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聖剣の書架  作者: AΨ狂育
3/17

壱頁:遺された本 03

第3話です。

第3話と言っていますがコレで1話分が終了した感じです。

「僕の……これから?」

 零時は頭に?を浮かべる。

「あなたにはにわかに信じがたいと思いますが……」

 零時は生唾を飲む。

「あなたのお爺さんはかつて異世界、クロード・ヴァロアを大魔王エクリプスから救った伝説の剣士なのです」

 ( ゜д゜)

 零時はポカーンとしている。

「もう……信じる信じないの前に何が何だか……」

 額に手を当てながら眉間にシワを寄せる零時にソフィアは苦笑いをする。

「そうなりますよね。何があったか説明していくのです」

 ソフィアは両手を広げる。

「第七次世界大戦」

 ソフィアがそう言うと零時はまた本が飛んでくるかと思ったが、とんでもないものがこちらに向かってきて零時は驚いた。

「へ?!本棚?!」

 そう。飛んできたのは本棚丸ごとだった。

「本棚より検索:時宮 定時」

 ソフィアがそう言うと本棚から数十冊の本が出てきた。

「僕の祖父の名前……何で知っているんですか?」

「彼は今でもクロード・ヴァロアで英雄として語り継がれる存在なのです」

 零時は口には出さないがただただ驚くばかりだ。

「あなたのお爺さん、生前はどんな人でしたか?」

 零時は昔の事を思い出す。

「……不思議な人でした。不思議……というか…浮世離れしてるっていうか……まぁ、他の人と色々ズレてたんです」

 零時は祖父との思い出を語りだす。

「僕がまだ小学校に入って間もないころ、祖父は急に剣の練習をしようと僕に言ってきました。剣道とかフェンシングとかじゃなくって、祖父が木を削って作った剣を持たされてひたすら祖父の指示のもと剣を振らされたんです。最初は簡単だったんですけど、日に日に難易度が上がっていっていきました。何でこんなことをするのか聞いても祖父はいつも「いつか役に立つ」って言うばかりで。他にも祖父は勇者が魔王を倒す話をしてくれたり、皆が当たり前に知っている事を知らなかったり…今思えば変な人って言って片づけるのは少し違うような気がしなくもないですね」

 そう楽しそうに話す零時をソフィアは穏やかな笑顔で見ている。

「あ、ちょっと長くなっちゃいましたかね。すみません」

「いいのです。むしろ安心しました。彼も彼なりに幸せそうに暮らせていたのが、あなたの話し方を見て分かりましたから」

 ソフィアは本を開く。

「じゃあ今度は私が話をさせてもらう番なのです」

 ソフィアが開いた本のページとページの間から眩い光が迸る。

「うわ?!眩しっ?!」

 零時は後ずさりをする。

「少し訂正します。先私は話をするって言いましたが…」

 ソフィアは顔を上げる。

「今から話を“見せる”って言った方が正解なのです」

 零時は光のあまりの眩しさに目を瞑った。


 ・・・・・・・・・・・・・・・


「うわっ?!」

 零時が目を開くとそこには目の前には世界が戦火に飲まれ沢山の人が死んでいる死屍累々とした地獄のような風景が広がっていた。

「ここは?!ソフィアさん?!どこ?!」

「ここですよ」

「は?!」

 零時が振り向くとソフィアが本に書かれた光っている文字をなぞりながら立っていた。

「ここはこの本が記憶している世界の景色をあなたの目にリンクさせたもの。幻覚だからこの火も熱くないでしょう?」

 零時はソフィアが指さした火に触れてみるが触ってみると確かに熱くない。

 火が体をすり抜けているような感じがする。

「あ、ほんとだ」

「確認できましたか?じゃあ始めましょう」

 ソフィアが本の文字をなぞるとそれに合わせて文字が光る。


 今から百年前、全ての世界の基となった世界、クロード・ヴァロアは魔界から襲来した大魔王エクリプスが送り込んできた大量の魔物によって文明滅亡の寸前にまで追い込まれていた。

この事態を前に当時の王は3人の賢者にこれから先この国を、世界を守るにはどうすべきか尋ねると3人はそれぞれ自分なりの答えを出した。

 一人目の賢者 ニコラテウス・ヘパイストスは「魔王を打ち倒せる究極の武器を作るべき」だと答えた。

 二人目の賢者 レオナルド・ジョルダーナは「この世界を捨て、12個の大陸があるこの世界を大陸ごとに12個のパラレルワールドに分けて少しでも文明を守るべき」だと答えた。

