エピソード22 慰めの報酬
墨坂方面から、狭野尊 (以下、サノ)率いる本隊が進撃し、椎根津彦 (以下、シーソー)率いる別動隊と、兄磯城の軍を挟み討ちにする作戦が展開されようとしていた。
しかし、墨坂に至った時、問題が発生した。皇軍の兵士、すなわち久米部たちが、空腹により疲れ切ってしまい、作戦が中断していたのである。
この状況を打破するため、サノは、急遽、歌を作った。この歌の意味するものとは・・・。
サノ「久々に長い説明やったじ。」
ここで、サノの息子、手研耳命 (以下、タギシ)がツッコミを入れてきた。
タギシ「父上っ! 緊張感っ! 緊張感っ、忘れないでっ!」
サノ「息子よ・・・すまん。作者のノリに巻き込まれてしまう、弱い父で・・・。」
タギシ「そんなことより、前回の歌の意味って何ですか?」
サノ「歌を謡ったからといって、空腹が収まるものではないことは、汝も分かっちょろう?」
タギシ「は・・・はいっ。」
そのとき、目の周りに入れ墨をした大久米命が説明を始めた。
大久米「これは、ある歴史的事実を現しているんじゃないかという説があるんですよ。」
タギシ「歴史的事実?」
大久米「吉野地方で、苞苴担っていう人物に遭遇したでしょ? 阿太養鸕部の始祖と言われている人物ですよ。」
タギシ「そんな人もいたなあ。確か、エピソード18.5だったな・・・。」
大久米「鵜飼を司る役目の長ってことです。歌詞にありましたよね? 鵜飼の仲間よ・・・助けてくれって・・・。」
タギシ「ああ、そんな歌詞があったなあ。」
大久米「食糧の援助を受けたんじゃないかと・・・。そういった多くの援助を受けて、戦いは続いたんじゃないかと・・・。」
タギシ「なるほど、そういった援助を歌で表現しているっちゅうことか・・・。」
サノ「さすがは、我が息子っちゃ。その通りやじ。万事休すっちゅう時に、援助物資が届いたんやろうな。それで謡ったち、思うちょる。」
そのとき、筋肉隆々の道臣命がツッコミを入れてきた。
道臣「説明はそれくらいにして・・・。さっさと向かわねばなりませぬぞっ! 椎根津彦が危ないっちゃ!」
サノ「そ・・・そうやった! 早く向かうんやじ! 久米部たちよ! 疲れは慰められたはずっちゃ! 兄磯城の軍を倒すんやじっ!」
大久米と久米部たち「おうっ!!!!!」×多数
苞苴担「みなさん頑張っておくんなせい!」
サノ「に・・・苞苴担?! お・・・おったんか?!」
苞苴担「嫌だなぁ。それを言っちゃあ、おしまいよ。物資を運んだんだから、いるに決まってるじゃないですかっ。見送りくらいさせてもらいますよっ。」
サノ「お・・・おうっ。じゃ・・・じゃあ、行ってくるっちゃ。」
苞苴担「武運長久を祈念しておりますよぉ!」
一方そのころ、椎根津彦率いる別動隊、女軍は激戦の中にいた。
シーソー「台本にはないんやが、言わせてくんない(ください)。そろそろ危ないっちゃ。本隊は、まだね?」
兄磯城「天孫もどきっ! ここが汝らの墓場となるんだよっ! さっさと死にやがれっ!」
シーソー「ううっ・・・。押され気味っちゃ・・・。」
女軍が兄磯城軍に突破されんとした、その刹那、賊軍の後方から、大きな喚声が巻き起こった。
兄磯城「おいおい、俺の台詞が、全て台本にないからって、後方が喚き過ぎじゃねえか。」
サノ「兄磯城、敗れたりぃぃ!!」
兄磯城「なっ?! 汝は誰だっ!?」
サノ「わしか・・・名乗ってやるじ。だが、その前に聞いてもらおう。」
タギシ「ち・・・父上・・・何を?」
サノ「ひとぉつ、人の世、生き血をすすり・・・。ふたぁつ、不埒な悪行三昧・・・。みっつ、醜い浮き世の鬼を・・・。退治てくれよう。サノ様がぁ!!」
タギシ「ち・・・父上、ただ、それやりたかっただけじゃ・・・。」
兄磯城「しまったぁぁぁ!!! こ・・・これでは、挟み討ちではないかっ!」
口惜しそうにする兄磯城に向かって、弟磯城こと黒速 (以下、クロ)が、叫びながら攻めかかった。
クロ「兄上ぇ! 残念だよっ! 御覚悟をっ!」
兄磯城「台本では、ただ斬られたとだけ書かれている、わしのために、ここまで演出してくれるのかっ?!」
クロ「作者が、説明で終わらせたくないんだってよ!」
兄磯城「ちっ・・・。二千年後の奴に同情されるとはな・・・。」
クロ「兄上ぇ! おさらばにござりまするっ!」
剣の刃か、鉾の刃か、クロの刃か、久米部の刃か、とにもかくにも、兄磯城の体は斬り裂かれ、血が戦場を舞った。
兄磯城「こ・・・これで、兄猾みたいに、劇的な最期が遂げられたってことか・・・感謝するぜ・・・作者に・・・ガクッ。」
クロ「あにうえぇぇ!!!」
こうして、空腹から脱した久米部たちの活躍により、兄磯城軍を打ち破ることに成功したのであった。磐余の地から賊軍は散り散りになって去って行き、磯城の地は平定された。
ここで、マロ眉の天種子命が説明を始めた。
天種子「磯城は、今の桜井市城島あたりだと言われております。三輪山の麓にあらしゃいます。忍坂から川伝いに進めば、城島に突き当りますんで、当然、この地を通らない限り、国中には入れないというわけですな。国中とは、奈良盆地のことにあらしゃいます。」
タギシ「しかし、兄弟が争うのは、これで二組目か・・・。もう、こんな光景は見たくないっちゃ。」
クロ「新しき国のためとはいえ、やっぱり悲しいです・・・。」
涙に咽ぶクロを囲み、サノ一行は、夕闇に包まれていくのであった。




