↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/83

30

 借りている客室の番号を告げたのは早計だっただろうか?

 しかし、あのパーシャ様がもしこのあと、二度目の痛みを感じたなどの不測の事態が起こらないとも限らない。

 車掌さんに、「後ほど、ご挨拶に参ります」と言われたけれど‥‥‥。


「わたしって、大したことしてないわよね?」

「そうでしょうか。誰もが嫌がる治療を引き受けただけでも、大したものだとスウェイは思いますけれど」


 獣人の侍女はわたしが治療をとりあえず施せたことに満足気な様子だった。

 この子になにかそそのかされてやったような気もするけれど、確かに。


 苦しまれている方が、治癒魔法によって安堵の表情を取り戻すのを目にすれば、こちらも救われた気分になる。

 その意味ではやってよかったな、と思いながらある問題を思い出して、失敗したわね、と呟く。


「どういたしました? あー分かりました。お食事ですね」

「……声に出さなくてもいいじゃない。意地悪‥‥‥」


 スウェイはちょっと不思議そうな顔をする。

 食堂車にいたのだから、そのまま食事を摂れば良かったのに。

 そんな表情が、ありありと見て取れた。


「どうして意地悪? ああ、お嬢様は意外と内気ですものね。患者様が回復されたのを見たら、恥ずかしくなってその場に居続けるのがつらくなった、と」

「そっ、貴方どうしてそんなにわたしに詳しいの!」

「まあ、十数年。侍女をしていますから」


 褒められるのが慣れてないんですねー、と言い、彼女はニマニマと笑った。

 とっても悪い笑みだ。

 スウェイに後押しされて頑張って治療して来たのに。

 ‥‥‥わたしの心はちっとも癒されない。

 お腹も同様で、ぐっーと大きな音を立てて食事を催促していた。


「あらら、大変。大きな魔獣をお腹に飼っていらっしゃいますね、お嬢様」

「いいから、もう! 何か買ってらっしゃい!」

「はいはい。行ってまいります、頑張ったご褒美にケーキなどもあればいいですね」

「もう‥‥‥」

 

 ケーキはわたしに対するご褒美じゃない、絶対に違う。

 スウェイのおやつにするための悪だくみだ。

 まったくもう。少しだけぼやいた。

 あんな大勢の前で治癒行為を施したことなんて、生まれて初めての経験。

 赤の他人から感謝されることも拍手を受けることもこれまでなかった。


「忌まわしい闇属性は必ず悪意を誘い込むと言われ続けてきたのに」


 右手側にある車窓の景色は目まぐるしく変わっていく。

 わたしのこれからも、こんな景色のようにめまぐるしく早くそして良い状況になってくれるようにと、小さく祈ってしまった。


 誰に?

 不思議なことだけれど。

 思い返してみれば、わたしはその時、生まれて初めて闇の神に対して頭を垂れたような気がする。

 

 それほどに人に感謝されるということは、とても大きな衝撃だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。