エピソード20 時をかける爺さん
狭野尊 (以下、サノ)一行は、丹生の川上で祭祀をおこなおうとしていた。前回、味日命の説明で、東吉野村の丹生川上神社中社が候補地だと紹介させてもらったが・・・。
ここで、味日命の父、道臣命が語り始めた。
道臣「息子よ。まだまだやな。もう一つ、候補地があるんやじ。」
味日「と・・・父ちゃん。それはどういうことだってばさ。」
道臣「奈良県宇陀市榛原雨師にある丹生神社っちゃ。」
そこに前回、時空を超えて登場した、森口奈良吉さんも参加してきた。
奈良吉「蟻通神社こそが、丹生川上神社であり、この地こそ、誓約をおこなった地であるっ!」
道臣「まあまあ、そうかもしれんし、そうじゃないかもしれんっちゅうことで・・・。」
奈良吉「それ以外にあるわけないやろっ!」
サノ「ならきっつぁん・・・まあ、聞いてやってくんない。」
道臣「では、気を取り直して・・・。台本を読めば分かりますが、祭祀を始めたあと、菟田川の朝原という地名が出てくるんやじ。その朝原が、丹生神社のあるところっちゃ。」
サノ「そ・・・それは異国の言葉で、フライングっちゅうことやじ。」
道臣「じゃっどん、説明をするには、そうするしかなかったっちゃ。」
サノ「分かった、分かった。とにかく、丹生川上で祭祀をおこなって、そのあと、朝原で誓約をおこなえば、ええんやな?」
道臣「我が君っ、かたじけないっちゃ!」
奈良吉「ありがとうございますっ! 天皇陛下っ!」
サノ「なんか、その呼ばれ方・・・しっくり来ない。」
とにもかくにも、祭祀がおこなわれた。すると、菟田川の朝原に、水の泡のように固まっているところがあった。
サノ「今から、わしは80枚の平瓮を用い、水なしで飴を作ってみせるっちゃ。もしできたら、武力に頼らず、居ながらにして天下を平定できるやろう。」
サノが誓約をして、飴を作ったところ、たちまち飴ができあがった。
味日「俺たちの時代は、飴のことを『タガネ』って呼んでたんだってばさ。」
唐突な味日の解説を無視し、サノは、改めて誓約をおこない始めた。
サノ「今から、わしは厳瓮を丹生の川に沈めるっちゃ。もし魚が、大きさに関係なく、酔って流れる様子が、柀の葉が浮かんでいるように流れたら、わしは必ず天下を平定するやろう。もしそうでなかったら、成就しないやろう。」
そう言って、厳瓮を沈めると、厳瓮の口は下を向いた。しばらくすると、魚が浮いてきて、水面に口をパクパクさせ始めた。
これを見て、椎根津彦 (以下、シーソー)が報告した。
シーソー「成功っちゃ。魚が酔っぱらってるっちゃ。ちなみに、魚で占ったことから、この魚を鮎と書くようになったんやに。」
サノも、兵士たちも大喜びで、丹生の川上の五百箇の真坂樹を根こそぎ引っこ抜いて、神々を祀った。ここで、サノが解説を始めた。
サノ「五百箇とは、たくさんってことやじ。真坂樹は、榊のことっちゃ。この時から、神々を祀る際、厳瓮の置物をするようになったんやじ。」
それから、サノは、道臣に対して、こう言った。
サノ「わしは、これより高皇産霊神の顕斎をするっちゃ。」
道臣「顕斎って、自分の体を憑代にしておこなう祀りのことっちゃね?」
サノ「じゃが(そうだ)。ちなみに、憑代っちゅうんわ、自分の体を器にして、神様や別の人の魂を呼び込むことやじ。」
道臣「それで、わしを呼んだのは、どういうことっちゃ?」
サノ「神を呼び寄せる役割の斎主は、本来、女性がおこなう役目なんやが、ここにはオナゴがおらん。そこで、道臣よ!」
道臣「い・・・嫌な予感がする・・・。」
サノ「女装してくんない! 厳媛という名を授けるっちゃっ!」
道臣「なして、わしがっ!?」
サノ「ほかの奴らだと、ちょっと化け物みたいになるやろ? それに比べて、汝は中性的な男前やかい(だから)、女装しても気にならんと思ったんやじ。」
道臣「ちょっ、言っている意味が分かんないっす。息子でもいいんじゃないですかね?」
味日「お・・・俺は、嫌だってばさっ。」
するとそこで、サノの息子、手研耳命 (以下、タギシ)がツッコミを入れてきた。
タギシ「父上っ! 道臣っ! 『記紀』に書かれてもいない、やり取りをしないでくだされっ。それよりも、さっさと進めてくだされっ!」
サノ「わ・・・分かったっちゃ。では、道臣の女装は決定ということで・・・。埴土で作った瓮が、厳瓮という名称になってるので、祭祀に使用する、他のものにも、名前を付けるっちゃ。」
タギシ「火と水と薪と草と粮ですね。粮とは、神饌のことっちゃ。神様のお食事ってことやじ。」
サノ「よしっ、では、火の名前は厳香来雷に決定。水の名前は厳罔象女に決定。粮の名前は厳稲魂女に決定。薪の名前は厳山雷に決定。草の名前は厳野椎に決定っちゃ。」
こうして、顕斎がおこなわれたのであった。その詳細な内容は「記紀」にも記されておらず、全くの謎である。秘密の儀式なのかもしれない。
ここで、森口奈良吉さんが、疑問を呈してきた。
奈良吉「あのう、天皇陛下・・・。なんで、いろんな祭祀をおこなったんですか?」
サノ「全軍の士気を上げるためっちゃ。たくさんの敵を見て、萎縮しちょったかい(から)、あの手、この手で、大丈夫だと安心させる必要があったんやじ。」
奈良吉「なるほど・・・。」
サノ「それから、ならきっつぁん・・・。大正年間に戻ったら、今回のことは、内緒にしておいてくんないっ。時空の乱れが起きるかもしれんかい(から)・・・。」
奈良吉「どうせ誰も信じてくれへんから、話すこともないでしょうなぁ。」
サノ「確かに、そうやな・・・。それじゃあ、ならきっつぁん、気を付けてなっ!」
こうして、奈良吉は大正時代に帰っていったのであった。




