肆頁:聖鍵解錠 02
7話です。
今日は七夕ですね。
皆さんは何を願いましたか?僕は「死にませんように」と短冊に書きました。
ドラゴンはビルを薙ぎ倒してくる。
『マスター、ここは時間減速を使ってみましょう!』
「時間減速?!どうやって?!」
『聖剣の秒針を取り外してください!』
「え?!あ!こうか!」
零時は聖剣の秒針を外す。
すると秒針が巨大化して日本刀のような形状に変化する。これだけでも十分戦えそうな気もする。
『これは秒針の剣、時間の速度を操る聖剣です!クロノ・エクセレートと詠唱してください!』
「分かった!クロノ・エクセレート!」
グンッ・・・・・
零時以外の周りの時間が一気に遅くなる。
「え?!こんなに遅くなるの?!」
零時は思った以上にスローモーションのように動く世界に驚く。
これならビルの瓦礫を簡単に回避できる。
零時は小走りでビルの瓦礫が来ない位置まで移動する。
「えっと……元に戻すときは?」
『解除と言うだけで元に戻ります』
「分かった。解除!」
ズズンッ!ガラガラガラ……
先ほどまでノロノロと落ちてきていた瓦礫が一気に落下して来る。
「なるほど……これが時間を操る力……」
零時は元の大きさに戻った秒針を聖剣に取り付ける。
零時はある程度力の使い方を理解し頷く。
「よし……シェリア、一気に行こう!!」
『はい!』
零時は脚に力を入れて跳び上がる。
「よっと!」
信号機に捕まって一回転し、信号機に乗る。
零時は自分の体が想像を遥かに上回る動きを軽々と出来ることに高揚した。
これならドラゴンを倒せるかもしれないと零時は淡い希望を抱く。
「ハァッ!!」
零時は跳躍し、ドラゴン目掛けて聖剣を振り下ろす。
ザクッッ!
強靭な鱗を割り、生きた肉を切り裂く音がする。
グロテスクな感触が聖剣から伝わり、返り血が零時の顔を汚す。
「うっ!」
思わず目を背けてしまい、その瞬間ドラゴンの尻尾の鞭をゼロ距離で喰らいコンクリートの地面に叩きつけられる。
「ぐはぁっっ」
零時は脳が揺れてうまく立ち上がれない。
『マスター!戦闘中のよそ見は危険です!』
「ご、ごめん……」
聖剣を地面に突いて立ち上がる。
「ねぇ、シェリア」
『はい?』
「このドラゴン、元に戻すことはできないの?」
『え?』
「だって、可哀そうじゃん。何も知らないまま突然変な薬で悪者に仕立て上げられて、街を破壊させられて、騎士に集中攻撃を受けて……あのドラゴンだってそんなことをするために生まれたわけじゃない……今攻撃して、そう思ったんだ」
『……申し訳ございませんがマスター、それは出来ません』
「え?!」
『マスターの現在の力では時を巻き戻す技を以てしてもそこまで巻き戻すことは不可能です』
「……そっか……」
零時は肩を落とす。
「……だったら……」
零時は聖剣を構える。
「せめて自分の出来る限りの全力で、あのドラゴンを苦しませずに斃したい……!」
『分かりました』
零時が見上げるとドラゴンを攻撃しているイグニスが見えた。
「バーニングスラッシュ!」
イグニスは自分の聖剣に炎を纏わせドラゴンを焼き切っている。
「あの人みたいな技は使える?」
『はい。可能です』
「……よし、じゃあ今僕が使える中で一番強い技を!」
『マスターの体の限界を少し超える可能性がありますが……大丈夫ですか?』
「うん!……ん?え?今なんかすごいこと言わなかった?」
零時は思わず聞き返してしまう。
『あ、いえ、何でもありません。最大出力の技ですよね?』
「え?あ……うん」
零時は聖剣を構える。
『脚を踏ん張れる体制にしてください』
「へ?あ、何?準備態勢?分かった」
零時は右脚を前に出す。
『今から使う技は助走をつけて跳び、相手を切り裂く技です。準備はよろしいでしょうか?』
「うん。OK」
『では3秒カウントダウンを始めます。0になったら走り出してください』
「OK!」
『3……2……1……』
零時は覚悟を決める。
『0!』
零時は全速力でダッシュする。
『ホップ、ステップ、ジャンプのリズムで飛んでください!』
「分かった!」
零時は走り幅跳びをするように右足を踏み込み、グッと力を入れ、大きく跳躍する。
次に左足が地面に突くと同時に右脚に入れた力の何倍も力を入れ、更に跳ぶ。
そして最後に両足で着地して、限界まで踏ん張る。
「ハァ!!」
ボゴッッ!!!
