エピソード26.5 君に捧げる恋歌
遊び戯れる七人の乙女のもとへ、目の周りに入れ墨をした、大久米命が向かう。狭野尊 (以下、サノ)の求婚相手、媛蹈鞴五十鈴媛 (以下、タタラちゃん)に求愛の歌を贈るためである。
大久米命は、七人の乙女に、というか、タタラちゃんに聞こえるように歌を謡った。
倭の 高佐士野を 七行く 媛女ども 誰をしまかむ
大久米「大和の国の高佐士野を、七人連れで歩く乙女たち。その中の誰を妻となさいましょう。」
この歌に、サノが返す。当然、タタラちゃんに聞こえるように・・・。
かつがつも いや先立てる 兄をしまかむ
サノ「どの娘とも決めがたいんやが、一番先頭を歩く、年長の乙女を妻にしよう。」
大久米命が、乙女たちのもとに近付いた。そのとき、年長の乙女、すなわち、タタラちゃんが、大久米命に向かって歌を贈った。
あめつつ ちどり ましとと など黥ける鋭目
タタラちゃん「雨つばめや鶺鴒、千鳥や鵐でもないのに、どうしてそんな裂けた鋭い目をしているの?」
大久米命が、負けじと返す。
媛女に 直に逢はむと 我が黥ける鋭目
大久米「お嬢さん、じかに、お目にかかりたくて、私の裂けた鋭い目は・・・。」
タタラちゃん「分かりました。結婚を承諾致します。」
大久米「えっ!? いいんですか?!」
タタラちゃん「はい。ちなみに、私と母は、大阪府茨木市五十鈴町にある、溝咋神社にも祀られてます。」
そこに、狭野尊も駆けつけた。
サノ「ホンマにええんか?」
タタラちゃん「はい。ちなみに、『日本書紀』で父とされている、事代主神は、溝咋神社から二キロほど離れた、高槻市三島江にある、三島鴨神社に祀られてます。」
サノ「歌の返しが見事で、わしは惚れてしまったんやじ。それに、ちゃっかり、解説を入れてくるところも気に入ったっちゃ。」
タタラちゃん「ありがとうございます。ちなみに、三島鴨神社から溝咋神社へ神輿が渡る行事もありました。二千年後は、やっていないみたいですが・・・。」
サノ「事代主神が、妻と娘に会いに行ってたんやな・・・。」
タタラちゃん「はい。ちなみに、雨つばめは、夏の渡り鳥。鶺鴒も千鳥も鳥の名前です。鵐は、ホオジロなどの小鳥の古名です。そのほかに、質問はございますか?」
サノ「あ・・・あるっちゃ。どこにすべきか、迷ってるっちゃ。この辺りの地理が不案内で・・・。不器用・・・ですから。」
大久米「高倉下のモノマネが流行ってるんですか?」
サノ「これで何とかなると学んだんやじ。」
タタラちゃん「そういうことを、乙女に、お尋ねになっていいものなんでしょうか?」
大久米「えっ? でも、乙女っていいながら、どういう意味か分かってるってことですよね?」
タタラちゃん「あっ・・・(〃▽〃)ポッ」
サノ「大久米よ。読者のために解説、頼むっちゃ。」
大久米「ええ、さきほど、結婚が成立したということで、次は睦む場所が必要になってくるわけです。でも、我が君は、ここの地理が不案内ということで、尋ねちゃったんですね。ちなみに『記紀』には、こんなやり取りありませんので、悪しからず・・・。」
サノ「・・・というのも、当時の習俗では、男女は自由に相手を選べてたんやじ。相思相愛になれば、人目を忍んで逢瀬を重ね、その後、女性の親に認められて、初めて正式な夫婦になるという流れやったんやじ。」
こうして、紙面の都合で、二人は想像にお任せして、そういう関係になったのであった。このとき、サノは歌を詠んだ。
葦原の しけしき小屋に 菅畳 いや清敷きて 我が二人寝し
サノ「河原の草むらにある、むさ苦しい小屋に菅の畳をきれいに敷いて、二人で寝たよね。」
大久米「直球じゃないですか・・・。」
サノ「お・・・お父様にあやかって・・・。不器用・・・ですから。」
タタラちゃん「これで、私たち夫婦ですね。」
すると、台本にない展開が待ち受けていた。父親の事代主神と母親の玉櫛媛が現れたのである。
事代主「娘のこと・・・頼みますぞ。もしも、泣かせるようなことがあったら、わしは・・・わしは、許さんからなっ! そんなことになったら、わしに仕える役目である、役前として、永久に奉仕してもらうけんなっ!」
玉櫛媛「娘のこと、幸せにしてけろ。おめえさんなら、タタラちゃんを幸せにできるって信じてるだよ。それから、ぜってい、泣かしちゃダメだかんなっ!」
サノ「は・・・はいっ。」
こうして、サノは震えながら、タタラちゃんを嫁に迎えた・・・と思いたい。




