25
スウェイは決して短絡的な考えで発言をしたりはしない。
まだ見知らぬことに対しては、石橋を叩いて渡る性格である。
そんな彼女が「人助け」と言い出した。
これはなにかあったのかな、と訝しんでしまう。
「どういうこと‥‥‥?」
「いえいえ。お嬢様は治癒師の資格をお持ちですし。多分――」
と、スウェイはガラスの引き戸を開けて通路側に顔を出した。
つられてその方向をわたしも振り返る。
車掌さんと思しき、衛兵ようなそれでいて温かみのある青色の制服に身を包んだ、初老の男性が困り顔でそれぞれの座席の扉をノックし、なにかを確認しているように見えた。
彼はしきりに頭を下げ、誰かに協力を依頼しているようにも見えた。
何かしら、とスウェイを見やる。
彼女は「きたきた」と待っていたかのように、尾をぴくっと上げてそう言った。
「ちょっと! 何を期待しているの」
「いえいえ。悪い事ではありません。あちら、この列車の運行会社の人だそうです」
「それくらい見れば分かります」
話している間にも、スウェイが空け放した扉からは、三つ向こうの席のやり取りが聞こえてくる。
車掌さんは「病人のようなのです。どうか治療を」とお願いして、裕福そうな紳士は頑として首を縦に振らないようだ。
「なんだと? 私の治癒師としての腕を、貴族ではなくたかだか平民に使えと申すか!」
「いえ。決してそのような無理を強いているわけではないのです。ただ、誰かあのご婦人の窮状を救ってやっていただければ、と‥‥‥」
「金だ! 王立学院で学びこの王国の認可を受けたこの私の腕を振るえというならば、金を用意しろ! 鉄道会社が払うなり、当人が支払うなりそれは構わん。ただ働きはできんな」
「鉄道では立て替えは可能ですが、しかし‥‥‥」
「つまりできないということだろう? ならば、次の駅で降りて医者にかかるか、それとも他の医者を探すか。どちらかをされてはいかがかな?」
バンっと勢いよく扉が引かれる音がする。
可哀想に車掌さんは困り果てた顔をしながら、しきりに謝罪するようにその閉じられたガラス戸の向こうに、頭を下げていた。
「たかだかこの王国の認可でしょうが‥‥‥病人を放っておいてなにが治癒ですか」
「お嬢様の出番かと愚考致します」
あの紳士のあまりもの人でなしぶりにわたしが憤慨していると、隣でスウェイが得意そうに言った。
出番どうこう以前に――と、そこで思いつく。
スウェイがその痛みを訴えたご婦人にその場でできる限りの処置を、それを知れぬように施してもどってきたのかな、と思った。




