エピソード19 西部戦線異状有り
吉野地方で三人の人物に遭遇した、狭野尊 (以下、サノ)一行。地元の協力を得ることに成功し、地理不案内な状況から抜け出したのであった。
そして、紀元前663年9月5日、サノは菟田の高倉山に登った。高倉山は、現在の奈良県宇陀市大宇陀守道の高角神社付近か、大宇陀春日の宇陀松山城があった古城山と考えられている。
ここで、筋肉隆々の道臣命が疑問を呈してきた。
道臣「我が君、なして山に登っちょるんや?」
サノ「山に登ってやることといえば?」
主君の質問に対し、五十手美 (以下、イソ)が答える。
イソ「周りを眺望し、これからどう進むか検討するんですね。」
サノ「その通りっちゃ!」
山頂に辿り着くと、サノは周辺を眺め廻した。その時、異様なものが目に飛び込んできた。西の方角に、恐ろしい光景が広がっていたのである。
サノ「な・・・なんやっ! あれはなんや!」
道臣「如何なされました?」
サノ「だ・・・大軍勢が・・・集結してるっちゃ・・・。」
道臣「なっ?!」
驚く道臣の傍で、弟猾が吼える。
弟猾「国見丘に軍勢が集まってるでっ! それに、あの坂には、女軍。あっちの坂には、男軍もおるやないかっ。」
サノ「な・・・なんや? 女軍? 男軍?」
弟猾「まあ、別動隊ってとこですかね。」
ここで、マロ眉の天種子命が唐突に説明を始めた。
天種子「国見丘は、現在の経ヶ塚山といわれております。標高889メートルにあらしゃいますなあ。」
つづけて、剣根が説明を始めた。
剣根「このことにより、女軍がいる坂は女坂と、男軍がいる坂は男坂と呼ばれるようになりますぞ。」
天種子「女坂が、現在の女寄峠で、男坂が小峠にあらしゃいます。」
サノ「そんなことは、あとでやってくんないっ。」
その時、夜麻都俾 (以下、ヤマト)が北の方を指差した。
ヤマト「我が君っ! あちらにも、何か面妖なものがっ。」
サノ「な・・・なんやっ?! 炭火を起こして、道を塞いでるっちゃ!」
ここで、再び天種子命が説明を始めた。
天種子「炭を置いていたんで、墨坂と呼ばれるようになったそうにあらしゃいます。ちなみに、現在の西峠といわれております。宇陀市の榛原萩原にある墨坂神社の近くですなあ。」
サノ「説明、大儀っちゃ! じゃっどん、あいつら何者なんや?」
そこに、八咫烏 (以下、三本足)がやって来た。
三本足「あいつらは地元の豪族連合軍だっ。ちなみに、あいつらのこと、八十梟帥って呼んでくれよなっ。たくさんの猛者って意味だっ。」
サノ「呼ぶも何も、わしらの時代の言い方やっ!」
道臣「ところで、三本足よ。あの平地で、うようよしている軍勢はなんや? あれも八十梟帥か?」
三本足「ああ、あれは兄磯城の軍勢だっ。磐余邑に陣取ってんだっ。」
サノ「なっ?! 新キャラか?!」
三本足「ああ、そうだな。ちなみに、磐余っちゅうのは、今の桜井市中部から橿原市南東部にかけての古い地名だぁ。」
サノ「汝らの説明のおかげで、緊張感が台無しっちゃ。じゃっどん、どげんかせんといかんっ。」
イソ「ど・・・どうします?」
天種子「どうしはるんです?」
サノ「よしっ! 神々に祈って、寝るっちゃっ!」
ヤマト「ね・・・寝るんですか?」
サノ「そうやじっ。アマちゃ・・・天照大神に、夢の中でお会いし、助言をもらうほかなかっ。」
道臣「かっこよく言っちょるが、神頼みっちゅうことやな・・・。」
サノ「それは言わんでくんない・・・。」
こうして、サノは身を清め、心を休め、神々に祈りを捧げ・・・寝た。様式美というか、お決まりというか、案の定、夢の中に天照大神 (以下、アマちゃん)が現れた。
アマちゃん「寝るって・・・あんたにしては、いい考えだと思うわよ。」
サノ「あんたにしては・・・って・・・。とにかく、助言を御願いするっちゃ!」
アマちゃん「いいでしょう。ならば聞きなさい。天香久山の社の中の土を取って、天平瓮を80枚作りなさい。」
サノ「天平瓮ってなんや?」
アマちゃん「平らな『かわらけ』ってことよ。素焼きの土器ってことっ。」
サノ「す・・・素焼きって?」
アマちゃん「もう、どうして分かんないのよっ!」
サノ「ど・・・読者のためっちゃ。」
アマちゃん「何もつけずに、そのまま焼くってことよ。」
サノ「りょ・・・了解!」
アマちゃん「それから、厳瓮も作って、天神地祇を敬い祀るのよ。厳瓮っていうのは、神酒を入れる神聖な瓶ってこと。それと、厳呪詛もするのよっ。飲食を慎み、心身を清めて、呪いの言葉を言うことよっ! 分かったっ!?」
サノ「わ・・・分かったっちゃ。」
返事をしたところで、サノは夢から覚めた。その時、弟猾がやって来て、サノに一策を披露してきた。
弟猾「磯城邑の八十梟帥と、高尾張邑の赤銅の八十梟帥が中心になってるみたいですな。天香久山の土を取って、天平瓮を作り、神々を祀れば、勝てるんやないですかね?」
サノ「夢と同じっちゃ。これは吉兆? 天祐?」
弟猾「夢と一緒っちゅうことは、間違いないですね!」
こうして、サノ一行は、アマちゃんの奇策に従うことにしたのであった。




