エピソード24.5 地名由来講演会
土蜘蛛討伐に、狭野尊 (以下、サノ)は一部の軍隊、すなわち久米部を派遣した。率いた将の名は「記紀」に記されていない。そこで、この物語では、味日命、夜麻都俾 (以下、ヤマト)、それから八咫烏 (以下、三本足)が向かったことになった。
味日「前回は三人の土蜘蛛を退治したから、残るは高尾張邑を根拠地とする土蜘蛛だけだな。」
ヤマト「今回は、どうやって退治するんです?」
三本足「おめえ、ちゃんと台本読んでねえな。今回は、葛の蔓で網を作って、そんで捕らえて殺すんだ。」
ヤマト「す・・・すみません。葛って何ですか?」
味日「読者のために説明しろってことだよな。まあ、葛ってのは、いわゆるクズってやつだよ。葛湯って飲み物もあるだろ? これは根っこを粉にしたものを湯で溶かしたやつだ。我が国では有名な食用植物なんだってばさ。」
ヤマト「す・・・すみません。不器用・・・ですから。」
三本足「漢方薬にも使われてっぞ。」
そこに、紙面の都合で、高尾張邑の土蜘蛛 (以下、ツッチー)が現れた。
ツッチー「あのう、すみません。この網に捕らわれたらいいんすか?」
味日「いやっ・・・ちょっ・・・緊張感なさすぎだってばさ。」
ツッチー「だって、台本では説明文で終わるところなんですよ。どうしろってんです。」
ヤマト「じゃあ、一応、叫び声とか・・・。」
ツッチー「了解! ウギャー! おのれ、謀ったなっ!!」
三本足「こうして、葛の網で捕らえたんで、この地は葛城と呼ばれるようになっちまったんだ。」
ヤマト「葛城じゃないんですか?」
三本足「それは、のちの時代の言い方だな。時が経つにつれて訛っちまったんだ。」
ヤマト「言いにくかったんですかね?」
ツッチー「どうでもいいんだけど・・・。そろそろ逝かしてくんない?」
味日「ああ、そうだったな。それじゃあ、覚悟っ!」
ツッチー「一回限りの登場でも・・・傷跡を残せて・・・本望っ! ガクッ。」
こうして土蜘蛛退治を成し遂げた三人は、狭野尊に結果を報告した。
サノ「そうか・・・。ツッチーは台本通り、網にかかって、葛城の地名由来説話を成し遂げたんやな。さすがっちゃ!」
味日「褒めるとこ、違うんだってばさ。」
そこへ剣根と五十手美 (以下、イソ)の兄弟がやって来た。
剣根「三本足爺ちゃん! ようやく情報解禁されたんですなっ!」
イソ「私も嬉しいですぞっ! 久々の一家団欒ですなっ!」
サノ「ずっと前から、団欒だったはずっちゃ。」
剣根「何を言いますかっ! 作者の陰謀で、呼びたくとも呼べなかった、我らの苦しみ・・・。我が君には、分かりますまい。」
サノ「いやぁ、そんなこと言われても・・・。」
三本足「まあまあ、おめえら、まだ気を緩めちゃいけねぇぞ。おめえらの叔母さんに、姪っ子も登場すんだ。しっかりしてくれよ。」
ヤマト「あのう、それはどういうことでしょうか?」
サノ「そうやじ。どういうことっちゃ!?」
剣根「さて、では、葛城ついでに、他の地名由来を紹介しますぞ。」
サノ・ヤマト「あっ! 逃げた!」×2
イソ「いえ、これは台本通りです。土蜘蛛退治のあとは、地名起源についての描写になってますので・・・。」
サノ「ちっ・・・。台本に逃げるとは、卑怯な奴らっちゃ。」
剣根「まずは、磐余ですぞ。兄磯城率いる八十梟帥が陣を敷いていたところですな。」
ヤマト「父上、その地名って、兄磯城が登場した時から、みんな、磐余って呼んでましたよ。もともとは、そうじゃなかったってことですか?」
剣根「その通りっ! 片居とか、片立と呼ばれておったのが、今回の我が君の東征で、名前が変わったのじゃ。」
味日「どうして変わったんですか?」
イソ「そこに敵が満みしていたんで、名を改めたんじゃ。」
三本足「ちなみに、満みすってのは、充満するって意味だ。」
イソ「他にも、我々が雄叫びを上げた地が、猛田となった。奈良県橿原市東竹田と言われておる。」
三本足「それだけじゃねぇぞ。城を作った地が、城田。賊軍の屍が肘を枕にした地が頬枕田と名付けられてっぞ。」
ヤマト「ひい爺ちゃん、それって二千年後のどこなんですか?」
三本足「頬枕田は、エピソード19で紹介した、国見丘こと経ヶ塚山の麓じゃねぇかな。激戦地ってことを考えるとそんな気がすっぞ。」
ヤマト「要するによく分からないってことですね。」
イソ「まあまあ、可愛い甥っ子よ。城田も分からんし、八十梟帥と戦った辺りってことで勘弁してくれ。」
味日「五十手美さん。それでいいんですか?」
イソ「分からないものは、仕方がない。分かったふりをするのが、一番よくないことなのだよ。君も歳を取れば、いずれ分かることだろう。」
味日「なんか・・・無理矢理まとめてきた感が否めないんだってばさ。」
そこに、椎根津彦 (以下、シーソー)と弟猾がやって来た。
シーソー「我々が天香久山の土を取ったことは覚えておるか?」
弟猾「変装して、敵陣を横切った、あの伝説のミッションや。」
ヤマト「エピソード19.5の話ですね。それがどうしたんです?」
弟猾「わしらが土を取った場所にも、地名が付いてるんや。その名も埴安やで。」
シーソー「天香久山の北西の麓、橿原市下八釣町にある、畝尾坐健土安神社が、埴安の地といわれているっちゃ。」
弟猾「祭神は、健土安比売命やで。土の神様のことや。伊弉冉尊の大便から誕生したんやで。」
味日「土の神様は、糞から出来たってのか!」
ヤマト「今回、最大の衝撃じゃないか!」
サノ「まあ、そういうことで、地名由来説話は終わりっちゃ。次回もお楽しみにっ!」
こうして、戦勝報告会は、地名由来講演会に取って代わられたのであった。




