#15 獣人族の少女
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いよいよ(実体持ちの)正ヒロイン登場です。
「――いやっ! 近づかないでって言ってるでしょ!?」
「うるせえガキだな……おい、とっとと捕まえてヤっちまおうぜ」
「ひっ……ヤ、ヤるって、な、なにを……」
「へっ、分かってんだろ? お前はガキだが、お子ちゃまってワケでもねェんだからよォ!」
ふむ……見たところ暴漢、か。
日本で言うところのヤクザみたいな恰好の二人組の男たちが、一人の少女に襲い掛かっていた。
少女は怖くて動けないのだろうか。その場から動く様子がない。
さて……どうしてこんなことになっているのだろうか?
普通なら颯爽と助けに行くべきだが、状況によっては俺が悪人になってしまう場合もある。
『ぐ、ぐれん。行かないのか……?』
「う、うぅむ……」
俺は桜花の問いに唸った。
少女の見た目は、うす汚れたボロ布の一枚服を着ていた。
それになんとも特徴的だったのは、その頭に生えた耳だ。
獣人族、というのだろうか。
まるで狼や狂犬を連想させるその耳は、少女の頭を覆う金髪と綺麗にマッチしていた。
かっこよさと可愛さの両立。
そう表現するのがいいだろう。
『ぐれん……何を一人でうんうんと頷いているのだ?』
「ん? あ、ああすまない。ちょっと考え事をな――って……!」
ちょっと目を離した隙にマズいことになってないか?
「おらァ!」
「っうあッ……!」
獣人族の少女が、ヤクザ男Aに腹を殴られていたのだ。
「女の子に容赦なしで腹パンかよ……」
これはもう考えるまでもないな。
というか、今更俺に失うモノなんて無いじゃん。
王国から追放されたし、何なら指名手配されてるし。
お金も地位も名誉も無い原始人なんだから、別に悪者になったところで問題はナシ!
「よし、それじゃあ助けに――」
「やめ……なさいよッ!!」
「ぐあァッ! な、何しやがるこのガキッ!」
「あぁ、逃げないでよぉ!」
……俺が助けに出ようとした時、少女はヤクザコンビに反撃して窮地を脱したのだ。
ホッとしたのもつかの間、まだ事件は続こうとしていた。
「おい、追うぞ!」
「うん~。早く捕まえてペロペロしたいもんねぇ~」
そう短く言葉を交わして、男たちは少女の逃げた方向へ走り去っていった。
「よし。俺も行くか」
俺は即決し、すぐにその場を動いた。
「スキル『生存』……発動!」
スキル『生存』の効果の一つ、『隠密行動』を発動した俺は、男たちにバレないように後ろを尾行していく。
道中で、使えそうな手ごろな石をいくつか拾いながら。
「へッ、所詮は女のガキだな。いくら獣人族とはいえ、俺達でも追いつけるくらいだしな」
「いや……いや……近づかないでっ!」
事態は思ったよりも早く動いた。
相当弱っていたのだろう。獣人族の少女は、すぐに疲れたのか男たちに追いつかれて、そのまま追い詰められてしまっていた。
「なんで……どうしてそこまで私を捕まえようと……」
「へっ、そりゃあお前が獣王国の――」
なんだか会話の途中だけど、今なら絶対に油断してる……よねっ、っと!!!
「そいっ!!!」
俺は、持っていた石ころを連続で男たちの後頭部めがけて投げつけた。
「ぐへぇっ!」
「うっ……」
スキル『生存』の効果の一つ、投擲能力強化のお陰で俺の投げる投擲物は通常よりも正確に、高威力で投げられるのだ。
いつもこれで動物を狩って料理をしているのだ。
どうだ、すごいだろう。
「あ、アナタは……誰なの……?」
あ、そうだった。
男たちが起きる前に、この子をどこかに避難させないとな。
「君、立てる?」
そう言って俺は少女に手を差し伸べる。
少女は男たちに追い詰められたときに、倒れ込んでしまっていたのだ。
「あ……ええ……」
「君が無事で良かったよ。それじゃあこのまま君を安全な場所に……」
「――あ、あの!」
「……?」
「どうして、私を助けたの……? そ、それにアナタは一体……」
あー……そういえばそうだよな。
俺は勝手に色々と進めようとしてたけど、説明不足過ぎたな。
「えっと……俺は、緋神紅蓮。気軽に紅蓮、って呼んでくれると嬉しいかな」
「グレン、さん……」
「うん。で、俺はこの森で生活してるんだ」
「ええっ!? この森で!?」
「そ。ちょっと色々と事情があってね……」
流石に指名手配されてるとか、国外追放されたとかは言えないよな……。
「そしたら、滅多に人が来ないこの森で、君とそこの男たちが現れた」
「ご、ごめんなさい……?」
「なんで謝るのさ」
「だって、静かな森での暮らしを邪魔してしまったから……」
「いやいや、全然気にしないで。むしろ久々に人と話せて嬉しいくらいだよ」
「そ、それなら良かったわ……」
なんだか不思議な子だな。そんなことを気にするなんて。
……ちょっと面白いかも。
「で、でも、どうしてアナタは私を助けたのよ……」
「いや、見てた感じこの男たちの方が悪者に見えたから」
「でもそれだけじゃ、私を助ける理由には……!」
「え? ……目の前で傷ついていく女の子を助けない理由がどこにあるんだ?」
「へっ…………」
まあ、全部姉さんの教えなんだけどな。
「女の子が困ってたら、全部助けてあげなさい!」ってよく言われてたし。
……その理由が、まさか俺のお嫁さん候補を探すためだと知った時には流石に驚いたが。
今ではすっかり体にその教えが染みついてしまっている。
「って……いったん場所を変えないかな。ここだとこいつらが居るし」
「しょ、しょうでしゅねっ! ……そう、ですね……」
「あはは、かわいい嚙み方したな」
「かわっ……!?」
『むううう……!』
俺は男たちを近くにあったツタで縛り付けると、獣人族の少女を連れてその場を離れた。
「あ、そうだ。君の名前は……?」
「――私は、メル。獣人族の……」
――奴隷よ。
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次回は明日更新です。