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‥‥‥すんっと鼻が鳴る。
ふう、と大きく息を吸いこむ音が聞こえた。
むうー‥‥‥、とまた頬を膨らませている。
「落ち着いた?」
「それは大丈夫。まったく、私のこの大事な尾を欲しがるなんて、命知らずな狩人だと思った次第です」
「でも、武器があるんじゃね?」
敵わないでしょう? と首を傾げると、はあ。とため息が漏れる。
また目を伏せて、視線を泳がせる彼女は確かに、やさぐれた狼のようで可愛らしいかった。
「銃を持っておりました。私は黒狼という狼の獣人の種族らしいですけれど」
「うん?」
また視線が逸らされる。
今度は巨大な絶壁をくり抜いた短いトンネルを抜け出たところで、向こうにはずいぶんと生い茂った森林が見えていた。
あの緑の大海に戻りたいのだろうか?
狼だけに?
「奴隷として売られたいきさつは知りません。でも、私にも属性があります」
「あー……ブレア先生が話されていたわね。黒狼族もまた闇の属性を持つ、だったかしら」
「ええ、そうです。お嬢様」
力を込めて抱き寄せていると、そろそろ話してくださいとお願いされた。
丁度いいので、ここで考えていることを吐き出させてみようと思う。
喉元に肩を当てて、ぐいっと首を絞めてみる。
ぐえっと声が出た。
なんだかおもしろい。
「それで、どうしたいの? 復讐? それとも意趣返し?」
「なんですか、それ。げっ‥‥‥締めすぎ」
「学院仕込みの体術だから、まだまだ締めることもできるけれど?」
「やめて下さい! 殺されてしまいます、冗談にならないんだから‥‥‥リシェルは思いませんか。さっきの食堂車でのこと」
「ご婦人? パーシャ様、お元気になられたかしら?」
「それもありますっ。後から食堂車で耳に挟んだ声だけでも、よい評価だらけでした」
「そうなんだ。ありがたいわね」
「だから、ですよー。もっと感謝されてもいいではありませんか。そんなに優秀な治癒の‥‥‥恵まれたスキルを与えられているのですから」
「うーん」
彼女はわたしの腕のなかで落ち着きを取り戻してくれた。
恨みや悲しみに暮れている彼女よりも、いつものスウェイがいい。
本当に。
わたしはスウェイを見下ろし、困ったように室内に視線を彷徨わせる。
「新しいことに夢を見るのはいいと思うの。でも、それより足場をきちんとしないと」
「お子様たちのことですか」
「そうね。双子ちゃんはまだ学院だし次女のカイエはようやく六歳。これから学院に通う歳だから」
「あと一年あれば、三人が同じ場所に――」
「そういうことなの。だから期間は一年。その間に、わたしは手に職をつけてあの子たちを迎える場所を作らないといけない」
「お嬢様の幸せは――」
「子供を持ったら、親のそんなもの、二の次だと思うの」
そういう意味ならば、この子だって奴隷として不遇な時間を過ごして来たのだし。
地下に押し込められていたわたしよりも、それは悲しみに満ちた人生だったと思う。
こっちはまだ伯爵令嬢として扱われていたし、結婚もできたのだから。
裏切られたけれど――。