 三人目の賢者 アルベール・バベルシュタインは「別の世界から優れた能力を持つ者を召喚しこの戦いに協力してもらうべき」だと答えた。

 王は世界中全ての力を結集しそれを実行、世界を分けてそれぞれの民を避難させ、異世界から勇者を召喚し、彼らに究極の武器を与えて魔王に立ち向かわせた。

 戦いは凄惨を極めたが、最終的に勇者たちが勝利を収めた。

 勇者たちの活躍により世界は均衡を取り戻し、その活躍は今でも語り継がれている。


 ソフィアが本を閉じると零時に見えていた幻覚が消えた。

「じゃあ……その勇者の一人が……」

 零時はそう言いながらソフィアを見る。

「そう。あなたのお爺さんなのです」

「え?じゃあもう平和になったなら僕を呼ぶ必要は無いんじゃないですか?」

「そうだったら呼ぶわけがないのです」

「あ……そっか」

「あなたを呼んだ理由は他ならない、あなたの世界に今後現れる魔物を斃してもらう為なのです」

 零時はその言葉の意味を理解するのに5秒くらいかかった。

「えっと……まさかとは思いますけど僕が住んでいる世界がまた狙われているから魔王が送り込んでくる魔物を斃すと……」

「そうなのです」

「・・・・・」

 零時はフリーズする。

「え?!は?!ぼ、ぼぼ、僕が?!?!」

「ええ」

 ソフィアは当然かのようにうなずく。

「無理無理無理!!僕が返り討ちに遭って死ぬだけです!!僕には無理です!!」

 零時は首を尋常じゃない速度で横に振る。

「心配無用。当時の勇者たちも最初はそう言っていましたが最後は魔王を倒せたのですから」

「だとしても無理ですって!」

 ソフィアは断固として拒否しようとする零時にため息をつく。

「あなた、今日変な物を見ませんでしたか?」

「変な物?」

 零時は今日あったことを思い返す。

 色々と濃厚すぎて記憶が飛びそうだがなんとか掘り出そうとする。

「今日見たもの・・・・・・・・・・」

 零時は考えているとあることに気がついた。

「あっっ・・・・・!!!!!」

 零時の顔から一気に血の気が引く。

「今朝…ドラゴンを見た気が…」

 零時は引っ越し先の祖父の家に行くときにビル群の間をドラゴンが飛んでいたことを思い出した。

「そう。そのドラゴンがあなたの住む街を、世界を破壊し焼き尽くす。そんな理不尽なことが起きようとしているのに、唯一対抗できるあなたは何もしないで突っ立って見ているつもりなのですか?」

 零時は手が小刻みに震える。

 世界が壊されるという焦り、満足に戦えるかの不安、死への恐怖、当たり前の日常と家族が破壊させる怒り、あらゆる負の感情が零時の顔に浮き出た。

 手の震えが大きくなる。

零時はふらつきながらも立ち上がる。

「僕がやらなきゃ……世界が……」

「そう。あのドラゴンを倒せる切り札を持っているのはあなたなのです」

 零時の顔はまだ不安が帯びたままだが、零時の目には確かに決意が宿っていた。

「ソフィアさん、教えてください。世界の救い方を」

 ソフィアは零時の目を見る。

「焦る必要はありません。行きましょう。彼女が待っているのです」

「彼女?」

 ソフィアは立ち上がりレジャーシートとなったハンカチを縮めてお茶会のセットを一瞬で片付ける。

「ついてきて!!!」

 ソフィアは動きづらそうな服装とは思えないほどの速度で走る。

「はい!!!」

 零時はソフィアの背中を追った。


「ここなのです」

 二人は少し息切れをしてハァハァと息を吐いている。

「これ……何ですか?」

 零時とソフィアの目の前にはいかにも強力そうな結界が施された扉があった。

「究極の武器の製作者、賢者ニコラテウスが封印した聖剣がここに眠っているのです。ここは書架の番人である私でも入れない、最強の隠し場所なのです」

「ここに武器があるんですね?!」

「だからそうと言っているじゃないですか」

「僕、持ってきます!」

 零時は温室の入り口に向かって走る。

「待って!」

「え?」

 零時は振り向く。

「武器は武器でも彼女は人間のような姿をしているのです!それにここでの時間はあなたのいる世界の何倍も時間が遅く進んでいるから落ち着いて行きなさい!心を静めなければ彼女の方もあなたに心を開いてくれない。だから落ち着いてから門をくぐるのです」

「わ、分かりました」

 零時は深呼吸をする。

「……行ってきます」

 ソフィアは頷く。

 零時は扉を開き、中に入っていった。


「うわぁ……」

 中に入ると見たこともない綺麗な鳥が飛んでおり、煌びやかな光沢をもつ甲虫が樹液を舐めており、見るからに触り心地がよさそうな小動物が安らかに眠っている。幻想的で自然豊かな空間が広がっており、温室のようだと零時は思った。

