幹部クロン
◇ ◇ ◇
私とセツは、スタッと廃ビルの屋上に降り立つ。
そこにいたのは、一人の少年。
歳は私たちとそんなに変わらないと思う。
髪の色は灰色で、少し跳ね気味だ。
顔全体を涙の模様が描かれた灰色の仮面で覆っている。
着ているローブは闇で染めたのかのような漆黒で、ローブの下に着ているのは黒スーツ。
ネクタイまで黒で、Yシャツは灰色のようだ。
スーツのズボンの裾を黒のロングブーツに入れている。
「あの子が幹部?」
私の問いに、真剣な感じでハッピーリさんが答える。
「正確にはちゃう。あの少年に取り憑いている精神生命体が幹部や」
「精神生命体!?」
驚く私をよそに、ハッピーリさんは忌々しげに叫ぶ。
「にしても、消滅したと思っとたんやのに精神生命体となって生きとったんやな!幹部クロン!」
【久しぶりだな。妖精】
黒板をひっかいたような不快な声が脳内に木霊する。
あの子がしゃべっているのではないようだから、これは精神生命体の言葉なんだろう。
「幹部クロン!精神生命体にまでなって何たくらんどるんや!」
ハッピーリさんがまた叫ぶ。
というか、ハッピーリさんと幹部クロンっていう人(?)だけで話が進んでるよね?
私たち要るの?
【もちろん。我らの悲願の達成だ。丁度いい協力者も見つけたことだしな】
「その協力者ちゅうのが、その少年ってわけやな……」
「ハッピーリさん。あの子って無理やり協力させられてるのかな?それとも、自ら進んで?」
私は、何も言わずにその場に佇む少年を見つめる。
それによって対応も変わってくるしね。
セツも、少年を品定めでもするかのように見ているが、それはおいておく。
「残念ながら、それはわからんわ。ただ、敵と割り切っといたほうがええで」
【さて、挨拶がてらに今の魔法少女と魔法少年の実力を見ておくとするか。いけ、シュン!】
おそらく、シュンというのがその少年の名前なんだろう。
あ、でも偽名の可能性もあるか。
それは、ともかく。
シュンは私たち…………いや、私めがけて襲いかかって来た。
速い。
いくら、魔法少年とはいえ普通ならば避けられない。
「ユキ!」
ハッピーリさんが私の魔法少年の時の名前を叫ぶ。
私が、攻撃されるのを心配しているのだろう。
私、どう見ても接近戦とか無理そうだもんね。
シュンが剣を持ったセツでなく私を狙ったのも、おそらくそれが理由。
でも。
残念だったね。
確かに、普通ならシュンの判断は間違っていない。
接近戦が出来ない敵に接近戦を挑むのは。
でもね!
私は、シュンの拳の勢いを合気道をやる時の要領で受け流し、そのまま変則的な一本背負いで地面におもいっきり叩きつけた。
これ、受け身とれてなかったら怪我してるだろうけど大丈夫だろう。
シュンの動き的に何かしら武道はやってそうだし。
シュンは、サッと後ろに下がる。
あれ、相当衝撃凄かったはずなのに動けるのか。
クロンってやつに身体強化でもされてるのかな。
「…………ユキって、武道とか出来たんやな」
ハッピーリさんが、呆気にとられたように呟く。
シュンが動き出してから、私に拳が届くまで一秒もないくらいの僅かな時間だったもんね。
シュンも流石に警戒して、動く様子がない。
ちなみに、セツは私が無事なのを確信していたらしく動こうともしていなかった。
心配すらしてくれなかったみたいだ。
いや、心配はしろよ。
「フユカ。動けなくてごめん。武道使わせちゃって」
あれ、違った。
小声でセツはそう言った。
ただ、そっちの心配なんだね。
まあ、ちょっと気分的にきついけど。
「大丈夫だよ。ありがと、セツ」
私も、小声で返す。
これだけ、小声だとハッピーリさんにも聞こえてないだろうな。
【シュン!何をやっておるのだ!さっさと反撃…】
「ちょっと黙ってくれるかな。クロン」
初めてシュンが口を開いた。
柔らかい感じで低めではあるが、あどけなさも残っている声。
何処か、懐かしさも感じるそんな声。
シュンは、しばらく考えこむかのように佇んでいたが。
「今日のとこは退くよ。勝てそうにないし」
【ちょっと、何を勝手に決めておるのだ!】
クロンは慌てるものの、シュンの決意は固いらしくそのまま廃ビルの屋上の端まで下がると。
「また会おう。魔法少女と魔法少年」
そう言って、飛び降りた。
私とセツは慌ててそこへ駆け寄るが、下を覗いてみたときには誰もいなかった。
「逃げたようやな………」
ハッピーリさんの声が、廃ビルの屋上に響きわたった。
◇◇シュン視点◇◇
「うっ!」
ぼくは痛みが堪えきれずに路地裏の地面に座り込む。
さっきの一本背負いは強烈だった。
受け身をとっていなければ、怪我は確実。
そもそも、クロンの身体強化がなければ受け身をとっていても動けなかった。
いや、それ以前にクロンと出会わなければこんな目にあわなかったんだけど。
【シュン。大丈夫なのか?】
「たぶんね」
一応、心配はしてくれるらしい。
そりゃそうか。
ぼくがいなければ、クロンは力の行使どころか動くこともままならないもんね。
少しずつダメージから回復するのを感じつつ、クロンの声に耳を傾ける。
【しかし、シュン。確か、柔道の腕はなかなかよかっただろう。あんなに簡単に負けるものなのか?】
「あれは、正確には合気道と柔道を併用したものだよ。でも、あんなに強いのは驚きだね」
【それほど強い者ならば、心当たりとかあったりしないのか?】
クロンの問いに、ぼくの頭に二人の顔が思い浮かんだ。
でも、それはあり得ない。
だって、あの二人は…………
「心当たりは特にないかな。でも、ぼく的にはもう戦いたくないね」
【フフフ、シュン。それは、無理な相談だ。お前は我に逆らえない】
「わかってるよ」
そうじゃなきゃ、こんな格好なんて土下座されてもするもんか。
ぼくは手首にはまっている腕輪を外して変身解除する。
そして、普段着に戻ったぼくは何食わぬ顔をして歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇
幹部の正体が気になる。
不定期投稿がますます不定期的になりそうです。
頑張って書くのでよろしく。
ブクマ、☆タップでの評価、感想等よろしくお願いいたします。