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【書籍化】あなたはもう必要ありません  作者: 秋津冴
プロローグ
2/83

2

「女神様を侮辱する行為になるぞ、伯爵。だが、これはあなたの責任でもないし、奥様の責任でもない。どこの誰と誰が交わろうが、産まれてきた子供に与えられるスキルは、最初から女神様が決めている」

「つまり――」


 父は数歩、神官に詰め寄るとそっと質問する。

 それは彼らの足元に佇んでいたわたしにも聞こえた。


「妻の不貞が‥‥‥そんな、愚かなことは考えたくない。だが、それはあり得ない、と?」

「その心配はない。あったとしても、生まれた子供が持っているスキルは何も変わらん。彼女の‥‥‥リシェルが産まれた年月日、そして時間、分から秒に至るまで神は把握なさり、そして、スキルをお配りなさる」

「もし、それが誤りだった時。あんたはどうするつもりだ、神官」


 不貞、という言葉の意味は分からなかった。

 だけれども、父が母を強く疑っていることだけは理解できた。

 下から見上げたとき、父の顔には焦りと怒りの二つが混在したから。


 どうしてもここでそれを晴らしたい。

 この問題を解決できないと困ったことになる。

 そう、父の顔色はわたしに教えていた。


「……全部、わたしが悪いのですか。神官様‥‥‥?」

「お前は黙っていろ、リシェル。俺はこれを受け入れることはできんっ!」

「お父様」


 その時、一瞬だけ。

 父親のことを頼もしいと思ってしまった。

 自分を庇ってくれそうだと期待したから。

 でも、違った。


「お前の属性をこのまま受け入れたら、我が伯爵家は世間から笑い者にされてしまうのだ。この愚かな娘のせいで、三百年続いた我が家の輝かしい栄光は地に堕ちるんだぞ! お前が生まれてきたせいだ」

「えっ」

「娘にあたるのは良くないぞ、伯爵。お前がこの世に生を与えたその子に憎しみを向けるなど、どうかしている」

「くっ‥‥‥。ならどすればいいんだ、神官。ここにはみんなが集まっている。この地方の貴族の子も多い」

「分かっている。もう噂は広まるだろう」

「打つ手がないではないか!」


 お父様の言葉に、わたしを気遣うものなど、なにもなかった。

 今まで与えられた優しさはなんだったのか。

 娘として可愛い、自慢の子供だと、かけられたあの言葉は、嘘だったのか。

 六歳にして、わたしが初めて知ったその感覚。

 それは、絶望という恐ろしいものだった。


 わたしはおそるおそる、拒絶をしめすその瞳に向かって手を伸ばす。

 父親の腰ほどにしか背の無いわたしが伸ばすそれは、父の胸元くらいには届くはずだった。

 でも、その手は届かない。

 神官によって、そっと握られたからだ。


「打つ手はある」

「なんだとっ?」

「打つ手はある、とそう言ったのだ。落ち着こうではないか、伯爵。この子が魔王になると神託が降りた訳でもない。ただ闇属性のスキルを授かったというだけで、差別することは良くないだろう?」

「……」


 父はよく分からん、といった顔をした。

 その手で、わたしを押しのけるように、遠ざける。

 てっきり抱き寄せられるかと思ったわたしは、また心に一つ、穴が開いたのを感じた。

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