#1 異世界召喚と最弱の運命
高評価・ブックマーク登録・感想・誤字脱字報告、何でも気軽にどうぞ!
是非よろしくお願いします!
――異世界。それは、俺たちの住んでいる世界とは全くの別世界の事で、例えるならゲームや漫画の中に出てくるような不思議な世界であることがほとんどだ。
それ故に、異世界に憧れる人も少なくなく、この俺――緋神紅蓮もその一人だった。
冴えない男がトラックに轢かれて異世界転生。そして転生特典としてもらったチート級のスキルや、仲間の美少女と共に異世界で無双する。
そんな夢物語には俺だって憧れていた。
しかしそんな夢はただの妄想に過ぎない。だからこうして、この我が身に『実際』に起きるなんて、思いもよらなかった。
だが、今自分がいるこの場所。ここは紛れもなく異世界だ。見たことのない風景に、ファンタジーに出てくるような見た目の人たちが大勢。
これが異世界転生……いや、正確には異世界召喚だが、その類のものであることは一瞬で理解した。
それじゃあきっと、これから俺はこの異世界で物語に出てくるようなチート主人公になれるのだろう!
――そう、思ってた時代が俺にもあった。いや……俺が間違っていた。
そんなのは高望みだったのかもしれない。やっぱりそんなに上手くいくわけがなかったんだ。
ここは異世界であって、もう俺にとっての『異世界』じゃない。
「なん、で――」
「――フン。当然であろう。余の国に、余の兵に、貴様のような無能は要らぬ。即刻この場から立ち去るがよい!」
異世界に来て、すぐのこと。
異世界で最強になる――そんな俺の夢は、儚く散っていった。
そう。『現実』という名の奈落に突き落とされたことによって。
――これは、遡ること一時間前の出来事だ。
◇◇◇◇◇
都内にある普通レベルの公立高校。俺、こと緋神紅蓮はそんな高校に通う高校二年生だった。
俺はいわゆる『陰キャ』といわれる人種で、脳内ではいつも自分が最強の存在になって世界を支配したり、色々な女の子にモテまくって自分だけのハーレムを作ったり……なんていう妄想をしているような人間だったわけだ。
友達? ああ、友達ね。もちろんいないよ。
こういう自己紹介をしてるキャラに限って、周りには意外とオタク仲間が集まってたりするけど……俺は自他ともに認める真の陰キャだからね。友達なんて欠片も居ないよ。
でも、そんな陰キャな俺にも、転機が訪れた。それは、一瞬の出来事だった。
授業中、誰もが眠くなるような現代文の授業の最中にそれは起きたのだ。
クラスにいた生徒たちの足元がいきなり青白く輝き出して、そこからゆっくりと魔法陣のようなものが広がっていった。
その時、俺たちはその場から動くことができなかった。驚いていた、というのももちろんあるが、その時俺たちは動くことが『できなかった』のだ。――それはまるで、金縛りにでもあったかのように。
そしてその直後、魔法陣が一斉に閃光を放ち、その光に俺たちは呑まれて――消えたのだ。
「ああ……神よ。神は私たちを見放してなどいなかったのですね……!」
直後、老人のそんな声が光の中で聞こえてきた。
それから少しして目が慣れてくると、そこで俺たちはようやく気が付いた。
今の自分たちが置かれている状況に。
「ここ、は……?」
そんな言葉を、誰かが漏らした。
するとその疑問に、目の前の――先程聞こえた声の持ち主であろう老人が答えた。
「ああ、皆様が戸惑われるのも無理はありません。これより私が事情の程を説明いたしますので、しばしお聞きいただけると幸いでございます……」
そう言うと、老人はそのまま言葉を続ける。
「ここは、あなた方の居た世界とは全く違う世界……異世界、と言った方がいいでしょうか。そのような世界なのです」
「異世界、だと?」
クラスメイトの中から、そんな疑問が飛んだ。
「ええ。ここはあなた方からしたられっきとした『異世界』と呼ばれる場所でしょう。まあそんな細かいことはどうでもいいのです。それよりも、私共があなた方を召喚した経緯の方を――」
「――どうでもいいだと!? アァ、舐めてんのかジジイ!!」
どうでもいい。そんな老人の言葉に怒りを見せたのはクラスのヤンキーの一人だった。
流石ヤンキー、といったところだろうか。その言葉のイメージにふさわしくどんな状況でも喰ってかかるその生意気な態度で老人に嚙みついていた。
多分相当イライラしているのだろう。きっと彼女と会えないから、とかそういう理由で――
「ウチのばあちゃんを一人になんてしておけっかよ! いいから早く家に帰せ!」
おばあちゃんの為なのかよ。優しいじゃん、ヤンキー。
「そ、そんな。いきなり家に帰せと言われましても……」
「そうだぞ異世界人! 一体我々がお前たちを召喚するのにどれだけの犠牲を払ったと思っているんだ!」
「犠牲だァ!? んなこたァ知ったこっちゃねェよ! そっちが勝手に俺らを喚んだんだろうが!」
「この……ッ、さっきからゴチャゴチャと煩い異世界人だな! こんな男一人くらいなら殺してもいいですよね、会長!」
「殺すだと!? 嘘でもそんな言葉は口にすんじゃねえよ! 相手が悲しむだろうが!」
会長、そう呼ばれた老人の隣に立っていたイケメンな青年が、ウチのクラスのヤンキーと口論で盛り上がっている。
傍から聞いていればウチのヤンキーの方が正論を言っているように思える。
……というかこのヤンキーめっちゃいい奴じゃないか?
