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アルケミ★リビドー!

数年来使ってこなかった力がある。錬金術だ。

いや、金を作るわけじゃないから錬成術という方が正しいか。僕は他人の性欲が宿った物を何かに変えることができる。


初めて能力に気づいた時は小学生の時、土手に捨て置かれたエロ本をコロコロコミックに変えてしまい「独り占めしたくてすり替えた」と濡れ衣を着せられた。意味がわからなかったのでエロ本を探し出し、許してもらおうとするも快楽天やデラべっぴんはいつの間にか違う雑誌になっていた。

等価交換などというが、少なくとも当時の僕にとっては等価でもなんでもなかった。エロくなければ、勃起しなければ価値などないのだ。



そんなことを思い出したのは夜中の田んぼで竿を担いでポイントへと向かっている時だった。趣味のナマズ釣りのために訪れたポイントは初めてきた場所で、なんとも雰囲気のある茂みが目に入った。

額に巻いたヘッドライトのスイッチをオンにして草むらを照らすと蛙が鳴き、羽虫が飛んだ。


電柱の足元をスッと照らすとゴミが積もっている。夜釣りのタイミングでバッティングしたことはないが、昼間も釣りにくる人がいるんだろう。そして誰も見ていないことをいいことにゴミを放置していくのだ。嫌な気分だがペットボトルだけは自宅に持ち帰ろうと思った。ちょうど明日は回収日だし、中身を捨ててビニール袋に突っ込んだ。

その下のある結び目のある銀色のビニール袋。嫌な予感がするし、ペットボトルを回収するだけで十分だと自分でも思っている。ボランティアに来てるわけじゃない、釣りに来てるんだ。


釣り場で出会うゴミは要注意で小動物の死体とか、想定していないものに出くわしたこともある。本当に気が滅入る。手に持った感じ、そこまで重たくはない。死体ではなさそうだ。僕はゆるい結び目を解いて中身を地面に落とした。

ヘッドライトで照らしてみると赤い帯状の物が見えた。

首輪だ。

しかも人間用の。

犬や猫用の首輪とは全然違う。幅とか長さじゃなくて質感がチープなのだ。犬や猫が四六時中、装着するためのものに対して、人用はそうじゃない。インスタントでその場が盛り上がりさえすればいい、ペラペラの合皮にチャチな金具、比べるべくもなく質の低い代物だ。おそらく赤い首輪につなげて使うであろう手首、足首用の拘束具も見つかった。



僕が能力を使ってこなかった理由はいくつかある。

一つ目は何らかのエロい行為に使用された物が触媒になると言うことだった。自分が使用したものを錬成に使うことはできなかった。他人がエロいことに使ったものを探すのに手間がかかる。


次に自分の欲しいものを錬成することができない。二十歳の頃、どうしてもバイクが欲しくていろんなものを錬成したがバイクにはならなかった。なぜかヘルメットは3つも錬成できてしまいすごく邪魔だった。


最後に錬成されるものは僕とも関係がなければ持ち主とも関係がない。だから触媒となるものを何かに錬成したとしても元の持ち主がわかるとかそういう力はない。おかげで僕は性犯罪を解決できないし、関わりを持たずに済んでいるとも言える。


また性欲や愛着の強さが錬成に関わることがわかっている。大学生の時に付き合っていた彼女にもらった「16の時からほぼ毎日使ってきたがついに壊れたバイブ」を錬成に使ったら立派な日本刀になった。僕は売って金に換えたかったが彼女の強い反対にあい、別れた今も桐の箱で保管している。銘をくれって言ったら「ペニちゃん」って言われたので即却下した。今も無銘のままだ。



こんなチャチな首輪と拘束具が何になるのかあまり興味は持てない。経験上、大したものにはならない。

今までで一番ヤバかったのは歩道橋に落ちていた人糞だった。ティッシュが被せてあったがスライム状の人糞が存在感と臭気を放っていた。

あの時も夜だった。

犬の散歩に歩道橋を使うだろうかとか犬の糞にティッシュをかぶせるだけで立ち去る不届きな飼い主はいるだろうかなどという疑問が浮かぶ前に、人のものだと量で主張していた。

我慢できなくて致し方なくってパターンも考えたが、「え〜ん、漏れちゃう漏れちゃう〜!」って時に歩道橋を上るか? 膝と膝を擦り合わせて火おこしでもしそうな時に階段を?

いやー違うと思うな、やっぱり誰かが誰かに命令されてそこで致したんだと思う。よく見れば下に新聞紙が敷いてある。万端とは言えない準備が人の業を感じさせた。


その時は自分の能力に感謝した。人糞に触れることなく、何か別のものに変えて処理できるんだから。誰が掃除をするんだか知らないが人糞よりはマシなものになるだろう。

結局その人糞は綺麗なサシの入った立派な霜降り肉に変わった。

錬成したら冷蔵庫くらいありそうなサイズの赤い塊となり歩道橋の階段をゴロゴロ転がって落ちていき、下に止めてあった自転車を数台薙ぎ倒した。僕はさっきまでの自信というか驕りが恥ずかしくなり走って逃げた。今でも人糞と100キロの生肉、どっちが良かったのか考える。


僕の能力の傾向として、価値がものすごく上がる。ただし、自分には使い道がなかったり手に余るものであることがほとんどだ。

件の日本刀ももしかしたら売れるのかもしれないが、誰が作ったかなど誤魔化さなくてはならない事案が多すぎる。

A5クラスの霜降り肉(後日話題になったネットニュースにそう書かれてあった)は、牛から切り出したとは思えない立方体をしており、自前で食肉工場に運んだところで不振がられて買い取ってはもらえないだろう。かといって自分で食べるとしたら百分の一がせいぜいと言ったところだ。


だからこの拘束具も僕の手に負えないものになるだろう。だが車に乗せられないほど大きくなるとも思えない。僕は手をかざし久しぶりに能力を発動した。


何も起きなかった。何度か試してみたが拘束具はそのまま地面でとぐろを巻いており、何かに変わっていると言うことはなかった。そうか、僕の異能もいつの間にか賞味期限が切れたんだな。今までろくに使い道のなかった能力であったがいざ使えなくなってしまうと惜しい気がする。


拘束具をビニール袋に詰めると軽四に載せて近くのコンビニまで走らせた。本来GOODな行為ではないがペットボトルの蓋とパッケージを剥がしてゴミ箱に投げ入れ、残りは不燃物のゴミ箱に押し込む。

入り口付近で溢れそうになっていたゴミがポトリと手前に落ちてしまった。エロ本だった。この辺りのコンビニは長距離トラックが止められるように大きな駐車場を備えているところも少なくない。僕がいる店舗もそうだ。駐車場の端のほうに2台ほどバスのように長いトラックが止まっている。なんとなく長距離ドライバーのお供だったのかなと拾い上げ、使えなくなった能力を懐かしんでいたら気付けば表紙の熟女風女性がいなくなり、なんだかよくわからない楽譜のようなものに変わっていた。

楽譜が読めない、楽器が弾けない僕にはやはり無用の長物であったが、それよりも驚いたのは能力が消えていなかったことだ。そうか、そう言うパターンもあるのか。僕はそのポイントに二度と近づくことはなかった。

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