エピソード22.5 金鵄の翼
紀元前663年12月4日、ついに狭野尊 (以下、サノ)一行と中つ国の軍が干戈を交えた。戦いの場所は長髄である。
このとき、台本にはないが、敵軍の総大将、長髄彦 (以下、スネ)が唸った。
スネ「天孫もどきめっ。わての出身地を決戦の地に選ぶとはなぁ。なかなか分かっとるやないけっ。劇的な勝利を収め、故郷に錦をかざれっちゅうことやな・・・。」
そこへ、中つ国を治める、可美真手命 (以下、ウマシ)がやって来て、ツッコミを入れた。
ウマシ「おっちゃん・・・。そりゃ当たり前でんがな。ここが、おっちゃんの本拠地なんやさかい、そこを攻めるんが道理っちゅうもんやろ?」
スネ「ぼっちゃん? こんなとこにおってええんですか? 危ないでっせ。」
ウマシ「戦いが始まる前に帰りますよって、御心配なく・・・。それより・・・。」
スネ「それより? 何でっか?」
ウマシ「一つ御願いがあるんだす。」
スネ「何でっしゃろ?」
ウマシ「この戦いで、納得したら、矛を収めてほしいんだす。」
スネ「納得? よお分かりまへんなぁ。台本にはないこと言うたら、あきまへんで。それに、納得も何も、わてが勝ちますよって、ぼっちゃんは、矢の届かんとこで、高みの見物でもしといておくんなはれ。」
ウマシ「そうかぁ。そこまで言い張るんやったら、もう止めまへんで。気張りぃやっ!」
スネ「押忍っ!!」
一方、サノは、兄の彦五瀬命の敵を討たんと、鼻息荒く、皇軍の兵士たち、すなわち久米部の面々と共に、力強く歌を謡っていた。
みつみつし 来目の子等が 垣本に 粟生には 韮 一本 其根が本 其ね芽 繋ぎて 撃ちてし止まむ
ここで、目の周りに入れ墨をした、大久米命が、鼻息荒く解説を始めた。
大久米「御稜威を負った久米の若者たちの、家の垣根の傍に粟が生えている。その傍には、香りの強い韮が一本生えている。韮の根本から、芽まで、根こそぎ抜き取るように、敵を討つのだ・・・という意味ですよ!」
サノ「そうやじっ。敵を完膚なきまでに討ち倒すんやっ! この歌で、皆の士気を高めるんやっ! よしっ。続けて、二番っ!!」
みつみつし 来目の子等が 垣本に 植ゑし山椒 口疼く 我は忘れず 撃ちてし止まむ
ここで、最近、出番のなかった、剣根が二番の解説を始めた。
剣根「御稜威を負った久米の若者たちが、家の垣根の傍に植えた山椒は、口に入れるとヒリヒリする。それと同じように、長髄彦によって受けた苦戦のこと、兄を亡くした悲しみを忘れはしない。撃たずにおくものかっ! 今度こそ撃ち破ってくれようぞっ!・・・という意味ですぞ!」
ついでに、剣根の息子、夜麻都俾 (以下、ヤマト)も補足説明を始めた。
ヤマト「粟に、韮、山椒など、いろんな食物の名前が出てきますが、これは、久米部たちが、戦闘だけでなく、兵糧の管理もおこなっていたことが関係しているみたいですよ。補給の面も軍事行動には欠かせませんからね。その職掌が反映されているそうですよ。」
サノ「なるほど・・・。三人とも解説御苦労っちゃ!」
ヤマト「ついに始まるんですね・・・。」
サノは一度だけ頷くと、面々を見渡した。
サノ「では、各々方・・・討ち入りにござる。」
剣根「ちょっと違うような・・・。」
サノ「いっちゃが(いいんだよ)! 気にせんで、よかっ! では、久米部たちよっ。行けいっ!! 兄上の弔い合戦やっ!!」
こうして両軍は激突。剣という剣が重なり合い、刃という刃が火花を散らし、空を切り、肉を斬り、骨を断つ。一進一退の攻防が続いた。押しては退き、退いては押す。この展開が何度も繰り広げられたのである。どちらも決定打を欠き、戦線は膠着状態に陥ってしまった。
サノ「うう・・・。どうすればいいっちゃ!」
困り切ったサノの傍で、マロ眉の天種子命も一緒に叫ぶ。
天種子「どうしはりますのやっ?! このようなこと、聞いてまへんで!」
サノ「どうするも何も・・・。何か、あっ! と驚かせる策はないんか?!」
天種子「ありまへん。ありまへんでっ!」
すると、突然、天が暗くなり、雹が降ってきた。
サノ「な・・・なんや? いきなり、なんや? これはもしかして、天照大神の仕業?」
そんなことを呟きながら、不思議に思っていると、上空から、一羽の鳥が飛んできて、サノの弓の弭にとまった。その鳥は、金色に輝いていた。
サノ「と・・・鳥? もしや、三本足か? じゃっどん、金色に輝いちょる。も・・・もしかして、これが、あの、伝説のスーパーサイヤ・・・。」
天種子「絶対、違うと思います!」
サノ「じゃあ、この鳥は何ね?」
天種子「本当は、このシーンに、マロはおらんのですが、成り行き上、説明させてもらいます。これは、鵄にあらしゃいます。金色の鵄、金鵄にあらしゃいます。ちなみに、弭は弓の先端のことにあらしゃいます。」
サノ「このシーンにおらん・・・とか、言いながら、ちゃっかり叫んでたやろ?!」
そのとき、鵄の輝きが強烈な光となって、戦場を覆っていった。長髄彦の軍は、この怪異によって目がくらみ、戦どころではなくなってしまった。
スネ「な・・・なんや?! 光が広がっていく・・・。」
サノ「今やっ! 突撃っちゃ! レッツゴー急襲っ!」
こうして、サノ一行は、長髄彦の軍を討ち破ることに成功したのであった。
ヤマト「この『長髄の戦い』以降、長髄邑は、鵄邑と呼ばれるようになりました。『記紀』編纂時は、訛って鳥見となっており、二千年後は、奈良市鳥見町となっております。」
サノ「夜麻都俾っ! 説明御苦労っちゃ!」
戦いは終わった。長髄彦が使者を送って来たのは、それから間もなくのことであった。




