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「転移と出会い」

試し書きです。


 人々の住処がダンジョンに蝕まれてから、しばらくの月日が流れた。



 ヨデンターニ=コロニー周辺のダンジョン。



 照明も無いのに妙に明るい地下洞窟。



 その第8層。



 そこに年若い少年たちのパーティが見えた。



 少年たちは全員が、剣や鎧で武装していた。



 魔獣が潜むダンジョンに潜るのなら、当然の格好だと言えた。



「おら、おまえの仕事だ」



 チームリーダーのアズマ=コウスケが、偉そうに仲間に命じた。



「わかってるよ……」



 命令を受けた少年は、アカサキ=リュウ。



 背の高い赤髪の美少年で、外見だけを見れば立派なものだ。



 だが彼の立場は、このパーティの中で1番ひくかった。



 下っ端である彼は、しぶしぶと宝箱の前にしゃがみ込んだ。



 ……宝箱。



 その名の通り、中にはお宝が入っている。



 人々が危険なダンジョンに潜るのは、半分は、この宝箱が目的だ。



 宝箱は安全では無い。



 高い確率で、危険な罠がしかけられている。



 危険と向き合うのは、下っ端の役目と決まっていた。



 パーティでの立場が低いリュウは、宝箱の罠を処理しなくてはならない。



 リュウは宝箱に手を伸ばした。



「チンタラすんなよ。『スキル無し』」



 コウスケはそう言って、リュウを睨んだ。



 スキル無しとは蔑称だ。



 『ユニークスキル』を持っていないという意味だ。



 人々は、ダンジョンで魔獣と戦ううちに、固有の異能に目覚める。



 『ユニークスキル』とは、その異能のことだ。



 強力なスキルは、ダンジョン攻略において、大いに役に立つ。



 だが、全員が円満にスキルに目覚めるわけでは無い。



 スキルが目覚めるのが遅い者や、死ぬまで目覚めない者も居る。



 リュウは前者か後者か。



 それはわからないが、何にせよ今のリュウには、スキルの力は無かった。



 ヨデンターニの冒険者の間では、スキルが無い者は、他者から見下される。



 他に長所が有ったとしても、その蔑視から逃れるのは難しかった。



 リュウは周囲から見下されている。



 結果として、彼は危険な宝箱と向き合うハメになっていた。



 周囲の急かす視線を受けて、リュウは宝箱に触れた。



(『トラップ解除』)



 リュウは心中でスキル名を唱えた。



 これはさきほど説明したユニークスキルとは異なる。



 『ジョブスキル』だ。



 ダンジョンの宝箱からは稀に、ジョブスクロールというものが出現する。



 そのスクロールを使用することで、人々は『ジョブ』の力を一つだけ得ることができる。



 ジョブの力には、さまざまな種類が有る。



 戦士、魔術師、治癒術師など。



 どれも戦闘に役立つものばかりだ。



 ヨデンターニの冒険者学校では、全ての生徒に下級職のスクロールが配られる。



 リュウのジョブは『トレジャーハンター』だった。



 戦闘力で劣る代わりに、『トラップ解除』などの便利なスキルを身につけることができる。



 リュウは望んでトレジャーハンターになったわけでは無い。



 スキル無しにはトレジャーハンターがお似合いだ。



 そう言われて、しぶしぶそのジョブを選んだ。



 おかげでリュウの戦闘能力は、仲間と比べて見劣りする。



 リュウはさらにうだつが上がらない存在になった。



 宝箱の処理をするだけの役立たず。



 彼はそんな存在に成り下がってしまっていた。



 今回も、押し付けられた役目を果たすべく、リュウはスキルを発動させた。



 見習いであるリュウの『トラップ解除』は、成功率が三割ほどしか無い。



 7割の確率で、罠をその身に受けることになる。



 1割ほどの確率で、罠がかかっていない宝箱も有る。



 だがそんな事は、リュウにとっては気休めにはならなかった。



 さておき。



 リュウのジョブスキルが、宝箱のトラップに働きかけた。



 そして……。



(しまった……!)



 スキルは失敗に終わった。



 トラップが発動する。



 リュウはスキルがもたらす感覚によって、それを悟った。



(頼む……! 毒針来てくれ……!)



 リュウはそう願った。



 宝箱のトラップには、さまざまな種類が有る。



 毒針は、それらのトラップの中で、もっともマシなものだ。



 毒針が放たれ、宝箱を開けようとした者に襲い掛かる。



 リュウの安物の防具では、それを防ぎ切るのは難しい。



 針を受ければ当然に、体が毒に蝕まれることになる。



 苦しくつらい。



 つらくはあるが、他の殺傷力の高いトラップに比べれば、ぜんぜんマシだ。



 毒消しポーションを飲むか、解毒の呪文で治療を受ければ、それで済むのだから。



 パーティの被害は最小限で済む。



 解除役の精神的苦痛が、安いと言えるかは別問題だが。



 リュウは毒針の到来を待った。



 だが……。



「っ……!」



 リュウは狼狽を見せた。



(魔法陣だと……!?)



