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そうして、互いに十六歳になるころには、スウェイは槍と近接戦闘、時間短縮系の治癒魔法を得意とする、武装メイドになっていた。
残念ながら、彼女は奴隷だから神官にはなれなかった。
もっともなりたいと願う存在に、身分が邪魔をしてなれないというのは、とても辛い現実をわたしたちに経験させる。
わたしは柄にもなく、建築学や植物学、薬学に剣術が得意という、貴族令嬢らしからぬ女に成長していた。
「ラバンシア伯爵令嬢リシェル様。この十年に及ぶ長い期間、通信課程とはいえわが学院の一般過程をよくぞ修められました。担当させていただきましたこの、ブレア。あなた様を誇りに思います」
「先生……」
「いよいよ、明日。卒業ですね」
そういわれたとき、わたしは胸になにか誇らしいものを与えらえた気がした。
ここで死ぬまで過ごすとしても、一人の人間として認められたと自覚できた。
それが、わたしの心から両親に見捨てられたという卑屈さを、消し去ることはなかったけれども。
でも、生きることに対しての後悔は少しだけ消えていた。
「そういえば、妹君が光の属性を開花させたとか。そのようなうわさがこちらにも流れてきていますよ、リシェル」
「……あの子。そうですか」
「君の闇の属性は決して、魔を呼び寄せるようなものではないのに。光の神を信じるというだけで、あなたをその部屋に押し込めておくことは、稀有なスキルを持つ人材を埋もれさせたままに等しい。愚かなことだ」
「そうかもしれません。でも、先生のような考え方をする人が、この王国にはいませんから」
ここで生きてきた合間に、妹が光の属性のスキルに目覚めて両親から褒められて誇らしげにしていたと聞いたこともある。
認められたのね、と羨ましい気持ちはあったけれど、いまさらここから出て親に褒められたいとは思わなかった。
正直に言えば、怖かったからだ。
外の世界に出ることについてではなく、また両親に拒絶されることが怖かった。
六歳のあの日。
父親から向けられたあの殺意の込められた視線が、どうしても脳裏から離れないからだ。
またあの時のように体が鉛のように重くなり、息をすることを忘れてしまうような目に遭うくらいなら。
何も望まずに、ここで生きている方が何千倍もよかった。
「決して、あきらめないように。そのスキルを与えたということは、神はあなたを見ているということになる。心を狂わせないように」
「先生、いつか。いつか、ご挨拶に……まいります。自由になれたなら。きっと」
「ええ、いつか。待っていますよ。私の賢いリシェル」
「半分だけ、ですわ。先生」
一人と画像の向こうにもう一人。
たったふたりだけの卒業式は粛々とおわった。
最初は泣かないと決めていたのに、帝国学院の校歌を斉唱する頃になったら、鼻水と涙でわたしの顔は、ぐしゅぐしゅになっていた。