今まで関わらないように避けてたから、こんなにいい奴だったなんて全然知らなかったぞ……。
「――リヒト、落ち着きなさい」
「しかし会長! この男が……!」
「お黙りなさいッ!!」
「……はい。過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
リヒト、『会長』にそう呼ばれた青年は怒られて頭を下げながら後ろへと下がっていった。
この『会長』とかいう老人、恐らく相当地位の高い人物なのだろう。
「先程の私の言葉に至らない点があったこと、そして私の部下が取った行動……これらに関してはしっかりと謝罪させていただきます。誠に、申し訳ございませんでした」
「おう、分かればいいんだよ爺さん」
『ジジイ』から『爺さん』にランクアップしたな。
それにしても二人とも思ったより人が良くてびっくりなんだが。
と、俺が内心驚いていると『会長』は改めて話を始めた。
「それでは改めまして。私は、この『聖堂会』という組織をまとめる長……会長を務めております、レバンスと申します。以後お見知りおきを」
『会長』……改めレバンスはそんな自己紹介の一言を皮切りに、この世界のことや、俺たち地球の人間が召喚された経緯について話してくれた。
時間にして20分ほど。レバンスさんは、クラスメイトから放たれた疑問の声にもしっかりと答えながら、俺たちの納得できる説明を繰り広げたのだ。
そんな彼の説明を要約するとこんな感じだ。
――この世界は、八つの種族がそれぞれ生きて暮らす八つの大陸と、中央にある巨大な世界樹の生えた大陸……その計九つの大陸から成っているらしい。
そして俺たちが召喚されたのは、人間族――ヒューマンの支配する大陸、『アルステラ大陸』の大国、『カルマ王国』だった。
カルマ王国は現在、アルステラの大陸全土を支配し、敵対国である魔族の大陸への侵攻を画策しているというのだ。
そんな中、王国は対魔族への切り札として『とある禁忌』を犯したのだ。
それが、『異世界人の召喚』――そう、まさに俺たちを召喚したことだった。
異世界人を召喚する為には、その代価として人間の魂が必要であることから禁忌とされていたが、カルマ王国国王の密命により犯罪者などの魂を利用して何度も俺たち異世界人を召喚しようと試みたのだとか。
幾重もの失敗を重ね、遂には罪のない人々からも命を奪い始めた頃、ようやく俺たちが召喚されたのだ。
なぜ王国はそこまでして俺たち異世界人を召喚しようとしたか。
それは――
「それでは、今から皆様にお渡しするものを各自腕におはめ下さい。そうすれば、目の前に浮かび上がってくるはずですから」
レバンスさんのその言葉で、クラスメイト達は清潔な白服を着た人たちに渡された銀色の細い腕輪を腕に付けていく。
俺も皆と同じように、同じものを、同じように腕に通した。
すると、
「うわっ! びっくりした……何だ、コレ? まるでゲームのステータス画面みたいな……」
「見えましたでしょうか。今皆様の目の前に浮かび上がっていますのは、皆様それぞれの能力を表した表になります」
っと……ホントにステータスみたいだな。どれどれ、俺のステータスは、っと……。
「――おい! 俺のこれって高いんじゃねーの!? 魔力が420、闘気が523って書いてあるぜ!」
「――えー!? 二つとも高いなんてすごー! 私なんて魔力が876あるけど、代わりに闘気っていうのは110しかないよぉ~」
「――逆に俺は闘気ってのは930あるけど、魔力ってのはゼロだぜ?」
え……? 嘘、だろ……?
「おお、皆様素晴らしい数値です! 聞いている限り、皆様の能力値は合計で1000近いご様子。これは凄いことですよ!」
「…………」
「先程もお話ししましたが、異世界の方々の能力値は以上な程優れており、才能に富んでいるのが当たり前、という噂だったのですがどうやらその噂は本当だったようですね!」
――そう。王国が必死に異世界人を召喚しようとしていた理由。
それは、今レバンスさんが言った事通りの理由があったのだ。
異世界人は能力が非常に優れている。それは、育てれば『切り札』に成りうるほどに。
だが、しかし――
「……おや、どうかされましたか? 顔色が優れないようですが……」
レバンスさんが、俺の様子に気が付いて話しかけてきた。
俺は、何とか作り笑いで受け答えようとするが、うまく言葉が出なかった。
「え、あ……え、っと……」
「おお、そうだ。貴方の能力値はどれくらいの――」
そう言いながら、青い色のレンズが付いた眼鏡を取り出して、俺の目の前に浮かび上がっているステータス画面を覗き込んだ。
「い、いや……これは、その……」
「こ、これは……これは……」
レバンスさんが俺のステータスを見た直後、驚いた様子で後ずさりしていく。
その様子に、クラスメイト達の視線も俺のもとに集まってしまう。
「魔力も、闘気も、い、い、い、イチだってえええええええええええええ!?」
「こんなのって……こんなのって、あり得るのかよ……っ!」
きっと、きっとこれは何かのバグなんだ。
だって、こんなのっておかしいじゃないか。
他のクラスメイト達は、皆噂通りの強い力を持っているのに、俺だけこんな……こんな……っ!
≪ヒカミ グレン/魔力:1 闘気:1 スキル:なし≫
――俺のステータス画面には、そんな絶望的な文字列が並んでいたんだ。
【topics】★能力値とは
生物に宿る魔力・闘気を数値化した物。
幼児→50~100 少年~青年→100~500 大人→~1000 と、基本的には成人までにに1000前後の能力値を有していることがほとんど。