#4 不思議な剣との出会い
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それでは今回もお楽しみください!
――雨が、降っていた。
通り雨らしい。街征く人たちが、急いで建物の陰に避難していたから。
ぴちゃり、ぴちゃりと足音を立てながら俺は歩いた。
(ああ、なんか……もうどうでもいいや……)
今はもう走る気力も湧かない。
一歩ずつ、ゆっくりと街の外を目指すだけだ。
雨に打たれながら歩く俺の姿は、きっと街の人たちからは気味悪がられているだろう。
こんな男、俺だったら避けるどころか若干軽蔑までしてしまいそうになるから。
(どうして、こんなことに……)
この世界に来て、まだ一時間くらいしか経っていないというのに。
弱いから、お前は死ねって。そう、言われてしまって。
(そっちが勝手に呼んだんだろうが……ッ!)
俺はただ、学校で授業を受けていただけなのに。
俺は、異世界にあこがれてたのに……。
ぴちゃり、ぴちゃり。そんな足音がすらも、だんだん遠く聞こえるような感覚がした。
「姉さん……」
気付けば、もう側には居ない人に縋ろうとしている自分がいた。
俺には、姉がいた。俺が物心つく前に、両親は事故でいなくなってしまった。
そんな俺の、残された最後の家族であり、俺の親代わりでもあった人。それが、姉さんだった。
姉さんは、どんな時でも俺のことを第一に考えてくれていた。
ずっと、守られていたんだ。
「姉……さん……っ」
俺、怖いよ……つらいよ。
一人で死ぬのが、怖いんだよ……。
ぴちゃり。ぴちゃり。まだ足音は続く。
『――大丈夫だよ。大切な家族だもん! 紅蓮のことは、お姉ちゃんが絶対に一人にはさせないから!』
もう……姉さんは、近くに、居ない……。
ぐちゃり、ぐちゃり。足音が、鈍る。
(結局、俺はいつだって一人ぼっちなんだ――)
陰キャだから。そう言って逃げていただけだったんだ。
ただ友達ができなかっただけ。誰とも、話す勇気が出なかっただけだったんだ。
――『あの日』から、俺は何も変わっちゃいなかった。
だからみんな、俺のことを平気な顔して見放したんだ。
国王も、あの会長も、クラスメイト達だって、みんなみんな俺のことを見放して、嘲笑ってた。
きっと、好きだった『あの人』も――
ぐちゃり、ぐちゃり。まだ、足音は響く。
(森……か)
体じゅう雨に濡れて冷え切ってしまっている。もう、寒くてまともな力は一切入らなかった。
辺りの風景は、城下の街並みから一変して、どれだけ見渡しても木ばかりの森になっていた。
しかし、まだ人のいる気配はしていた。
馬車の音が聞こえたのだ。
(どうせ、死ぬなら……誰にも迷惑をかけないところで……)
そう思って、どこか静かで誰にも見つからない場所を探して足を動かした。
ぐちゃり、ぴたっ。足音が、止んだ。
「ここ、なら…………」
そう呟いた俺の視線の先にあったのは、洞窟だった。
ここなら、誰も来ないだろう――そう思った俺は、静かにその洞窟へと足を踏み入れた。
(……意外と、深いのか?)
その洞窟は、意外にも結構奥まで続いていたのだ。
少し暗かったが、何とか壁伝いに奥へ奥へと進んでいった。
――すると、その時だった。
『――誰だ。ワタシに近づく者は、誰だ?』
……声?ここにも、誰か先客がいるというのか?
そうか……ここも、ダメなのか。
俺は、今来た道を振り返って戻ろうとした。
すると、また声が聞こえた。
『ちょちょちょちょ~っと待った!!! 何故帰る!? どうして帰ってしまうのだ!?』
「え……? 俺のこと……?」
『そ~だ! そ~なのだ! お前だ、オ・マ・エ!』
い、一体何が起きてるんだ?
俺は幽霊とでも喋っているのか? それともこれは悪い夢か何かで――
『アホかっ! ワタシは幽霊でも何でもないのだ! ……まあ目には見えないだろうがな』
目には見えないが、幽霊でもない……?
な、何を言っているんだ? じゃあこの声は何なんだってんだ……。
「お前は……誰なんだ?」
『ふふふ、知りたいか? はーっはっはっは!!! 知りたいか人間よ!』
「…………まぁ、知りたいですけど」
『ならばそのまま奥へ進むがいい! そこに私は在る!』
そこに、『ある』?
それっていったいどういう……?
だが、まあ。来いと言われたら行くしかないだろう。
どうで、今の俺には行く宛も頼る宛も無いんだし。
「分かった。人生最後の気まぐれってことで、行ってやるよ」
『人生、最後……だと?』
俺はぴちゃり、ぴちゃりと再び歩みを始めた。
しばらくして、少し先に明かりが見えてきた。
「洞窟内に、明かりが……?」
少し怪しんだが、さっきの声の主がいるのだとしたら何ら不思議なことでは無いか。
さて、目には見えない何かさんの正体っていうのはいったいどんなモノなんだ?
――早速拝ませてもらおうじゃないか。
『はーっはっはっは!!! よく来たな! ワタシの部屋へ!』
そう元気よく聞こえてきた声の先にあったのは……
――神秘的な桜色の輝きを放つ、一本の剣だった。
【topics】★魔法と魔術について
この世界には魔法と魔術の二種類が存在する。
能力値に大きく関わり、この世界の自然現象とも呼べるものを『魔法』。対して人工的に魔法を模した現象を起こす技術を『魔術』と呼ぶ。