 宝箱の周囲に、赤い魔法陣が出現していた。



 毒針の前兆……などでは断じて無い。



 下級トラップである毒針に、このような派手な前兆は存在しない。



 魔法陣は、上級トラップの前兆に相違ない。



 上級トラップとは、即死すらありうる凶悪無比なトラップたちの総称だ。



 それが発動した。



 してしまった。



 どう備えれば良いのかもわからず、リュウは体を固くした。



 そして……。



 リュウの体がルームから消滅した。



「おおっと、テレポーターか」



 コウスケがそう言った。



 彼のにやけた顔は、他の仲間からは見えなかった。



「テレポーター……?」



 仲間の少年、イセ=ケンタが疑問符を浮かべた。



「それくらい知っとけよ。


 良いか。


 テレポーターってのは、


 罠にかかった奴を


 ランダムでダンジョンのどこかに飛ばす


 上級トラップだ」



「上級……!?」



「そうだろ?


 魔法陣が出たんだぜ。


 大げさに。


 だから上級だよ」



「ここはまだ8層なのに……」



「何層だろうが、出る時は出るさ。


 宝箱のトラップってのはそういうもんだ。


 今日のあいつは運が悪かった。


 それだけの話だろうぜ」



「っ……。


 上級トラップってことは、


 リュウの奴は死んじまったのか?」



「どうだろうな。


 テレポーターの転移先は、迷宮全体だ。


 運が良くて上の方に出てたら、


 助かる可能性も十分に有る。


 けど確率で言えば、


 下の方に出る可能性の方が高いだろうな。


 あいつは七割は死んだ。


 そう思うぜ」



「……どうする?」



 もう一人のパーティメンバー、ミシマ=ヤスアキが尋ねた。



「どうって?」



 コウスケは尋ね返した。



「どうって……じゃないだろ。


 生きてるなら探してやらないと」



「ん? ああ」



「まさか……見捨てるつもりか?」



「探すさ。


 けど、あんまり下まで行くのは無理だぜ」



「わかってる」



(チッ。


 即死トラップで消し炭にでも


 なってくれりゃあ良かったものを。


 ……面倒かけやがって)



 コウスケは内心で毒づいて、リュウの捜索を開始した。




 ……。




(ここは……?)



 景色が変わった。



 それを感じたリュウは、キョロキョロと周囲を見回した。



 変わったと言っても、床や壁面の材質は、今までと変わりが無い。



 どうやら彼が居る所は、ダンジョンで間違いが無さそうだ。



 ……だが一つ、大きな問題が有った。



(出口が無いぞ……?)



 前後上下左右。



 全ての方向が、岩壁によって遮られていた。



(閉じ込められた……!?)



 脱出できなければ、飢え死にが待つだけだろう。



 あるいは酸素が尽きるのが先かもしれない。



 そう思ったリュウの心が、恐怖に飲み込まれた。



 リュウは岩壁に駆け寄った。



 そして壁をドンドンと叩いた。



「誰か居ないか!?


 ここから出してくれ! 誰か!」



 リュウの言葉に答える者など居ない。



 それを悟ったリュウは、がっくりと肩を落とした。



「クソ……」



 そのとき。



「誰か……そこに居るのですか……?」



 自分以外の何者かの声が、リュウの耳を揺らした。



 高い声だ。



 女性のように聞こえた。



 リュウは即座にその声に答えた。



「ああ! 居るぞ! 頼む! 助けてくれ!」



「助け……。


 何かお困りのご様子ですね」



「閉じ込められてるんだ! そっちから開けられないか!?」



「そっちというのは?」



「え……?」



「私とあなたは、


 同じ部屋に居るように思われるのですが」



「……!?」



 リュウは慌てて室内を見回した。



 だが……。



「誰も居ないじゃないか……?」



 リュウはこの室内に、自分以外、誰一人として見つけることはできなかった。



(まさか幻聴じゃないだろうな……?)



 リュウが戸惑っていると、また同じ声が聞こえていた。



「……これで分かりますか?」



 すると地面の片隅で、チカチカと光る物が見えた。



 リュウはその光へと近付いていった。



「これは……?」



 リュウはそこで、金属製の物体が点滅しているのを発見した。



「何だこりゃ?」



 やや細長いその物体が何なのか、リュウには判別することができなかった。



 するとその物体は、こう答えてきた。



「ベルトです」



「ベルト……? ずいぶんとゴツいな」



「ただのベルトではありませんから」



「つまり……何なんだ?」



「私は……。


 アシハラ自衛隊、


 特務部隊ドラグファイブ所属


 白兵戦型オーダーメイドエクストラマキナ


 識別名称ドラグマキナ


 タイプレッドナンバー999。


 その補助AIです」



「……………………どゆこと?」






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