すのである。
尾和瀬は原稿用紙にはもう目もくれることもなく、ぼんやりと窓の外を眺める。
「事件なんてあってもらっちゃ困るのさ。今日も、学校は平和だからね」
だれにも聞かれることのない呟きが混沌に吸い込まれる。
この時以来、尾和瀬は探偵部事件簿を部員に見せることはなかったという。
おわり
※ぬるシップ…架空の医薬品
勇者
詩音
この世は、魔王が支配している。
化け物じみた魔力で、瞬きの間に一つの国を亡ぼせるほどの力を持つリーン・シルファーが齢十五で魔王に就任してから早300年。その間に52の国が消え、3の大陸が弾け、6の海が爆ぜた。代わりに悪魔の国が30興り。4の地獄が生み出され、6の毒の海が沸き上がった。
まさに無敵。まさに最強。
他種族たちは最初の100年で抗うのをやめ、残りは彼女を恐怖のまなざしで見つめ首を垂れることしかできなかった。
しかし、この世は諸行無常、盛者必衰。
悪が永遠を迎えることは不可能で、いつの日か磨き続けられた一本の牙でやつらの喉元を掻きちぎるのである。
そして、ここに希望が一つ。
ここは魔王城が玉座の間。魔王と彼女に信頼されたものしか入ることの許されない地の獄のさらに奥である。
しかし、そこに無遠慮にもたたずむ一人の人間族の少年がいた。
彼の名はミカ・ルーン。勇者である。
そう、彼こそが希望の子。
最強最悪の魔王に唯一その切っ先を届かせることができる生物である。
そして、彼が鋭い視線で見つめる先には、一人の女がいた。
美しい女性である。白魚のような肌に、抜群のプロポーションを持ち、美の女神の祝福を受けたどころではなく、その女神を吸収でもしてしまったかのような美貌を持つ様は、まさしく人外のそれであった。
しかし、そんな美しさも、彼女の持つ深紅に染まる瞳と髪、そして側頭部から生える魔性の美しさを持つ角の前ではわき役にすぎなかった。
彼女の名はリーン。リーン・シルファー。
そう、彼女こそかの暴虐邪知の魔王その人であった。
そして、彼女も勇者を見つめ、やがて美しくも恐ろしいその声音で勇者に問いかける。
「ほう、ただの人間がここまで辿り着くとは……。気に入った。何が欲しい?褒美をくれてやろう」
やはり、最強の風格というべきかリーンは、いつ飛びかかれて殺されるやもしれないこの状況に臆する様子もなく、ただ純粋な気持ちで勇者を称賛した。
それに対し、ミカは
「ならば、あなたが欲しい。結婚しよう、リーン」
「げっふんがっふん」
熱烈なプロポーズを返した。しかも、魔王を呼び捨てにして。
「ふ、ふざけるのも大概にした方がいいぞ人間。き、貴様など私の力をすれば一瞬で塵に……」
「ふざけてなどいない!俺は君と一緒になりたいんだ!それに俺の名はミカ!『人間』ではない!」
リーンの動揺と怒気を孕んだ言葉をミカはさえぎり、さらに甘ったるい言葉を吐く。何ならさり気なく、リーンに名前呼びしてもらおうとしていた。
「だから、それをふざけていると言っているのだ、人間。あまり私を怒らせて…」
「ミカだ!」
「…にんげ」
「ミカだ!」
「…ミカ、ふざけるのをやめろ。それとも、まさかここまで来て不意打ちを狙おうとしているのか?」
心の中で、最強の魔王の初めての敗北がこれだとは死んでも言えないと思うリーンであった。
「だから、ふざけていないと言っているだろう!俺は本当に君のことが好きなんだ!」
なおも口説くミカの言葉を聞いて、リーンはほのかに嗤った。
「ほう、『好き』か……なら、ミカよ、申してみよ。私を好いた理由を」
そうだ、私はかの奸佞邪知の魔王。多種族はもちろん、部下にさえ怖れられる最強の存在。こんな化け物を好くものなどいるはずが……
「そのきれいな肌!圧倒的な肉体美を持っていてもそれをひけらかさない謙虚さ!どこか憂いを帯びた美しい顔!そして、優しさと勇猛さを感じさせる深紅の瞳と髪!」
まさかのべた褒めであった。
完全武装を施した少年が、もの凄く真剣に愛の言葉を叫ぶのはとてつもなくシュールな光景であったが、それ以上に彼の熱意がその言葉の本気度を示していた。
「これでも足りないならもっと言おう!それに不意打ちを気にするのなら今ここで全裸になろう!俺は本気だ!だから話を聞いてくれ!」
「わかった!わかったから!ちょっと待ってくれ!……おい、脱ぐのをやめろ!」
最早完全に会話の流れを持っていかれたリーンであった。
それだけではなく、リーンの頬は彼女の瞳のごとく真っ赤に染まり、数々の誉め言葉に照れているのがバレバレであった。少しでも気を抜くとミカの言葉を思い出してしまうのである。
「?どうしたんだ、リーン?顔が真っ赤だぞ。熱でもあるのか?」
先程、リーンが照れているのはバレバレといったが、やはり勇者は鈍感なのがこの世の情理。
ミカは無駄に無駄のない動作でリーンの座る玉座まで跳ぶと、彼女のおでこに自身の手を当てる。ちなみに、彼が背負っていた聖剣らしきものはもともと彼がいた場所にゴロンと捨てられていた。リーンは少し聖剣に同情した。
「わっ!いきなり近づいてくるなよ!……大丈夫だから、大丈夫だから!頼むから触ろうとするのをやめてくれ!」
「そうは言っても……あ、ほらまた赤くなってる。やっぱり熱でもあるんじゃないか?」
最強の魔王の本気の拒みは、やはりとんでもない威力で、その余波を浴びた玉座の間が瞬時にボロボロになるが、そこはやっぱり勇者。リーンの必死の抵抗も無駄のない動きでかわして彼女のおでこに手を当てようとする。
刹那、
「はあああああ!」
威勢の良い掛け声が響いたかと思うと、先程までミカがいた場所に何者かが高速で突っ込んできた。幸い、ミカはギリギリで後ろに飛び退き、事なきを得たが、状況は最悪といって差し支えないほど悪化していた。
数秒の間舞った土煙の中から出てきたのは、銀の髪と褐色の肌を持つリーンと同じくらい美しい、そして凛々しい少女であった。
「っ!?アサ!」
リーンが驚きを込めた声を上げる。
そう、彼女の名はアサ、魔界大将軍アサ・リヴァイン。魔王軍の全権限を取得している魔王以外の唯一の魔人であり、その実力もリーンとほぼ互角である。
ちなみに、リヴァイン家は魔界一の貴族ということもあり、リーンとアサは幼い時から家族ぐるみの付き合いをしており、二人はまるで姉妹のように仲が良い。故に、アサのリーンへの忠誠心は人一倍強い。強いのだが……
「義姉さん、もう大丈夫だよ。義姉さんは私が絶対に守るから」
そう言い、微笑み、何ならリーンの顎をくいっとしてくるアサ、そして彼女らの周りには大量の百合の花が咲き誇っていた。
そう、アサはリーンへの忠誠心が非常に強い。そして、彼女は幼少より魔王を守れるように教育されてきて、それを彼女もリーンのためならと喜んで鍛えた。結果、彼女の思想は姫を守るナイトのそれになり、この百合百合しい空気を作り上げたのであった。
『こんなふうに育っちゃて、悪いことしたな』とか『さっきとあんまり変わってないな』と、危機を脱せた安堵よりも、アサの今後を心中で憂うリーンであった。
「貴様が義姉さんを襲おうとした勇者とやらか。……私が直々に切り刻んでやりたいが、生憎、貴様のような雑魚に構えるほど私も暇じゃないからね。……彼らに任せるとしよう」
リーンがそんなことを思っているうちに、アサはどこか芝居がかった台詞の後、二度、拍手をした。
すると、先程のアサと同様、どこからともなく四つの影がミカの前に立ちはだかるように集結した。
「きみ~、面白いね~。お姉さんと遊ばない~?」
それは、世の全ての男たちを悩殺するような色香を漂わせる、淫魔族でも1000年の美女。そして、それを使っていくつもの国を中から壊した、傾国の女アデス・モーランであったり、
「お嬢様を口説くとは……いやはや、人間族にも肝のあるものも残っていたのですね」
リーンが幼いころから身の回りの世話、そして礼儀作法の躾をすべて一人で行った、初老の魔族。今では、リーンの盾となるために死力を尽くす執事マモン・リトラスであったり、
「人間族ごときに後れを取るなんてあなたも随分落ちぶれたものですわね!そろそろ代替わりの時期ではありませんこと?」
昔から、リーンのライバルを名乗り、何かにつけて彼女に勝負を吹っかけてボコボコにされていたツインテールの小さな少女、リーンに勝つために努力を重ね今や最強の一角と数えられるようになった吸血鬼の姫ベルゼ・バルバトスであったり、
「オデ、ツヨイ。オデ、マオウサマ、スキ。ダカラ、マオウサマ、マモル」
リーンが城外にこっそり脱走した時に見つけた孤児のトロール族の少年。秘密裏にリーン自ら彼を鍛え、最強の肉体を持ち、リーンにアサ同様深い敬愛を示す筋骨隆々の兵士ベルゴ・フェリオンであったりした。
分野は様々あるにしろ、間違いなく最強たちだけで構成された魔王軍特等級に位置する少数先鋭部隊『四天王』。
それがミカを貫く矛として、あるいはリーンを守る盾として今この場に集結したのであった。
途端放たれる、圧倒的殺気にさしもの勇者も驚愕に目を見開き、すぐさま臨戦態勢をとる。
まさに一触即発。瞬のゆるみで体が細切れになるような極限状態の中、最初にその静寂を破ったのは先ほどまで若干蚊帳の外にされていた魔王リーンであった。
「ふっ、そういうことだ。勇者ミカよ。もう一度私のもとに立ちたければ『四天王』そしてアサを倒してから出直してくることだな!」
そう高らかに宣言すると、リーンは魔王城に魔力を流し込んだ。
刹那、膨大な魔力に反応した魔王城が変形していった。そして、ミカのいた場所を入り口まで持っていき、『四天王』及びアサを一人ずつミカの進路上の部屋に配置していく。あとは程よく魔物を配置すれば完成である。
そう、実はこれリーンの壮大な仕込みだったりする。一周目はあえて雑魚モンスターだけを警備につかせ、敵を玉座の間まで来させる。そして、自分の手で『四天王』を呼び出し、絶望の二周目で敵を殲滅する。無論、雑魚モンスターといっても全員近衛騎士のため一周目ですら若干ムリゲーであるのだが、それはそれとしておこう。
そして、実際は敵がいきなり求婚してきたり、自分じゃなくてアサが四天王を呼び出したりといくつかのイレギュラーが発生したが、それもそれとしておこう。
ああそうだ、リーンは決して怒ったりしていないのだ。ミカの最初の対戦相手をアサにしたりしたが、それは冷静にパワーバランスを見極めた結果であって、決してアサへの理不尽なやり返しではないのだ。ないったらないのだ。
しかしまあ、ミカが出ていっただけでこの玉座の間も随分と静かになったものである。リーンは変な感慨を覚えながら、今一度玉座に座ると、魔王ながらも一度の平穏を願ったのであった。
小一時間後、結果としてリーンの望みはぼろぼろに砕かれる。
「さあ、リーン。君が用意した試練も突破した。今すぐ結婚しよう!」
「リーンちゃん、早く坊やと結婚して幸せになりなさい!じゃないとお姉さんが盗っちゃうわよ?」
「お嬢様、このマモン。彼のような素晴らしい人がお嬢様のことを好いてくれるなんて、爺はとても誇らしいですよ!」
「ふん、別にミカのことは好きじゃないですけれど……。まあ、あなたが彼のことを欲するのであればバルバトス家の名において彼のことを奪って差し上げますわ!……だから、別に好きじゃないと言っているでしょう!」
「自分、魔王様のことが大好きっす!しかし!いや、だからこそ!魔王様には彼と結婚して幸せになってほしいっす!……だから、この涙は歓びの涙っすよ!うおおおこれがBSSかあああ!!」
「義姉さん、私、ミカ兄さんの妹になったんだ!だからミカ兄さんと義姉さんが結婚すれば義姉さんは本当に姉さんになるね!ああ、楽しみだね、姉さん」
なんと、ミカが『四天王』及びアサを仲間にしてリーンのもとに帰ってきたのだ。
いや、確かに「本来敵であるものと協力し、巨悪を打ち倒す」という展開は王道ではある。リーンもこういう展開は割と好きである。
が、
「ああああ、脳が破壊されるうううう!!」
王道ではあるのだが、こんな正月の親戚のおばちゃんやツンデレや厄介オタクみたいなノリで裏切るのは誰も求めていないのだ!