零時が飛んだ直後、衝撃波で地面が砕け散って陥没した。
「うおおおおおおおお!!!!!!!」
零時は両手で握った聖剣を大きく振り上げる。
『クロノストライザーを発動します!』
「うん!!!」
二人は意気を合わせる。
聖剣が緑色の光を帯び、エネルギー体の刃を形成する。
「『クロノストライザー!!!』」
零時は聖剣を振り下ろす。
ズバンッッ!!!!!
ドラゴンが一刀両断された。
ドラゴンが叫ぶよりも早く、聖剣の光がドラゴンを包み込み、消滅させる。
「やった!……あ……」
零時はドラゴン撃破に喜んだがそれと同時に体から力が一気に抜ける。
体勢を立て直そうにも上手く力まず、零時はそのまま地面に墜落した。
「いでっ!!」
顔面から落下した。
「いったぁ~い!」
零時は顔を押さえる。
聖剣は刀身が光の粉へと変わり、シェリアへと姿を変えた。
「マスター!大丈夫ですか?」
シェリアは零時の頬に両手を当てる。
「ヒール」
シェリアが呪文を唱えると、零時の顔の傷が塞がっていく。
「いてて……あれ?痛くない……?」
零時は痛みが引いていくのを感じた。
「あ、聖鍵……」
零時は墜落したと同時に落としてしまった聖鍵を拾おうとする。
すると聖鍵が急に輝き出し空中に浮遊した。
「うわ?!」
聖鍵はそのまま零時の右手にスッと入り込み、零時の手と一体化する。
ヴン…………
零時の手の甲に歯車と時計の針を模したマークが現れる。
「シェリア……これって……?」
「マスターの手と聖鍵が一体化したのです。これからは最初に唱えた呪文を唱えることで召喚することが可能になったのです」
「なるほど……便利~……」
零時はポカーンとしながら右手を見る。特に違和感は無い。
「マスター、起きられますか?」
シェリアは立ち上がり、零時に手を差し伸べる。
「あ、うん。ありがと」
零時はシェリアの手を掴んで立ち上がる。
零時はボロボロになった東京を見て眉間にシワを寄せる。
「うわ……凄い被害だね……これ直せるの?」
「はい。騎士団の中には魔法を得意とする方々がいらっしゃるのですぐに元通りになるかと」
「そっか。良かった……」
零時は胸を撫でおろす。
「あ!そうだ!」
零時はハッとする。
「どうしたのですか?マスター?」
「僕、聖鍵を抜いた時におじいちゃんが見えたんだよ」
「定時様が?」
シェリアは驚いて目を丸くする。
「うん。おじいちゃん、僕が戦うことになるの、分かってたみたい。シェリアの事も言ってたよ」
「私のことを……?」
「うん。すごく素直でいい子だって。もし自分に恋人が居なかったらシェリアと暮らしてたかもしてないって言ってた」
「そうでしたか……」
シェリアは微笑む。
「あと僕、おじいちゃんと約束したんだ」
零時はシェリアの手を取って握る。
「シェリアを幸せにするって!」
シェリアはそう言ってパッと笑う零時を見て、ポロポロと涙を流す。
「え?!シェリア?!大丈夫?!」
突然泣き出してしまったシェリアに混乱する零時に、シェリアは頷く。
「はい……グスッ……大丈夫です。マスター」
シェリアはドレスの袖で涙を拭いて笑う。
「私も、マスターを幸せにします!」
零時とシェリアは笑う。
「ん?あれ?」
零時はシェリアの背後に何か落ちているのを見つける。
「どうしました?マスター」
「いや……これって……」
零時は落ちていたものを拾い上げる。
「これ……叡智の書架の本……だよね?」
零時が拾ったのは一冊の本だった。
タイトルに[スカーレット・ドラゴン]と書かれている。
「まさか……この本を使ってドラゴンを出したとか…いや、そんなわけ……いや、でもそうだと逆にこの本がここにあるのがおかしいし……」
零時は考え込む。
「零時!シェリア!」
聞き覚えのある声がした。
「ソフィアさん?!」
「番人?!」
二人は驚く。
ソフィアはかなり焦っているような顔をしている。
「どうしたんです……
零時が聞くよりも早くソフィアは零時が持っていた本を奪った。
「これは……スカーレット・ドラゴンのアカシックビブリオ……これ、どこにあったのですか?!」
零時は何が何だかさっぱり分からないが、ソフィアの質問に答える。
「あ、あぁ……落ちていたんですよ。ここに」
零時は本が落ちていた所を指さす。
「零時……大変なことになったのです!」
ソフィアは頭を抱える。
「何かあったんですか?」
「本が……本が奪われたのです……!エクリプスに!」
「「えぇ?!」」
ご拝読ありがとうございます。
いつもは友人に推敲を手伝って貰っているのですが、今日山形県に帰ってしまったのでしばらくは1人で執筆になります。
満足皆さんに頂ける内容を書けるよう頑張ります。