#33 予知
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「っと、ほら! そんな事よりも、早くお兄ちゃんを!」
「わ、分かった!」
突如現れた謎の美少女、式神冥の言葉に頷いた蒼華は、急いで紅蓮の身体を地面へと降ろす。
「……何が何だか分からないけれど、今はもう貴女に頼ることしかできないわ。……グレンさんを、お願いします……!」
「ふふん! 任せておきなさ~いっ!☆」
メルの言葉に、自信満々といった表情で答える冥。
そんな彼女の様子に、蒼華達は若干不安感を覚えたのだが。
「――絶対にお兄ちゃんは死なせないからね……!」
そう言って、杖を構える冥。
「――スキル『治癒』、発動。この者の傷を癒したまえ……!」
冥の言葉に呼応して、紅蓮の身体に優しい薄緑の光が宿る。
そしてそれが、奇跡を巻き起こした。
紅蓮の腹にあった傷穴は、少しずつ……少しずつだが塞がっていき、その他の擦り傷なども全て身体から消えていくのだ。
「うそ……あの冥が、本当にこんな……っ!」
「…………ふぅ」
驚いて呆然としている蒼華を横目に、冥は治療を完璧に済ませてみせた。
「これで、お兄ちゃんの身体はほぼ元通りです」
「……ほぼって、どういうことなの?」
「……失った血液までは、戻っていないということです」
「なるほど……じゃあ目を覚ましたら、いっぱいご飯を食べてもらわなくちゃ、よね?」
「ですね。ま、この生きる天才であるわたしが、おいしいご飯をたくさん用意するので問題ないですけどね~! わはは!」
冥は、まるで豪快なおっさんキャラみたいに笑うと、何かを思い出したかのように蒼華の方を向いた。
「――そういえばお姉ちゃん。さっきから何度も何度も『あの』って言ってくれやがりましたね!?」
「い、いや~、だって小さい頃から何一つあたしには勝てなかった、あの冥がねえ~、って思ってさ」
「だあああ! またあのって言いやがりましたねえ!? もう許しませんよ!」
「やや、ちょっと待ってって! メルちゃんと桜花ちゃんが置いてけぼりになっちゃってるから。いったん、場所を変えない?」
「……それも、そうですね。お兄ちゃんをもう少しいいところで寝かせてあげたいですし」
蒼華は、「よし、じゃあ決まりだね」と返すと、一行は先日まで寝泊まりしていた例の高級宿へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇
「……ふふ、お兄ちゃんの寝顔、可愛いです」
「――あたしの可愛い弟に手出ししたら許さないからね」
「……はぁ~あ。この人は……異世界でもブラコンお姉ちゃんしてるんですか? いい加減お兄ちゃんに嫌われますよ?」
「なっ…………! そ、そんな訳……ないでしょ!? だってあたしは紅蓮のお姉ちゃんで――」
宿屋に到着するなり、喧嘩を始めてしまう蒼華と冥。
するとそれを見兼ねたのか、メルが手を挙げた。
「――あ、あの~。そろそろ説明してもらえないかしら? あなたが何者で、ソウカ様たちとどういう関係なのかを……」
「あ、ごめんね。そうだよね、説明しなきゃだよね!」
そう言ってメルにぺこぺこ謝る冥。
メルが「大丈夫です」と答えると、軽い深呼吸をして、冥は話し始めた。
「まず、わたしの名前は式神 冥といいます。名前を聞いて分かる通り、異世界から召喚された人間です」
「一体、いつ頃に……?」
「大体二年前です」
蒼華の問いに、冥は答える。
桜花はそれを聞いて、『ということは、あのt期の青い光の柱の内の一つか……』と納得していた。
「まあ訳も分からないままこの世界にやってきたわたしですけど、最初に召喚された場所がこの街だったんです」
――人間族最大規模の街、ヴェイン。冥はそこに召喚されたと言う。
「そしてそこで親切な冒険者の方々に教えてもらいながら、この世界のことについてちょっとずつ学んでいきました」
『その強力な治癒の力は、その時に?』
「はい! まあわたしって天才なので? 冒険の途中に傷ついた部分を治したいな=って思ったらできるようになってました!」
えっへん、と自慢げに小さい胸を張る冥。
「で、まあそんなこんなで二年が経ちまして。どうして今日あの場所でお姉ちゃんたちと出会える事が分かっていたかと言うとですね……」
「そう、そうだよ冥! なんでわかったの!? 今日初めてこの世界で会ったのに!」
「まあ、単刀直入に言ってしまえば、『予知』っていうスキルのお陰です」
冥はそのまま言葉を続ける。
「このスキルは、いつの間にか持っていた不思議なスキルなんですけど、少し先に起こる大きな出来事が夢のように見えるんですよ」
「予知夢、みたいな……?」
「ですです。まあ寝てるときじゃなくて、普通に起きてるときに、突然見えるんですけどね?」
「じゃあ、そのスキルのお陰ってわけか……」
「いぇ~す! まあお姉ちゃんたちと再会する、なんて出来事はわたしにとって大きすぎるくらいの出来事なんですけどね!」
そんな彼女の言葉に、蒼華達は苦笑いを浮かべた。
いや、でもそんな彼女のお陰で紅蓮は救われたのだ……と同時に感謝もしていた。
本人に直接伝えはしなかったが。
何故なら、そういう言葉を言ったら彼女が天狗になってしまうと思ったからだ。
「あ、予知の話で言ったら、もう一個すごいのを見ちゃったんですよ!」
「え?」
「これは、お姉ちゃんにとっては大事な話なんですけどね?」
冥の言葉にキョトンとする蒼華だったが、冥はそんな彼女にとんでもないことを言ったのだ。
そう、それはあまりにもさらっと。爆弾を放ったのだ――
「――近々、聖騎士団が謀反を起こしますよ。ま、それ以上のことはわたしにもわからないんですけどね~」
……その言葉に、その場にいた全員が唖然としてしまうのだった。
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