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聖剣の書架  作者: AΨ狂育
8/17

伍頁:異世界昼食

8話です。

最近悲しいニュースが絶えませんね。

今年も半分を過ぎました。

どうか今後は良いニュースが舞い込む事を望みます。

「奪われたって……どのくらい奪われたんですか?」

「ざっと100冊……それもかなり強力な力を持っている本を…」

 ソフィアの血色が段々悪くなっていく。

「僕たちがドラゴンを倒している間にですか?」

「そうなのです……完全に計画的犯行なのです。ドラゴンを召喚したのも恐らく本を奪うための時間稼ぎ……」

 東京にこんなにも甚大な被害をもたらしているのに時間稼ぎだったと言われ、零時はショックを受ける。

「こ、これだけ人を傷つけたり被害出したりしておいてただの時間稼ぎ?!……酷すぎる……」

「ちょっとアンタら、話があるんだがいいか?」

「へ?」

 そこには赤髪の鎧を着た男がいた。

「えっと……君は……?」

「俺はイグニス。イグニス・クリムゾンフェニックスだ。よろしくな」

 イグニスと名乗った男は握手しようと零時に手を出す。

「あ、うん。よろしく」

 二人は握手をする。

「俺お前の事ずっと見てたんだぜ?気づいてたか?」

「え?全然。いつから?」

「お前が試練を受けている時だよ」

 零時は記憶を呼び起こす。

「……え?!そんなに前から?!」

「はっはっはっ、驚いただろ?あ、そうだ!話っていうのはな」

 イグニスは本を取り出し聖剣を引き抜く。

「は?!」

 零時は後ずさりをしながら両手を広げ、シェリアとソフィアを庇おうとする。

「大丈夫だそこの女二人には手なんか出さねーよ。ただお前だ!お前はさっきドラゴンをブッ倒しただろ?!お前の一撃を見て俺は思ったんだ!ぜひお前と戦ってみたいってな!」

 正気を疑いたくなるほど意味の分からない発言をするイグニスに零時は首を横に振る。

「いや無理無理無理無理!!!あんなのシェリアの力借りただけだし!」

「シェリア?ん?どっちの女だ?」

「二人とも!答えちゃダメだ!」

 零時は少しでもイグニスに情報が渡らないようにと二人に呼びかける。

「今私たちはあなたと戦っているような暇はないのです!騎士なら騎士らしくしなさい!」

 ソフィアはイグニスに強い口調でそう言う。

「俺そーゆー騎士だから上品に振る舞えとか高潔であれとか嫌いなんだよ!あーもういいから早くしてくれ!ウズウズして仕方ねーんだよ!」

「なーにがウズウズして仕方ないって~?」

 ガシッッ

 誰かがイグニスの頭を鷲掴みにする。

 その瞬間イグニスの顔から一気に血の気が引いた。

「あ……あはは……団長……これは……えっと……」

「俺は3人を連れてきてくれって言ったんだ!!戦って来いなんて一言も言ってないだろう!!!」

 レグルスは咆哮する獅子の如く大声でイグニスを注意する。

「す……スンマセン……」

 イグニスはそのままレグルスに投げ飛ばされる。

「ぎゃー!」

 イグニスは瓦礫の山に頭から突っ込んでいった。

 それを横目にレグルスは零時たちに跪いた。

「部下が大変なご無礼を…責任は彼を見ていなかった私にあります。どうかお許しください」

 レグルスは頭を下げる。

「あっいえいえ!そんなお気になさらず!」

 零時は首を横に振る。

「レグルス、緊急事態よ」

「はい。どうされましたか?ソフィア様」

 レグルスはソフィアの事を知っているようだ。

「アカシックビブリオを100冊ほど奪われたのです」

「なんと……分かりました。こちらからも話したいことが御座いますので今からギルドにご案内いたします」

「よろしく頼むのです」

 レグルスはソフィアの持っていた手のひらサイズの本と同じものを持っており、投げて巨大化させる。

「ではこちらへ」

 ソフィアは本の中に入っていく。

 零時とシェリアもその後に続いて入っていった。


「うわぁ~~!!」

 零時は初めて見る異世界に感動した。

「なんかこの街、ドイツのフロイデンベルクみたいですね」

 チューダー様式に似た造りの家やハーフティンバー様式に近い建築の店が立ち並ぶ景色はイギリスやドイツ、フランスやスウェーデンなどがごちゃ混ぜになったような感じがして不思議に思えたが、異世界ではこれが常識なのだろうと零時は考えた。

