健康ランドの死神
こちらは百物語六十九話になります。
山ン本怪談百物語↓
https://ncode.syosetu.com/s8993f/
感想やご意見もお待ちしております!
都内で有名な健康ランドで働いている者です。
うちの健康ランドには、奇妙な噂があります。
それは…
「おい…これ見てくれよ…」
店長が事務所にいるスタッフたちを監視カメラ用モニターの前へ集めた。
「これだよ…ここにいる人…ほら…」
店長がモニター画面に映るとある場所を指さした。そこに映っているのは、シルクハットとフロックコートを身に着けた初老の男性であった。
「うわっ!マジかよ!」
「なんですか、この人?」
「うそでしょ…」
モニター画面を見たスタッフたちがざわざわと騒ぎ始める。これには理由があった。
「まぁとりあえず…今回も各自警戒を強めてくれ。何かあるかもしれないからな…」
うちの健康ランドには奇妙な噂がある。
それは、モニター画面に映っている男性が来店すると、必ずと言っていいほど「事故」が起きるのだ。
私たちスタッフはこの男性を「老紳士」と呼んでいた。
「偶然だと思うけど気持ち悪くてな…」
老紳士が来店した日に起こった事故は14件。転倒事故が8件、溺水事故が4件、心臓発作が2件だ。これだけの事故がたった数年で起きてしまった。
老紳士は毎回同じ格好なのでわかりやすく、事故の日に必ず監視カメラに映っているところをスタッフが偶然発見した。
私たちは色々考えた結果、老紳士が来店する日は警備を強化することに決めたのです。
「おい、あの人どうなった?」
老紳士が来店してから1時間後、店長が老紳士の居場所を探そうと監視カメラで店内をチェックしている。しかし…
「休憩所にはいないな…風呂場だとスタッフを向かわせないとわからんぞ…?」
店長が先程まで監視カメラを管理していたスタッフへ尋ねると、安心しきった声でこう答えた。
「老紳士なら、10分程前に店から出て行かれましたよ。今回は事故も起きていないし、偶然だったみたいですねぇ」
店長が監視カメラの録画を確認すると、正面の出入口から店を出る老紳士の姿が記録されていた。
「そうか、それならいいんだ。やはり考えすぎか…」
その場にいたスタッフたちが胸を撫で下ろしたその時、事務所へ緊急の内線が入った。
「飲食スペースで事故発生!男性が転倒で意識不明!救急車をお願いします!」
その場にいた全員が絶句した。ここにきて事故が発生してしまったのだ。
「………はっ!?」
どこからか視線を感じた店長が、再び監視カメラ用モニターへ目をやった。
(……………)
そこに映っていたのは、店から出て行ったはずの老紳士の姿であった。老紳士は受付カウンターの前で監視カメラに向かってにっこりと微笑むと、そのまま消えるように姿を消してしまいました。
うちの健康ランドで奇妙な格好の老紳士を見たら、すぐに店から離れることをおススメします…