肆頁:聖鍵解錠 01
6話です。
やっと書きたかったシーンが書けました。
ドラゴンが吐いた火傷しそうなほどの熱風に零時は包まれる。
もう逃げても遅い。零時は数秒後には炭化しているだろう。
ドラゴンの口の奥から光が漏れ出て陽炎ができている。
「あ……あぁ……!」
零時は恐怖のあまり足が震えて動けない。
零時は目を瞑った。
その時だった。
空にキラリと一点の光が煌めく。
キィィィィィィイイイイイイン・・・・!!!!
それと同時に何かが超高速で落下してくる音がする。
次の瞬間、突如零時の目の前で爆風が発生した。
「うわっ?!」
零時は爆風で吹き飛び、ドラゴンも音と爆風に驚いて逃げる。
「うっ……いてて……」
零時は屋上に設置された柵に左腕を強くぶつけ、あまりの痛みに左腕を押さえながら立ち上がる。
「はっ……!!」
立ち上がった零時の前には天高く伸び雲を貫く緑色の光の柱があった。
零時はその光の中にその光の元となっているであろう真っ黒な発光体があるのを見つけた。
「まさかこれが……試練ってやつ?」
これがもし試練ならば発光体の正体は間違いなく聖鍵だ。
「マスター!!」
シェリアの声がした。
「シェリア!!これが、これが試練なの?!」
「はい!あれこそが私の力を引き出すカギとなる聖鍵です!」
「あれが……」
零時はついに始まった試練に覚悟を決めて一歩、また一歩と歩き出した。
一方そのころ騎士団たちは突然発生したビルに向かって降り注ぐ緑色の光に注目していた。
「何だあれ……」
「今までこんな強い魔力、感じたことないぞ……」
皆が見ている中、イグニスは光の正体を突き止めようとビルに向かって走る。
「イグニス!どこに行くんだ?!」
「あの光が何なのか見てきます!」
「やめろ!危険すぎる!」
レグルスはイグニスを止めようとイグニスの腕を掴む。
「いや見なきゃ逆に危ないでしょ!爆発とかしたらそれこそ被害が広がりますよ?!せめて何なのか知っといて対策くらい立てましょうよ!」
イグニスの言い分は強引だが確かに正しいかもしれない。
レグルスは手を放してしまう。
「イグニス!私も別の建物から向かう!気を付けろ!」
イグニスはニヤリと笑う。
「了解です!団長!」
イグニスはビルに向かって走り出した。
「ぐうう……風強いな……!」
零時は聖鍵から放たれる凄まじい風になんとか耐えながら歩こうとする。
少しでも足を浮かせたら吹き飛びそうなのですり足で進み続けようとするが、正直踏ん張っているので精一杯だ。
バン!
「うお?!なんじゃこりゃ?!」
屋上までダッシュしてきたイグニスが到着し、零時が試練に立ち向かっている様子を見て衝撃を受ける。
「おいおいおい……どうなってんだよこれ……こんな魔力並大抵の奴なら死んじまうぞ……」
「あの……あなたは?」
突然現れたイグニスに、シェリアは何者なのか聞く。
「うお!びっくりした!」
背後から声をかけられたイグニスは驚いて飛び上がる。
「おい嬢ちゃん!ここはあぶねーから逃げろ!……って言いたいとこだが一体何が起きてんだこれ?!」
イグニスはシェリアに名前を名乗らないまま状況を聞く。
「今私のマスターは試練を受けているんです!私の力の資格者になる試練を!」
「試練?なんでまたこんな場所で……」
イグニスは零時を見る。
「あなたはファンタズマゴリア王国の騎士の一人なのですよね?ならば勇者サダトキの名前はご存じのはず……」
「勇者サダトキ?あぁ、あの大魔王エクリプスをブッ倒した伝説の勇者だろ?」
「はい。今試練に立ち向かっている彼の名は時宮 零時。勇者サダトキの孫にして、“ロストグラフィー”に記された、最後の聖鍵士です!!」
イグニスは思考がフリーズした。
「……え?最後の……なんつった?」
「最後の聖鍵士です!!」
シェリアはイグニス真剣な眼差しを向ける。
「ブフッ」
イグニスは噴き出す。
「ハハッ…わははははは!!!そんな聖鍵士だなんて……ええええ?!??!」
イグニスは混乱して笑ったり驚いたりと情緒不安定になっている。
「あ、アイツが最後の聖鍵士なのか?!」
イグニスはもう一度零時を見る。
「こりゃあ~どえらい場面に立ち会っちまったな…」
零時は少しずつ、少しずつ進み続け、遂に聖鍵の目の前まで来た。
「聖鍵の資格を得るのに必要な絶対条件は3つ……」
シェリアは語り始める。
「3つ?」
イグニスは聞き返す。
「はい。1つ目は、純粋で清らかな心を持っていること」
零時は聖鍵に手を伸ばす。
「2つ目に、時間からのあらゆる干渉を受けない特異点であること」
零時は柄を掴む。
「3つ目。それは……」
零時は手にグッと力を入れる。
「迷える者を導き、弱き者の盾となり、傷ついた者に手を差し伸べる優しさと勇気を持つ者であること……!!!」
「うおおおおおおおお!!!!!!!」
零時は力いっぱいに聖鍵を引き抜いた。それと同時に光と豪風が零時を中心に巻き起こる。
「アイツ、やりやがった!!」
イグニスは目を丸くする。
「はぁっ……!はぁっ……!」
バリバリバリバリ!!!