リーンはまるでNTRの本を見せられたがごとく頭を抱えながら絶叫する。
ちなみにこれは余談になるが、ベルゼは誰と話しているんだと思うかもしれないがこれは全部ひとりごとである。もともと残念な少女であったが、ツンデレをこじらせすぎてもう、なんというか、哀れであった。
「というかお前ら!なんでたった一時間で寝返ってるんだ!?私たちの信頼は紙くずだったのか!?」
『それは違う!!』
リーンの半ばやけくその言葉に全力で反対する幹部、そしてミカ。もうヤダこの人たち…。
「じゃ、じゃあなんでお前らは寝返ったんだよ!?」
リーンが半べそかきながら幹部たちに叫ぶ。もはや魔王の威厳もくそもない状況だったが、幹部たちはそれでは止まらない。幹部たちはきょとんとした顔で、
『え、だって、ミカがいい人だったから』
「もうヤダこいつらああああ!!」
半べそからガチの泣きべそに移行するリーン。え、なに、これ私がおかしいの?私が間違ってるの?
「まあリーン、君の慌てる姿も可愛いけど、取り敢えず一回落ち着こう。……ああ、それにしても君は本当にきれいだな。結婚しよう」
「うるひゃい!お前が原因だろ!?……ていうか、お前は本当になんで私なんかを好きになったんだよ!」
勇者になだめられ、あまつさえ同様で呂律が回らなくなる魔王。あまりにもシュールなこの光景を魔王を知るものが見たら、きっと目どころか心臓が飛び出すであろう。しかし、それにツッコミを入れる者はいない。なぜなら、リーン以外はもはやボケ役と化してしまっているからである。
「え、だから、外面がたまらなく美しいし、その心も海のように深く聖母のように優し………」
「うるさいうるさいうるさい!!だから、本当のこと言え!お前がさっきから言ってるのは嘘じゃないけどほんとじゃないだろう!!?」
リーンはまるで駄々をこねた子供のように、世迷言じみたことを叫ぶ。この光景を魔王を知るものが見たら、今度は魔王様がご乱心だと騒ぎになるだろう。実際、幹部たちも何を言っているかいまいちわからない顔をしている。しかし、何も指摘しないのはやはり触れ合ってきた長い時間による信頼だろうか。
そして、その言葉を聞いてミカは……
「ああ、やっぱりばれてしまったか。……ごめんな、だますような真似をして」
今までに見せたことのない哀愁の漂う小さな笑みを浮かべてこう言った。
「では、やはり私のことは嫌いなんだな!だまし討ちのための話術なのであろう!?」
すかさずリーンが畳みかけようとする。しかし、なぜだろうか、高々と宣言するリーンの表情には微々たる量であるが悲しみが浮き出ていた。
「いや、間違いなく好きだよ。勘違いさせるような真似をして済まない。俺がリーンに恋しているのは本当だし、君が美しいのも事実だ。……ただ、君を好きになった本当の理由はここでは話したくなかったんだ」
この時、ミカは真剣そのものであり、リーンは不覚ながらも心臓が強く鳴ってしまった。しかし、彼女の気持ちは、もう驚くほどに凪いでいた。
「構わん。今、ここで、本当の理由を話せ」
ミカの覚悟に向き合い、そしてリーンも彼女なりの覚悟を見せる。
彼女のある意味無茶ぶりにミカは、少し微笑むと、その口を開き始めた。
「俺が君に恋したのは5年前、俺が13の時、そして俺の故郷が魔王軍によって壊された時だ。その日、俺の故郷は魔王軍の襲撃によって焼かれた。幸い、死者は一人も出なかったが、そこはもう魔王軍のものになってしまった。
そして、燃え盛る故郷を見て、その時から無鉄砲だった俺は木刀一本で魔王軍の拠点に突っ込んでいった。今思えば、あほ丸出しだと思うけど、その時は君等のことが、魔王のことが殺したいほど憎かったんだ。……まあ、結果は予想通りすぐに見つかってぼこぼこにされたんだけどね。
それで、いよいよ殺されるって思ったその時………リーン、君が、助けてくれたんだ。
すごくベタな話だし、その後、君は『すまない』ってだけ言ってすぐに言ってしまったから覚えてないかもだけれど、その時の君は俺が見た中で今まで、いや、これからのこともいれても一番美しかったし……一番悲しい顔をしていたよ。
だから、もの凄く自意識過剰かもしれないけど……俺は君のことが大好きだし、君のことを守ってあげたいって思ってる。
………こんな感じだけど、どうかな?伝わったか?」
そこまで、話すとミカは照れくさそうに、もう一度小さく微笑んだ。
ミカの一世一代の告白にリーンは………
ただ恐怖に震えることしかできなかった。
それは、あんまりにもあんまりすぎる反応であったが、リーンはそんなことを気にしていられない。
なぜなら、わかってしまったのだ。
なぜミカがここでリーンを好きになった本当の理由を話すことに躊躇ったのかを。
そして、ミカもリーンの反応を見て何かを確信すると、今度は気味の悪い笑みを浮かべながら、リーン、の左にある虚空を見つめながら言葉を紡いだ。
「俺が娘さんを好きになった理由は以上です。……じゃあ、ちょっと話をしましょうか、お義父さん?」
刹那、ミカの視線の先に小さな揺らぎが生まれたかと思うと、この世の負の感情をすべて一緒くたにしたようなすさまじい瘴気を放つ初老の男が現れた。
その男の名はサタン・シルファー。現魔王リーン・シルファーの実の父にして、先代魔王である。
「我の潜伏をよくぞ見破ったな、勇者よ。どれ、褒美に世界の半分でもやろうか?」
「いえいえ、俺はそんな立派なものじゃありませんよ。ああ、でも何かくれるなら娘さんをください、お義父さん?」
そのままへらへらと笑い出す二人。そして、その膠着状態はサタンが急に怒気をはらんだ顔に変化したため、意外にも早く終わった。
「…………リーン、仕置きぞ」
そう言い、サタンは赤い液体の入った小瓶を出す。それは、リーンの数年分の魔力の濃縮液。強い毒素により身内しか服用ができない最上級のドーピング薬。
それをサタンは一気に服用すると、その体を巨大かつ禍々しいものに変容させていく。
やがて、耐えられなくなった魔王城が崩壊するとき、リーンの顔色は死人のように青ざめていた。
時に、魔王リーンは何ゆえに最強か考えたことがあるだろうか?
無尽蔵の魔力?王族ゆえの屈強な体?圧倒的なカリスマ性?
