エピソード23 長髄彦 散る
長髄の戦いに勝利した、狭野尊 (以下、サノ)一行のもとに、敗軍の将、長髄彦 (以下、スネ)の軍から、使者がやって来た。使者の名前は記されていないが、この物語では、高倉下にしようと思う。
高倉下「し・・・使者です。ふ・・・文を持ってきました。」
サノ「相変わらず、不器用みたいやな?」
高倉下「す・・・すみません。ぶ・・・不器用・・・ですから。」
サノ「いっちゃが、いっちゃが(いいよ、いいよ)。作者の陰謀っちゃ。気にせんで、よか。それで、これが長髄彦からの文やな?」
高倉下「は・・・はい。」
文には、こう書かれてあった。
『天孫もどきへ
今は昔の物語・・・。天津神の子が、天磐船に乗って、天から降ってきたんや。それが、櫛玉饒速日命や。ちょっと長いんで、饒速日命と短縮されてる、お人や。わては“あにさん”と呼ばせてもらってるんや。うらやましいやろ? その、あにさんに、妹が嫁ぎよった。妹の名前は、三炊屋媛言うんや。よお覚えときっ。それで生まれた子が、可美真手命や。わては“ぼっちゃん”と呼ばせてもらってるんや。うらやまし・・・』
ここで、一旦、サノが文を置いた。
サノ「思った以上に長いっちゃ。まだ続くみたいやが、もう読まなくてもええやろ?」
ぼやく主君に、最近、出番のなかった弟猾がツッコミを入れる。
弟猾「何、言うてるんです。ちゃんと最後まで読まんとあきまへんでっ。」
サノ「分かった。分かったっちゃ。読むじ。」
『それで、わては、あにさんに、長いこと、お仕えしてたんや。今は、作者の都合で、あにさんは亡くなり、ぼっちゃんが治めてはるが、この親子こそ、天津神の子や。ええか? よお聞けや。天津神の子が二柱もおるわけないやろがっ! 天津神の子が、人様の土地、奪うか? そんなんする奴は、偽物と相場が決まってるんやっ! どつきまわしたろかっ! アホンダラ!』
サノ「長かったじ・・・。」
高倉下「あ・・・あのう、お返事は?」
サノ「天津神の子は、いっぱいおるんや。可美真手が天津神の子と言うんやったら、その証となる、徴表を見せてくんない(ください)。」
高倉下「ああ、あれですね。」
サノ「あれっちゃ。」
こうして、長髄彦は、饒速日命の天羽羽矢一本と、歩靫を持ってきて、サノに見せた。
スネ「ええか? よお見てみぃ。これが天表や。」
サノ「お初にお目にかかるっちゃ。サノっちゃ。」
スネ「自己紹介はええねん。われも天津神の子、言うんやったら、同じモン、見せんかい!」
サノ「威勢がええのも、そこまでや。これが、わしの天羽羽矢と歩靫っちゃ。ちなみに、歩靫っちゅうわ、矢を入れておくための籠やじ。背負って使うものっちゃ。」
スネ「ホ・・・ホンマや・・・。ほんまもんやで・・・。」
サノ「これで信じたか?」
スネ「せ・・・せやけど、わては認めへんでっ! 二人もおるわけないやろが! 信じられへん。有り得へん。絶対、嘘や。認めへんで! もう一合戦やっ!」
そう叫ぶや否や、長髄彦は、天幕から飛び出し、自分の陣地へと帰ってしまったのであった。
そこへ、入れ替わるようにして、可美真手命 (以下、ウマシ)がやって来た。
ウマシ「お初にお目にかかります。可美真手だす。ウマシと呼んでおくれやす。台本には有りまへんけど、挨拶に来させてもらいましたで。」
サノ「分かったっちゃ。ところで、ウマシ殿。あいつは、どうしても戦いたいみたいやな?」
ウマシ「わても止めてるんだす。せやけど、話を聞いてくれへんのだす。」
サノ「ウマシ殿はどうね?」
ウマシ「わては、戦が好きやおまへん。サノはんが、ええ国を造る、言うんやったら、協力させてもらいまっせ。」
サノ「じゃあ、問題は、長髄彦だけっちゅうことやな・・・。」
ウマシ「わてが説得に行きますよって、しばらく待ってくれまへんか?」
サノ「待つも何も・・・。その方がいいっちゃ。こちらも戦いたくないんやじ。」
ウマシ「すんまへんなぁ。」
こうして、台本にはない、やり取りをしたのち、可美真手は長髄彦の説得に向かった。
ウマシ「・・・そういうわけで、おっちゃん。もう止めときっ。」
スネ「ぼっちゃん・・・。何、言うてはるんです。あれは、偽物でっせ?」
ウマシ「偽物やない。ほんまもんや。ここまで言うても、まだ戦われますのんか?」
スネ「ぼっちゃん・・・。ぼっちゃんは、あの、天孫もどきに、騙されてるんや。わてが、目ぇ覚まさせますよって、しばらく待っといてください。次こそは勝ってみせますよって・・・。」
ウマシ「もう、ええんだす。もう、ええんや。」
スネ「はっ? 何を言うてはるんです?」
ウマシ「こういうことだす。」
可美真手が、そう言った瞬間、待機していた兵士たちが躍り出てきた。長髄彦は、これを見て驚愕するばかり。
スネ「ど・・・どういうことでっしゃろ? ぼっちゃん?」
ウマシ「台本の『記紀』では、説明で終わってますけど、作者が劇的にしてくれはったんや。おっちゃん・・・残念や。さいなら。」
スネ「なっ?! ぼっちゃん!?」
兵士い「あの渕での怨み。今こそ晴らす! 覚悟っ!」
兵士ろ「エピソード12での、深い渕の探索・・・忘れたとは言わせん!」
兵士は「せやでっ! 身から出た錆やっ! 覚悟しぃや!」
三本の剣が、長髄彦の体に突き刺さる。
スネ「なっ・・・。こんな劇的な終わり方・・・。嘘やろ? 『記紀』には登場せん、伝承の話やないか・・・。まさか、ここでつなげてくるとは・・・作者め・・・ガクッ。」
長髄彦暗殺によって、中つ国は平定された。饒速日命の子、可美真手。彼こそが、軍事貴族、物部氏の始祖である。




