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レダーは釈明するように語る。
「大旦那様はお嬢様を手元に置かれておくことは危険だと思われた様子」
「手元に置いておいた方が安全じゃないかしら。あれだけ家にこだわったお父様が、いまさらわたしを自由にする理由になっていないわ」
だってそうではないだろうか、と思ってしまう。
兄と元夫が実家をどのようにしようと、それは現当主の決めたことなのだから、好きにすればいいのだ。
わたしは、もう追い出された身。
こんな車上で、父親の胸の内を部下に語られても、困惑するのみだ。
そんなわたしを無視して彼は言葉を続けた。
「王都にはロメロ様が、かつてのあの屋敷にはまだ、エドワードの手が伸びることもあります」
「それならもう、残りは真っ直ぐに行くしかないわね。この国から出て行け、とでも言いたいの、お父様は?」
レダーは静かに頷く。
その通りだ、とでもいうかのように。
彼は胸元を探ると、一つの包みを取り出した。
それは長細い折りたためる財布のようになっていて、革の背表紙をもつ手帳でもあった。
二つ。
赤と青のその二通をスウェイが受け取り、中を見ていいかと目で確認する。
わたしは小さく許可をだした。
「これは――身分証明書? 旅券もございますが‥‥‥」
「帝国行きの旅券です。お二人のものがございます」
「なぜ? 身分証明書ならば、旦那様。いいえ、エドワードが発行したものがあるではないの」
そう問うと、レダーは何もお知りならない、と口もとに密やかな嘲りめいたものを浮かべた。
仕方なく説明するかのように、彼は違いを教えてくれた。
「エドワード様が発行された物は、所詮、国内でのみ通用するものです。おまけに伯爵家の領地のなかでしかそれは効力を持たない。このまま王都に行けばリシェル様は逮捕されたでしょうな」
「王国全土でその効力を発揮しないから?」
「その通りです。貴族が領地を越えて他の場所へいこうとすれば、国王陛下の発行する身分証明書が必要になる。それはきちんとしたものでどこに出しても王国の貴族だということが証明される。逆を言えば、どこにでも行けるということです」
今一つ、要領を得ない返事だった。
だからといってわたしが王都に向かうという保証もないのに。
なぜ、そんなことをする必要があるのか。
「領地と領地の境には、かならず検問というものがございますよ。お嬢様。戻ることを選択なされたのなら、罪には問われません。しかしその元奴隷はどうでしょうか」
「……どういうことですか!」
「主人をそそのかして伯爵領内から、不法に退去するように仕向けた。そんな、冤罪をなすりつけることもできますな。その元奴隷を庇おうとして、たまたま‥‥‥ということも考えられる」
「お兄様とエドワードがそうしろ、と命じたということですか?」
そこまでは申し上げれませんと彼は言った。
ただ、お父様がそれを危惧してこの旅券と身分証明書を用意したのだという理由が、今一つ、実感の沸かないものだった。
「娘にそこまで情けをかけるのであれば、どうして元夫と、自分のもう一人の娘‥‥‥妹のカミーナとの結婚を許したのですか。お父様が反対なさったという声はどこからも耳に入ってこなかったのに」
「お嬢様、それは」
と、今度はスウェイが言いづらそうな顔をして、わたしを見ていた。