否。断じて否である。
リーンが最強の理由、それは、父サタンの暴力という名の躾ゆえである。
曰く、小さい頃より父の質問に間違うと鞭をうたれる。曰く、魔王軍の軍人を一人失うごとに腕を切られる。曰く、侵攻先の人間を一人取り逃がすごとに体を焼かれる。曰く、曰く、曰く………。
そうして出来上がったのが、全生物で最強ながらも父には決して勝つことのできないと思い込む哀れな人形であった。
(嗚呼、私はなぜ生まれてきたのだろうか)
崩れ行く魔王城を朧気に見ながら、リーンは絶望に沈む。
本来好きではない争いに駆り出され、本来好きである人並みの趣味はままごとと一蹴され、それでも必死に抗おうと殺生だけは避け、それ故にきつい折檻を毎日のように浴びせられ……。
そして、行き着いた先がこれである。
恐らく、リーンは勇者とともに始末されるであろう。事実、化け物となり果てた父が自分に向ってその極大のこぶしを振り上げんとしている。
嗚呼、こんなことなら抗わなければよかった。さっさと死んでおけばよかった。生まれてなど来なければよかった。
死を悟った故に、引き伸ばされる知覚の中、ただ虚ろに後悔し続けるリーン。
嗚呼、こんなことならあの男ともっと話しておけばよかった。
そして、無慈悲に拳がリーンを圧殺すると思ったその時であった。
「お待たせ、お姫様」
聖剣を携えたミカが拳を受け止めたのは。
なぜ故リーンは最強か。
これはミカがリーンに恋をしたときに真っ先に考えたことである。そして、それを探求すること数年、探求の副産物で屈強な体を手に入れ勇者と呼ばれるようになったミカは、正解にたどり着く。
そして、このときミカの目標が定まった。
それは、先代魔王の討伐、ただ一つである。
「なんで?」
数秒の鍔迫り合いの後、拳を押し返したミカに、リーンの口からその言葉が自然と出てきた。
なぜ、こんなにも無価値の自分を助けたのか。なぜ、こんなにも無意味なことをしたのか。
そんな、溢れ出てくるリーンの?にミカは終止符を打った。
「言ったろ?守りたいって」
そんな、高々数文字の言葉に、いや数文字の言葉だからこそリーンの心は奪われた。
ゆらりと。おもむろにリーンは立つと、覚束ない、しかし確固たる足取りでミカに歩み寄り……
その桃色の唇を、ミカのそれに押し当てた。
ミカから心拍数の上昇と共に、驚きが伝わってくる。しかし、リーンはそんなことに構わず、数秒の間彼に口付け続けた。
「……か、勘違いするなよ。今のは、魔力の譲渡だ!」
やがて、唇の接触を終えたリーンは頬を真っ赤に染めながら、まるでミカ接触後のベルゼのようなことを言った。
しかし、ミカの体に突如現れた大きな力の奔流を見るに、どうやらリーンの言っていることも一理あるらしい。
「今の父は恐らく、お前では勝てないだろう。そして、私の魔力では同じ種類の魔力を持っている父を殺しきることはできない。……だから」
「俺たちの初めての共同作業ってわけか!」
「言い方!!………まあ、間違ってはないのだが……」
リーンはミカの言葉にさらに頬を赤くするが、やがて平静を取り戻し、それを見計らってミカが彼女に手を差し出す。
「……では、お姫様、お手を」
「……ああ」
リーンは小さく微笑むとミカの腕をとった。もう、恐怖は消えていた。
「喜びの時も 悲しみの時も」
体が高揚感で満ちる。
「富める時も 貧しい時も」
体が万能感で満ちる。
『固く結びし縁は、誓いは
幾星霜を経ても 決して破るることは無し』
「我が名 魔王リーン・シルファー」
「我が名 勇者ミカ・ルーン」
『我、汝と共に生き、共に死に、共に愛する 久遠の契りをここに交わそう』
体が愛で、熱情で満たされる。
「……なあ、リーン」
「ん、なんだ?」
「愛してるぞ」
「ああ、私もだ!」
体が絶大な魔力で満たされる。
『故に今この時我らの逢瀬を害する者がいたのであれば
それが森羅万象如何なるものであろうと……』
『塵と化せ』
瞬間、世界が光で満ちた。
そして、彼女らがもう一度目を開けたとき、魔王サタンはもう消えていた。
「…終わったな」
ミカがそっと安堵し、嘆息しながらリーンに問いかける。
ちなみに、先程までサタンをずっと足止めしていた幹部たちはリーンとミカの今後を固唾を飲んで見守っていた。
「ああ、そうだな…」
「……それでなんだけどさ?」
「ん、どうした?」
「……俺は無鉄砲で弱くてほんとにどうしようもない奴だけど……どうしようもなく君を愛している。
結婚してくれ、リーン」
ミカの再三の告白にリーンは……
「ああ、確かにどうしようもない奴だな。最初の告白なんて私たちほぼ初対面だったのだぞ?
…だが、私もまだまだ未熟者だ。……だから、未熟者同士ともに助け合って生きていこうじゃないか?
……私も、ミカがたまらなく好きなようだしな」
「!…ああ!」
そして、二人は再度口付けた。
最初の口付けが開戦の狼煙であったのなら、今回は……さしずめ平和の始まりであるだろう。
非日常のような日常
律
注意:この作品に出てくる人物、団体等は全てフィクションであり、現実とは一切関係ありません。
(特に登場人物と名前が同じ人もいるかもしれませんが、全く関係はありませんのでご注意ください。)
― ―
僕の名前は 北上 誠 。どこにでもいるかもしれない学生だ。いま僕の左隣には 影浦 謙、僕の友達がいる。オタクと言われるやつであるが、実は面倒見が良く優しい奴である。そして右隣には 井上 渚 。同じく僕の友達だ。勉強をさせれば右に出る者はおらず、スポーツをさせれば好成績を叩き出す。いわば超人であり、さまざまな異名がつけられている。(ただし彼はそういうのは嫌いらしい。)
―日常―
いつもの朝、謙が遅れてバス停に来た。
「すまん、遅くなった。」
まぁ、いつものことだ。
「どうせノルマの達成が遅れたとでもいうんだろ。」
そう、謙はいつも朝からゲームをしてくる。自分でノルマ課しているらしく、
こうやって遅れるのは大体それが原因だ…
「ま、そんなところだ。それより、昨日面倒くさがってた家庭科の課題やったか?」
自分が答えようとした矢先に、渚がとんでもないことを言い出した。
「・・・しまった」
超人とまで呼ばれる彼が課題を忘れるとは、一大事である。
「雨でも降るんじゃねぇか?」
「嵐が来ても違和感ないね」
「君らは人のことをなんだと思ってるんだ・・・僕だってたまにはミスぐらいするんだよ?」
と渚は呆れる。
そんなことを話していると・・・
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何の前触れもなく、大雨が降り出した。
「ホントに降り出したな.・・・やっぱ渚には何かあるんだよ・・・」
「そうだね・・・」
「今日は降水確率0%のはずだけどね・・・」
と、渚はあきれていた。
その後・・・
なぜか三本ある渚の傘によって事なきを得た―――
―自習―
朝には局地的に大雨が降ったものの、特に問題なく学校に来ている。さすがと言うべきか、渚はどんな方法を使ったのかわからないが課題をきっちり提出していた。
余談だが、普段の課題はゲームばかりしている謙にとって渚のものを写す感覚でしかないが、意外と家事全般をこなせるので家庭科は苦ではないらしい。
そして、朝から何故か自習になった。クラスでは各々が勉強しているが、もちろん例外もいる。渚である。意外なことに、普段は真面目な彼は睡眠時間が足りないらしく、休み時間などは確実に寝ている。ただし時間の丁度2分前には目を覚ます。そんな都合のいい能力が欲しかった今日この頃である。いっそのことかの有名な、とある学園都市にでも行ってみようか。そして例外二人目が謙である。あたりまえのようにパソコンを開き、おもむろにスマホを取り出し、何かを始めた。恐らくゲームなのだろう(ちなみにこの学校では「スマホの持ち込み」は許可されている)。
本人たち曰く
「睡眠は三大欲求の一つだ。逆らえないものなんだよ。」
「俺のゲームも日常生活の一部であり、必須なんだ。」
と開き直っていた。「アウトだよ!」と心の中で突っ込みたくなる気持ちを抑え、二人を見守りつつ勉強を続ける自分なのであった―――
―昼休み―
ネットサーフィンをしていると、一つのイラストが目に留まった。何とも言えない表情と体をした魚である。気になって調べていると、例の二人が来た。
「お、サカバンバスピスじゃないか。最近話題になってるよね。一度実物を見てみたいよ」
と、渚。どうやら知っているようだ。さすがの知識量である。そして、そこに謙が入ってくる。
「渚が見たことがない魚がいるんだな。まぁ、そのサカバンなんとかっていう魚?俺は見たことあるよ。実物。」
「謙は見たことがあるのかぁー」と考えていると、思いもよらない言葉が渚から発せられた。
「サカバンバスピスは絶滅種だよ?」
一瞬の沈黙・・・
その後、謙は気まずかったのか、スッとその場を離れて行ってしまった・・・
ちなみにサカバンバスピスとはこれである。
何とも言えない表情である―――
穂波の冒険者
