#54 精神世界
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「あれが……モネちゃん……?」
モネと出会ったことがあるのは、紅蓮とレイニーだけだ。
だから、メルたちはこれが彼女との出会いになる訳だが。
――その出会いは、とてつもなく最悪なものだった。
「お姉ちゃんっ! モネお姉ちゃんっ! どうしたの!?」
レイニーは目の前に現れた血まみれの姉を見て、必死に呼びかけるが、何やら様子がおかしい。
「……状況から察するに、我は貴殿の姉だったのだろうな」
「だった……?」
「ああ、傷だらけの武人よ。我は、我であって、貴殿らの言う『モネ』という者ではない」
「お姉ちゃんじゃ、ない……?」
モネ?は、手に付いた血を舐めながら、そう笑った。
遅れて、彼女たちは気付いた。
――そういえば、紅蓮は何処へ行った?
「――それにしても、先程の人間は惜しかった」
『……ッ!!!』
「判断力、そして武器を構えて周囲の警戒……相当のセンスの持ち主だとは思ったのだがな……」
少女の声で、その者は溜め息をつきながら言った。
「我と戦う判断をしたのが間違いだったのだ。気配を察知した瞬間に逃げるべきだった。優秀な判断能力を持ち合わせながら、なぜあの人間は……」
「――彼は、死んだの……?」
「……ほう、この感覚は……。やはり我の判断は正解だったようだな」
「答えろ……お前は、彼を殺したのか……ッ!?」
メルは、マグナと戦った時の鬼のような形相でモネ?に近づいていく。
その姿を見て、その言葉を聞いて、蒼華は無言で立ち上がった。
そして、静かに怒りを放っていた。
それは、マグナから受け継いだあの力を発現させるほどに――
「お、お姉ちゃん……その角は、一体……」
「……ほう? 種類は違うようだが、鬼の気が二つ……この時代にもまだ存在していたのか、面白いッ!」
「私の問いに答えろ……お前は、彼を喰ったのかッ!?」
「――ああ、喰った。この後の人間と同じようになッ!」
「ぐれんさんを……おねえちゃんを……二人を殺したお前を、絶対にぼくは許さない……ッ!!」
「――コロス」
「悪いけど、死んでもらおうかな? ――お姉ちゃん、ちょっと止められそうにないからさ」
「面白い、面白いッ! 武人たちよ、まとめてかかってくるがいいッ!!」
◇◇◇◇◇
「……ここは、一体……?」
気が付くと、俺は不思議な空間にいた。
夢の世界、と表現するのが良いのだろうか。ピンクや黄色、白といった色に囲まれた何もない広い空間。
そんな場所で、ただ一人。
さっきまでのことは覚えている。だが、直前に何が起きてこうなったのかまでは分からなかった。
「――気が付いたか、人間よ」
「っ……誰、だ?」
「我は――龍の神、『龍神カグラ』という。気が付いたら少女の身体になって目が覚めたのでな……我も驚いているのだ」
突如、俺に話しかけてくる声があった。
龍の、神だと……?
という事は、モネを利用した儀式が終わって、彼女の身体に宿った神がコイツだったというのか?
「ここは、何処なんだ……?」
「我の腹の中だ」
「え?」
「我の、腹の――」
「は?」
ん? 聞き間違い、ではないんだよな。
じゃあ、どういうことだ? 俺が、その龍神とやらに喰われた……で、腹の中に来た、ってことなのか?
いや、だとしてもこんな変な空間が腹の中なんて訳……
「すまない、腹の中なのは事実だ。貴殿は我が一瞬で丸呑みにしたからな」
「ま、マジなのか……」
「そして、表現を少し間違えた。ここは、腹の中だが、同時に我の――いや、彼女の精神世界でもある」
「精神世界……?」
彼女ってことは、モネの……?
「そうだ……そうだった! モネは……モネはどうなった!? 生きて……生きているのかッ!?」
「ん、ああ。そのことか。それなら、安心するがいい」
「ッ! ってことは、もしかして……!」
「ああ、降りてきた神が我で良かったな。――その者は、何とか我が守ってあるぞ。ほら」
そう言って、視線の先が若干霧状にぼやけて、そこから二人の人影が現れた。
「――すまないな、人間。外が騒がしくて、出るのが遅れてしまった」
「……ッ!!!」
「我が、龍神カグラだ。以後よろしく頼む、『神の子』よ」
現れた二人の内、一人は金の長髪と筋骨隆々とした体が目立つかなりの美丈夫――龍神カグラだった。
そして、もう一人は――
「あ、えっと……モネ、です。えへへ……」
少し暗めの白い髪に、腰辺りまで伸びた長髪。
そして、エルフ特有の尖った長耳が特徴のかわいらしい女の子。
――そう、それは、元気そうなモネだった。
次回更新は明日です!!!
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