#32 生きる天才、現る。
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第三者視点になってます
「――逃げられた……?」
「倒した感覚は、無いです」
確かに、マグナの気配は消えた。
一見すると、先程のメルの稲妻によって消滅したかのように思えるが、二人には『倒せた』という感覚が無いようだった。
「……チィッ……殺し、損ねた」
「ソウカ様……」
「――でも、今はそんな事よりも……」
二人はほぼ同時に振り返って、駆け出した。
そう、今はマグナを倒したか倒してないかなど、些細な問題でしかないのだ。
「紅蓮っ!!!」「グレンさんっ!!!」
彼の――紅蓮の腹はマグナによって貫かれ、手と同じくらいの大きさの穴が開いていた。
傷口からは当然血が溢れ出ており、彼の命を少しずつ奪っていた。
『っ……ひっぐ……』
「桜花ちゃん……ぐれんは!?」
『つながりが……ぐれんとのつながりがどんどんと小さくなっていくのだ……ううっ……』
契約によって繋がれた魂の『つながり』。
紅蓮と桜花の間にある、その『つながり』は血が流れていくのと同じように消えゆく最中だった。
「――紅蓮は、絶対に死なせない」
『でも、もう助かるわけが……』
「あたしは絶対にあきらめないから。桜花ちゃんが諦めても、私は絶対に……」
蒼華は言いながら紅蓮を背負った。
「私も、ちゃんと謝りたいわ。そして、お礼も言いたいの。それに、もっと一緒に、居たいから――」
『そ、そんなのワタシだって……!』
「だったら、何としても救わなくちゃ……でしょ?」
『……っ!』
……強いのだな、二人は。
そう、桜花は静かに呟いた。
「――そう、あたしは絶対に紅蓮を死なせるわけにはいかないの。だって、そうお母さんと誓ったから……」
「――私を守って傷ついたのなら、今度は私が貴方を助けるわ。絶対に、死なせない。生きて、また二人で美味しいご飯を食べたいから……」
『――『私』を見る前に勝手に死ぬなんて、ワタシは許さないからな、ぐれん。絶対に、死んじゃダメなのだ……』
◇◇◇◇◇
「もうすぐ、ヴェインの街です!!」
「街に着いたら、今度はあたしに着いてきて! 街で一番のお医者さんのとこに行くから!」
メルの案内のもと、『ディクス大森林』を抜け出た蒼華たちは『ヴェインの街』を目指して走っていた。
そして、もう間もなくで街に到着というところで、蒼華はメルの前に抜け出て先導しようとする。
「流石にこのままじゃ目立ちすぎるから、裏路地の方から行くよ!」
「分かりました!」
ヴェインの街は人間族の住む街で一番大きな街だ。
だからそれなりに、悪人が好んで使う『裏ルート』みたいなのも存在している訳だが……桜花はその路地を使おうというのだ。
「頼むから、今日だけは何も起きないでよね……!」
いつもはヤクザやヤンキーみたいな連中が居て、悪さをしていないか騎士団が定期的に確認しに行くのだが、毎回何かしら問題が起きているのだ。
例えばちょっと血が飛び交うような喧嘩だったり、集団での一方的な暴行事件だったり……。
そんなことが起きている無法地帯に足を踏み入れようというのだ。
「――ここから街に入るよ。メルちゃん、一応フードだけはかぶっておいてね」
「――わかりました」
いよいよ街の中へ。
何も起きらない事を祈りながら、蒼華は路地に踏み入った。
すると、そんな彼女たちを待っていたのは――
「――ちょ、やめてください! わたしに触らないでくださいっ!」
とある少女が、数人のヤンキーに絡まれているという光景だった。
蒼華はその光景を見た瞬間、殺意と呆れる気持ちで胸がいっぱいになっていた。
「いい加減、全員牢屋にぶち込んでや――」
そこまで言いかけた時だった。
蒼華は、その絡まれている少女の顔に見覚えがあったのだ。
「え……うそ……?」
いや、見覚えがあるなんてどころの話じゃない。
その人物は、ほぼ毎日顔を合わせるくらいの顔見知りで、家族同然に育ってきた妹のような子だったのだから。
「――冥……!? どうしてあなたもここに居るの……っ!?」
「――あーっ! やっと来ましたね! お姉ちゃん!」
目の前の少女が指さしながら蒼華に応える。
すると、その顔を見たヤンキー集団は、
「ひえええええええ聖騎士団長だあああああああああ!」
と、蜘蛛の子を散らうように逃げて行ってしまった。
「やーっと来ましたねお姉ちゃん!! さ、早くお兄ちゃんをそこにおいてください!」
「な、なんで冥が紅蓮のこと……」
「細かい説明はあとです! それよりも今はお兄ちゃんを救うことの方が先、でしょ?」
「で、でも……この傷は――」
「――安心してください! お姉ちゃん! 今のわたしは天才回復魔術師なので! これくらいの傷ならちょちょいと治してしまいますよ~!!」
「うそ……あの冥が……!」
「あの、ってなんですかあのって! ――わたしは生きる天才、式神冥なんですよ!?」
次回は明日更新です。
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