丸山
七合の町から汽車を三本、バスを二本乗り換えて猫山の一番高いところにある町、穂波の町につきました。お父さんの仕事についていくために三歳の時から生まれ育った穂波を出て大都市七合で生活すること六年。穂波での記憶はほとんど残っていない水無人くんは穂波への帰宅をとても楽しみにしていました。
駅前の商店街の一角にたこ焼き屋さんがありました。
「おとうさん!あのたこ焼き食べたい。」
「まだ食べられるの。さっき駅弁たべたばっかりだよね。」
「まだまだ食べれるよ。」
水無人くんはたこ焼きを買ってもらって近くの公園で食べることにしました。桜で染まったその公園はとても広く、たくさんの人がいました。走り回る同じくらいの子、ジョギングしているお兄さん、ゲートボールをしているおじいさん。みんなが笑顔で、それを見守っているような桜の木々を見て、水無人くんは心が温かくなりました。
……都会の公園とはまるで別世界だ……
水無人くんはある三人組を見かけました。その子供たちは「冒険者クラブ」のメンバーでした。よく山に登ったり、川へ行ったり、知らない場所へ冒険に出かけるグループでした。水無人くんは三人が胸につけているバッチを見つけて話しかけました。
「そのバッチかっこいいね。なんのバッチなの。」
聞くとみんなは冒険好きの集まりなのだと教えてくれました。水無人くんはそれに入ることにしました。
あくる日、水無人くんは早起きしました。なぜなら、今日は初めての冒険の日だったからです。行く場所は猫山の東にある糸個山。
糸個山には宝物が隠されていると、メンバーの陽菜ちゃんが言っていました。
陽菜ちゃんのお母さんの車で糸個山の中腹まで送ってもらい、糸個山を登ることになりました。
山へ上る途中、水無人くんは聞きました。
「どうしてこのお山に宝物が埋まってるの。」
「今からずっと昔、私たちが住んでいたところにはせんじゅうみんぞくって言われる人たちが住んでいて、その人たちとその時戦争をして国を広くしたいって思っていた七合の人たちが糸個山で戦ったんだって。その時にもう負けてしまうと思った兵士が殺されちゃう前その時に持っていた大事なものを山に埋めたところからきてるってお父さんに聞いたことがあるよ。」
七合国がかつて帝国主義をとっていたころ、周辺の多くの国々と戦いました。その時に埋められたものが今も残っているのではないかと言われているのです。
四人の冒険者はその戦いがあったといわれている場所にたどり着きました。糸個山の山頂の少し下、なぞに広大な平地が姿を現したのです。そこは今までの道とは違い木の一本も生えていない不思議な場所です。足元を見ても、虫すらいません。そこにあるのは読めない字で書かれた石碑と土が丸出しの広い土地。思っていた雰囲気とは違う姿に冒険者たちは唖然としました。
「ここは……何もないね。」
「ほんとに何もない。けど、少し、掘ってみようか。」
陽菜ちゃんの一言でみんなは何か出てこないか掘ってみることにしました。
かたい地面に金属の先を押し当てても掘るところか刺さりもしません。かきんと音が鳴り、土の片割れが飛んでくる。それをひたすら繰り返したても何も進まないのは目に見えていました。その時、一人だけ掘らずに石碑を眺めていた詩月ちゃんが見つけました。
「宝物が埋められているところはここじゃないんじゃない。読み方があってるかはわからないけどアトヒャクサキって書いてあるんじゃないかなって思って。」
確かにその石碑を読むともう少し先がセンチであることが書かれていました。そういえば、陽菜ちゃんはお父さんからこんなことも教わっていたそうです。
「その戦いにはお父さんのひいおじいちゃんが出出たそうなんだ。どうにか大けがで帰ってこられたけどもう少しで死んじゃうところだったらしいぞ。よくは覚えてないんだけど、一か月の戦の中で場所が少しずつ西側にずれていったといっていた。もともと広い場所でやっていたから慣れた場所で強かったんだけど、相手の方へ進むにつれ山の中に入って、そこまで来たらやはり住んでいる人の方が良く知っているから木の上とか岩の隙間とかから撃たれて、その戦いにも負けちゃったし、多くの人が死んじゃったって聞いたよ。もし、山に行って広い場所を見つけたらもう少し先が長い時間戦った場所だから、そっちの方に宝物は埋まっているんじゃないか。」
その話を聞いた冒険者たちは目の前にある山に入ることにしました。その山は、今までいたところとは違ってすごく美しいところでした。戦のあと誰も近づいていない自然は、好きなようにお化粧をして、見た人みんなを落としてしまうほどに美しくなっていました。小川を超えた先、お父さんから聞いていた場所に近いところがありました。
「この辺を探してみよう。」
今度は四人で掘りました。
掘り進めていくと、水無人くんがある金属の缶をみつけました。とても古びたその缶をもってみんなを集めました。
「じゃあ開けるよ」
水無人くんが缶を開けると、そこには缶に入るように小さく折りたたまれたL版の写真が一枚入っていました。
「っつ……」
見たこともない宝物……写真のはずなのに詩月ちゃんは見たことがあるように感じました。なぜなのかはわかりません。目の前に置かれた一枚の敗れた白黒の写真を見ても思い出せません。この地はひいひいおじいちゃんが出兵した地。おじいちゃんの友達の写真を見ていた~のかもしれません。写真に写る人の家族には見覚えがありました。でもそのこと自体が嘘なのかもしれません。
「宝物ってこれか……お金とかおもちゃとかが埋まってたらよかったのになぁ。」
一人の男の子がそういうと、二人の子どもはうなずきました。しかし、詩月ちゃんはそうは思えませんでした。
「この写真、私がもらってもいい。」
「いいよ。そんなの何に使うの。」
予想通りみんなはすぐにOKしてくれました。……一度確認したい。この写真が知らないご先祖様の宝物なのかもしれないから。
家に帰った詩月ちゃんは夜ご飯を食べながら話しました。
「今日ね、この前言ってた糸個山に登って来てね、こんなものを見つけたんだ。」
「……えっ。」
「お父さーん。おーい、パパっ。」
「これは、おじいちゃんと、ひいおじいちゃんの写真だよ。この写真の下半分が破れたものがおじいちゃんの家にあってね、ひいおじちゃんの若い頃ってどんな感じだったんだろうって話してたんだよ。それがまさかこんな形で見つかるなんて。」
……そしたら私が前に見た写真はおじいちゃんの家で見たものだったのかもしれないな。長い民族紛争に出兵し、ボロボロになりながら残した写真。そしてそれを見た時のお父さんの表情。これこそ本当の宝物なのかな。伝説になっていた宝物の話とは違うのかもしれませんが、埋められた家族の愛・思い出が一番の宝物なのかな、と考える詩月ちゃんなのでした。
次の週末。胸に金のバッチを付けた水無人くんは公園に向かっていました。また四人の冒険者は集まります。新たなる宝物を探しに、次の冒険へ出かけるのでした。
悪意
楠ノ木 結
「あのね、ゆうまくん。わたし、いじめられてるんだぁ」
「…知ってるか。ごめんねぇ、急に。でも、わたし、ゆうまくんのことはだいすきだったんだよぉ、いつも、味方でいてくれて」
「えへ…こんなこと言うと、また菜那ちゃんたちに怒られちゃうんだけど…わたし、ゆうまくんのこと、すきなんだぁ」
「だから、付き合ってくれると、嬉しいなぁ…なんて…えへ…」
「ありがとう。僕も、ゆづきのこと大好きだよ。これから、よろしくね」
嘘だ。彼女のことは全く好きじゃないどころか、むしろ大嫌いだ。いじめの主犯は僕だった。
彼女のことを知ったのはちょうど一年くらい前だったか。菜那たちに殴られ蹴られ、それでもへらへら笑うその姿に――声に、まるでこの世の最底辺であるかのような態度に…心底、腹が立った。だが、同時に、恋人になろう、とも思った。こういうタイプは大体、つけ入るのが簡単だ。そして、すぐ「特別な人」にしてくれる。最初はただの恩人であれ、他との関わりがいじめだけの中、僕だけずっと優しく、ずっとそばにいてやると、そのうち「好きな人」になる。そして、さも両想いかのような雰囲気を漂わせておくと、個人差はあるものの半年以内に告白してくる。この女はたぶん、二ヶ月くらいだろう。内気な女ほど甘えん坊だったり、承認欲求が異常に強かったりするのは、そう珍しい話ではない。とにかく、当時高校一年生だった僕は、三年の一学期までには恋人関係になれる、つまり作戦が成功すると踏んで実行に移した。まず、ゆづきを必ずひどい目に遭わせるという約束で奈那たちを買収した。幸い家が金持ちで、金だけは腐るほどあるので、とりあえず十万で買い取った。そこから、最高権力者である奈那を買い取ったおかげで、いじめグループがすべて言うことを聞いてくれるようになった。素晴らしい。その後も半年以上ゆづきに優しくし続ける僕を見て、奈那は「約束が違う」とぎゃあぎゃあ喚いていたが、「まだ準備段階だよ。今いる高さから落ちるより、もっと高いところから落ちたほうが痛いだろ?」と言うと、しぶしぶといった様子だが納得してくれた。こういうとき、相手がバカだと困る。僕が何をしても邪魔をしてくるのはバカだった。まあ、『頭のいいバカ』なら救いようはあるだろう。頭がいいぶん、自分で考えることができるし必要以上に僕の仕事に口を出してこない。僕がヤバいやつだというのが話していくなかでだんだんわかっていく。そういうやつはあまり深く関わってこないから好きだ。まあ、こんな底辺校にそんな頭のいいやつはいないし、いてもいじめをするようなやつとは関わりがない。バカだらけだ。…いちいち説明を求めてきやがって。いじめの主犯でなければ、こんなやつ一生関わりもしないのに。そう思いながらも、こいつへの媚びは重要だ。ゆづきにもやったように、『菜那のことを好きな人しか見せないような笑顔』で「もう少しだけ、待ってくれないか。そしたら、ゆづきと恋人になれるんだ。たぶん、一番信用していた恋人に裏切られると…堪えるだろ?だから、頼む。これはもう、僕にしかできないんだ」と、言った。菜那はバカだが、ゆづきよりは頭が良かったらしく、「そんな表情しなくてもいいわよ。そういうことなら、待ってあげる。ただし、できるだけ早く終わらせてよね」
