エピソード25.5 会議は踊る、されど進まず
中つ国を平定した狭野尊 (以下、サノ)は、高千穂と中つ国の勢力融合を図るため、現地の豪族から嫁を娶ることになった。
そして、紀元前661年8月16日、嫁候補選びについての会議がおこなわれた。
サノ「普通は、息子の手研耳が適任やと思うんやが・・・。」
溜息を吐くサノに、マロ眉の天種子命がツッコミを入れる。
天種子「国の主が嫁をもらわねば、意味がありません。」
サノ「じゃっどん、吾平津や興世のことを想うと・・・。」
それに対し、サノの息子、手研耳命 (以下、タギシ)が語る。
タギシ「父上、天種子、台本にないやり取りなどしてないで、嫁探しに傾注してくださりませ。」
サノ「手研耳・・・。不甲斐ない父で、申し訳ないっちゃ。」
タギシ「父上の気持ちも分かりますが、これも新しき国を造らんがため・・・。」
サノ「そうやな。新しき国のためっちゃ。」
そのとき、目の周りに入れ墨をした大久米命が叫んだ。
大久米「我が君っ! 嫁候補っ! いますよっ!」
サノ「な・・・なんち・・・。」
大久米「聞いて驚いてください。それは神の子なのですっ!」
会議参加者「か・・・神の子?!」×多数
タギシ「大久米っ! それは、まこっちゃ(本当)?」
大久米「まこちっ(本当だよ)!」
天種子「中つ国の豪族で、神の子・・・。そんな大物・・・おりましたか?」
大久米「それがいたんですよ。その名も、媛蹈鞴五十鈴媛と申します。別名、比売多多良伊須気余理比売です。」
天種子「それで、親である神様は、誰にあらしゃいます。」
大久米「親である神は・・・いろいろです。」
サノ「いろいろって、どういうことっちゃ?!」
大久米「それが『日本書紀』では、大三輪神とか、事代主神と記されてまして・・・。『古事記』では、大物主神と記されておりまして・・・。」
サノ「諸説ありってやつか・・・。」
天種子「せやけど、分かることもあります。」
サノ「どういうことや?」
天種子「出雲の系統に属する神様ということにあらしゃいます。大物主は、出雲の大国主大神の和魂ですし、大三輪神は、大物主の別名・・・。事代主は大国主の息子にあらしゃいます。」
タギシ「和魂・・・優しい心というわけか・・・。どっちにしろ、完全に出雲の神様やな・・・。」
サノ「じゃっどん、なして、中つ国に出雲が関わってくるんや?」
天種子「国譲りで、出雲を明け渡したあとは、中つ国に移住してたんでしょうなぁ。せやけど、どういう経緯で、タタラちゃんは生まれたんや?」
大久米「聞くところによると、三島溝橛耳神の娘を出雲の神様が気に入って、嫁にしたんだとか・・・。娘の名前が『日本書紀』では玉櫛媛で、『古事記』では勢夜陀多良比売となってます。」
サノ「こっちも諸説ありか・・・。」
大久米「どちらにしても、神様が娘を気に入って、嫁にしたということです。『日本書紀』では八尋熊鰐、すなわち大きな鮫となって通ったと記されて、『古事記』では朱塗りの矢となって、娘が用便をしている時に陰所を突いたとか・・・。それを引き抜くとイケメンに変わり、そして二人は結ばれたとか・・・。」
サノ「大久米よ。陰所って・・・もしや・・・。」
大久米「女性器ってことです。」
サノ「出雲の神様は直球勝負が、お好きなんか?!」
大久米「まあ、そういうわけで、七人も女の子が生まれたみたいです。それで、最初に生まれたのが、タタラちゃんです。最初は陰所蹈鞴五十鈴媛だったそうですが、名前に陰所って・・・と思ったのか、媛自身が改名したそうです。」
サノ「そうやろな・・・。わしでも改名するっちゃ。」
天種子「しかし、タタラちゃんの爺ちゃんにあたる、三島溝橛耳神という名・・・。どこかで聞いたことが・・・。」
そのとき、八咫烏 (以下、三本足)が口を開いた。
三本足「オラの別名だからな。それで、聞いたことあるんじゃねぇか?」
天種子「ちょっ! えっ?! それでは、タタラちゃんは、三本足の孫娘ということになりますのんか?」
三本足「まあ、そういう説もあるみてぇなんだよなぁ。オラ、人気者だからなぁ。」
サノ「じゃあ、大久米よりも、詳しく知ってるってことやろ? なして、早く言わなかったんやっ!」
三本足「大久米の活躍の場を取っちゃ、まずいだろ? やっぱ、台本通りに進めねぇとさぁ。神様に怒られっからよお。」
サノ「三本足・・・。媛のこと、詳しく教えてくんない(ください)。」
三本足「あれは、オラが三島に住んでた時のことだ。三島ってのは、摂津国の三島郡のことで、二千年後でいう、大阪府の茨木市とか高槻市の辺りだ。」
大久米「溝橛のという名からも分かる通り、農業先進地だったんでしょうね。」
三本足「そうだ。溝は水路、橛は杭のことだかんな。それに製鉄も進んでてよお。銅鐸の供給地だったんだ。茨木市に東奈良遺跡っちゅうのがあって、そっから、36点もの銅鐸の鋳型の一部が出土してんだ。」
サノ「三本足・・・。そっちの詳しくじゃなか・・・。媛のことっちゃ。」
三本足「ああ、媛は母親に似て、美人だぞ。それに聡明だ。まあ、オラの血が流れてんだから、当然なんだけんどよお。なんてこと言ったら、大国主様に怒られるかな?」
サノ「それで、媛は、今も三島に?」
三本足「いや、今は三輪山の麓にいるみてぇだ。狭井川の上流に住んでるみてぇだな。」
サノ「三輪山といえば、弟磯城こと黒速が治めている磯城の近くやな。」
主君の発言を聞いて、黒速 (以下、クロ)は意気揚々に答えた。
クロ「そうさ。僕が治める磯城の近くにあるのさ・・・。なぜかって? 大三輪神は、僕のパパだからさ・・・。」
会議参加者「ええっ?!!」×多数
黒速の衝撃発言・・・。八咫烏はどこまで関わってくるのか・・・。次回に続く。




