#65 失踪
高評価とブックマーク登録をお願いします!
タイミング悪すぎて報われない
「え…………?」
ソウカ様に頼まれていた薬をいち早く見つけて買ってきた私は、宿に戻ってきた。
早くメイさんに飲ませてあげようと、部屋の扉を開こうとした時。
――そこで、私は信じられない言葉を聞いてしまった。
なに……?メイさんが、グレンさんのことを、好きって言ったの……?
しかも、一人の男性としてって……。え……? 何。どういうこと……?
「嫌ぁ…………!」
ガサッ。
私は、つい持っていた薬の袋を落としてしまう。
しかし、私はそれを拾う余裕もないまま、宿屋を抜け出してしまった。
何故かは分からない。しかし、とにかく一人になりたい気分だった。
◆◆◆
俺が冥に告白された直後の事。
扉の向こうから、ガサッという何か物が落ちる音が聞こえた。
「だ、誰か帰ってきたのかもしれないな! あはは!」
なんて言って、ぎこちなく笑いながら俺は扉の方まで歩いていった。
すると、
「――ふふっ、別に、すぐに答えなくても大丈夫だよ。お兄ちゃん」
「え…………?」
「わたしだって、そんなにすぐに答えてもらえるとは思ってなかったし。っていうか、お兄ちゃん恋愛経験ゼロだもんね」
「それを言うならお前だって……!」
「ふふふ、それはどうかな~? だって私天才だし! 意外とあるかもしれないよ~」
「それだけ威勢がいいならもう大丈夫だな、冥。俺はもう看病しないからあとは自分で頑張れよ。天才美少女さん」
「いやあああ! 冗談だってばあああ! 看病してよお兄ちゃんんんんんん!」
元気そうに叫ぶ冥を横目に、俺は部屋の扉を開けた。
すると、足元に一つ小さな小袋が落ちていることに気が付いた。
拾って見てみると、中には錠剤型の薬がいくつか入っていた。
どうやら薬のようだが……これって確か、メルが調達してきてくれる物じゃなかったっけか?
「たっ、ただいま戻りました~!」
「ただいまです~」
すると、ちょうどそのタイミングで、水くみとタオルの用意に行っていたモネとレイニーが戻ってきた。
「ただま~」
続けて蒼華姉さんも帰ってくる。
しかし、メルの姿は一向に見当たらない。彼女が見つけてきてくれたと思われる薬はあるのに、彼女の姿は、どこにも。
「……どしたの?」
姉さんが俺の様子に気が付いて、首を傾げた。
「いや、薬が扉の前に落ちてたんだけど、メルの姿が見当たらなくて……」
「あれ、まだ帰ってきてないの?」
「うん。まだ帰ってきてないと思う」
「ん~? マジか。じゃあ紅蓮さ、探してきてよ。今からこっちは冥の着替えとか汗拭きするから、どうせ男の子には出て行ってもらう予定だったし」
「そっか、分かったよ。じゃあ俺はメルを探しに行ってくるね」
「うん、頼んだぞ~」
短く言葉を交わした俺と姉さん。
俺は桜花を手に取ると、そのまま宿の外に出る。
「ぼ、ぼくも一緒に探します!」
と、俺が部屋を出ようとした時にレイニーもついてきたので、一緒にメルを探すことになった。
レイニーも一応男という事で、あの空間には居づらかったのだろう。個人的にはすごくかわいい顔をしているし、年齢的にも許されるとは思うけどね。
「それにしても、一体どこに行ったんでしょうね、メルさん」
「だな……」
薬をわざわざ部屋の前に置いて何処かへ行くなんて、普通は考えられない。
第一部屋に入ってきて、俺たちに薬を渡せばいいんだから。
しかし、そうしなかったところを見ると、何か急用が出来たのかもしれない。
でも、薬を部屋の前で落としたまま行かなければならない用事って、一体……。
◇◆◇
それから、紅蓮たちは深夜までメルの捜索に時間を使った。
しかし彼女が見つかることは無く、紅蓮たちが宿に戻ってからもメルが帰ってくることは無かった。
そして、翌日。
「……はぁ、はぁ……」
メルは、森の中で一人、胸の動悸に苦しんでいた。
「なん、なのよ……これは……っ! なんで、こんなに、ドキドキするの……っ!?」
――――それは、獣人族特有の現象。『発情期』の始まりを告げるものだった。
次回は明日更新です!
高評価↓↓↓