あなたたちのお名前は?
とりあえず、先手必勝。
「ファイアボール!」
ナツに近いスライムから、順にファイアボールを当てていく。
もちろん、ナツに当てないように細心の注意をはらって。
ナツは、このカオスとしか表現しようのない空間で縮こまっていた。
ですよね~。
私たちに近づいてきたスライムもいたが。
ジュッ!
光の矢に貫かれて消滅した。
この光の矢を放ったのはセツ。
ステッキを弓に変化させ、光の矢をつがえてスライムを一体、一体確実にしとめていく。
てか、ステッキってそんな使い方も出来るのか。
意外と万能だな。
なんだか、セツがもの凄くカッコいい。
負けないぞ!
謎の対抗心を燃やしつつ、私はステッキを構える。
「ファイアアロー!展開!」
空中に無数のファイアアローが浮かぶ。
なんだか、私の中から何かが結構減っていく感じがする。
おそらく、この何かがハッピーリさんの言っていた魔力なんだろう。
でも、これが成功すればスライムの数はいっきに減る。
ナツには当たらないように細心の注意をはらって、と。
「発射!」
ファイアアローがスライムどもに向かって降り注ぐ。
次々に消滅するスライム。
数百はいるのではと、覚悟していたスライムもたったの数匹にまで減っている。
その数匹も、セツが百発百中で消滅させてしまった。
「あの、ありがとうございます」
ナツが腰を抜かしたまま、お礼を言う。
「大丈夫ですか?」
私が手をさしだすと、躊躇いつつも手をとって立ち上がってくれた。
そうなんだよな。
今の私、魔法少年なんだよな。
手をとるの躊躇うよね。
うん。
「それじゃあ。私たちはこれで」
セツが、笑顔でその場を去ろうとする。
一人称を私に、変えるとか、なかなかなりきってない?
私も、少し慌てて挨拶してその場を去ろうとしたのだが。
「待って下さい!あなたたちのお名前は?教えて下さい!」
ナツが声を上げる。
「私の名前は…………」
困った。
流石に、性別が違うとはいえ本名を言うわけにはいかないし。
まあ、本名は女の子っぽいからどっちみち無理がある。
名前かあ…………フユカ……冬華………………………………冬の華?
「ユキ。私の名前はユキだ」
「ユキさん………………ですか………」
言ってしまった。
ちょっと安易な気がしないでもないが、仕方ない。
それと、一人称が私だけど大丈夫だよね?
まあ、大人な感じの男性なら一人称が私の人もいるし、大丈夫だろう。
たぶん。
「私の名前はセツナ。これからはもっと気をつけてね。それじゃ」
セツがそれだけ告げると、裏道へスタスタと歩く。
「それじゃ、気をつけて」
私もそれだけ言って、セツの後を追う。
呆然と突っ立っているナツをチラリと見て、私は裏道に入る。
てかさ。
セツ。
セツナって…………………………………………本名じゃん!
◇ ◇ ◇
裏道で変身解除し、元の姿に戻った私とセツ。
意外と簡単に元に戻れた。
てっ、そんなことより!
私の家に歩いて向かいながら、私はセツに詰め寄る。
「ちょっと!セツ、本名を使うってどういうつもりよ!」
セツというのは、セツの周りにいる人間全員が使っている愛称で、本名は 神原 刹那。
とはいえ、セツとしか呼ばれてないので、セツが本名だと思っている人も多いと思うけど。
「いやさ、だってバレないだろ」
「えと、セツの本名、セツナなん?」
ハッピーリさんが驚いたように聞く。
「そうだよ。この私、神野 冬華が保証する」
「保証されるようなものじゃないだろ。フユカ」
「セツ。いいじゃん」
そんな感じで、口げんかしつつ私の家にたどり着いた。
◇ ◇ ◇
「フユカ、セツ君、お帰り。精神的に疲れたでしょ。どうせ、ハッピーリさんからは男女逆転システムの説明なんてなかっただろうし」
私の母が、家の前で待っていた。
そういえば、どういう知り合いなんだろ。
ま、まさか…………………………………
「ハナとアツキの娘は、最高やなぁ。ハナとアツキの現役のときとそう大差なかったでぇ。それと、セツも凄かったわ」
あっ、なんとなく理解した。
昔、母と父の二人もやってたってことね。
魔法少女と魔法少年。
母はなんともいえない表情をしてた。
◇ ◇ ◇
結局、あの後は自分の思ってたより疲れてて家に入ったとたん、爆睡してしまった。
次の日の朝に聞いたのだが、ステッキは5センチくらいのチャームにすることが出来て、宝石もチャームにしておけるので是非、持ち歩いて欲しいということだ。
持ち歩いてないと、困るもんね。
あと、寝る前に窓辺の台座にチャーム状態のステッキと宝石を置いてエネルギーをチャージして欲しいとのこと。
昨日は、母がやってくれたらしい。
てか、窓辺の台座とかいつ設置したんだよ。
そんな感じだったので、ハッピーリさんに男女逆転システムについて文句を言うみたいなことはうやむやになってしまった。
そして、そのハッピーリさんはというと。
「ちょ!あんま、揺らさんどいてくれぇな!酔うやろ!」
私のチャームと一緒にリボンで首からぶら下げられていた。
チャームに似たかんじの、白いリスの形のプラスチックっぽいプレートに変身しているのだ。
「それより、本当にチャームって他の人に見えないんだよね」
「それなら、昨日のうちに僕が確認済み。父さんも母さんも目の前にあるチャームと台座に気付いてなかったから」
隣を歩くセツが言う。
「そうや!魔法少女や魔法少年みたいに魔力がある人物か妖精以外には見えへんのや」
「あっそ、まあ魔法が使えるのもの凄く楽しかったけど。おかげで宿題、一切出来てないよ!」
おかげで、学校へ向かう足取りが重い。
セツがいつものことだろみたいなこと言った気がするけど、気にしない。
「フユカ~!」
「ナツ!」
ナツがやって来た。
昨日、あんなことに巻きこまれたわりには元気そうである。
ナツは、少し跳ねている茶色の髪を気にすることなく、その灰色の瞳を輝かせて言った。
「昨日ね!魔法少女と魔法少年にあったんだ!」
うぐっ!?
「そ、そうなんだぁ~。それって、本当?」
「本当だよ!セツナ様とユキ様!超絶美少女と超絶美少年だったんだから!」
内心でダメージを受けている私をよそに、瞳を輝かせまくっているナツ。
これから、バレないようにするのも大変そうだな。
私は、バレないようにため息をついた。
ところで、セツ。
なんで、笑いこらえてんだよ。
次回の話は、セツの無双回(!?)の予定。
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