「ああ、わかってる」
「ないとは思うけれど…もし、これから、お金を払えないだとか、ゆづきに本当に味方するとかだったら…わかってるわよね?」
「わかってるさ。ゆづきみたくバカじゃないんでね」
「ふふ、そうね。まあ、がんばって」
「それにしても、あんたの作戦って…いつ聞いても性格悪いわねえ」
「ちょっと気に食わない言い方だが…性格が悪いのは確かだ。まあ、いじめなんかやってる、しかも主犯には言われたくないがな」
「あはは、わかってるじゃない。性格が悪いのはあたしも自覚してるわよ。まあ、おあいこってところじゃないの?」
「じゃ、あたし、彼氏といっしょに帰るから。がんばってね~」
「お噂のダーリンかい。うらやましいもんだねぇ」
「ふふ。あんたも『ほんとーの』彼女、作ればいいじゃない」
「バカ言うなよ」
「あら、あたし、ばかじゃないわ。失礼ね」
「早く行けよ」
「言われなくても行くわよ!もう…」
そうして菜那は去って行った。さて、僕もゆづきに会いに行かなきゃな。
屋上の重い扉を開いて、彼女に会いに行く。
そして、最初に戻る。まさか、菜那に「もうすぐ恋人に…」とか言っていた矢先にこくはくされるとは思わなかった。だが、これは好都合だ。まだ卒業まで一年半ある。これからもっと親密になるまでに二ヶ月…いや、三ヶ月か?いや、この女は今までの彼女たちとはいっさい違う。真逆と言っても過言ではない。友達になら、こういうタイプの女はいたが、ここまで厄介で、承認欲求がつよく、底知れない気持ち悪さのあるのはいなかった。長めに見積もって、七ヶ月といったところだろうか。そこまでに築きあげた信頼が壊れたときの顔は…さぞ滑稽だろう。想像するだけで、顔が綻んでしまう。そういう女を見るときが、いちばん生を実感するし、いちばん快楽を感じる。
「…どーしたの?ゆうまくん、にこにこしてるけど…なんていうんだろぉ…だいじょーぶぅ?」
ああ、やばい。僕としたことが、ゆづきの前でそんな想像をしてしまった。嫌いな相手にほんとうの笑顔を見せるのは、本当に気持ち悪い。
「大丈夫だよ。ゆづきのこと、ずっと大好きだったからさ。付き合えて、告白してくれて…いや、出会えて、本当に嬉しいよ」
「えへへ…うれしいなぁ、わたしも、ゆうまくんのこと、だーーーいすきだよぉ、えへへぇ」
「ふふ、僕もだーーーいすきだよ」
ああ、ああ、本当に気持ちが悪い。死ねそうだ。自分に嘘をつくのは、いつまで経っても慣れない。自分に申し訳なくて仕方がないのだ。しかも、そんな申し訳なさを感じつつ、世界で一番嫌いな相手に好きだと言っている。本当に、こいつにこんなに嫌悪感をもたなければ、こんな気持ちにならなかったのに。まあ、恋人になろうと思ったのも自分だし、こいつのことが大嫌いなのも自分だ。しょうがない。
それからの日々は、びっくりするほど甘くて、誇張なく死にそうだった。
恋人として、毎日会いに行くのは当たり前、これまで会っていなかった昼休み、休日、さらには授業間の短い休み時間までも会いにいった。でないと、恋人になってから増えた菜那との打ち合わせへの言い訳ができなくなっていた。恋人になったという安心感から、菜那たちのいじめはひどく、陰湿になっていった。もちろん、僕が頼んだことだ。大嫌いな相手への「大好き」はひどく心が痛かったが、僕が我慢すれば全員が報われる。まあ、ゆづきは…報われるための、いわば「道具」だ。大人数の幸せのための道具になれるなら、誰だって幸せだろう。そして、また会いに行く。
「あ、ゆうまくん…やっと、今日一日が終わったねぇ」
「今日は、体育もあって、集会もあって、ああ、あと、ゆづきの嫌いな英語もあったのか。大変な一日だったね」
「うん、疲れたぁ。…今日も、菜那ちゃんに殴られたの。女子、トイレで。あと…数学の、渡先生に、呼び出されたの」
「な、にかなぁ、って、おも、った、らぁ」
「浜崎に、きいたぞ、ってぇ」
「菜那、ちゃんが、ね、またぁ…わたしに、教科書、破られたってぇ」
「わたし、なんにもしてないのにぃぃ‼うぇぇぇぇぇん…」
「だれも、信じてくれないのぉ…」
「そっか、また…。大変だったね。今日も、浜崎さんには言ってきたんだけど…。いつまで経っても、止まないね…」
そう言って、頭を撫でる。そして、抱きしめる。すると、ひととおり泣いたあと、疲れ果てて寝てしまう。まるで幼稚園生、いや、それ以下か。腕のなかで完全に信用しきって体重をかけているこの生き物に、今すぐ止めをさしてやりたい。実現するものなら、僕の手で殺したい。最近、毎日繰り返されるこの下りのあとに、毎回、こう思うようになった。まあ、人の命を奪うほど、僕も外道ではない。
そんな生活が三ヶ月ほど続いて、やっと明日は半年記念日だという日の夜に一件のメッセージが来た。
「あした、言いたいことがあります。放課後、いつものところで会いたいです。お願いします。お願いします。」
何故だろうか…?いつもは何かあれば電話をかけてくる。スマホの使い方やメッセージの打ち方がイマイチよくわかっていないらしく、本人も「わたし、メッセージ送るような友達、いないからぁ」と言っていた。嘘をつくような関係性ではなかったはずだが…どうだろう。まあ、電話をかけてみるか。
「プルルルルル…おかけになった電話番号は、現在、電源が入っていないか、電波の届かない場所に―――」
何故だ?いつもなら、3コール以内に出る。父親の帰りが早かったのか?いや、何も言っていなかったはず。あの人が帰ってくるのは22時以降だから…今は19時。ありえないだろう。気掛かりではあるが…まあ仕方ない。半年記念のプレゼントか、デートか、ハグかキスかの要求だろう。「お願いします。」の繰り返しが少し変な感じがする。でもまさか、僕の嘘を見抜いているなんてことはないだろう。でも何故だろう、怖い。これまでに気付かれたことなんてなくて、焦っているだけかもしれないが、こういう嫌な予感は当たりやすいから嫌だ。恐らく、あのバカなら大丈夫だろう。…いや、そうだと信じたい。でないと、もしこれが失敗したらと考えると…その場合、どん底に落ちるのは僕だ。きっと大丈夫、きっと…と言い聞かせながら無理矢理眠りについた。
「あ!おはよぉ」
「…おはよう。言いたいことって何?」
「放課後だって言ったでしょぉ。まだ朝だよぉ」
「ああ、そっか。はは、なんて言われるのかはやく聞きたくて仕方なかったみたいだ」
「えへへ。一時間目、なにぃ?」
「えー…と。国語かな。そっちは?」
「んーとねぇ、美術だったかなぁ」
「そっか、良かったね、美術、好きだよね?」
「うん、うれしいなぁ、えへぇ」
「…あ、お話してたらもう8時になっちゃうよぉ、教室、戻ろっかぁ」
「うん」
よかった。いつも通りだ。やっぱりこいつはバカだった。昨日の嫌な予感は、体調不良だったんだろう。…本当に、良かった。
昼休み、珍しく彼女は屋上にいなかった。代わりに、おそらく一年生であろうカップルがいた。「たーくん」「なっちゃん」と呼び合っていたり僕が屋上に来たことにも気付かずにイチャイチャし続けている様子を見て腹が立ったので、早いうちに教室に戻って読書をして過ごした。
放課後になってすぐ屋上に向かう。いない…?と思ったが、いつもと逆側の、入り口からは死角になっているところにいた。嫌な予感がした。
「あ、来たぁ。お疲れさまぁ」
いつもはそんな笑顔なんて見せないはずなのに…どうしてだ。どう考えてもおかしい。いや、今日、良い授業がたくさんあっただけかもしれないじゃないか。今日は何曜だ?…水曜。まあまあ良い授業だった…気がする。
「どうしたのぉ。そんなとこいないで、お隣に座ってよぉ」
「ああ…うん。で、言いたいことって…」
「…ゆうまくんてさぁ、ほんとーにわたしのこと、すきぃ?」
「…え」
嫌だ、やめてくれ。バレた?嘘だろ?