 そして目に映る生き物のどれもが零時の住む世界には居ない生き物だ。

「どこにあるのかな……武器……」

 零時は先ほどのソフィアの助言を思い出す。

「……あれ?そういえば人間みたいな姿してるって言ってたような……」

 零時はその言葉に引っ掛かりながらも、景色全てを見まわしながら温室の中を進み続ける。

「ないな……どこにも……」

 思った以上に広い。というか広すぎる。自分が考えていたよりも明らかにこの空間は圧倒的に広い。零時は不安になって腕時計を見る。

「うわ……もう10分経ってるよ……」

 零時は焦りそうになるが、ソフィアの言葉を思い出して平常心を保つ。

「あ!!!」

 零時が茂みの中を進んでいると石でできたゲートが見えてきた。

 しかし零時が声を出したのはそれが理由ではなかった。

 ゲートの向こうにベッドのような、カプセルのような装置があり、そこに誰かが横たわっているのを発見したからだ。

 零時がゲートをくぐると、その先には古代遺跡のような空間が広がっていた。

 爽やかな心地よい温度の風が零時の頬を撫でる。


 内側から見るとゲートには巨大な石のブロックが円柱状に積み上げられており、見上げると柔らかな光が差し込んでくるのが分かる。

この空間を囲むように円形に設置された水路には透き通った水が流れており、石のブロックには木の根っこが絡みつき、苔が生え、この空間がどれだけ古くからあるのかを物語っていた。

 零時は水路をまたいでカプセルに近づく。

 淡いオレンジのレンガが円形に綺麗に並んでおりその間からは草が生え、小さな花が沢山咲いている。

 カプセルにはかなり太いコードがいくつも繋がれており、そのコードは遥か天から伸びていた。

 零時は横たわっている人物を見る。

「わぁ・・・・・!!」

 零時はカプセルを見て驚いた。

 白金の腰まで伸びた上品な滑らかな髪。黄金比率の限界を超えたあまりにも目鼻が整いすぎている顔。ターコイズカラーのドレスを身に纏った美少女が色とりどりの花や草が生えたカプセルの上で穏やかな顔をしながら眠っていたのだ。

 零時は一瞬にして美少女に心を奪われ思わず見とれてしまう。一目惚れとはこのことを言うのだろうか…なんて事を考えている場合ではない。

 零時は美少女を起こそうとその体に触れようとする。

 スカッッ

「ん゛?!」

 零時は美少女の体から指がすり抜けたのに先ほど火に触れたようなデジャヴを感じた。

「嘘?!触れないの?!こんな重要な時に?!」

 零時は混乱する。

「ど、どうしよう……」

 零時はしゃがみ込んで頭を抱えた。

『・・・その本を・・・こちらに・・・・』

「あ!あの声!」

 零時の頭の中に叡智の書架で迷いかけていた時に助けてくれた声が聞こえた。

 零時は美少女が寝ているカプセルの横に円柱型の装置が設置されているのを発見した。

 装置の天面には長方形の穴が開いている。

 この穴に丁度すっぽり入る物を零時は持っていた。

 そう。祖父の本だ。

「これを……中に……?」

 零時は大切な本を入れるのは嫌だったが今は事態が事態であるため嫌がりながらも入れた。

 ガチャコンッッ

 本を装置に入れると装置が九十度回転した。

「元所有者の引継ぎ確認が完了しました。所有者を更新します……完了しました」

 機械的な女性の声がする。

 それと共にカプセルの継ぎ目から緑色の光が漏れ出る。

「聖剣を起動します……」

 パソコンのファンが回るような音がする。

「起動完了」

 そう言い終わると同時に美少女が目覚め、美少女は起き上がって周りを見る。

「あ……あなたが……私のマスター……ですか……?」

 美少女は零時に声を震わせながら聞くが、その瞳の美しさや凄まじく綺麗な美少女の声に意識が集中してしまい声を失い零時は固まっている。

「あ、えっと、あ、うん。君が……ソフィアさんが言ってた武器……?」

 零時はギリギリ少女が何を言っていたのか聞いていたので答える。

「あぁ……!!」

 キュッ…

 美少女は両手を広げると零時の体を優しく抱きしめた。まだ出会って何秒も経っていないのに美少女からこの上ない愛を零時は感じる。

「この日を……この日をどれだけ待っていたか……!」

 美少女は涙を流している。

「お待ちしておりました……!マスター……!私があなたの聖剣、シェリア・クロノブレイドと申します……!」

 美少女は涙を拭いて顔を上げて零時を見つめると、そう名乗り、優しく微笑んだ。

ご拝読ありがとうございます。

次回から2話目に突入します。

これからもよろしくお願いします。

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