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借りている客室の番号を告げたのは早計だっただろうか?
しかし、あのパーシャ様がもしこのあと、二度目の痛みを感じたなどの不測の事態が起こらないとも限らない。
車掌さんに、「後ほど、ご挨拶に参ります」と言われたけれど‥‥‥。
「わたしって、大したことしてないわよね?」
「そうでしょうか。誰もが嫌がる治療を引き受けただけでも、大したものだとスウェイは思いますけれど」
獣人の侍女はわたしが治療をとりあえず施せたことに満足気な様子だった。
この子になにかそそのかされてやったような気もするけれど、確かに。
苦しまれている方が、治癒魔法によって安堵の表情を取り戻すのを目にすれば、こちらも救われた気分になる。
その意味ではやってよかったな、と思いながらある問題を思い出して、失敗したわね、と呟く。
「どういたしました? あー分かりました。お食事ですね」
「……声に出さなくてもいいじゃない。意地悪‥‥‥」
スウェイはちょっと不思議そうな顔をする。
食堂車にいたのだから、そのまま食事を摂れば良かったのに。
そんな表情が、ありありと見て取れた。
「どうして意地悪? ああ、お嬢様は意外と内気ですものね。患者様が回復されたのを見たら、恥ずかしくなってその場に居続けるのがつらくなった、と」
「そっ、貴方どうしてそんなにわたしに詳しいの!」
「まあ、十数年。侍女をしていますから」
褒められるのが慣れてないんですねー、と言い、彼女はニマニマと笑った。
とっても悪い笑みだ。
スウェイに後押しされて頑張って治療して来たのに。
‥‥‥わたしの心はちっとも癒されない。
お腹も同様で、ぐっーと大きな音を立てて食事を催促していた。
「あらら、大変。大きな魔獣をお腹に飼っていらっしゃいますね、お嬢様」
「いいから、もう! 何か買ってらっしゃい!」
「はいはい。行ってまいります、頑張ったご褒美にケーキなどもあればいいですね」
「もう‥‥‥」
ケーキはわたしに対するご褒美じゃない、絶対に違う。
スウェイのおやつにするための悪だくみだ。
まったくもう。少しだけぼやいた。
あんな大勢の前で治癒行為を施したことなんて、生まれて初めての経験。
赤の他人から感謝されることも拍手を受けることもこれまでなかった。
「忌まわしい闇属性は必ず悪意を誘い込むと言われ続けてきたのに」
右手側にある車窓の景色は目まぐるしく変わっていく。
わたしのこれからも、こんな景色のようにめまぐるしく早くそして良い状況になってくれるようにと、小さく祈ってしまった。
誰に?
不思議なことだけれど。
思い返してみれば、わたしはその時、生まれて初めて闇の神に対して頭を垂れたような気がする。
それほどに人に感謝されるということは、とても大きな衝撃だった。