…怖い。
「好きだよ。嘘なしに、僕はゆづきのこと、大好きだよ」
「もう、嘘つかなくていいよぉ…」
そう言って、彼女は静かに泣き出した。
「嘘じゃない!僕は、僕は…ゆづきを初めて見たあの日から、好きだったんだ!そりゃ、いじめられてるとこを見て好きだなんて、変なやつだよ。でも、僕は好きだよ。誰になんと言われようと、君が好きだ!」
「…嘘つかなくていいよって言ったじゃんかぁ」
「だから、嘘じゃな」
「もういいよぉ、わたしたち別れよう。…いや、最初から付き合ってなかったようなもんかぁ」
彼女が立ち上がる。入り口側に歩いて行こうとする彼女を、黙って見ているわけにはいかない。
「待って!」
とっさに腕を掴んだ僕を、心底悲しそうな、でも優しい笑顔で見た。ああ、僕が見たかったのは、この顔じゃない。もっと絶望に歪んだ顔なのに。
「わたしね、聞いちゃったんだぁ」
「昨日、放課後にさぁ、委員会で、一緒に帰れなかったでしょ?」
「まぁ、委員会って嘘ついて、ゆうまくんへのプレゼントを買いに行ったんだけどねぇ。運が悪かったんだぁ」
「菜那ちゃんたちが…いたの。ゆうまくんの話してて…『あんな男に騙されるアイツって、ほんとにすごいバカだよね、明日で半年経つのに、まだ気付いてないよ』ってぇ…」
「よく考えてみたら、ゆうまくんみたいな人が、わたしのことなんか好きになるわけないよねぇ」
「違う、それは菜那の嘘だ。騙してるのは菜那だよ」
「でも、菜那ちゃんと会うとき、楽しそうに話してたじゃんかぁ…」
「な、見てたのか…いや、違う。そんなこと…」
「もういいって言ってるでしょぉ!」
「…ああ、わかった。謝る。ただ、頼む。菜那たちには言わないでくれ。僕が悪かった。僕はクズだ。でも、お願いだ。まだ卒業まで一年以上ある。まだこの学校での人権を失うわけにはいかないんだよ!わかるだろ!?お前は今までずっと人権がなかったんだからさ!どれだけ辛い思いをするか、身をもって知ってるだろ!?そんな思いを、嘘だったとはいえ助けてやった僕にさせるっていうのか!?やめてくれよ、なあ!!」
「じゃあ、転校でもすればいいんじゃないのぉ」
「親にはいい顔してるんだよ!ゆづきだって、親には言ってないって言ってたじゃないか!その気持ちもわかるだろ!?頼む、なんでもする。本当に、頼むから…」
そう言って僕は土下座した。気付かれたとはいえこいつはバカだから、人が本当に困っている姿を見れば許すだろうと思った。だって、いくら僕がクズでも、こいつは優柔不断で、頭がおかしいほど優しい。いじめられていた要因もそれだ。優しすぎるやつが、純粋な悪とぶつかると叩きのめされる、そういうことだ。頼む、許してくれ。僕が悪かった。
「しょうがないなぁ…」
「え、許してくれるのか!?ありがとう!!」
「なんて、言うわけないじゃんかぁ」
「たしかに、わたしはゆうまくんにたくさん助けられたよぉ。でも…こんな仕打ち、なにがなんでもひどすぎるじゃんかぁ…もう、知らないからぁ…」
「え、待っ…て…」
今まで見たこともないくらい冷たい表情を僕に見せてから、彼女は帰っていった。終わった。何もかも。もうダメだ。
「…ゆうま?大丈夫?」
「母さん…僕、転校したい…」
「え!?何があったのか、話しなさい!」
「もう、学校、行きたくない…」
そして、「学校でいじめられている、主犯は菜那、ゆづきという子も一緒にいじめられている」と話した。すると、僕ではなく、菜那が転校になった。菜那と一緒にいじめを働いていた奴らは全員「いじめられたくない」という思いで協力していたようだ。菜那としか関わりがなかったから、知らなかった。母親に話をした次の日から菜那は停学になったため、もう会うことはなかった。が、母親にこっぴどく絞られ転校ではなく退学して働かされているようだ。会うことがなくて、本当に良かった。ああ、その後、ゆづきはどうなったかと言うと、いじめ集団から泣きながら謝られ、ほとんど全員を許したようだ。いじめにほとんど関わっていなかったいわゆる「傍観者」たちと仲良くなり、それなりに笑顔も増えた。僕のことは、まだ見るたび冷たい表情を見せてくるが。だが、僕は本当に後悔している。自分の快楽のために、人を道具に使ったこと、たくさんの人間をゴミのように、見下していたこと。何より、いじめられている、追い込まれている人間に嘘をついたこと。許してほしいとは言わない…いや、もう言えないが。でも、友達と一緒のときは笑顔なのに、僕に見せる表情はものすごく冷たいのは…少し、嫉妬してしまう。こんなこと言うと、本当にゆづきに殺されてしまいそうだが…つい四ヶ月ほど前まではにこにこしてて可愛かったのになぁ、とか思ってしまう自分が不思議でしょうがない。本当は、心の奥底では、彼女のことが好きだったのかもしれない、と、最近はよく思う。まあ…心の表面では、好きじゃないと思っているし、好きだったとしても、もう叶わぬ恋なのだが。話が逸れたが、本当に反省している。許されることじゃない。罪滅ぼしとでも言うべきか、これからは誠実に生きていこうと、心から思うのだ。彼女とはもう接触することはないが、僕は彼女を恩人だと思っている。彼女がいなかったら、僕は悪の道を進んでいただろうから。という話を、彼女の近くによくいる女子にすると、
「そんなの、ただのきれい事じゃない。ゆづには伝えといてあげるけど、たぶん…というか絶対、あの子は一生あなたを恨んでるわよ」
と返された。
「まあ、実際、きれい事に聞こえるのはわかる。というか、僕もそう思う。だが、今の正直な気持ちを、この言葉以外で表せないんだ。ごめん。でも、人間は…間違える生き物だと、思うんだ。本当に僕は、申し訳ないと思ってるよ。だから、どうか、今の僕を悪く思わないでほしいんだ」
「…そんなの、あなたが言えることじゃない!ゆづがあのあと、どれだけ泣いたかわかってるの!?私も、いじめをしてた集団に『やめなよ』って言えなかった、でも、あなたは純粋な悪意をもって、ゆづに近づいたってこと忘れないで。私とあなた、どちらがゆづの助けになったかって言うとあなたでしょうけど、いじめられてたときだって…私も、こっそり、遊びにでかけたり、してたんだから…昼休みとか、図書室で話してたり、したんだから…」
「…まあ、そんなこと言っても、起こったことは変えられないし、今許してくれてるのは、ゆづの優しさだしね…」
「そうだね。だから、ゆづきが気付くまでは、どっちもどっちだったと思うんだ。だから、これからは僕と少しだけ仲良くしてくれると嬉しいな…」
「ふざけないで!!もう私、帰る!伝えとくって言ったけど、やっぱりもう何も言わない!この、クソ野郎!!」
そう言って椅子から立ち上がり、自分の荷物を乱暴に掴んで帰っていった。そんなにおかしいことを言っただろうか?いや、あの人がバカなだけか…おっと、そんなこと、もう思わないって決めたんだった。僕は生まれ変わるんだ。これからは、僕も善良な人間となるのだ。
僕がこの手で、平和な学校、職場…世界を、作ってやる。
オニャンゴロ島
蓬莱 玻璃
大きな二つの山が猫の耳のように見える島がある。太平洋の真ん中にポツンと浮く孤島だ。昔からいろいろな伝説が絶えない島でその見た目から鬼ヶ島だったのではないか、といううわさもある。そんな伝説のある島を人々は神が最初に作った島、オノゴロ島と猫のように見える島という意味でオニャンゴロ島とよんでいる。実際猫島とよばれるほど猫が多く、人口よりも猫のほうが多いといわれている。そこに住んでいる人は、みんな優しく神様のように神々しいらしい。そんな一見物騒なこととは全く関係がなさそうなオニャンゴロ島から日本政府に恐ろしいものが届いた。それは島民がとらえられていて後ろには銃をもった宇宙人が立っている写真と宇宙共通語で書かれた脅迫文だった。
日本政府へ
我々宇宙人は、この島を占拠した。この手紙が届いてから三日後に島民全員を処刑する。我々をここで止めなければ、第一次宇宙大戦が起こることも避けられないだろう。
これだけの短い手紙だったが、その字からは日本に対する強い怨念と殺意がこめられていた。政府は直ちに、緊急対策会議を開き、自衛隊一万人を派遣することに決めた。自衛隊は、島に着いたらすぐに連絡することになっていたが、一か月たっても自衛隊からは何の音沙汰もなく、宇宙軍も攻めてくることはなかった。おかしいと思い、政府は十万人の自衛隊員を派遣したが、前回と同じように何もなかった。そして、今度は自衛隊五万人と私を含む警察十万人が派遣された。私はその中でも警察十万人をまとめるトップとしての重要な役割を任せられた。愛する妻と娘に別れを告げ、私はいまや怪奇の島となってしまったオニャンゴロ島へと旅立った。島に行く航路では嵐に巻き込まれるような危険は一切なく、潮の流れと風の向きが味方して、予定よりも五日早くついてしまった。島まで残り二キロとなったところで私は、ほかの船に待機命令を出した。自分の船だけを慎重にすすめ、相手の出方をうかがったが、島は誰もいないかのように静まり返っていた。上陸してもなお、何の攻撃も仕掛けてこないので、恐ろしくて冷や汗が止まらなかった。そして、緊張が高まっていよいよ神経が切れてしまいそうだ、というときに隣からのんびりした鳴き声が聞こえてきた。思わずしりもちをついてしまい、
部下が真剣に心配してくるのが余計に恥ずかしかった。猫はそんなことも全く気にせず、のんきに顔を洗っていた。そのあとも、島には猫しかおらず、人っ子一人見つけられなかった。消えた約十万人の自衛隊と宇宙軍の捜索は日夜続いたが、猫のかわいらしさに隊員が癒されただけだった。そうこうしているうちに、どんどん食糧が減っていき、警察の五万人を食糧調達のために一度本州に戻るように命令した。本州に着いたら連絡するように言っておいたが、いっこうに連絡がないので、もう一度五万人の部隊を編成し、調達に向かわせた。が、またもや何もなかったので、政府に連絡し現在の状況を報告しようとした。しかし、急にすべての無線が一斉に故障し、特別な部品がないと直すことができないということだった。私や部下は疲弊し、栄養失調で倒れる隊員も出てきた。そんな中ある隊員が島から撤退することを提案してきた。私もそれがいいと思ったが、操縦士が全員ダウンしていて、このままでは遭難してしまい、逆に生存率が低くなると判断した。そして、本当に起きてほしくなかった最悪の事態が起きてしまった。部下の間で食糧をめぐるトラブルがおき、千人以上の死者が出ることになってしまったのだ。私と信頼できる幹部で止めようとしたが、時すでに遅く争いはどんどん広がっていった。私の身にもきけんが迫り、とうとう幹部の十三人のうち三人が殺されてしまった。人が減れば、その分食糧問題は解決されるはずなのに、食糧は自分たち以外のものが食べているように前よりも減り方が早くなった。私はこのことからこれは宇宙軍の兵糧攻めの作戦だと判断し、みんなで一緒に宇宙軍を探し出すことを提案した。しかし、もう誰も聞く耳を持たず、幹部の二人だけしか協力してくれなかった。私たち三人は、島中をくまなく捜索した。もう宇宙人でも日本人でも誰でもいいから自分たち以外の人間または地球外生命体を見つけたかった。猫たちは、そんな必死な私たちとは別世界にいるように呑気に寝たり食べたりひなたぼっこしたり…。
最初は島中にあふれんばかりいる猫たちに癒しをもらっていたが、時間がたてばたつほど空腹や現状にイライラし、呑気な猫たちにも腹が立ってきた。今までで感じたことがない憤りに突き動かされ、私は何かにとりつかれてしまったのか、最低なことを思いついてしまった。ここにいる猫を食糧にすれば、すべてのことが解決するのではないか?仲間二人に提案してみると、猛反対されてしまった。あなたは狂ってしまった。もう一度考え直してほしい。私たちを癒してくれた猫たちには、むしろ感謝するべきだ、と…。