「何をしているのですか零時。早く行くのです」

 ソフィアは零時を急ぐように言う。

「あ、すみません」

 零時は大人しくソフィアに従う。

 そうしてしばらく歩いていると、沢山の建物が立ち並ぶ中でも一際目を引く大きな建物が見えてくる。

「シェリア、あれがギルド?」

 零時は建物を指さしながらシェリアに聞く。

「はい。あれこそがギルドです」

「ギルドって聞くと、やっぱりゲームに出てくるイメージが強いなぁ」

「零時はギルドとは元々どういう意味だか知っていますか?」

 ソフィアは零時を試すように問う。

「確か、中世のヨーロッパで職人や商工業者が組織した自治体の事ですよね?まぁあくまでも僕の住む世界の歴史なんでこっちの世界ではどういうものなんだかは知りませんけど」

「質問の仕方が悪かったのです。今のは零時の世界の話だから正解なのです。零時と話していると世界の歴史について詳しそうに感じるけれど、好きなのですか?世界史」

「そうですね。僕、昔からゲームは友達付き合い以外ではあんまりしなかったんですけど、RPGでは異国の風景が見られるので好きなんですよね。まぁモンスターとか倒さないで本当に風景を見て回るだけなんですけどね」

 零時は苦笑いしながらそう答えた。

「そう……じゃあ後で素敵な場所を紹介してあげるのです」

「素敵な場所?」

「楽しみにしておきなさい。ほら、着いたのです」

 零時たちはギルドの中へと入る。

「おぉ~!」

 ギルドの扉の向こうには零時が思い浮かべていた以上の風景が広がっていた。

 美人の店員に酒を注文する強面の男、客から預かった杖を丁寧に磨く小人、雑談を楽しむ冒険者だと思われる若者たち、クエストの張り紙を眺めるエルフ、そのどれもが零時には新鮮かつ素晴らしく魅力的に見えた。

