#5 涙
高評価とブックマーク登録をお願いします!
それでは今回もお楽しみください!
「部屋……?」
『そう、部屋なのだ!』
いやいや。ここはどう見ても『部屋』というより『空間』だろ。
確かに神秘的な場所ではあるけれど……でも、部屋ではないはずだ。
『何なのだその疑いのまなざしは~~!!! ワタシが部屋と言ったら部屋なのだ~~!!!』
「わ、分かった。部屋、な」
とりあえず話が進まなそうだったので、首を縦に振ることに。
「それにしても……」
『ん? どうかしたのだ?』
「いや、神秘的な場所だなぁと思って」
まさか洞窟を抜けた先にこんな場所があるとは想像もしてなかった。
今俺が、見えない誰かと喋っているのも信じられない話ではあるが。
あの時、少女の元気な声が聞こえてきた俺は、ひたすら真っすぐに洞窟を進んでいった。
すると、やがて一部だけ天井が吹き抜けになっている広い空間に抜け出たのだ。
空から差し込む月明かりと、降り注ぐシャワーのような雨。
――気付けば辺りはすっかり夜になっていたようだ。だいぶ冷え込んできているのも肌で感じられた。
「それで……? そろそろ教えてくれよ。お前は一体何者なんだ?」
『ふふふ……はーっはっはっは!!! ついにワタシの正体を明かす時が来たか!』
「…………お、お前まさか……ッ!」
『ふはは、ようやく気が付いたか! このワタシから溢れ出る偉大なオーラに――――』
「――魔王とか、そういうタイプのヤツなんじゃないのか!?!?」
『んなワケあるかバカああああああああああああ!!!!』
まあそりゃそうだわな。
こんなアホそうな女の子が魔王です~なんて言われたら、もう世界はお終いだよ。
とてもじゃないが、こんなちんちくりんな声の持ち主にそんな素質があるとは思えん。
『ム……お前、今ものすごく失礼なことを考えているな?』
「い、いや? 別に?」
『……まあいいのだ』
俺の目の前には一つの台座と、そこに綺麗に納まった剣があった。
周りには人の気配はおろか、虫などの生き物の気配が一切しなかった。
だとすると俺が今喋ってるのは、この剣ということになるが……。
『そう、何を隠そうこのワタシが! 伝説の! 聖剣様なのだ~~~!!!!!』
え?
「え?」
『ん?』
「すまない。もう一回、自己紹介をお願いしてもいいか?」
『わ、分かったのだ』
耳を澄ませて――風と、雨の音に身を委ねて――
『はーっはっはっは!!! ワタシは、かつてこの世界を救った伝説の聖剣様なのだ~~!!!』
「嘘だッッッッッ!!!!!」
――ダメだった。聞き間違いとかじゃなかった。
『嘘じゃないのだ~、ワタシは本当に聖剣なのだ~~』
「ま、マジで聖剣なのか……?」
聖剣……ゲームやマンガじゃ、主人公が使うすげえ強い武器みたいな感じのやつじゃ……。
『マジマジ。大マジなのだ!』
「ま、マジか……」
まだ完全に信じた訳じゃない。
だが、この状況で……目に見えない誰かと喋っているという現実が、俺の頭から否定の言葉を消し去っていた。
『それでは、今度はお前のことを教えるのだ』
「え……? お、俺のことを?」
『うむ。先程は気になることを口にしていたからな、少し聞いてみたくなったのだ』
…………俺のこと、か。
聞いてもらっても……話したところで、何かが変わるわけでもない。
そんな事、自分が一番よくわかっている。
分かっているのに、口が勝手に動いてしまった。
『…………』
聖剣様は、静かに話を聞いてくれた。
何をぺらぺらと自分語りをしているのだろうと思う。
でも、この悲しみを……苦しみを、誰かに聞いてもらいたかった。
「――これで、俺の話は終わりだ。すまないな、面白くない話しかできなくて」
これで、全部終われるな。
誰かに、俺のことを聞いてもらえた。それだけで、良かった。
この世に……俺の人生に未練が無いと言ったら嘘になる。
でも、これ以上この俺にできることなんて何もない。だから、もう終わりにしよう――。
『…………』
「じゃあな。俺は、また場所を探しに行くよ」
『待つのだ…………場所って、何のことなのだ』
「――俺が、誰にも迷惑をかけずに死ねる……そんな場所だよ」
『――いい加減にするのだッ!!!』
ッ……!
な、なんだよいきなり。なんでそんな大声で……。
『ひぐっ……うっ、うっ…………』
「…………え、お前、泣いてるのか?」
『ば、ばかものがぁ……! 泣いてなどおらんのだぁ!』
「いや、泣いてるだろ……」
なんでだよ。なんでお前が泣くんだよ。
泣きたいのは、俺の方だっての。
『――どうしてお前は、死のうとする?』
そ、それは……
『どうしてお前は、抗おうとしない?』
それは、俺に力が無いからで……
『どうして、どうしてお前は最期の瞬間に、他人に迷惑をかけたくないと思った?』
それ、は……
『お前は、優しい人間なのだな』
「っ…………!」
あ、れ……。
おかしいな、なんで、涙が……?
「べ、別に、俺は優しくなんか……。ただ、力がないだけで……!」
『違う。お前は優しい』
「違う……! ただ、弱いだけだ……」
『違う。お前は、他人のことを優先できる心優しい人間だ』
「違うって言ってんだろ! 俺は……俺は、醜いゴミなんだよ……! この世界じゃ何の価値も無い、ただのゴミなんだよ……」
『ぐれん……どうしてお前そこまで自分のことを――』
俺だって……俺だってできることなら、皆と一緒に――姉さんと一緒に居たかったのに。
もう、どうすることも、できないんだ。
あれ。俺って、こんなにふるえてたっけ。
さむくて、もう、なにもかんがえられないや。
『ぐれん……? 大丈夫か、ぐれん! ぐれんっ!!!』