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神官は続ける。
「光の神はそのやり方を好まない。だから、お前の家で保護すればよい」
「保護‥‥‥だと?」
「そうだ。闇の属性ならば、闇を好むだろう。光の属性ばかりを持つ者たちの目に入れば、我々を含めて不幸を招き寄せるかもしれない」
「……だから、なんだ? 地下牢にでも入れて、太陽の光から隔離しろ。人目に触れさせるな、そう言いたいのか?」
そうだ、と神官は頷いた。
わたしが与えられた属性を利用して、悪いことを目論む連中に誘拐などされたらいけないから。
「だが、そうなったら。どうする? この後、この子には学院に‥‥‥通わせる義務がある」
「ああ、そういうものもあったな」
いま思い出したように、神官は困ったような顔をした。
カナルディアの王国に住む、貴族の子供は六歳から十六歳までの十年間。
全寮制の学院に行かなければならないのだ。
今から思えば、十年間。
両親と離れて過ごすか、隔離されて、両親と顔を合わせないのか。
ただ、それだけの距離感ではあったけれど。
それは、どちらにしても辛くて悲しい年月だということは、間違いないものだった。
神官はしばらく考え、母と妹、それから父を見回して、おごそかに言った。
神の神託を告げるかのように。
「光の真逆のスキルは、不幸を呼ぶ、隔離しろ」
「……仕方ないな」
「教育に関しては、家庭教師はまずいな。スキルに引き寄せられて闇に堕ちる可能性がある。通信教育を学ばせればよいだろう。しかし、腐っても伯爵令嬢だ」
「そうだ。我が家から追放しても、どこかで問題を起こせば、追放した側にも責任が付きまとう」
「だからと言って、殺すというわけにはいくまい?」
「……それも必要なら」
決断するかのように言った父親の目は、死んだ魚のように無機質なものに見えた。
凍てつく冬の寒さを背筋に感じて、わたしは思わず、一歩うしろに後ずさる。
「子供を殺すことは大罪だ。神は許されんぞ」
「くっ‥‥‥屋敷に閉じこめても、誰が世話をする? その者もまた闇に引き寄せられるだろう。結果は一緒じゃないか」
「どこか別邸にその場を設ければいいだろう。結界を張り、身のまわりの世話をする者は神殿から、女官を派遣してやろう。彼女たちは光の属性を持つ。闇堕ちする理由はない」
「それで、それで陛下やその他の貴族が満足するなら、な。俺はそうは思わない」
「子殺しの大罪を背負うよりはまだリスクが低い気がするがな? 神殿として陛下には伝えてやらんこともない」
「金か? 下衆が‥‥‥。なぜ、闇の属性があるのに殺そうと思わない!」
父の叫びが礼拝堂に響いた。
罪人として生きるなら、この手で娘を殺してやりたい。
そんなふうにも聞こえて取れた。
もっともそこにあったの親の愛情ではなく、伯爵家の面目を守るというそっちの方が強かった気がする。
「お前は金を支払い、領主であり続ける。神殿は闇の属性を保護していることにより、他の神の神殿に対して大きな顔ができる。この国には、他の神を崇める信徒も多いからな。どうだ、悪い話ではないだろう?」
「生臭坊主が‥‥‥いいだろう」
ひそひそ、と頭上で交わされるその悪だくみは丸聞こえだった。
いいのか、本人の真上でそんな話して?
それは後年になって理解したことだけれども、このとき、わたしの命は救われたのだ。
金と家の体面と、光の神を崇める神殿の面目によって。