仲間が言っていることはすごく真っ当なことなのに、私には詭弁のようにしか聞こえず、ますます私の怒りを募らせた。私はその夜、ついに二人を殺ってしまった。来た時には、十五万人いた人間が消え去り、私一人だけがむなしく残っていた。空を見上げると星が一面に広がっていて、「お前はなぜ生きているのか」と、十五万人の魂に責められているようだった。めまいがして、思わず吐いてしまった。こんな孤島でこれから一生一人さみしく暮らしていくなんて、私には到底受け入れられない現実だった。
幼いころから、文武両道で神童と呼ばれていた。有名進学校に通い、警察学校を主席で卒業。三十歳で前代未聞の警察署長になり、縁談にも恵まれ、美人で教養のある妻と結婚した。一年後、愛しい娘が生まれ、私の人生はまさに人生勝ち組コースだった。そんな私が、こんなところで惨めに死ぬことなどあっていいのだろうか。いや、そんなことは許されない。全人類が許しても神が許さない。あってはならないことなのだ。私は、神に認められた世界を救う救世主だ。
後世に語り継がれ、いずれ神としてあがめられるような人がこんなところで死んでいいはずがない。
そう考えているうちに、体は近くにいる猫のほうに向かっていた。まずは、腹ごしらえだ。私は、神に選ばれた男。そんな男が生き残るためには猫一匹の犠牲なんて犠牲とも言わないんじゃないか?そのままの勢いで猫につっかかり首をつかんだ瞬間、私は十mほど飛ばされてしまった。何が起きたんだ?猫はこちらをじっと見たまま動かない。それから猫が「にゃーん」と一なきすると、島がかすかに揺れ、地響きが聞こえ始めた。私は、何が起きたか本当にわからず、ただただ頭を抱えて混乱していた。目の前の猫の周りに島中の猫たちがどんどん集まってくる。猫たちはこちらをじっと見ていて、その目は夜の闇の中でぼんやりと光っている。その光の数が星の数ほどになったとき、ようやく地響きがやんだ。私は、恐怖で全身の穴という穴から水が噴き出し、見るも無残な状態になっていた。先ほどの猫が今度は、短く鳴いた。
ピカッ
突然あたりが真っ白になり、猫がいたところにたくさんの人影が見えた気がした。あれは、何だったんだろう、そう考える暇もなく私の全身は溶けて地面には影だけが焼き付けられていた。
「大変でしたね。もう少しであの汚い手が首に触れるとこでしたよ。」
神の姿に戻った瞬間、みんなが私のことを心配してくれた。
「心配するでない。あの男のスピードといったら、遅すぎて眠ってしまうくらいだった。そんなものに捕まるようでは、太陽神天照大神の名が立たないからのう。」
「流石ですぅ。」
みんなが私の言葉に酔ったように目を潤ませている。その反応に私は大いに満足し、私の前に集まるように号令をかけた。
「諸君、人類撲滅計画は順調に進んでいる。引き続きお前らは猫に化け、これから攻めてくるであろう更に多くの人間をだまし続けるのだ。これまで葬った人間は訓練された人間だった。しかし、もう日本にはそのような人間は残されていない。今まで、文明の発達に身を任せていた、老いぼれと何もできない政治家たちは外国に頼るしかなかろう。だが、私たちは神だ。すべてのものの創造主であり、人間の創造主でもある私たちは日本人だろうと、外国人だろうと人間に負けるわけがない。この神と人との戦争は、私たちの過ちをただすものである。人間という愚かで欲にまみれた生き物を作り出してしまった過去を自らの手で正さなければならないのだ。人間をこのまま野放しにしておけば、地球上の愛すべき生物が死滅してしまうだろう。そうなる前に、人間を滅ぼし太古のような平和な園を作ろうではないか。もう、平和を実現するためには人間を滅ぼすしかないのだから…。」
拍手によって、空気が揺れる。私は、人にあがめられるのが本当に大好きだ。人間たちは、神の存在を非科学的だとし、軽視しすぎた。私は、太陽神である自分がそんな風に扱われたことに腹が立って仕方なかったのだ。そこで、私は日本人すべての共通した祖先として、日本人を撲滅することにした。これを、世界各国の神に話すと、みんな同じような考えを持っていたようで、日本人だけでなく人類すべてを撲滅することに決まったのだ。過去に絶滅したアノマロカリスや恐竜も力をつけすぎて、神の怒りを買ったことで絶滅してしまったのだ。生物が生き残れるか生き残れないかの分かれ道は神に気に入られるかどうかだと思う。やはり、人の世界でも神の世界でも目上の者に気に入られるのは、生きていくうえでとても大切だ。人間も「長いものに巻かれろ」とはよく言ったものだ。
問い
七森。
またこの時期が来た。暑い体育館に集まって集会をする。戦争はいかに悲惨か、平和がどれだけ大切か、小学校のころから同じことを何度も聞いてきた。
「平和を守るために友達と仲良くします。」
「人を傷つけるようなことはしません」
なんて毎回誰かがいう。
でも私はこの時期になると毎回思う。「平和って何?」って。
集会が終わって教室に戻る。朝から頑張って消した机の落書き、引き出しの中には大量の画びょう。夏休みでせっかく忘れかけていた悪夢が蘇る。もういじめが始まって三年。始まりは中学に入学して三か月たったころ。もう慣れてしまった(?)。周りが騒いでいる中、誰ともしゃべらずじっと座っていると先生が教室に入ってきた。
「席に着きなさい。今日は転校生を紹介する。」
クラスがざわつく。そのざわめきを楽しむように笑顔で教室に入ってきた彼女はthe陽キャって感じ。
「東京から来たの。成瀬莉紅、りくって呼んで。好きなアーティスとは、はにわ男子。よろしく。」
そう彼女はサバサバと自己紹介をして指示された席にさっさとついた。クラスメイトは彼女に夢中になって今日は私にかまうことがなかった。最高だと思った。
二学期が始まった。また憂鬱な日々、、、だと思っていたけれどしばらくはあの転校生にみな夢中だった。はずなのに。彼女は私に話しかけてくるようになった。
「可奈、おっはよーっ」
「移動教室一緒行こうよ!」
「家こっちなの?じゃあ帰ろうよ」
私は断ることなんてできない。
帰り道、私は彼女に言った。
「あのね成瀬さん、私とあまりかかわらないでほしい。私とかかわっていいことなんて何もないから。」
「それって可奈が思ってるだけでしょ!」彼女はそう言った。
「私は可奈と話したいの。あと莉紅って呼んで!じゃあ家こっちだから。」
さらっと言って颯爽と歩いて行った。話したいとか初めていわれたし、喜びで胸がいっぱい。でも次の日からいじめは加速した。
「あいつヤバいやつなんだよ?関わるのやめたほうがいいって」
「莉紅の価値が下がるよ?」
「あんな奴と行動してんのかよw菌が移るぞw」
ある日、学校に行くとそんな会話が教室から聞こえた。自分が一番わかってたはずなのに苦しくて教室に入れない。立ち止まっていると
「なにそれ最低。」
よく通る声が廊下まで響いた。
「やっぱり可奈いじめてるんでしょ。そんな奴といるほうが価値下がっちゃう。」
そういい捨てて教室を出てきた。
「可奈・・・?!」
見つかった。気恥ずかしくて逃げようとしたら彼女は私の手を引いて走った。
「はぁ、、成いや莉紅、どうしたの??」
私たちは誰もいない屋上に息を切らして立っていた。
「可奈・・。聞いてたんでしょさっきの。」
なんて答えればいいかわからず戸惑っていると彼女は私に急に抱き着いてきた。
「一人でよく耐えたね。もう大丈夫だよ。」そう言ってぎゅっと抱きしめてくれた。私を認めてくれた。そんなことが久しぶり過ぎて涙があふれて止まらない。莉紅がいれば大丈夫、そう思えた。
教室に戻ると私だけでなく莉紅の机までもが汚されていた。でも莉紅がぞうきんをもってきてくれた。ずっと二人で行動して怖いものなんてもうないんじゃないかというほど。慣れてたはずなのに。彼女の一言でとても落ち着けたような気がする。
「一緒に乗り越えよう。あいつらもいつか飽きるはず。」
次の日から私たちへのいじめは始まった。机の落書き、教科書ノートはボロボロ。無視なんて当たり前。でも莉紅といれば乗り越えられた。彼女は毎回「やめなよ。」と言って止めてくれる。どうしてもいやになったときは二人で屋上へ逃げる。誰も来ないし見つからない。私はここで莉紅と食べるお弁当が大好き。先生はいじめを見て見ぬふりしてるから何も言ってこない。中学生になって一番楽しいと思える時間。
「うちら二人ならさいきょーじゃん」
莉紅はニコッと笑って言う。
「私もそう思う。」
莉紅のおかげで毎日救われた。一緒に登校して、授業受けて、お昼ご飯食べて、屋上で放課後も遊ぶ。莉紅は私の悩みも聞いてくれた。今までのつらかったこと、先生が見て見ぬふりをしていること。彼女はそれを黙って聞いてくれて励ましてくれた。痛かったしつらかったけど莉紅といれば大丈夫。
「私もね前の学校でいじめられてたの。一人ってさみしいけど二人なら最強だよね。」
寂しそうに話す彼女は陰キャの私と同じ匂いがした。意外だった。
「てかさ、平和学習って私初めてだったんだけどあれって何のためにやってるの?(笑)」
県民のはずの私でもわからない。
「みんな同じようなこと言ってて、でもみんな言ったことはできてないよね。あんなのを毎年やってるの?」
私もそう思った。嘘、偽りだらけの集会。何の意味があるのだろう。私たちはただむなしくそこにいることしかできない。
なんだかんだで乗り切っていたある日。私はいじめっ子たちに囲まれていた。
「なぁ、お前協力しろよ。」
「逆らえないってわかってるよね?w」
莉紅は今日に限って風邪をひいて休みらしい。
「莉紅って調子に乗ってると思うんだよね」といじめっ子リーダの女子が言った。
「そ、そんなこと・・」
「だからぁ、逆らったら痛いこと増やすよ?」脅しだ。こんな脅し二人だったら乗り切れるのに。私にはできない。
「じゃぁ命令。お前に手ぇ出すのやめてやるからあいつのこと無視しろよ」と男子。
そんなことできるわけない!でも答えずにいるとなぐられた。私は耐えようと頑張った。でも無理だった。平和になるなら。
「わかりました。」
朝学校に行くと私の机はきれいなままだった。久しぶりだ。でも莉紅の机は汚れている。拭こうとしたけれどなぐられそうになってあきらめた。莉紅がこのまま来なければいいのに。そう思ったけどくるに決まってる。
「可奈おはよう!」
莉紅は元気な声で私に話しかける。
「お、」
おはようって言いかけたけど言えなかった。いじめっ子たちの視線が怖かったから。こんな弱い存在だったんだって改めて思った。
「可奈?どうしたの?」
彼女は話しかけ続けてくれたけどいじめっ子たちがきて
「南波さん、あっちにいこっか?w」と半ば引きずるように連れていかれた。
私は莉紅の悲しそうな顔をずっと忘れないだろう。
莉紅はタイミングを見計らって話そうとしてくれた。でもどこに行ってもいじめっ子の目が光っていた。私自身、正直落ち着いて生活できることに安堵してしまったことへの後ろめたさから莉紅と目を合わせることができなかった。
放課後、莉紅は家を訪ねてくれたけど出ることができなかった。なぜかって?このまま平和でいたいと馬鹿な私が願ったからだ。
「可奈おはよう!」
そういったのに可奈は反応してくれなかった。異様にニヤついた奴らに連れていかれる可奈。よく見ると可奈の机は汚れていなかった。可奈に話しかけようと頑張ったけどできなかった。いやな過去の記憶がよみがえる。放課後話をしたくて可奈の家に行ったけど可奈は出なかった。可奈まで私を裏切るの・・・?