「お、お邪魔しま~す……」

 ギルドの中に入ると奥から美味しそうな料理の香りが漂ってくる。

「お~!兄ちゃん!珍しい服着てるな!ちょっと見せてくれよ!」

 酒に酔ったガラの悪そうなツリ目の男に話しかけられる。

「あ、えっと……」

「悪いなソノザ。彼は重要な客人でな。また後でにしてくれないか?」

 戸惑っている零時の前にレグルスが立って、ソノザというらしい男から零時を離そうとする。

「おっと騎士団長サンの連れだったか。こりゃ失敬失敬」

 ソノザは仲間らしき男たちと話し始める。

「悪いな零時君、彼らは酒癖が悪くてな」

「あ、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」

 零時はレグルスに頭を下げる。

 レグルスは零時たちを受け付けに案内する。

「私の連れだ。通してやってくれ」

 レグルスが受付嬢にそう言うと、カウンターの横の壁に白い扉が現れる。

「この扉の向こうが騎士団専用のギルドになっている。もしかしたらここを利用することが今後あるかもしれないから覚えておくといい」

「分かりました」

「では行こう」

 扉の向こうはギルドよりも少し小さい空間が広がっていた。

 自分の剣や鎧を磨く者や読書をする者、剣術の練習を行う者などがおり、賑やかなギルドとは正反対な雰囲気だ。

「あ、団長。お帰りなさい」

 通りかかった騎士団員だと思われる青年がレグルスに挨拶する。

「おおフェルス。今日は大変だったな。怪我は無かったか?」

「えっと……それが……」

 フェルスという男は自分の尻を撫でまわしている。

 見てみると大きなばってん印のように白いパッドが貼られていた。

「ドラゴンが吐いた火が服の尻に燃え移っちゃって……あはは……」

「これは痛そうだな…治療してもらったのか?」

「それが今月お金が無くって軟膏を塗ってもらうのが精一杯でした……」

「そうか……お大事にな」

「はい。すみません」

 フェルスは尻を撫でながら去っていく。

「痛そうでしたね……僕と同じくらいに見えるけどもう自立してるんだ……」

 零時は気の毒そうな顔をする。

「この世界では若ければ13歳で自立する子供もいるのです」

 ソフィアはフェルスの背中を見ながらそう言った。

「立派だなぁ……」

「零時は自分でお金は稼いでいるのですか?」

「僕は古本屋でバイトしていますよ」

「まだ働いているだけ十分立派なのです。あなたの世界には親の脛を齧って半世紀生きているようなのがごまんといるのですよ?」

「あはは……」

 零時は毒づくソフィアに苦笑いをする。

 レグルスは誰も座っていないテーブル席に零時たちを案内する。

「ここに座って待っていてくれ。何か注文したいならそこの彼女に頼むんだ」

 レグルスはそう言うとどこかへ行ってしまう。

「注文って……メニューはあるんですか?」

「あそこに書いてあるのです」

 ソフィアが指さした先にはメニューが書かれた木製のボードがあった。

 零時はボードの近くまで行ってメニューを読む。

「えっと……なになに……?」

 ・ナテルナとカニョールのバター炒め 560フィリウム

 ・フォゴスのマターラ煮 430フィリウム

 ・デタータのパマラナ 600フィリウム

 ・ポルネ焼き 300フィリウム

 ・ゼッポラのカウシチ風 780フィリウム

 ・ヴァコタスープ 480フィリウム

 ・ハタリオコルテン←今だけ!! 900フィリウム

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛?????」

 バター炒めや焼きなどの調理法やフィリウムというのがこの世界の金銭の単位だというのは何となく分かるが、それ以外が何が何だかさっぱり分からない。

 ハタリオコルテンの何が今だけなのかに関しては最早理解不能だ。

 零時はただただ眉間にシワを寄せて首を傾げることしかできなかった。

「あのぉ~、ソフィアさぁ~ん……」

 零時は諦めてソフィアにどんな料理なのか聞こうとする。

「分からなかったでしょう?」

 ソフィアはいたずらっぽく笑う。

「それが目に見えてるなら最初から教えてくださいよ……」

「零時の反応がいちいち面白いからちょっといじわるしてみたくなったのです」

「ソフィアさんそんなことする人じゃないと思ったけどなぁ……」

 零時はため息を吐きながら席に座る。

「ウフ。悪かったのです。私はハタリオコルテンが零時の舌に合うと思うのです」

「ハタリオコルテン……一番高いメニューでしたよね?」

「ハタリオコルテンはなかなか食べられないから食べておくといいのです」

「分かりました。すみませーん!」

 零時は店員を呼ぶ。

「はーい」

 店員は小走りで向かってくる。

「ご注文は?」

「えっと……ハタリオコルテン1つと…みんなは?」

「私はヴァコタスープをお願いします」

 シェリアはスープが飲みたいようだ。

「私は……裏メニューのベルテルーナを頼むのです。ソースはチェルデンを」

「え゛っ?!なにそれ?!」

 零時はソフィアの予想外のメニューに驚く。

「少し分けてあげるのです。以上でお願いします」

「はい。ハタリオコルテンを1つ、ヴァコタスープを1つ、ベルテルーナのチェルデンソースを1つ、以上でよろしいですか?」

「はい」

 ソフィアは頷く。

「かしこまりました」

 店員は厨房に向かった。

「う……裏メニューなんてあるんだ……ここ……」

 零時は脱帽して言葉が出なかった。

「ドラゴン討伐した後に食べるランチは絶品なのです」

 ソフィアはそう言いながらお手拭きで手を拭き始めた。

ご拝読ありがとうございます。

土日はのんびりと過ごしたい…けどバイトで忙しくいつも通りの生活を送っています。

時間の合間を縫って執筆頑張ります。

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