#3 選ばれし者と追放の報せ
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それでは今回もどうぞお楽しみください!
「ここは、あなた方の居た世界とは全く違う世界……異世界、と言った方がいいでしょうか。そのような世界なのです」
その言葉で、私の心には一瞬だけ『希望』が生まれた。
だって、異世界というくらいなんだから、最近のファンタジー小説みたいに自分の思い通りになるかなって思ったんだ。
でも、それは全くの思い違いだった。
ここは確かに、私たちにとっては『異世界』だ。でも帰ることができないなら、ここはもう異世界じゃなくて『現実』なんだ。
「これは……」
私は、白服の女の人から銀色の細い腕輪を渡された。
見ると、周りのクラスメイト達も同じものを渡されていた。
どうやらこれは、この世界での力を測るための機械らしい。
「おい、見ろよ俺の数値! 魔力が――」
馬鹿馬鹿しい。
さっき能力値の説明を受けたというのに……まさかちゃんと話を聞いていなかったのだろうか。
能力値が高いのは良いことだけど、高ければ高いだけ、自分の未来が辛くて苦しいものになるというのに。
「こんなの、低ければ低い方がいいに決まってるでしょ……」
そう呟きながら、私も腕輪を通す。
すると目の前に、半透明のスクリーンが投影された。
そこには、『魔力』や『闘気』、『スキル』といった能力に関連する情報が並んでいた。
――魔力が、えっと……1万、かな。それで、闘気はゼロ、か。
これは高いのだろうか。それとも低いのだろうか。
それを確かめるためには私も誰かと比べてみた方がいいのかな。
それなら、緋神君と――
そう思って、彼に話しかけようとした、その時だった。
「魔力も、闘気も、い、い、い、イチだってえええええええええええええ!?」
「こんなのって……こんなのって、あり得るのかよ……っ!」
――え……?
◇◇◇◇◇
それからはあっという間に時間が過ぎていった。
あの後、緋神君以外は豪華な屋敷へと案内され、手厚くもてなされていた。
――中でも、私だけが何故だか皆よりもさらに丁重に扱われている気がするけど。
「ええ、ホントに。貴女は素晴らしい才能をお持ちで――」
隣では、リヒトとかいうチャラついた男が私に話しかけてきてるが、正直そんなことはどうでも良かった。
そんな事よりも、乱暴に連れていかれた緋神君のことの方が気になってしょうがなかった。
「――貴女、もしかして先程連れていかれたあの無能の事を気にしていらっしゃるのですか?」
「……だったら、なんだというのですか」
「ハハ、貴女はお優しい方なのですね。あんな無能のゴミのことを気にかけるなんて。同情でもしてしまったのですか?」
何が……何が『無能のゴミ』だ。私は無意識のうちに堅く拳を握りしめていた。
「緋神君は……あの人は、どこへ連れていかれたんですか?」
「ああ、アイツなら王城へ連れていかれましたよ。きっと今頃、会長と国王様に色々と言われてるんでしょうねぇ」
嘲笑うように、リヒトはそう言った。
こんなチャラチャラした奴、今すぐぶん殴って王城とやらまで行きたいけど……。
「フフフ……」
見たところこの男は武器も持ってるし、それに武器なんてなくても女である私が勝てるわけが無い……。
ここは大人しく、時が過ぎるのを待つしかなさそうだ。
「――リヒト様、失礼します。こちらの書簡をレバンス様より預かってまいりましたので、お届けに上がりました」
「ああ、ご苦労」
と、ちょうどその時。リヒトらの部下と思われる男が言葉通り手紙を持ってやってきた。
リヒトはその男から手紙を受け取ると、すぐに内容を確認し始めた。
今なら、隙を突いて抜け出せるんじゃ――そう思ったのだが……。
「ククク……クックック……アーハッハッハッ!!!」
「…………?」
いきなり、この男は両手を叩きながら大笑いしだしたのだ。
その様子に戸惑ってしまってその場を動くことができないでいると、やがてリヒトは笑いながら私に話しかけてきた。
「たった今、貴女の心配している例の無能クンについての報告が届きましたよぉ?」
「それで……彼は、彼はどうなったんですか?」
私はゴクリと生唾を飲み込んだ。
一瞬だけ緊張感が場に漂う。
するとリヒトは、私にその手紙を渡してきた。
「自分の目で確かめるといいでしょう。とても面白いことが書かれていますから」
とても『面白い』こと…………?
なんだろう、すごい嫌な予感がする。
何故か、彼が遠くまで行っていなくなってしまうような気がして。
もう、二度と会えなくなってしまうような、そんな気がして。
――緋神君…………私にとって貴方は、
≪異世界人、ヒカミグレンをカルマ王国から国外追放とすることになりました。彼はこのまま行き倒れて、一人寂しく死ぬことになるでしょう。リヒト、例の彼女は――――≫
イチバン、タイ、セツ、ナ――
◆◆◆◆◆
「会長、あの男は?」
「先に知らせた通り、国外追放になりましたよ。先程、とても絶望した表情で城を出ていきましたから」
「では、きっとあの森か。そこら辺の洞窟で死ぬでしょうね。あんな力のないゴミなんて」
「ええ、そうですね。……ああ、そんな事よりもリヒト――例の彼女はどうなりましたか?」
リヒトとレバンスは、聖堂会の所有する屋敷の一室でとある密談をしていた。
そしてそこには、一人の少女も連れてこられていた。
「ああ、『カナデ』様ですね。彼女なら、あの書簡を見た途端泣き崩れて、そのまま倒れてしまわれたので……」
「医務室、ですか?」
「ええ。あそこで休ませてあります」
「それなら結構。彼女は千年に一度の逸材ですからね――丁重に扱わなければ」
レバンスは、床に描かれた魔法陣を眺めながらそう呟いた。
「……今度も、成功するんですか?」
「ええ。確実に成功しますよ。ほら、見てください。まだ若干ですが輝きが残っているでしょう?」
「確かに……。まだ青白く光ってますが、それが何か?」
「これは、生贄を必要とせずに異世界人を召喚できる可能性がある、ということですよ」
そう言いながら、レバンスは『ククク』と不敵で卑しい笑みを浮かべた。
「まあ生贄はちゃんと用意するんですがね」
「それって、もしかして……」
「ええ、そうですよ。今回の生贄は、彼女の――」
【topics】★聖堂会について
主に魔術の研究を行っている集団。魔法の才に長けている者が集まっている。
レバンス会長は魔術を埋め込んだ道具『魔術具』を生成する技術に長け、リヒトはそんなレバンスに命を救われた才能ある若き魔法戦士である。