次の日、昨日の出来事は夢なんだ。今日は話せるなんて淡い期待を抱いて学校へ行ったけど昨日と何も変わることはなかった。なんなら私へのいじめが加速した。教室で殴られ、水をかけられどんどんヒートアップしていく。別になれたことだったけど一番つらかったのは可奈が私の方を少しみてなにもなかったみたいにそっぽを向くこと。悲しさを通り越してどうでもよくなる。そんな日々が何週間か過ぎた。可奈は元に戻らなかった。いじめっ子たちに笑顔を向けることさえあった。私っていらなかったのかな。昔の嫌な経験から変わろう、助けようと頑張ったけど無駄だった。
私は放課後屋上に来た。可奈と過ごした屋上。楽しかった屋上。私の学校の中で唯一大好きな場所。フェンスを越えて下を見下ろす。もう私は本当に無敵になったと思える。
可奈はほんとうにだいすきだったのにな。朝焼けが異常にきれいだった。
朝学校に行くととても騒がしかった。不思議に思いながらも教室に入るといじめっ子たちが顔を青くして黙り込んでた。
「お前があんなことするから・・・」
「お前がやれって言ったんだろ??」
そんな会話が耳に入る。どうしたんだろうと首をかしげていると誰かが言った。
「誰だよ、成瀬莉紅を自殺に追い込んだの」
自殺。私は自分では気づかないまま教室を走り出し教室の下に来ていた。先生に聞くともう運ばれたからわからないとしか言ってくれなかった。私は黙って先生に従い家に帰ることしかできなかった。莉紅が死んだらどうしよう。都合のいいように人間って出来てるな。自分の平和のために無視してたのに。いなくなるかもしれないとわかったらぱっと手の平を返す。そしておびえる。私は眠ることができなかった。
次の日、莉紅が亡くなったと聞かされた。私は学校へ行くことができなかった。私のせいで、、、私の身勝手で、、、自分を責めることしかできない。責めるだけじゃ足りないくらい。莉紅が言っていた言葉を思い出す。
「平和学習って何のためにあるの?」
友達と仲良くって何だろう。私が平和を願い実現することで莉紅の平和は壊された。今生きている世界だってそうだ。平和平和言いながらのんびり暮らしている私たちとは反対に平和を脅かされている人たちがいる。誰かが平和になるためにはだれかを犠牲にしなければいけないの?私だって今まで耐えてきた。莉紅のおかげで救われたけれどそのことでより欲が出たのかもしれない。
次の日は学校に行くしかなかったので学校に行った。けれど原因の話し合い、いじめの責任の擦り付け合い。人間の一番醜い部分を覗いたようだった。
毎年誰もが言うこと。
「友達と仲良くします。」
「人を傷つけることはしません。」
先生もそれを何度も言った。何か知っている人は話すように。そういったけど誰も話すわけない。
誰か教えてください。
「平和って何ですか?」
『 平和の俳句・短歌 』
核の傘 閉じて青空 見上げよと
折り鶴も いつかは還る 再生紙
若き夢 散りし桜の 特攻機
正親町百花
年酒飲み 笑顔満点 大人顔
蛍火や 線香の奥 其方の顔
世の平和 そんな未来で 春が咲く ごめんなさいの 描く幸せ
はくうみさ
アイス売り場が 戦場だ どれを選ぶか ぜいたくは敵
帰り際 交わす「また明日」 蝉しぐれ
長友
遠くなる 幸せ掴む こと望む 望み励める 幸せ忘れ
自粛規制 ホシガリマセン カツマデハ 今も昔も 変わらぬ愚かさ
君のため 死んで見せよう 言う君の 国より他に 死ねる幸せ
君にただ 幸多からん こと願う
朧気に ただ青き空 眺めれば 赤くならぬよう 朧気に願う
戸田
火花散る 戦時下の町 現在は 花火が咲いて 見入る人たち
夏の海 特攻隊に 思い馳せ
焼け野原 わが師が捧ぐは 桔梗かな
青空の下 平穏な日々に 山笑う
戦場に 残る一輪 花エリカ
夢追いて 前に進みし 若人や 感銘受けしは 父母と古老か
デザートを待ちしその目は 輝きて
できたと聞きて 駆け出す我が子
赤墨 九斗
君のため 祈り続ける 3/11
戦火遠く 樹々のそよぐ 穏やかに
笑いあう この日々はもう 壊せない
楠ノ木 結
食べて学んで笑って寝る一日
燃え盛る 1945の 精霊火
蓬莱 玻璃
目を閉じて 両手を合わせる 暑い夏
守るべき 守られるべき なのになぜ
七森。
『 俳句・短歌 』
・俳句
遺伝子と 流行りにあらがい 生きる夏
風鈴の 響かぬマンション 空狭し
夜更かしの 言い訳ひとつ 秋の月
旧き世の 栄華を偲ぶ 減反田
稲刈りを 急かす蜻蛉の 四重奏
テキストも 忘れて今日は 鳥になる
部誌の中 先輩探す 星月夜
制服の ポケットに ペン蝶の夢
正親町百花
背中押す 花弁乗せて 春一番
夏雲よ 暑さも隠す なたでここ
実る稲 田に咲くスズメ 荒き風
はくうみさ
コンビニに 避暑しに駆けし 土曜午後
赤墨 九斗
願っても まだ日は落ちぬ 夏の夜
枯れ枝に 悲しみの影 鉛の空
丸山
明日から 拗らせ続けた 夏課題
不可解な 天気の犠牲 朝凪や
藤永
・短歌
また会おう その「また」の日は 訪れず
どれだけ経ったか 卒業の日から
今日こそは 会えたらいいな 駅ホーム 期待と落胆 乗せる電車よ
朽ち葉色 くるくる踊る 森の中 どこもかしこも 染まる秋色
十冊まで 借りられるからねと 司書さんの
笑顔見たくて 通う図書室
教室の 一番奥の 窓際で 主人公にもなれず 砂を噛む日々
熱ピッピ 測った朝の 懐かしき 体温カードも 死語になりなん
コツコツと チョーク鳴らして 小春日の
夢はうつつに 時は過ぎゆく
夕食の 残りのスープに 豆腐入れ 味噌汁と化す 祖母の手料理
正親町百花
髪なびく 運命の人 輝いて パジャマ姿の 秋の夕暮れ
シルエット 受ける二人に 驟雨かな
恋落ちるなど 究竟なりけり
はくうみさ
血気盛ん 知略巡らし いざ行かん デートという名の 恋の戦場
筒持った 君に仕掛ける 戦争に 桜舞い散り 僕ただ泣き笑う
夏季の補習 竜の巣探し する君の 背に釘付けで 両者大目玉
戸田
縁側で かき氷食す 弟と 縁下に眠る 私の飼い猫
赤墨 九斗
〈さがしもの〉 正親町百花
私は何かを探している
それはちっぽけな教室の中
図書室の書架の間に
それはごった返す電車の中
信号を待つ車の群れに
それは想像の向こう側
昨日見たもう覚えていない夢の奥
それは過去に置いてきたおもちゃ箱
旧いアルバムの狭間に
それは遠い昔に遊んだあの子
脆く儚い記憶の淵に
それは書きたくて描けなかった物語のつづき
あの日読んだ児童書の主人公
それはもう思い出の中の場所
歌詞が思い出せないあのメロディー
それは二階の部屋の蓄音機と
手放してしまった記憶
それは終わらない放課後の坂道
二度と戻ってこない時間と観覧車
私はなにかを探している
忘れたくないもの
失いたくないもの
そのなにかを見つけるために
今日も私は探すのだ
編集後記
『北高文學四八号』をお取りになっていただき、また最後まで読んでいただきありがとうございました。
今年は高校一年生九名、中学三年生三名で活動しています。
大変なことも多くありましたが、こうして発行できたことをうれしく思います
これからも文芸部部員の成長をご支援とともに見守ってください。
最後に、『北高文學四八号』を作成するにあたって、先生や先輩方には多くの面で助けていただきました。
心から感謝申し上げます。
二〇二三年 七月 部長
北高文學四八号