零時が抜いた聖鍵から出た光が聖鍵に集中し、全体を包み込んでいた錆びが一気に剥がれ落ちる。
「これが……聖鍵……!」
握りにはシリンダーが内蔵され内部に砂時計があり、鍔は天文時計と一体化しており、柄頭には懐中時計が鎖でつながれている。
柄だけでも時の概念が鍵として具現化したものなのだと十分分かるデザインをしている。
そして本来刀身がある部位はアンティークキーとなっており、棒部分に祖父の本を同じ文字で文章が記されている。
「シェリア!やったよ!聖剣抜けたよ!」
シェリアが零時に駆け寄って来る。
「私は信じていましたよ。マスターなら必ず出来るって」
「えへへ。そう?」
零時は照れ笑いをしながら頭を掻く。
グラッ
「?!」
ビルが揺れている。先ほど零時が聖鍵を抜いた時に発生した衝撃でギリギリ崩れないでいたビルが崩れ始めたのだ。
「うわ!」
「キャッ!」
零時とシェリアは足を滑らせ、上空70メートルから落下する。
「うわああああああ!!!!!!」
零時はシェリアに手を伸ばす。
「シェリア!手を!」
シェリアも零時に手を伸ばす。
零時はシェリアを手を掴み取って引っ張り、体を抱え上げる。
「シェリア!この鍵、どう使えばいいの?!」
「ここに!」
シェリアはドレスから胸の谷間を露出させる。
「えぇえ?!」
零時は目を覆うとするが、シェリアの胸の谷間から何かが見えた。
「……鍵穴?」
そう。シェリアのみぞおちの少し上くらいに鍵穴の刺青のようなものがあったのだ。
「マスター!鍵に書かれた文字を読んでください!もう今のマスターなら読めるはずです!」
「え?!」
零時は鍵に書かれた文字を見る。見たこともない文字だが、自然と意味が分かる。
「……我は時に触れし者。そして世界の叡智について、聖剣少女はかく語る……」
そう唱えると、シェリアの胸の鍵穴から光が迸った。
その鍵穴に零時は鍵を挿しこみ、回す。
「我は時の概念也。語りし先に導きし答え、解錠者と共に詠唱す……」
零時とシェリアは目を合わせ、同時に頷く。
「「聖鍵解錠!!!」」
零時は鍵を引き抜いた。
「……はっ?!」
零時はいつの間にか自分が真っ白な空間にポツンと立っているのに気付いた。
「ここは……?」
「零時?!」
聞き覚えのある声。
振り向くとそこには。
「……おじいちゃん?!」
零時の祖父である定時がいた。
「あぁ……遂にこの時が来てしまったか…」
定時は零時を抱きしめる。
「おじいちゃん……おじいちゃんって勇者だったんだね」
「そうだ。本当ならお前の父がこの役目を引き継ぐ筈だった。しかしエクリプスの復活が何らかの理由で遅れて零時、お前が引き継ぐことになったんだ」
「そうだったんだ……」
「自分の息子が運命に巻き込まれることなく健やかに育ったのは本当に良かった。しかしワシは思った。もしかしたら自分の孫が運命に巻き起こまれるのではないかと」
定時はそう言い申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「お前が生まれたとき、こんなに可愛い孫に修行をさせるのは心苦しかったがそれが役に立つ時が来たようじゃ」
定時は零時の顔を見る。
「零時、ワシはお前のおばあちゃんと恋人だったからシェリアを選ばなかったが、もしおばあちゃんがいなかったらシェリアと暮らす未来を選んでいただろう。それくらい彼女は素直で、優しくて……本当に良い子だ。だから零時、ワシがシェリアを幸せに出来なかった分……」
定時は零時の肩に手を置く。
「お前が幸せにしてやってくれ」
「……はっ!!」
零時が気が付くとシェリアの体が光の粉へと変化している。
「シェリア?!」
光の粉は聖鍵の鍵部分を包み込み、刀身を生成していく。
そしてデジタル時計とニキシー管が内蔵された刀身が完成した。
ズンッッ
零時は時の聖剣が完成したのと同時に着地する。
「シェリア、聞こえる?」
『はい。マスター』
シェリアは零時の頭の中に直接話しかけてきた。
「うお?!テレパシー?!」
『テレパシーではありませんが……それに近いですね』
「なんか慣れるまで時間かかりそうだな…」
『大丈夫ですよ。定時様も最初はこんな感じでしたから』
「そっか。じゃあ僕もすぐ慣れそうだ」
零時はドラゴンを見据える。
『ではまず、マスターに私の力の使い方について実践を伴いながら覚えていただこうと思います』
「ゲームで言う、チュートリアルってヤツだね」
そう言いながら零時は聖剣を構えた。
ご拝読ありがとうございます。
今現在進行形で書き溜めをしています。
継続できるよう努力します。