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それから一年後

 



 彼らを見送り、再び私はアリアの元で与えられた課題をこなしながら生活していた。


 ただ前よりも家事を積極的にやるようになったのと、街に下ろす薬の類いも作って売りに行くようになった。

 アリアの伝で商売をしているせいか、一つ一つの薬も割高に取引できて稼ぎがいい。


 修行が終われば追い出されるだろうからと、なるべく一人で生活できるように学べるうちに学んでいった。


 きっとそれをアリアは見抜いていたのか、より家事と課題を私に与えていた。







「ルルシア、客間の用意をしておきな」



 そう言って窓の外を眺めていたアリアに私も同じように目を向ければ、以前に見た彼らが同じ位置で立っている。



 そうか、もう一年かとため息を着き、私は去年よりも早く客間の用意をして、早々に自室に入った。



 最近は課題があまり出されなくなってきていたから覚悟はしていたけど……

 どちらにせよ、アリアは次期王様に呼ばれているから、ここを出て行くのだろう。


 そうなったらこの家にそのまま住まわせて貰えないか交渉しようと思っていた。







「私は王の城に行くけど、あんたはどうしたい?」



 部屋にノックもなく入ってきたアリアから唐突に聞かれ、私は素直に



「……このままこの家に居させて下さい」



 と、恐る恐る伝えると、アリアは「……そうかい」とだけ言って部屋から出て行く。



 アリアも私の気持ちを分かっていたんだろう。その上確認しに来たようだ。




 しばらくして夕食の準備をしていると、二階から四人が下りてきた。



「ルルシア! 久しぶり!」



 まず始めにディアナが近づきキレイな笑顔を向けて声をかけてくれた。



「皆さんお久しぶりです」



 と、軽く会釈すると、ランドールがニコッと笑って私の頭をフードの上からぽんぽんと触れて



「元気だったか?」



 と、以前よりも気弱さが減り、優しいお兄さんのような雰囲気になっていた。


 そのランドールの手を払う様にローウェンが掴む。



「ちょっと、年頃の女の子にそれはセクハラよ」



 と、睨むローウェンに、その後ろからガルムがあくびしながら



「何だよ、もう痴情のもつれか? 展開早くね?」



「待ってくれ俺は違うから! 妹的なあれだから!」



 ランドールが慌てて手を離して皆に言い訳していた。

 ディアナもむくれながら



「本当にー? ランドールには妹いないじゃない」



「いないけどそんな感じなんだって! 信じてよ!」



 からかわれて、おろおろするランドールに三人はニヤニヤ笑っていた。



 一年経って変わったのかなって思ったけど、あまり変わっていない姿を見ていると何だか安心した。



 微笑ましい四人を見ていると急にローウェンがこちらを凝視してきて思わず身を引くと、ローウェンの表情が笑顔へところっと変わる。



「ルルシアちゃんは可愛いままねぇ、セクハラされないようにワタシが守ってあげるわね」



 と、女性らしい動きでウィンクしてきた。



「だからっ、セクハラしてないって! ……し、してないよね?」



 ランドールが恐る恐る私に聞くので、私も慌てて頭を縦に振ってみせてから、



「あ、あのっ……もうすぐシチューが出来るので、食堂の方へどうぞ……」



 と、尻すぼみで言えば、皆そちらに向かうと思ったら、ローウェンだけがキッチンに残っていた。


 ニコニコと私を見つめたままなので「何か?」と聞けば、ローウェンは



「手伝うわ、盛り付けだけでもね」



「い、いえそんなっ……お客様にそんな……」



「泊めてもらうんだもの、これくらいさせてちょうだい。ね?」



 有無を言わせない雰囲気に私は何も言えずおろおろしていると、ローウェンは食器棚からお皿を出して勝手に盛り付け始めた。




「去年もね、ルルシアちゃんが作ったシチューが美味しくて、ワタシだけじゃなくて三人ともその話をよくしていたのよ」



 嬉しそうに話すローウェンの横で、私はそれを見上げながら聞いていた。



「懐かしい味だって……不思議よね、四人とも生まれが違うのにそう思うなんて、ルルシアちゃんは優秀な料理人だって話してたのよ」



「……そんな事、ないです」



「本当の話よ」



「……同じ国で、同じ貴族で、年齢もそう変わらないからそう感じただけですよ」



「ん? それはどういう事?」



「えっと……ミルク粥ってどんなものかご存知ですか?」



「ミルク粥? 作り方は知らないけど……風邪の時によく食べるものよね?」



「はい、そのミルク粥の材料がこのシチューに入っています」



「そうなの……でも、それが懐かしい味とどう関係があるの? 家によって作り方も違うでしょう?」



「材料は似通っているものが多いのですよね。例えばミルクとか」



「ミルクくらいはね、でも作り方とかは……」



「服に流行りがあるように、料理にも流行りがあります。当時の離乳食としてミルク粥が流行り、それにココモ牛のミルクで作ったレシピが一番人気でした」




「……けど、それだけで?」



「当時、材料の産地まで事細かく書かれた新聞がありまして、それで皆一度は全く同じレシピのものを食べたことがあるはずなんです。家で出されたもの以外にも外食でもありましたから」



「へぇ、なるほどねぇ……じゃあこのシチューにも当時のミルク粥と同じ産地の材料が入っているということね」



 頷いて答えると、ローウェンは改めて鍋のシチューを見てから再び私の方を向いて微笑みを向けて



「……すごいのねぇ、やっぱりルルシアちゃんは素晴らしい料理人ねぇ」



 と、褒められた。


 そんなローウェンをじっと見ると、やっぱりこの人は目鼻立ちがはっきりしていて顔が整っているなと、改めて思った。


 こういう話し方をしていても、女性が寄ってくるんだろうな、女子供に優しそうだし……などと感心していると、ローウェンは顔を背けて



「そんなに見つめられると……困る、わ」



 と、ローウェンは足早に盛り付けた皿をトレーに乗せて



「先に持っていくから」



 キッチンから出て行ってしまった。







「……そうか、彼は聖職者だったわね」



 隠れて色々している者もいるが、彼はどうやら女性関係が激しいタイプではないようだ。


 しかし今の私の見た目は10歳の子供な訳で、それに見られて照れているのは……ちょっと怖いな。




「一応……気をつけとこ」



 








 彼が夕食を出してくれた。

 私は一緒に食べようと誘われる気がして、逃げるように自室に戻り、テーブルの上に昼から残していた食べかけのパンを小さくちぎって口に入れた。


 味気ない夕食を済ませ、ビンに入った水を飲んで一息着いた。





 空は夜のとばりが降りて、星が一つ二つと増えていく。


 開けっ放しの窓の外から聞こえる食堂からの皆笑い声に、私はそっと窓を締めてカーテンを引く。



 暗くなった自室を見渡してから、私は寝間着に着替えてベッドに入った。



「……明日起きた時に、私はまた……」



 一人になる


 と、言いかけて止める。




「見送りしなかったら、アリアは怒るわね」






 フフッと笑い、私はゆっくり瞼を閉じた。






 


 


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